2013年12月21日

PAM(AHAコース運営マニュアル)最新版が公式日本語化!

昨日、AHAのProgram Administration Manual(通称PAM)第5版の日本語版が公式リリースされました。

AHA ECCコース運営マニュアルPAM第5版


PAMといえば「AHA ECC公式日本語ページ」でPDFが誰でもダウンロードできるようになっていますが、実はこれはひとつ古いバージョンのもの。

現行のPAMは2012年10月頃に改定(発効は2013年2月)されていますが、英語版のみで、公式に日本語化されていなかったため、日本国内では発効していないと主張する人もいたりして、いまいち扱いが不透明ではありました。

それが今回公式に日本語化されたことで、2013年2月発効のPAM 5th Edition(International Version)が、日本でも有効であることが決定的となりました。

AHA ECC公式日本語ページのPAMも、そのうち新しい版に差し替えられるはずですが、現時点、最新PAMは各トレーニングセンターのコーディネーターにメール配信されているのみとなっています。

私の所属するITCでは、すでに各インストラクターに流しています。

他のITCも順次、トレーニングセンターやサイト、監督ファカルティ経由で案内があるかと思います。(それをまたずとも英語版なら、本国のAHA Instuructor Networkからダウンロードできますよ〜)

→ 日本語版が一般公開されました(2014年1月23日追記)



新しいPAMの変更点については、機会があればまた紹介しようと思います。

あ、一点だけ注意ですが、現行のインストラクターコースは、このPAM 5th Editionの後に改定されています。なので、PAM 5th に書かれているインストラクター資格取得までの条件とか、要件は古く、今のものではないという点、ご注意下さい。

Core Instructorコースは既に廃止されていて、それに代わるものとしてInstructor Essentialsという英語のオンラインコースの修了が義務付けられています。

(PAMを一生懸命に読むのは、きっとこれからインストラクターになろうという人でしょうから…)




posted by めっつぇんばーむ at 19:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2009年04月11日

AHAコース運営マニュアルPAM正式日本語訳発表

AHA ECCコース運営マニュアル、PAM(AHA Program Administration Manual)改訂版の正式日本語訳が発表になりました。

きちんとした翻訳会社が絡んでの作業結果なので、今回こそ、決定版ということになると思います。

今のところ、アメリカ本国のAHA Instructor Networkに正式登録したインストラクターしかアクセスできませんが、そのうち、他のドイツ語パムや中国パムと同様、一般のAHA公式サイトからもアクセスできるようになるはずです。

http://my.americanheart.org/eccportal/ecc/ecc

モグリではない、正式なAHAインターナショナル・インストラクターの皆さんは、上記からログインしてみてくださいね。
posted by めっつぇんばーむ at 17:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年03月10日

格下げされたコースディレクター資格

このまえはリード・インストラクター Lead Instructor という称号は廃止になったという話を書きました。本当は併せてコースディレクター Course Director についても書こうと思ったのですが、尻切れトンボになってしまいましたので、改めまして。。。

2008年3月から有効になった改訂版 PAM 2008(AHAのコース運営マニュアル) ですが、AHAの資格階層に関しては、かなり大きな変化が盛り込まれています。

特にコースディレクターに関しては注意が必要な部分かも知れません。

もともとAHA資格としては、インストラクターとトレーニングセンター・ファカルティのふたつしかないというのは PAM 2004 の時代から変わっていません。

ACLS/PALSインストラクターに関してのみ、リードインストラクターとかコースディレクターという名称というか役割名があったのですが、PAM 2008ではリードインストラクター格は完全に廃止になりました。

今現在の話をしますと、ACLS/PALSインストラクターに関しては、コースディレクターという位置づけが残っていて、これらのコースを開催するときにはコースディレクターが必要であると明記されています。

ただし落とし穴は、このコースディレクターの権限が変わっているという点。

これまではコースディレクターは必ずしも、講習会場にいる必要はありませんでした。

現場の責任者はリードインストラクターであって、いざというときのスーパーバイザーとしてコースディレクターとは電話が繋がればOKということになっていました。

ところがですね、PAM 2008によればコースディレクターは、講習会場に最初から最後まで臨席して器材と講習の質の管理しなければならないと書かれています。

[Provider Course Director]
Each advanced life support provider course must have a Course
Director physically present on-site throughout the course.
(PAM 2008, p.47)

言ってみれば、事務所のデスクにあぐらをかいていれば良かったスーパーバイザーの立場から、現場監督に格下げされたような感じ(!?)

逆にいえば、これまでリードインストラクターと呼ばれていた人たちの名称が、"コースディレクター"という名称に格上げされたってことなんでしょうかね。

以前にトレーニングセンター・ファカルティ(TCF)の比率が、インストラクター8-12人に対してひとりの割合というびっくりなことが書かれている点を書きましたが、全体を通して感じる新PAMの方向性は、権威性の降格化とでも言いましょうか。

かつてリードインストラクターだった人たちは、コースディレクターという名称に格上げされて、これまでコースディレクターだった人たちは、トレーニングセンター・ファカルティになるべきという意図が見え隠れしています。

まあ、実際の運営は世界各国のトレーニングセンターの判断に任されていますが、AHA本部の方針としては、ストイックに資格階層ピラミッドを死守するのではなく、インストラクター増員を目指して、インストラクター育成できる要員を増やせ、ということなのでしょう。


今回のAHAの運営規則改定に伴って、日本国内でも現行のやり方にはいろいろと問題が出てきそうです。

ACLSコースディレクターさん、ちゃんとコースの最初から最後まで臨席していますか?
リードインストラクター資格は廃止になってますから、(旧)リード任せじゃマズイですよ。

BLSコースで、インストラクター候補生がいる場合、ちゃんとBLSトレーニングセンター・ファカルティが臨席していますか? 団体の内部規則として勝手に決めたBLSリードインストラクターやBLSコースディレクター資格では"モニター"はできません。候補生さんにインストラクターカードを発行するにはAHA資格としてのTCFが必要。

幾分はITCとしての裁量が認められるかも知れませんが、今後の方向性としてきちんと組織改革を行なうことが必要でしょうね。
posted by めっつぇんばーむ at 21:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年02月12日

AHAインストラクターの組織階層 ファカルティ増員の図式

今回はAHAインストラクターの資格・ステイタス・身分・称号について整理してみようと思います。

皆さん、AHAの組織階級って、複雑だなぁ、なんて思っていませんか?

インストラクター
リード・インストラクター
コースディレクター
インストラクター・トレーナー
ITOファカルティ(トレーニングセンター・ファカルティ)

さらには、

地域ファカルティ
トレーニングサイト長
スーパーバイザー

などなど...

でもですね、
よくよく調べてみると実は日本の末端現場でのAHAの資格階層っていうのは、ふたつしかないんです。

それはなにかというと、

・インストラクター
・トレーニングセンター・ファカルティ(TCF)

これだけです。

下の図はPAM2008からの引用ですが、ご覧のとおり。

AHAインストラクター資格の組織階層

このブログを見てくださっている方の大半は、インストラクターだと思います。インストラクターカード、持ってますよね? インストラクターはトレーニングセンター(ITC/ITO)が認定しますのでカードの発行元は各トレーニングセンターになります。

もうひとつあまり見かけることのないトレーニングセンターファカルティ(Training Center Faculty)と表書きされたカードというのもあって、これはアメリカ・ダラスのAHA ECC本部から発行されるものです。

このカードを持っている人は、いま現在、日本には50人くらいでしょうか。

公式なAHA資格というのは、この二種類だけになります。
もちろんBLS/ACLS/PALSに対してそれぞれのステイタスが存在しますが、階層でいったら2段階ということ。

それじゃ、その他のステイタス、リード・インストラクター、コースディレクター、インストラクター・トレーナーなどはいったいなんなのか、という疑問が生じますが、一言でいえば各トレーニングセンター(ITO)毎の内部資格です。厳密に言うとトレーニングセンターというよりは日本法人(NPO法人○○とか)と言った方が正確かもしれません。

トレーニングサイト長とかスーパーバイザーといったまったくNPO法人毎の独自の制度もあれば、リードインストラクターのような、昔あったAHAステイタスの残骸みたいなものもあります。

ACLS/PALSコースディレクターだけはちょっと別格で、AHA的な権限を持った準資格的な側面が残っています。ただしACLS/PALSコースだけで、BLSにはコースディレクターは存在しません。(あるとしたらタダの内部規則です)

AHAインストラクターであるならこのあたりのAHA本則とTC(ITO)内規の違いはしっかり認識しておいた方がいいでしょう。

いまでは、トレーニングサイト間の移籍が日常的になってきています。○○TCでリードインストラクターだったからといって、移籍先で同じ権限を持てるとは限りません。それはAHAの正式なステイタスではないからです。

もっともトレーニングセンター・ファカルティにしても、その名のとおりトレーニングセンター毎のファカルティですから、別のトレーニングセンターに移れば、ただのインストラクターからスタートです。ファカルティのステイタスは受け継がれないってことが PAM には明記されています。

トレーニングセンター・ファカルティ(TCF)というのは、いちおうAHA ECCコース運営に関するトレーニングセンター最高責任者ということで、とっても高嶺の存在に思えますが、どうもTCFの位置づけが変化してきているようです。

新しい PAM 2008 の8ページを見るとけっこうびっくりな記載があります。

Each TC must appoint at least 1 TCF member in each discipline it
teaches. The recommended ratio is at least 1 TCF member per 8 to
12 Instructors (in the same discipline), but this may be adjusted by the TC.


少なくとも8-12人のインストラクターに対してひとりのTCFをおくことを勧める、なんて書かれているんですね。

えっ、ファカルティってこんな身近な存在だったの? って感じ、しません? 昔でいうところのリードインストラクターくらいな印象ですよね。

ちなみに某大手TCでは2006年10月20日現在で1243人のBLSインストラクターが在籍しているという データ があります。これを元に計算するとなんと103名のBLSファカルティーが必要というびっくりなことになってしまいます。(実際のところ10名程度みたいです)

AHA戦略として、インストラクターを養成できるファカルティを増やして、組織の拡大を狙う方向性なんでしょうね。

ちなみにインストラクターを養成できるのはファカルティだけで、ファカルティは2年の間に1回のインストラクターコース開催と4回のプロバイダーコース開催が義務づけられています。

あと、以前は、AHAに規定されたリードインストラクター以上であればインストラクターコースを修了したインストラクター候補生(Instructor candidate)のモニター評価をできましたが、現行のPAMでは、モニターはファカルティの仕事であると明記されるようになりました。(厳密にいうならPALS/ACLSだけはコースディレクターがモニターすることも可能と書かれています)

A current AHA BLS Regional Faculty/TCF member must monitor new
BLS and Heartsaver Instructor candidates. ACLS or PALS Instructor
candidates will be monitored by a Course Director, TCF member, or
Regional Faculty member in the appropriate discipline. (PAM 2008, p.51)


現状としては、某大手TCでは、BLSコースなんかはコースディレクターやリードインストラクターにまかせっきりでファカルティが自らコースに臨席することはあまりないかもしれませんが、いまはそれではマズイということになっています。BLSインスト候補生に正式にインストラクターカードを発給するためには、BLSファカルティがみずからコースに臨席して、モニター評価を行なう必要があります。

そうした手間を避けるためにはやっぱりファカルティを増やしていく必要があるってことなんでしょうね。
posted by めっつぇんばーむ at 00:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年01月19日

インストラクターの除名/資格剥奪処分について

いままでそんなことが本当にあったのかはわかりませんが、「そんなことしたら資格が剥奪されるよ」なんて話を聞くことありませんか?

せっかく苦労して手にしたAHAインストラクター資格が剥奪されるとなったら、これは一大事。

日本で信じられている「AHAインストラクター責務」というのは、ある意味、非常に厳しい内容のものです。(実際は不正確な部分が多いのですが)

それで束縛されているインストラクターたちにとっては、違反したら即資格剥奪みたいな恐怖感から、必要以上に窮屈な思いをして、目立たない行動に徹しているじゃないのかなというのが私の意見。(AHAインストラクターを名乗る人の個人ブログって少ないですよね)


せっかく世界最高レベルのインストラクション・スキルを持っている人たちなんだから、団体の枠を越えてもっと個人で積極的に活動したらいいのに、、、、

まあ、それはさておき、今日のテーマは「AHAインストラクターの除名/資格剥奪処分について」です。


トレーニングセンター(ITO)には、インストラクター個人の資格を剥奪する権利を持っているのか? どんな場合に資格を剥奪されてしまうのか? というギモンが出てきますが、これについて公然と語られたことはおそらくこれまでないと思います。

AHAの制度・システムについてギモンに思ったら、まず調べるべきなのはインターネットで公開されているAHA公式コース運営マニュアルであるPAMです。(トレーニングセンター/ITOの内部資料ではないですよ)

今日は、インストラクターの除名・資格剥奪手続きについて最新版のPAM 2008から調べてみました。

インストラクターの懲戒に関する規定は、PAM 2008 の 28ページ、Instructor Status Revocation というところに規定されています。

この部分を読むと、インストラクターの活動停止処分は二段階に分かれていることがわかります。

まずはトレーニングセンター(ITO)との提携解消(除籍)、次いでインストラクター資格の取り消しです。

このふたつの違いを明確に理解しておくことは重要かと思います。

まず最初のトレーニングセンター(ITO)との提携解消(除籍)ですが、これは前のページ(p.27)に規定されています。

TCs may revoke the alignment privilege of any Instructor who fails to act in accordance with AHA course policy.

トレーニングセンターは、インストラクターとの提携を解除する権利を持っています。これは事実。

ただし、それはAHAのポリシーに反する行動をした人に対して、ということになっています。ここがTCを運営している母組織の規定に反した場合ではない点に注目してください。AHAのポリシーと母組織のローカルルールは違う場合が多いので注意が必要です。(いまはその部分についてはあまり踏み込みません。)

ここでは、トレーニングセンターが独自の裁量で行えるのは、「提携/所属を解除」だけという点を覚えておいてください。○○トレーニングセンター所属という身分がなくなるだけで、AHAインストラクター資格には影響しないということです。

このことをフォローするかのように、次の条項にはこう書かれています。

An Instructor may teach with more than 1 TC

AHAインストラクターというのは複数のTCで活動ができるのですから、別のところでインストラクターとして引き続き活動することができるということです。

じゃあ、本当になにか重大なAHAポリシー違反をして、例えば筆記試験の問題を横流ししていたとかが判明して、ただの除籍では済まない場合はどうなるのか? そうなると PAM の28ページに戻ります。

If a TC revokes an Instructor’s alignment, then the TC shall report its decision to the Regional ECC Committee, which may then determine whether the Instructor is eligible for active status or should have his or her Instructor status revoked.

まず、トレーニングセンター(TC/ITO)は除籍処分をし、そのことをTCの上位機関である Regional ECC Committee に報告しなければいけません。そしてそこでインストラクターが引き続き活動を行うことができるか、それとも資格を剥奪・取り消しをすべきかが決定されます。

つまり、インストラクター資格剥奪という重罰を決定できるのは、Regional ECC Committeeであって、トレーニングセンター(ITO)の裁量権ではないということです。

こうした仕組みがありますので、資格剥奪という事態が起こるとしたら、それは本当に妥当性のある客観的な判断に基づくもの以外はあり得ません。

じゃあ、具体的に資格剥奪の要件となるものとして、PAM は次のような例を挙げています。

. Falsification of class records
. Non-adherence to AHA guidelines and curricula
. Continued instruction inconsistent with AHA standards for the course/program after remediation by the TC, ECC staff, or Regional Faculty.
Using non-AHA examinations
. Inappropriate activities, language, harassment, or conduct during courses or directed toward other Instructors, students, ECC staff, or volunteers.


まあ、ごく常識的なことばかりですね。少なくともトレーニングセンターのローカルルールに反したとしても、資格剥奪にはなりようがありません。それは活動方針が異なるというだけで、AHAインストラクターの資質としてはまったく問題のないことだからです。

もしインストラクターになった時点で、他のITOに移籍しない、なんて誓約書に署名していたとしても、その条項自体、AHA-PAMのポリシーに反することですし、トレーニングセンターの責務に抵触する「違法」なもの。どんな内規があろうと、憲法であるPAMが優先ですから、気にすることはありません。

さて、ここまで書くと、どうしても触れなければいけないのが Regional ECC Committee っていったいなに? という話です。

実はこれについては私もよくわかっていません。

果たしてこの組織が AHA Regional としてのJAPANに存在しているのか??

Regional Faculty資格を持った人たちによる委員会で、トレーニングセンターの枠をこえてAHA Regional としてのJAPAN全体に対する決定権を持つ組織です。

その性格からして、日本にある4つのトレーニングセンターから、それぞれRegional Facultyを選出して組織されているべきものと考えられますが、実際のところどうなんでしょう?

これに関して公式なアナウンスメントをしているのは、日本ACLS協会だけですが、ただその内容をみると、PAMに書かれているものとはちょっと違うように見受けられます。

同協会は地域トレーニングサイトということで、各都道府県毎の「地域」をRegionと捉えてそこで独自にRegional Facultyを設定しているようです。JAAのウェブにあった組織図を見ても、ITOファカルティの下に位置していますし、PAMに書かれている正式なAHA組織図とは明らかに違います。

しかしAHAのプロバイダーカードの裏面をみればわかるように、AHAが規定するRegionのくくりは、日本国内はすべて JAPAN です。各都道府県に配置された Regional Faculty がいるとすれば、それはJAAのローカルルールに基づいた独自の制度であって、AHAのいう Regional Faculty とはまったく別物と考えられます。

PAMの組織図をみてもわかるとおり、Regional ECC Committee はITOの枠外に位置するものです。そうでないと、トレーニングセンターへの査察やモニターは行えませんので。(Regional Facultyは自分が所属するトレーニングセンターの査察は行えないことになっています)

ということで、今回の結論。

1.インストラクターの除名はあり得るが、それはトレーニングセンターとの提携が解除されるというだけで、インストラクター資格には影響しない

2.インストラクター資格の剥奪をする権限をITOは持っていない


この話をする上で Regional Faculty と Regional ECC Committee の存在が重要になってくるのですが、これについてなにかご存じの方いましたら、教えてください!
posted by めっつぇんばーむ at 14:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年01月18日

インストラクターITO移籍手続き(最新版)

ここ数日、2008年3月1日から施行される、アメリカ心臓協会(AHA)の新しい心肺蘇生コース(BLS/ACLS/PALS)運営マニュアルであるPAM 2008(Program Administration Manual 4th Editon)を読み込んでいます。

速報でもお伝えしましたが、読めば読むほど気になるのは、やっぱりインストラクター移籍に関するルールです。

AHAインストラクターは、トレーニングセンター(ITC/ITO)に所属する義務がありますが、なんらかの理由で別のITO/ITCに引越したいと思ったらどんな手続きをしたらいいのか、という話です。

新しいPAMを読んでいると、トレーニングセンター/ITOの義務として、インストラクター移籍の求めがあれば、30日以内に移籍手続きを遂行しなければならない(must)という文字が至るところに踊っています。

ということで、ちょっとまえに書いた「とっても簡単なAHAインストラクターのITO移籍手続き」の続編として、新しいPAM パムをベースに、AHAインストラクターが所属変更をしたい場合の手続きの実際を詳説したいと思います。

まずはPAM 2004とPAM 2008で、AHAインストラクターのトレーニングセンター間の移籍手続きに関する記述の変化を見てもらいたいと思います。英語原文の語調を感じてもらいたいのですが、いちおう私の下手な訳を付けておきます。

言うまでもありませんが、ここでいう"トレーニングセンター"というのは、日本でいうなら、ITC/ITOのことになります。つまり、日本ACLS協会、日本蘇生協議会、日本循環器学会、日本小児集中治療研究会、各国際トレーニングセンターのことです。


(PAM 2004年バージョンの記載)

Instructor Records Transfer
Training Center Faculty (TCF) status is an individual Training Center appointment and does not transfer automatically. When a TCF transfers to a new Training Center, it is as an instructor, not a TCF. Records need to be transferred as requested, but the original training center may retain copies to document TCF activities.


トレーニングセンター・ファカルティ(TCF)の資格(ステイタス)はトレーニングセンターごとの取り決めによるもので、トレーニングセンター(TC)移動に際し、自動的に引き継がれるものではない。TCFが他のトレーニングセンターに移動する場合は、TCFではなく、インストラクターとしての移籍となる。リクエストに応じて、インストラクター記録は移動させられる必要があるが、オリジナルのトレーニングセンターはTCFとしての活動に関する書類の写しを保存しておくこと。

To transfer Instructor/TCF records from one TC to another, the Instructor/TCF member must complete an Instructor/TCF Records Transfer Request (see Appendix C).
The new primary TC signs and returns the request to the Instructor/TCF member, who sends the form to his/her original primary TC.


インストラクターもしくはトレーニングセンターファカルティが他のTCへ移籍するためには、インストラクター/TCFは、別紙Cに定める"Instructor/TCF Records Transfer Request"の書類を整えなければならない。移動先となる新しいトレーニングセンターは書類に署名をし、請求のあったインストラクター/TCFに返送し、そのインストラクター/TCFは現所属しているプライマリー・トレーニングセンターに送付する。

It is the responsibility of the original primary TC to send complete, up-to-date, original records to the new primary TC within 30 days of receiving the Instructor/TCF Records Transfer Request. The original primary TC must keep back-up copies of the Instructor/TCF member’s records for 30 days.

Instructor/TCF Records Transfer Requestを受け取ったプライマリーのトレーニングセンターは、最新のインストラクター記録をあたらしいトレーニングセンター宛に30日以内に送付する義務がある。オリジナルのプライマリー・トレーニングセンターは、記録の控えを30日間は保存しておかなければならない。



もともとAHAインストラクターのTC/ITO移籍というのは、非常にシンプルでドライな制度です。新しい受け入れ先さえOKであれば、元居たTCの意向は一切関係なく、自由に脱退・移籍できる仕組みになっています。

「出るものは拒まず」の基本姿勢、おもしろいですよね。

それ自体は新しい運営基準(PAM 2008)でも変わっていないのですが、記載上の表現が大きく変わっています。どうぞ味わいながらお読み下さい(笑)




(PAM 2008年バージョンの記載)
Instructor Records Transfer
Records must to be transferred as requested, but the original TC must also retain copies for the required 3-year period to document training activities through the TC.


要求があれば、インストラクター記録は移動・移籍されなけれならない。しかしオリジナル・トレーニングセンターは3年間はインストラクター活動記録を保存しなければならない。

Instructor status may be freely transferred from one TC to another for employment changes, moves, or any other reason. TCF status is a TC appointment and does not transfer. When a TCF member transfers to another TC, it is as an Instructor, not as a TCF member.

インストラクター資格は、転職や引越し、またその他の理由のために自由に移転・移籍することができる。
トレーニングセンター・ファカルティ(TCF)資格はトレーニングセンターの取り決めであるので、移籍はできない。TCFメンバーが他のTCに移動した場合は、TCFメンバーとしてではなく、一インストラクターとしての移籍となる。


The steps to transfer Instructor records from one TC to another are as follows:

1. Instructor completes an Instructor Records Transfer Request (see Appendix).
2. The TC Coordinator of the TC where the Instructor is transferring signs the request and sends it to the Instructor’s original TC, or the Instructor may send the request to the original TC.
3. The original TC must send complete, up-to-date, instructor records to the other TC within 30 days of receiving the Instructor Records Transfer Request (copies or originals are acceptable).


インストラクター移籍の手続きは下記の通りである。
1.インストラクターはPAM別紙付録に収められている"Instructor/TCF Records Transfer Request"用紙に必要事項を記載する。
2.インストラクターが移転する予定のトレーニングセンターのTCコーディネーターが書類にサインをして、オリジナルTCへ送付するか、もしくはインストラクターは自身でそれをオリジナルTCへ送付することができる。
3.オリジナルTCはそのリクエスト書式を受け取ったら、30日以内に最新のインストラクター記録の送付を完了しなければならない。(コピーでも原本でも可)



インストラクター移籍方法に関する記載のハイライトは、この部分なのですが、新しいPAMの中では「トレーニングセンターの責務・義務」ということで、いたるところで、「移籍願いが出されたら30日以内に手続きを完了させること」、というのが口酸っぱいくらいに出てきます。

なぜにそこまで強調しなければならないのか??
まあ、その必要があったんでしょうね。

トレーニングセンターやITOによるインストラクターの囲い込みを阻止するというAHA本部の意図が明確に現れていると思います。

そもそもアメリカという一国の任意団体に過ぎないAHAがECCプログラムをここまで世界中で普及させることができた要因のひとつが、自由競争システムの導入にあるという意見もあります。

複数あるトレーニングセンターが競合して切磋琢磨。そうしたせめぎ合いの中でコースの質が担保されて、優秀なサイトは顧客を増やして、どんどんレベルアップ。逆に質の低いセンターは淘汰されていく。

それがアメリカ社会ではじまったAHAの基本スタンスなのかもしれません。

それを考えれば、インストラクターが自由に移動できることは不可欠で、それがなければAHAが意図しているコースの質の担保もなければ、発展性もありません。


インストラクターの移籍だなんて、現実味のない話だなぁと感じる方は、どうぞAHAテキストの日本語版の監訳者の欄を見てみてください。ガイドライン2000版と比べると、いろいろな発見があると思いますよ。
posted by めっつぇんばーむ at 00:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年01月13日

アメリカ心臓協会 ECCプログラム日本国内組織図

2008年現在、なかなか複雑になってきている日本国内のAHA ECCプログラム事情ですが、言葉ではなかなか伝わりにくいようなので、私なりにAHA ECC普及団体の相関図を作ってみました。

アメリカ心臓協会AHA-ECCプログラム世界戦略図

PAMの最初の方のページ載っていた図をアレンジして作ってみたのですが、いかがでしょう?

アメリカ心臓協会(AHA)という組織は、もともとは日本循環器学会のようなアメリカ国内の学術団体です。その中にECC部門という心肺蘇生を専門に扱うセクションがあって、日頃いろいろな研究を行なっています。

その研究をもとに、心肺蘇生教育を実践していこうとして作られたのがAHA ECCトレーニングネットワークです。

本来はアメリカ国内のネットワークですが、日本をはじめ海外にも幅広く事業展開しています。

AHA ECCトレーニングネットワークの本部はアメリカのダラスにあって、事業を統括していますが、実際の講習会などの教育プログラム展開は「トレーニングセンター」という単位で行なうことになっています。

このトレーニングセンターは世界中に3000あると言われています。アメリカから見て海外に設置されたトレーニングセンター(TC)は、インターナショナル・トレーニングセンター(ITC)と呼ばれますが、中身はアメリカ国内とまったくおんなじです。

昔はITO (International Training Organization) という言い方をしていましたが、2008年版の新しいAHAコース運営マニュアル(PAM)では、その言い方は廃止されてITCという表記に統一されています。

注意が必要なのはAHAトレーニングセンターというのは、AHA ECC組織上のステイタス(立場)であって、団体名・法人名としてAHAの○○支部とか出張所というわけではないという点です。

つまりもともとの母体組織(民間企業、病院、地方自治体、軍隊、NPO法人、学会、etc.)があって、そこがAHAとライセンス契約してAHA ECC業務を行えるようになるという図式です。

日本の場合でいえば、例えば JCS-ITC というのは、法人名でいえば日本循環器学会ですし、JAA-ITCはNPO法人日本ACLS協会ということになります。

ある意味、近所の個人商店が、フランチャイズでコンビニエンスストアになったようなものです。◯ーソンの看板が掛かっているけど、中で働いている店長さんはまえとなにも変わっていないという、、、

決してAHAが直轄で日本に支部を開いているわけではない、ということを押えておいてほしいと思います。


さて、そうやってAHAと契約をしてライセンス発行できる組織が日本には4つあります。

・日本蘇生協議会国際トレーニングセンター(JRC-ITC) …BLS/ACLS
・日本ACLS協会国際トレーニングセンター(JAA-ITC) …BLS/ACLS
・日本循環器学会国際トレーニングセンター(JCS-ITC) …BLS/ACLS
・日本小児集中治療研究会国際トレーニングセンター(JSPICC PALS-ITC)…PALS

これらの組織がAHAとどんな契約をしているかによって、発行できるカードに違いがあります。

AHAのライセンスには、大きく分けてBLSとACLS、そしてPALSがあります。

上の3つの組織はBLSとACLSで登録申請していますので、ハートセイバーコースを含むBLSと成人の二次救命処置プログラムであるACLSのカードを発行することができます。今のところ、小児コースであるPALS(および最近できたPEARSコースを含む)の開催はできません。

もし今後、小児コースを開きたいと思ったら、既存の PALS ITC か、アメリカのPALSファカルティー(faculty)のもとに人を派遣して、PALSインストラクター資格を取らせて、さらには PALS Faculty のステイタスを持った人にまで育成した上で、AHAと契約をしなおす必要があります。

詳しいことはわかりませんが、日本ACLS協会国際トレーニングセンター傘下の 宮崎トレーニングサイト のホームページでは、サイト長さんが「AHA PALS TC Facultyを拝命!」(07.12.02付)と書かれています。

となると、JAAもPALSに参入なのかな? と思いますが、どうやってPALS TC Faculty育成にこぎ着けたのかは謎です。

4番目のJSPICC PALS-ITCは特殊で、もともとは小児の二次救命処置であるPALSの契約しかしていないようです。意外と知られていませんが、このPALS ITCが日本で最初のAHA公認国際トレーニングセンターということになります。


最後に忘れてはいけないのが、USカードグループの存在です。
これはアメリカのトレーニングセンター所属のAHAインストラクターたちの総称です。

日本のITCでインストラクターになった人たちは、日本国内での活動しか許可されていませんが、アメリカ(US)発行のインストラクターカードを持った人たちは、世界中で活動することが認められています。

日本に公式な国際トレーニングセンターができる以前から、AHAの教育システムに関心を持ってアメリカで資格をとって帰ってきた人たちがいました。そんな人たちは日本のITOとは別の流れで独自に講習を開いています。そんな人たちをUSカードグループと呼んでいます。

基本的には個人活動なので、誰も正確な人数は把握していませんが、私の知るかぎりUS-BLSインストラクター資格を持った人はかなりの数、存在しています。50〜100人くらいはいるのかなぁ。US-ACLSインストラクターは20人弱くらい? US-PALSインストラクターは1桁くらい、なはず。

USインストラクターは、ハートセイバー・ファーストエイドやハートセイバーCPRなど、日本のITOでは開催していないコースも手がけていて、本場アメリカの基準に則った活動をしているので、たいへん貴重な存在と言えます。

以上、日本のAHA教育シーンの全体像でした。
posted by めっつぇんばーむ at 02:11 | Comment(7) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年01月12日

2008年 AHAコース運営規則(PAM)が改定されます!

ビッグニュースです!

AHA ECCプログラムの運営規則である Program Administration Manual(通称パム:PAM)の改訂版(4th Editon)が発表になりました。

Program Administration Manual(4th Editon)ダウンロード

現行の 2004年バージョンの Program Administration Manual が有効なのは2008年2月29日までで、3月1日以降は2008年バージョンが施行されます。

旧版のダウンロードは2008年3月1日までで、その先必要な人は直接AHAにコンタクトを取るように、ということになっていました。必要な方は早めにダウンロードをお薦めします。

せっかく今のPAMを読み慣れてきたと思ったのに、改定されてしまうなんて、、、

また一から読み直しかぁ、と思うとちょっと憂鬱ですが、まあキライじゃないのでがんばります。何が変更になったんだろうと、興味津々ですし。

またなにかおもしろい発見があったらここで取り上げますね。

そのまえに古いバージョンの PAM について書きたいと思っていたネタがいくつかあったので、賞味期限になるまえに早くまとめなくちゃ。


追記:
その後、New PAMにざっと目を通して気になった点をいくつか。



ITOという表記がなくなって、ITCとなってましたね。
それとUSインストラクターとITCインストラクターの違いが明確に表現されていました。

トレーニングセンター間の移動(移籍)に関する項目は、大幅に変わっていました。以前は単なる事務手続きの方法しか書かれていなかったのに、新しいバージョンでは、「移動は自由」ということが敢えて強調して書かれている点が注目できます。

Instructor status may be freely transferred from one TC to another for employment changes, moves, or any other reason. (PAM 4th editon, p.18)

もしかして、今の日本の事情が反映されている??

このポリシーが適用されると、トレーニングセンター間の移動を制限する誓約書を書かせるのは規約違反になる可能性あり??


あと、こんな記載が随所にあったのも興味深かったです。

An Instructor may teach with more than 1 TC

An Instructor may align with a second TC if employed by a TC (or if
the employer specifies a TC for alignment) that will not support the
instructor’s non.employment-related courses. The Instructor may
have to meet additional teaching and monitoring requirements as
determined by the second TC.

これもひとつのTCに縛り付ける戦略を否定するものとなりそうですね。

あとは、ITOインストラクターが、US-TCに移籍するのも簡単になったように読みとれました。読み違いでないといいのだけど、、、
posted by めっつぇんばーむ at 04:32 | Comment(3) | TrackBack(0) | PAMを読み解く

とっても簡単なAHAインストラクターのITO移籍手続き

世界に3000あると言われているAHA ECCプログラムのトレーニングセンター。

特にアメリカ国内では、ヘルスケアプロバイダーやファーストエイドの修了カードがないと働けない職種がたくさんありますので、他団体を含め、大手企業の周辺には複数の競合トレーニングセンターが軒を連ねるということがあるようです。

より労働条件のよいトレーニングセンターを求めて、転職を繰り返すジプシー・インストラクターも少なくないとか(笑)

◆ AHAインストラクター資格はTCに関わらず日本全国で有効

日本国内をみても、今現在4つのAHA公式トレーニングセンターが存在しています。

AHAの規則上、AHAインストラクターはどこかのトレーニングセンターに所属していなければいけないことになっていますが、実はこれに深い意味はありません。

AHAインストラクターは所属トレーニングセンター内でしか活動できないと勘違いしている人がいますが、AHA資格自体は日本国内のITOであれば、どこでも有効です。(ちなみにアメリカで資格を取ったUS-インストラクターなら世界中どこでも有効)

この点はAHAコースを開催するごとに提出するコース・ロスター Course Roster というAHAの公式書類を見てもわかるとおりです。

インストラクター参加すると、ロスターに名前と資格有効期限を記入していると思いますが、その欄の上のところには、Attach copy of instructor card for instructors aligned with oher than primary TCって書かれていますよね。他トレーニングセンター所属のインストラクターがコース参加する場合は、インストラクターカードのコピーを添付すればいいというわけです。

実際に私が所属しているトレーニングセンター(TC)では、大規模なコースのときはコース主催とは別のTCのスタッフが手伝いに来てくれたりもしています。

本来はこんな感じに、所属トレーニングセンターというのは、ただの書類上の問題だけで実働にはあまり関係ない話のはずなんですけどねぇ、、、


ところが、インストラクターの登録籍(Primary training center)を巡っては、いろいろ大きな問題にもなりかかっているようなウワサを聞きます。

◆ 所属トレーニングセンターの変更は簡単

結論からいうと、プライマリー・トレーニングセンターの変更、つまり移籍はとっても簡単。

PAM (Program Administration Manual) の70ページの Instructor Records Transfer という項目に書かれていますが、要は管理データの移動という事務手続きだけなんですね。

To transfer Instructor/TCF records from one TC to another, the Instructor/TCF member must complete an Instructor/TCF Records Transfer Request (see Appendix C).

The new primary TC signs and returns the request to the Instructor/TCF member, who sends the form to his/her original primary TC.

It is the responsibility of the original primary TC to send complete, up-to-date, original records to the new primary TC within 30 days of receiving the Instructor/TCF Records Transfer Request. The original primary TC must keep back-up copies of the Instructor/TCF member’s records for 30 days.


インストラクターが移籍を希望したらまずは移動先のトレーニングセンターに承認を求めます。OKであればAHAの定型書式である Records Transfer Request という書類をくれますので、インストラクターは必要事項を記入して現所属TCに送付。すると後はトレーニングセンター間の事務手続きになり、そのインストラクターに関する記録がTransferされ、移籍が完了という流れになるようです。

興味深いのは、現所属TCはそのリクエストを拒否できないという点です。これはAHAトレーニングセンターの責任であって、リクエストから30日以内に必要書類を提出しなければいけないと書かれています。

つまりAさんがトレーニングセンターを移動したいと思ったら、まず受け入れ先TCを探します。そこに話をして受け入れがOKとなれば、あとは事務的な手続きが進むだけで、別にAさんは元所属していたトレーニングセンターに対して脱退許可を求めるとか、そういったことは必要ありません。

まあ、いきなり他のセンターから、「おたくのAさんがうちに移動になりますから書類を送ってください」と唐突に言われたらびっくりするでしょうけど、正式なリクエストがあれば30日以内に事務手続きを完了しなければいけないというのがPAMに則ったAHAトレーニングセンターの義務です。

◆ 流入はコントロールできるけど、流出を阻む手だてはない

トレーニングセンターというのは、それぞれが独立採算の企業のようなものですから、それぞれ独自のルールを作って運営していくのは自然な話です。どこかと提携してもいいだろうし、完全な独立性でいくのも自由だし。

アメリカでは大手企業は自社の職員の労働法規に基づいた資格整備ということで、企業内にトレーニングセンターを設立して、何千何万といる職員を対象に日々講習を開いている部署があるなんて話も聞きます。

こういった場合は、インストラクターも受講生も自社職員以外認めないというのは当然のことと思います。そんな企業内TCにインストラクターとして移籍したいといっても、社員じゃないからダメと言われれば、まあ仕方ないと思います。

ただ、反対にその企業内TCを辞めて別の条件のいいところに移動したいと言ったら、AHAの規則ではそれを阻む手だてはありません。

もう一度言います。

流入はコントロールできるけど、流出を阻む手だてはAHA規則上ありません。

インストラクターになるにあたって、決して移籍はしないという誓約書を書かせる組織があるという話を聞きますが、いったいどんな条項になっているのか非常に興味があるところです。

どなたかこっそり教えてくれませんか?(笑)
posted by めっつぇんばーむ at 04:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2008年01月06日

JAPAN ITOってなに? 日本のAHA-ECC構造の不理解

Japan ITO という言葉を聞いたことがありますか?

なにそれ? という方はこれ以上、読まなくて結構です。

反対に JAPAN ITO という言葉に違和感、疑問を感じていた方、どうぞこの先を読み進んでください。


私はこれまで勘違いしていました。

以前に書いた記事で「Japan ITOというのは、日本ACLS協会がアメリカのAHA本部に届け出ている登録名ですが、」なんて書いてしまっていたのですが、私の間違いでした。

さらには「JAPAN ITOと書くとなんだかAHA日本支部! みたいな感じがしますが、特別な意味はないただの固有名詞です」なんてことも書いてしまっていたのですが、、、

固有名詞でもなんでもありませんでした。



ITOというのはAHAの業界用語で、International Training Organizationの略です。直訳するなら「国際トレーニング組織」。アメリカ本国からみて海外のECCプログラムの活動拠点を指す言葉です。(ITOの定義については、Program Administration Manualのp.11,
13およびGlossary p.3をご覧下さい)

アメリカ本国での活動拠点はトレーニングセンター(TC:Training Center)といいますが、これが国外に出ると言い方が変わるというだけのことです。

AHAとしては最近ではITOという表現を廃止してITCという言い方に替えているようです。ITCはInternational Training Centerの略。まあ、わかりやすいですね。

いまはITOという古い言い方が残っているのでITOとITCという言葉が混在していますが、意味はまったく同じです。やがてはITCという表現に統一されるはずです。


さて、そんな予備知識を踏まえた上で、JAPAN ITOという言葉を考えてみたいのですが、結論からいいますと、公式情報を探るかぎり、そんな固有名詞は存在しない、ということがわかりました。

要はJAPAN ITOと名乗る団体がAHAにどのような名前で登録されているかを見ればいいわけですね。それはAHAインストラクターであれば誰でもログインできるAHA Instructors NetworkというAHA公式の会員サイトを見れば一目瞭然です。

日本のITC(ITO)としてAHAに登録されているのは次の4つです。

Japanese Society of Pediatric Intensive Care
The Japanese Circulation Society
Japan ACLS Association
Japan Resuscitation Council

頭にJAPANという文字がついている組織はふたつありますが、さすがにJAPANというだけの大それた名前の組織は存在しませんでした。

まあ、このあたりの話は、去年6月に刊行されたBLSヘルスケアプロバイダーマニュアル日本語版(G2005版)の監訳者のページを見てもらっても一目瞭然です。

日本ACLS協会は JAA-ITC として記載されていますよね。


じゃあ、JAPAN ITOという日本を代表するかのような名前はどこから出てきたのでしょう?

、、、、正直、わかりません。

JAA-ITCの公式サイトを見ても、突然湧いたかのようにこの表現が出てきて謎です。

一説によると、ITOというのは昔はひとつの国にひとつの団体しかAHAが認めていなかったから、その名残でJAPAN-ITO=日本ACLS協会なんだ、という話を聞いたことがあります。

まあ、なんだか納得できるような気もします。でも日本のAHA教育の変遷を知っている人には、また不思議な話に聞こえるはずです。

このあたりの話はいちおうJAAの公式ウェブにも書かれていることなので、知っている人は知っていると思いますが、JAAが発行してきたAHAカードの裏面を引き合いに出すとわかりやすいかも知れませんね。

最近、日本ACLS協会でハートセイバーAED、BLS for HCP、ACLSのいずれかを修了した人の修了カードには裏面にこんな感じで書かれているはずです。

日本ACLS協会発行の最近のAHA修了カード

ところがですね、2005年11月以前に日本ACLS協会で発行されたカードはこんなふうに書かれていました。

日本ACLS協会発行の以前のAHA修了カード

これを見てすんなりと理解できた人は、なかなかのAHA事情通です。

さらに、この記載の間違いに気づいた人がいたら相当なもの(笑)

Regionと、Training Center、それに Training Site の区別が混同されているんですね。
二重、三重にいろんな意味で間違っています。

細かい話は割愛しますが、もともと日本で最初のITOとしてAHAから認可されたのは PALS ITO で Japanese Society of Pediatric Intensive Care の業績でした。これは小規模な活動に留まっていましたら、歴史的にもあまり認知されていません。

日本のAHA史上、大きな出来事はBLS ITO/ACLS ITOの設立で、これは書面上、Japan Resuscitation Council との契約でした。つまりITO(トレーニングセンター)は Japan Resuscitation Council です。

JAAが日本で活動をはじめた当初から2005年11月までは、JAAはITOでもAHAトレーニングセンターでもありませんでした。ただのNPO法人。活動実績は事実上 Japan ACLS Association でしたが、これは AHA の書面上には現れない日本国内事情に過ぎません。ですので、本来は Japan ACLS Association の名前は、AHAカードには現れないはずなのですが、、、、なぜなんでしょう? なんだか無理くりな気がします。

これはいまでも相当に勘違いされていますが、トレーニングセンターといったら、現在の JAA でいうなら Japan ACLS Association そのものであって、その下に別の名前のトレーニングセンターが存在することはあり得ません。だって、日本ACLS協会国際トレーニングセンター(JAA-ITC)なんですから。

上画像の修了カード裏面には、 Training Site の記載欄に ○○Training Center と書かれていて、まったくもって意味不明。

私の知り合いにもJAA関係者はたくさんいるのですが、その人たちと話をしていて、まったくかみ合わないと思ったら、このトレーニングセンターの配下にトレーニングサイトがあるという基本図式が理解できていないのが原因のようです。

PAMを読んでいないのは、まあ、いいとしても、少なくとも2006年11月1日以降にAHAインストラクターになった人は、義務として Core Instrucutctor コースは受講しているはずなので、このあたりAHA-ECCプログラム構造は理解していなければおかしいのですが、、、

まあこんな話は、一般受講生である Provider の方たちにはなんの関係もない話なのですが、いま自分の所属する病院のなかにAHA教育システムを組み入れようとしている立場としては、この日本固有の間違った理解が非常に障害になっています。プロバイダーレベルの勘違いならまだしも、インストラクターの無知は罪だと思う。

「だって、AHA日本支部のサイトにはそんなこと書かれてないよ」
「JAPAN ITOはそうは言っていない」

とか。

だから、JAPAN ITOってなんですか? アメリカ心臓協会日本支部なんて実在するんですか? って言いたい。

ただそれだけです。


追記:最近JAA系の○○ECCトレーニングサイトという名称のホームページが、軒並み繋がらなくなっています。なにかあったんでしょうか??
posted by めっつぇんばーむ at 23:54 | Comment(9) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2007年12月24日

AHAインストラクターの責務 『禁煙』

金曜日の夜に勤務先で開催したヘルスケアプロバイダーコースを皮切りに、この4日間、毎日AHAコースに関わっていました。今日はクリスマスということですが、頭の中AHAモードでいっぱいのめっつぇんです(笑)

さて今日のテーマ。

『AHAインストラクターの責務』

ブログの中でも何度も取り上げてきたテーマではありますが、今日はちょっと切り口を変えて、本当の意味で「AHAインストラクターの責務」ってなんだろうという話です。

AHAインストラクターに課されている義務というか責務って、実はゆるいもんなんですよね。PAMを読んでも、コアインストラクターのCD-ROMを見ても。

たとえばコアインストラクターCDの中で、「コース中のロマンス」みたいな項目があったのを覚えていますか?

「受講生に魅力的な異性がいました。ぜひ週末の予定を聞いて誘いたい! あなたはどうしますか?」

なんて設問があるわけです。

普通に考えれば、そんなのダメ! と無条件にぴしゃっと否定されそうなものですが、正しい答えをみるとびっくり。

「コースが終了した後に誘いましょう」

えっ、誘っていいんだ、、、、と、しばし絶句(笑)


日本では厳しいと信じられているAHAインストラクターの責務ですが、実はこんな感じにアメリカンというか、ドライというか大雑把というか、微妙に観点が違っていて面白いです。まあ、アメリカだけに訴訟対策とか、差別の問題、著作権のあたりはうるさいなと感じますが。

言っておきますが、AHAの規約上「AHAインストラクターの責務」といって箇条書きされているようなものはありません。でもPAMやコアインストラクターコースを見るといろいろ見えてくる、「AHAインストラクターの責務」っぽいことはいろいろあります。

そんな中でも私としては日本でももっとアピールしたほうがいいんじゃないかなと思う最大のものは、「禁煙」だと思っています。

禁煙はAHAのPAMに載っている規約としてはかなり強めのポリシーです。

Smoking Policy
Smoking is prohibited in classrooms and trainig facilities during all AHA ECC training programs. (PAM, p.89)


私はこれまでいくつかの団体、いくつものサイトで受講やタスク、インストラクター参加してきましたが、いちおうどこでも禁煙は謳われていました。

でも、コース最初の施設案内で、受講生に対して「喫煙は○○だけでお願いします」、なんてアナウンスしてしまうのはどういうことなんだろうと思ってしまいます。喫煙を否定しているようで、実は「吸ってもいいですよ」と肯定しているわけですよね。

私、受講生としてイヤな思いをしたことが何度かあります。
ひとつのマネキンを3人くらいで使うというパターンが多いかと思いますが、休み時間にタバコを吸ってきた人のあとで、人工呼吸をするのってどうでしょう? はっきりとタバコのニオイがします。(言うまでもなく私はタバコは吸いません。)

ひとつの人形で口対口人工呼吸をするとわかっているのに、平気でタバコを吸ってくる神経が許せませんし、喫煙所を提供しているAHA ECCプログラム運営者は何を考えているのか、憤りを覚えます。

途中の10分くらいの休憩時間にいそいそと外へ出ていく人たちを見れば、誰がタバコを吸っているのかはわかります。インストラクターの中にも明らかに喫煙者が複数いました。コース終了後の懇親会ともなれば、まったく遠慮はないですね。

先にPAMの引用を載せましたが、AHAはコース開催中の喫煙を禁じています。ここでは強い禁止を表わす単語である prohibited が使われている点に注目してほしいです。Do not とかそういうレベルではないんですね。

classroomsで吸ってはいけないのはもちろんですが、 trainig facilities というのをどこまでと捉えたらいいのでしょう? 建物の敷地内はダメ、道路にまで出なさい、という意味と捉えるなら、事実上、コース開催中はタバコはダメと私は解釈したいです。

ましてやインストラクターたるもの、コース時間中の一切の喫煙を控えるべきでしょうね。それこそ心血管障害と脳卒中と闘う、AHA-ECCインストラクターの責務じゃないでしょうか。

まあ、このあたりの話をすると、医療従事者がタバコを吸うことの是非についてとか、ありがちな堂々巡りになってしまいますので議論は避けたいところですが、AHAインストラクターを自認する人たちにはぜひ考えてもらいたい点だなと思っています。
posted by めっつぇんばーむ at 21:20 | Comment(7) | TrackBack(0) | PAMを読み解く

ACLS受講にBLS資格は不要って知ってました?

このことは書くかどうか悩んだのですが、すでにあちこちで公開された事実でもあるし、敢えて取り上げてみることにしました。

AHAのACLSプロバイダーコースの受講資格(条件)を皆さんご存じですか?

このブログでも何度も取り上げていますが、医師免許や看護師免許など医療資格を持っているかどうかというのは関係ありません。

唯一の条件が、「有効期限内のBLSヘルスケアプロバイダー修了カードを持っていること」、と私も長いこと信じてきました。

しかし、実はこの条項は2004年4月の段階で撤廃されていたという事実をご存じだったでしょうか?

2004年4月付のAHAコース運営マニュアルであるPAM (Program Administration Manual) の92ページにはこう書かれています。

Students in ACLS and PALS courses are not required to have a current BLS Healthcare Provider(HCP)card, but they are expected to be proficient in BLS HCP skills.

(訳)ACLSとPALSの受講生にはBLSヘルスケアプロバイダーカードは求められていない。しかし彼らには熟練したヘルスケアプロバイダーとしてのBLS技術が期待されている。


not required(必要とされていない)とはっきり書かれているんですね。

このことはAHA本部の公式ウェブの中のFAQでも明言されていますし、なによりACLSインストラクターマニュアル付属の受講前チェックリスト"Precourse Preparation Checklist"の中でもはっきり謳われています。(受講生がコース受講前にしておかなければいけない準備がチェックリストです)

You must do these to prepare for the course:

Complete a BLS for Healthcare Providers course or be able to perform high-quolity CPR and use an AED according to 2005 guidelines.

(訳)BLSヘルスケアプロバイダーコースを満足に修了するか、もしくはガイドライン2005に則った質の高いCPRとAED操作を実演できること


ですので、現行のAHA規則に則るなら、ヘルスケアプロバイダーカードの提示は必須ではありません。カードがない人は具体的にどうしたらいいのかという点はAHA本部のウェブサイト内FAQに書かれていました。

ACLS and PALS Course Directors may ask the student (中略) to demonstrate BLS skills before taking an ACLS or PALS Course.

そう、コース開始前に十分にBLSスキルがあることをコースディレクターの前で実演すればいいというわけです。

現実問題としては、ガイドライン2005のACLSではBLSスキルが非常に重要になっていて、コースの中でも質の高いCPRを継続することに重きが置かれてトレーニングが進んでいきます。

今現在、日本ではガイドライン2005に基づいた医療従事者向けのCPRコースは、事実上AHA-BLS for Healthcare Providerコース以外はありませんので、やはりヘルスケアプロバイダーコースを満足に修了しているというのが現実的な受講資格と言えるかも知れません。

ただし肝心なのはそれが必須ではないという事実です。
例えばICLSのインストラクターとして常日頃BLSも含めて指導にあたっている人が、わざわざACLS受講のためにHCPコースを受けなければいけないかといえば、必ずしもその必要はないかもしません。

こうした選択肢があるということが非常に重要だと思うのですが、このあたりはあまりオープンにされていないように感じます。

中でも疑問に感じるのは、老舗AHA提携NPO法人の公式ウェブの記載です。

(ACLSコースの受講条件は)
「ACLS Precource Preparation Checklist(ACLS Provider Manualに付録しています)に従います。」

と明言しているのに、続いて書かれていることが事実とは異なっているからです。

Complete a BLS for Healthcare Providers course or be able to perform high-quolity CPR and use an AED according to 2005 guidelines.

この文章をこんなふうに訳出しています。

1)BLS for HCPコースを履修しているか、
  またはガイドライン2005に準拠した
  質の高いAEDを用いたCRPが行えること。

1-1)G2005ACLS Provider Cource受講日に以下のいずれかのBLSカードの提示ができること。
 A:有効期限内のBLS for HCPカード
 B:有効期限内のBLSインストラクターカード
 C:有効期限失効後2年以内のBLS for HCPカード
 D:有効期限失効後2年以内のBLSインストラクターカード

1-2)上記のカードを有していることに加えて
  ガイドライン2005に準拠した質の高いCPRが行えること。


1)だけなら良いんですけど、1-1)、1-2)というのはいったいどこから湧いて出てきたのでしょう? 謎です。原文はandではなくorで接続されていて、それを1)ではきちんと訳出しているのに、、、なぜ??

これをNPO法人の独自ルールとして定めるのならまだ罪はありませんが、ACLS Precource Preparation Checklistに従うと言いつつ、AHA基準にはない勝手なルールを混ぜ込むのはいかがなものかと思います。仮にも「アメリカ心臓協会日本支部」を名乗る団体が公式に不正確なことを書いちゃマズイでしょう(^^; もっとも本家AHAとしては日本支部なんぞ作ってないぞと申しているようですが。

念のため、もう一度確認しておきますが、AHAの定める要件は、HCPカードを持っているか、もしくは(or)「ガイドライン2005に準拠した質の高いCPRが行えること」のどちらかです。両方が必要とはどこにも書かれていません。



この文章、もしかしたらまた大きな波紋を投げかけることになるかも知れませんので、いちおう最後に言っておきます。

ガイドライン2005のACLSプロバイダーコースは、ヘルスケアプロバイダーコースの修了証はなくても構いませんが、AHAガイドライン2005に則ったハイクオリティーなBLSスキルは絶対に必要です。

BLSが満足にできなければ、コース中の実技試験に本気で落ちます。

現時点、日本国内で、ガイドライン2005に則った医療従事者レベルのCPRトレーニング受けるチャンスは、AHA-BLSヘルスケアプロバイダーコース以外に選択肢はありません。ですのでICLSインストラクターなどCPRに絶対的に自信があるというような特殊な方以外には事実上、BLSヘルスケアプロバイダーコース受講が必須というのは間違いじゃありません。

アメリカの場合は、AHA-HCP以外にも、American Red CrossやMedic Firstaidなど、医療従事者向けのきちんとしたBLSプログラムがありますので、そういったコースでも構わないよという意味での"not required"です。

くれぐれも、あ、そう、要らないんだ! と単純な早合点しないでくださいね。

自信があれば、どうぞヘルスケアプロバイダーコース受講なしにACLSに挑戦してみてください。ただし実技試験に落ちても知りませんよ、ってこと。

老舗AHA提携NPO法人も、きっとそういう親切心で、HCPが必須といっているんでしょうけど、それにしても、あの英文の超訳にはびっくりでした。
posted by めっつぇんばーむ at 00:48 | Comment(10) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2007年12月10日

AHAインストラクターは、AHAコース以外で教えることができない??

インターネット上のとある掲示板で気になる書き込みがありました。

『当院ではプロバイダー・インストラクターが所属しているため、院内での勉強会などが盛んにおこなわれています。もちろんAHAインストラクターの資格があるかたは責務にのっとり直接講習会を開く事はしていません。』

AHA関連団体でも、所属長の考え方で方針や雰囲気がずいぶんと違うものだというのは認識していますが、このような理解の仕方って一般的なのでしょうか? 皆さんの所属サイトではどうなのか、ちょっと聞いてみたくて取り上げました。

私は、AHAの規則的にはまったく問題ないと思っています。

もしかしたら、PAMの71ページ、"Instructor Status and Alignment"という見出しのところに書かれている"Any Instructor who is not aligned with a TC is not authorized to act an AHA Instructor."という一文がこうした理解の原因になっているのかぁとは思ったのですが、、、。

AHAの規則以外に、各トレーニングセンターが打ち出しているローカルルールがあります。ネット上で公開されているそれらのローカルルールと照らし合わせても、AHAインストラクターが院内で独自に勉強会としてコースを開いたり、他の団体のインストラクターを兼任することは問題ないと思うのですが、どうなんでしょう?

もし本当に「AHAインストラクターだから、他では教えられない」と信じているとしたら、あまりにもったいないと思うんです。だってそうでしょ? 世界最高峰の「教える技術」を学んでいる人たちなんですから。

この点について、皆さんからの情報や意見がありましたら、ぜひお聞かせ下さい。

ちなみに私はAHA-BLSインストラクター以外に、消防の応急手当普及員としても個人活動をしていますが、指導方法は思いっきりAHA式でやってます(DVD教材こそは使っていませんが)。また、勤務先の病院内ではAHAで培ったノウハウを活かして院内BLS教育プログラムの作成・指導/院内インストラクター養成にもあたっています。

皆さんはAHAインストラクターとしての立場を、AHAコース以外で社会還元していますか?
posted by めっつぇんばーむ at 02:24 | Comment(8) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2007年12月04日

本場アメリカ直轄のAHA活動拠点「福井BLS」

ガイドライン2005のACLSプロバイダーコースを受講してきました。

私の住むところでは、電車で1時間の範囲内にACLSを受講できるサイトが10近くあるのですが、今回はあえて遠い福井県まで行ってきました。

新幹線に乗って、ビジネスホテル泊まりでのACLS Providerコース受講。

なんでわざわざ福井まで行ったのかというと、福井には「福井BLS」というアメリカ直轄のAHA-ECCコースの活動拠点があるからです。

なんで?

まあ、ひとことで言えば、ITOではない本家本元アメリカ発行の AHA-ACLS Provider カードがほしかったという、ただそれだけ(笑)
(なんて言ったら失礼ですね、福井の先生方、ごめんなさい)

福井BLSでもらえるAHAコース修了カードの裏面にはこんなふうに印字されています。

AHA Region: Hawaii Region
Community Training Center: American Medical Response
Training Site: American Medical Response

なんだか、わざわざハワイにいってコースを受けてきたみたいな感じがするでしょ?(^^)

日本で講習を受けているのに、なぜかハワイのトレーニングセンターからのAHAカードが発行される福井BLS。

不思議に思いません?

今日は福井BLSの紹介をしつつ、AHAのインストラクターの活動範囲について書いてみようと思います。

◆ 福井BLSって何?

福井BLSは、一言でいえばアメリカ・ハワイにある American Medical Response Training Center (AMR-TC) の出先機関のようなものです。

ハワイのAMR-TCでインストラクター資格を取った人たちが、たまたま福井に集まって活動しているその拠点と言ったらいいでしょうか。

こう書くと、「つまりはトレーニングサイト?」と思われるかも知れませんが、福井BLSは「トレーニングサイト」ではありません。

◆ 日本にはほとんど存在しないAHAトレーニングサイトのナゾ

日本では「トレーニングサイト」という言葉が気軽に使われていますが、本来のAHAのトレーニングサイト(TS)というのは厳格なルールに基づいて定められるもので、福井BLSはTSとして認可されていない(申請していない?)ので、厳密に書くなら「活動拠点」です。まあ、日本の通例的でいうならトレーニングサイトという理解で間違いはないのですが、この点、誤解が多い部分なのであえて書かせてもらいました。

ついでにいうと、AHAトレーニングサイトの基準は結構きびしくて、日本のいわゆる「地域トレーニングサイト」のほとんどは、その基準を満たしていないそうです。ですので、あれは日本のNPO法人○○トレーニングサイトであって、AHA Training Siteではないんですね。これは意外と知られていないびっくりな事実です。

ですから、カード裏面のTraining Siteの欄には本来は無記載、もしくはトレーニングセンター名(JAAとかJRC、JCS、JSPICC等)を記載して、サイト(TS)を持たないトレーニングセンター直轄としてカード発行するのが本筋だと思うのですが、その辺の内部の扱いがどうなっているのかはよく分かりません。

◆ AHAインストラクターは単独で活動できる

AHAインストラクターは本来は一人で活動できるものです。

AHAの基準では上級インストラクターの直接監督のもとある程度の指導経験(4回もしくは8回以上が目安)を積んでOKとなれば、後は自主的にひとりでコース開催できるようになります。いわゆるリード・インストラクターという立場ですね。トレーニングセンターに届けを出すことで、実質的にフリーに動けるようになります。

コア・インストラクターCDの動画を見た方はお気づきだと思いますが、あの中では一人のインストラクターが6人くらいの受講生に教えている場面しか出てきませんよね? 日本のように何人ものインストラクターを抱えて数十人の受講生をいっぺんに教えるという場面はなかったはずです。

あんな感じでインストラクター個人がそれぞれ個別にコース展開していくというスタイルがアメリカでは一般的なようです。

いちおう本籍届けとしてトレーニングセンターはどこかに所属していなければなりませんし、カード発行申請等はトレーニングセンターを通して行なうことになりますが、インストラクターの活動は地域に縛られるものではありません。(日本のITOでインストラクターになった人は日本国内でしか活動できませんが、、、、)

ハワイのインストラクターがたまたま日本に出張してきてコース開催しているという図式がアリだってことはご理解いただけたでしょうか?

日本のこれまでのAHAに関する「常識」からすると???と理解できない方が多かったかもしれませんが、ある意味、本来のアメリカンスタイルを貫いているのが福井BLSのインストラクターたちと言ってもいいのかも知れません。


アメリカのトレーニングセンター直属の日本人インストラクターが今現在日本に何人くらいいるのかはわかりませんが、日本でAHAの公式な国際トレーニングセンター(ITC/昔の言い方だとITO)が設立される以前から細々と活動していたようです。

そんなITO発足以前から活動しているUSインストラクターの方から、私ともう一人のためだけにAHA公式コース開催をしてもらったことがあるのですが、そのときの講習会場は、なんとカラオケボックス(!)

信じられます? カラオケでAHA公式コースだなんて。

でも、そんなのがアリなんですよね。

AHAコースを開催するというと、なんだか大がかりなイメージがありますが、自分ひとりで少人数に教えると考えれば、いろいろとバリエーションが出てきます。

個室カラオケを使ってコース開催なら、AV機器は整っているし、時間帯を選べば安いし手軽だし。合理的ですよね。そんなのを目の当たりにすると、自分も早くリード・インストラクターになって、自由に活動してみたいという、そんな思いに駆られます。

そんな個人で活動する自由な気風のAHA-USインストラクターの集合体が福井BLSです。

◆ 福井BLSの特色

福井BLSの特色を挙げていったらきりがないのですが、なんといっても大きいのは日本では公式には開催されていないAHA-ECCコースが受けられるというのが最大の特徴かなと思います。

日本で代表的なITOが公式に開催しているAHAコースは、今のところ次の3つだけです。

・ハートセイバーAED
・BLSヘルスケアプロバイダー
・ACLSプロバイダー

でも実はAHAが開催する心肺蘇生トレーニングコース(AHA-ECCプログラム)は、ファーストエイドも含めて全部合わせると20くらいあります。

例えばアメリカでもっともポピュラーで、カード発行枚数がいちばん多いと言われているハートセイバー・ファーストエイド(AHA Heartsaver Firstaid)コースは日本には入ってきていません。

AHAは心肺蘇生だけと思われがちですが、実はしっかりと応急処置(ケガしたときの対応など)のコースも持っていたんですね。

これを受講しようと思ったら、今のところは個人的にUSインストラクターにお願いするか、福井BLSに足を運ぶしかありません。

あと日本での需要からいったらPALS(パルス)でしょうか。

PALSは小児対象の二次救命処置プログラムで言ってみればACLSの子ども版です。日本のITOとしてPALSコースを開催できるのは日本では小児集中治療研究会(JSPICC PALS-ITO)だけですが、小児科専門医以外には門戸を開いていませんので、普通の医師や看護師が小児の二次救命処置プログラムを受講しようと思ったら、USインストラクターに頼るしかありません。

福井BLSでは公募コースとして来年4月あたりにもPALS開催を企画しているようです。


福井BLSをはじめとするUSインストラクターの方たちの活動を見ていると、ホントのびのびしているというか、インストラクター資格を良い意味で活かしているんだなぁと感じます。

日本のこれまでの「常識」で、私はAHAインストラクター資格というのは、組織の枠組みの中でしか活かせないんだと思っていましたが、決してそういうものではないようです。

個々でも活動できるし、必要なときは一致団結して大きなコースをも開催できる。
みんな自分ひとりでコース開催できる実力と実績を持った人たちだから、集まったら強いです。

先日、参加させてもらった受講生50人相手のマネキン:受講生比=1:1の大がかりなコースも、USインストラクターたちの先導があったからこそ、短い準備時間で開催できたのだと思います。

枠組みのなかのひとつの部品としてではなく、一人ですべてがこなせる人材として自分自身を鍛え上げていきたいと思っています。


追記:福井BLSで取得する ACLS Provider カードですが、私はハワイのAMRトレーニングセンターから出ると書きましたが、間違いという指摘をいただきました。ACLS Provider Card はAHA本部のダラス Dallas から出るんだそうです。カードの裏にはなんて書いてあるんだろう? 楽しみです。
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2007年09月07日

AHAインストラクターは影の忍者?(笑)

日本には、俗に「AHAインストラクター責務」と呼ばれるものに縛られている人たちがたくさんいます。

実はこれは「某協会所属インストラクター責務」の間違いで、ホントはAHAの規則でもなんでもないのですが、AHAの内規であるPAMを読んだことのない人たちはAHAの国際基準ではそうなっていると信じているようです。(⇒ 『AHAインストラクター責務に関する誤解』

さて、その俗に言う「AHAインストラクター責務」(あくまでもカッコ付きですからね)の中身を読んでいくと、「AHAインストラクター」というのは非常に窮屈なものに描かれています。

・AHAインストラクターはBLS,ACLSの普及活動においてAHA BLS,ACLSコースで教えることを優先する。(中略)AHAコース以外で教える時に自分がAHAのインストラクターであると名乗ったり公示してはいけない。

・AHA BLS,ACLSコースで用いる試験問題、及びAHA BLS,ACLSコース運営のノウハウをNon-AHAコースに流用しない。

・インストラクターはAHAの教材を用い、AHAの治療方法、教育方法から逸脱してはならない。

・AHAインストラクターであることを名刺に印刷したり、他の広告媒体に用いてはならない。AHAの登録商標も用いてはならない。



各項目それぞれはひどく間違ったことが書かれているわけではないのですが、これらを総合して拡大解釈するといろいろおかしな話になってくるようです。

・自己紹介で自分がAHAインストラクターであると名乗ってはいけない(身分を明かしちゃいけない?)
・AHA以外のコースで心肺蘇生を教えてはいけない

落ち着いて読めば日本語のままでもそんな解釈にはならないハズなのですが、こうしたことがまことしやかに囁かれていて先輩から後輩に受け継がれているところもあるようです(トレーニングサイトによるのかも)。

ということで、せっかく晴れあるAHA-BLSインストラクター資格を取っても職場の誰にもそのことを言えず、ひっそりと所属トレーニングサイト内の活動だけを地道に行なっている人も少なくないとか。

身分を隠さなくちゃいけないなんて、まるで隠密行動をしている忍者か!? と突っ込みを入れたくなってしまうのですが、AHAの資格を取ったがゆえにAHAの中でしか活動できなくなってしまうというのは非常にバカバカしい話です。

せっかく公認インストラクターになったのなら、そのことをジャンジャン宣伝して、必要があれば勤務先の病院などでAED講習などをドンドン行なうべきです。それが世界のフラグシップであるAHAインストラクターの責務というべきものでしょう。

AHAで培った成人教育に則ったBLS教育手法を地元施設へ還元して、身近なところから啓蒙活動、BLS普及を行なうべきです。

もちろん著作権の問題はありますから、勝手にAHAのDVDを「上映」したり、テキストを私的な目的以外で使うのは問題視されます。しかし、AHAで学んだスキルをAHA以外で発揮してはいけないと言われる筋合いはありませんし、ECCの理念からしても、AHAインストラクターが社会で身をひそめていることは損失です。

これまでAHAのインストラクターであることを公言するようなホームページやブログが少なかったのも、そんな「AHAインストラクター責務」の誤解があったからなのかもしれません。

世界で誇れるAHAインストラクターであるなら、もっと声高に立場を明かして個人として活躍してほしい、そんな風に私は思います。

そういった意味で、私はこういう方を応援していきたいと思っています。

「RicoのBLSブログ♪」
 http://blsrico.blog118.fc2.com/
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2007年07月30日

AHAインストラクターになるには?

最近ちょこちょこと問い合わせを頂くので、AHAのインストラクターになるまでの流れについて少し書いてみようと思います。

結論から書きますと、2007年7月現在、AHA-BLSインストラクター資格を取るための正式な流れは次のようになります。

1.コアインストラクター Core Instructor コースを修了
2.BLSインストラクターコースを受講
3.「モニター」評価を受ける


1.コア・インストラクター
コア・インストラクターというのは去年あたりから導入されたAHAの新しい制度で、2006年10月1日以降に、新しくAHAインストラクター(Haersaver、BLS、ACLS、PALS)になる人は、このコア・インストラクター講習を受けて修了証を持っていなければならないことになっています。

新規にインストラクターになる人はもちろんですが、以前からインストラクター資格を持っている人も、ACLSインストラクターやPALSインストラクターなど他のAHA資格を取る際にはこのコアインストラクターの認定が必須とされています。

その他、地域ファカルティとトレーニングセンター・ファカルティは2007年6月30日までにこのコアインストラクター・コースを修了していなければなりません。



このコアインストラクター・コースは、成人教育の手法を学ぶ教育プログラムで、心肺蘇生に関係ない部分でも、例えば職場の新人指導などにもかなり役立つとても良い内容になってます。もともとIBSTPIという教育関係の国際組織が作った教育プログラムのライセンスを受けて作成されたものなんだそうです。

コースの具体的な内容については、このブログの過去記事で取り上げたことがありますので、そちらをご覧下さい。かなりユニークな内容で驚くと思いますよ。



「コア・インストラクター」という言い方、ちょっと誤解を招く名称かもしれません。聞くところによると、インストラクターの中でも中心的な(コアな)人たちが受講するもので、下々のヒラのインストラクターには関係ないと勘違いされている方もいるそうです。

ここでいうcoreという言葉は、「人に物事を指導する上で"核"となる基本的な事柄」という意味のコアです。ですからハートセイバーであろうとBLSであろうとACLSであろうと、人にモノを教えるインストラクターであれば誰もが知っていなければならない内容です。

本当は既得を含めてすべてのAHAインストラクターに受講を義務づけたかったようですけど、費用や時間の問題から強制もできず、上記のような感じに受講義務を定めたようです。でも、既得であっても意識が高いインストラクターであればきっと自主的に受講するはず、ですよね(笑)

2.BLSインストラクターコース
ここでは、具体的にAHA-BLSインストラクターに求められている役割についてや、コースの準備・進め方の講義・練習、トレーニングセンターに提出する書類の書き方などを教わる1日のコースです。

主に座学で、一部インストラクションの実技練習が入ります。ガイドライン2000のときは修了試験があって合格基準はちょっと厳し目だったと聞きますが、いま行なわれているガイドライン2005のBLSインストラクターコースには実技試験も筆記試験もありません。一日コースを受講すればおしまい。

ただし、それだけでインストラクター・カードが発行されるわけではありません。

3.モニター
インストラクター・コースを修了したあとに待っているのが、「モニター」と呼ばれる実地試験です。これは後日、正式なヘルスケアプロバイダーコースが行なわれる際に、ホンモノの受講生の前で実際に指導を行なうというもの。その様子をファカルティーやリードインストラクターといった上官がチェックして、インストラクターとして認めて良いかを判断するシステムになっています。

このモニターに合格すると、はじめてAHA-BLSインストラクターとして認定されます。1回ですんなり通る人もいれば、何回かモニターを受けてようやく認定される人も。それはその人の技量とモニターする上官およびトレーニングセンターの意向というか、さじ加減、ってなわけです。


これが2007年現在のAHA基準に基づく基本的なインストラクター取得までの流れです。

AHAインストラクターになりたいと思ってインターネット検索をすると、おそらく某協会本部のページに辿り着くと思います。で、そこに書かれている内容とはちょっと違うのでおやっと思った方も多いかもしれません。

某協会のウェブに書かれているのはガイドライン2000時代の古い内容です。コアインストラクター・コースのことも一切載っていないし、インストラクター・コースでは筆記試験はもうなくなっているし、、、

ということで、古い内容&協会独自のローカルルールも多分に含まれていますのでご注意を!

少なくとも、新しくAHAのインストラクターになる人は、どこの所属であろうとコアインストラクター認定は取らなくちゃいけないのは事実。おそらく某協会さんもやってはいるんでしょうけど、公式ウェブからはそのあたりのことは読みとれないのが現状です。

その他、ちょっと気になった点をふたつばかり。

「タスク参加はしなくていいの?」

AHAの基準では何も書かれていません。PAMの中にはtask forceという表現は出てきますが、インストラクター認定とはなんの関係もない部分での話です。

現実問題、インストラクターの役割や実際の仕事、コースの進め方などの予備知識があった方が話がスムーズなので、プロバイダー資格取得後、コースの手伝いという形で見学に入るのはいいことだと思います。しかしインストラクターになるための絶対条件ではありません。これは各トレーニングセンター/トレーニングサイトがローカルルールとして勝手に決めているだけです。

「インストラクターポテンシャルって?」

この言葉もPAMの中に出てきますが、それほど重要な意味はないような気がします。別にインストラクターの条件という形で書かれているわけでもありませんし。

Instructor Potential: This term is used to describe an ECC Provider who has demonstrated exceptional Provider skills and has achieved a high score on the weitten examination. This Provider has leadership ability. (http://www.americanheart.org/downloadable/heart/1082066617425App%20F.pdf

少なくとも筆記試験で90%以上とは書かれていませんし、タスク参加で熱意を示すことみたいなことも書かれてないです。

良いとか悪いとかそういう話ではなく、原典であるAHAの規則ではこうなっていて、AHAの規則と思われている制度もモノによってはあくまでローカルルールなんですよというお話しでした。
posted by めっつぇんばーむ at 02:03 | Comment(11) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2007年06月17日

ITOインストラクター

英語の勉強を兼ねてアメリカ心臓協会の規約集 PAM ( AHA Program Administration Manual )をパラパラと眺めているのですが、そこで気になっているのが、本家本元のAHAインストラクターITOインストラクターの違いについてです。

ITOというのは International Training Organization の略で、

ITOs are entities that supervise and provide AHA training in countries outside the United States. (PAM p.13)

と定義されています。日本にあるAHAコースを開催する団体は基本的にこのITOに相当します。

AHAの本部だろうとITOだろうと、カード発行元がどこであっても、AHAのインストラクターには変わりないと思っていたのですが、PAMを読んでいると、ITOの場合は○○、みたいな例外事項の記載がけっこうあって、実は区別されているんだなと意外でした。

例えば、PAMの84ページからは、Reciprocity with Other Organizations ということで、他のCPR普及団体資格との互換性が書かれている部分があります。

American Red Cross(ARC:アメリカ赤十字)のインストラクター資格を持っていれば、オリエンテーションとモニターを受けることでAHAインストラクターにもなれますよ、みたいなことが書かれているのですが、その中のひとつとして International Training Organization Reciprocity が載っていたりします。

最初、これをみたとき、アレ? という感じでした。ITOであろうとAHAのトレーニングセンター(TC)のひとつと思っていたのですが、この扱いをみると、あくまで ITO は ARC などと同じで AHA とは「別組織」という位置づけなんだなぁと思った次第です。

本家本元のAHAインストラクターはアメリカ国内に留まらず、世界中どこでも教えることができるのに対して、ITOインストラクターは自国内が原則だったり、細かいところで違いがあるようです。

そうやって考えると、AHAインストラクターというのは、あくまで本家本元であるアメリカ国内のトレーニングセンター所属の人のことであって、日本のITOの下でインストラクターコースを修了した人たちはあくまでもITOインストラクターということで、別物と考えた方がすっきりするのかなと思いました。

アメリカで資格を取ったBLSインストラクターは、First Aidコース(ハートセイバー・ファーストエイドなど)を教えられるけど、日本で取得したBLSインストラクター資格では教えられないなど、同じライセンスのはずなのにいろいろ違いがあるのはなんなの?

そのあたりが気になって今 PAM を読み込んでいるのですが、まだイマイチよく分かっていません。(引き続き、調べてみるつもりでいますが、誰か詳しい人いたら教えてください!)

いずれにしても言えるのは、本当の意味でのAHAインストラクターは、アメリカのトレーニングサイト所属のいわゆる"USインストラクター"(日本にも少なからず存在しています)だけであり、日本でAHAインストラクターと思われている大半の人たちは制限付きのITOインストラクターであり、まったく同等であるとは限らないということ。

この辺の違いを認識しておくことが、今後の日本のAHA教育展開を理解する上で重要なキーポイントになるのかもしれません。


最後に少し補足ですが、一般受講生が手にするプロバイダー・レベルのカードに関してはITOが発行しようがアメリカのTCが発行しようがまったく同等で互換性が保証されていますので、受講生レベルではここに書いたようなことは一切気にしないで大丈夫です。
posted by めっつぇんばーむ at 00:51 | Comment(8) | TrackBack(0) | PAMを読み解く
2007年05月20日

「AHAインストラクター責務」に関する誤解

このブログを開設して以来、いくつか疑問の声が寄せられています。

『私が受けたAHAコースでは、AHAのインストラクターになっても自己紹介や名刺などにも記載しないように!と言われたけど・・・。』

AHAインストラクター責務の条項に触れるような内容にもとらえられます。どうぞ、書き込みの際には今一度ご確認の上、公表なされるようお願い致します。宜しくご協力のほどお願い致します。』(自称"AHA某関係者"さんより)

皆さん、日本ACLS協会の公式ウェブに載っている「AHAインストラクターの責務」に照らしてご指摘下さるようですが、、、、

でも、実はアレってアメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)の規則ではありません。誤解している人が多いんですが、正確に言うとあくまで「日本ACLS協会インストラクター」の責務なんですね。

よく勘違いされている点なんですが、日本ACLS協会とアメリカ心臓協会(AHA)は組織としてはまったく別物です。公式ウェブ上には「アメリカ心臓協会 日本支部」との表記が見られますが、意図的なのかなんなのか、、、、ウソ、いや間違いです。

◆ AHA教育プログラムへの勘違い

AHA教育プログラムは一種のフランチャイズで世界展開しています。言ってみれば学習塾でおなじみの「公文式」みたいなもの、といったらいいでしょうか。ダイビングのインストラクター制度とも似ているかもしれません。

ある程度の条件はありますが、AHAと契約すれば誰でもトレーニングセンター(ITO)が開設できる、というものなんです。そんなAHAと契約した団体が世界に約3000あって、日本ACLS協会はその数あるうちのひとつに過ぎません。

今現在、日本には日本ACLS協会の他、3つの団体がITO(International Training Organization)としてAHAと正式契約しています。ですので日本ACLS協会がアメリカ心臓協会日本支部と名乗るとのはちょっとマズイのでは?と思います。

そもそもITOは、修了カードを発行するライセンス契約しているだけですから、本部、支部などとは本質的に意味が違います。それに、AHAとはアメリカ循環器医学会のようなものですから、なにも心肺蘇生のことばかりをやってる団体じゃありません。AHA日本支部であるならAHA正規会員へのフォローや入会手続きをやっていてしかるべきですが、そんな業務は一切行なっていません。あまりにお粗末な誇大広告と言われても言い訳の余地はないと思うのですが...


さて、気を取り直してさきほどの日本ACLS協会インストラクター規約の話に戻りますが、例えば、

2. AHAインストラクターはJapan ITOトレーニングセンター、またはトレーニングサイトに所属する。(以下省略)

これは「AHAインストラクター」を主語にしてしまうと決定的に間違いですね。Japan ITOというのは、日本ACLS協会がアメリカのAHA本部に届け出ている登録名のようですが、これじゃ、まるでAHAインストラクターはみんなJapan ITO (日本ACLS協会)に所属しなくちゃいけないみたいな誤解を与える文章ですよね。でも実際そんなことはありません。
(このJAPAN ITOという言葉、よくよく調べてみたら日本ACLS協会の登録名でもなんでもないことが判明しました。日本ACLS協会の登録名は Japan ACLS association international Training Center、略して JAA-ITC と言います。JAPAN ITOって一体なんなんでしょう? 謎です。)

9.インストラクターとしての年間活動報告を日本ACLS協会へ提出する。

他の団体(ITO)に所属しているAHAインストラクターは、日本ACLS協会に届けを出す必要なんてありません。あたりまえですね。


ということで、ここでいったんまとめですが、「日本ACLS協会インストラクター」の責務を、= AHAインストラクター責務と誤解されていることが多いという点を指摘しておきたいと思います。

実際のところ、アメリカ本国のAHAの定める規則と内容的に一致している部分もありますが、このように日本ACLS協会のローカルルールとごっちゃまぜになっている部分があるので、読み手としては注意が必要です。

◆ 日本ACLS協会 ≠ AHA日本支部

このブログの中で何回も書いていますが、日本でAHA公式コースを開催できるのは、日本ACLS協会だけではありません。まずこの基本を押さえておかないと、今の日本の状勢は理解できないと思います。

以前からハワイのAMRトレーニングセンター所属の日本人インストラクターを中心とした"USカードグループ"がAHA公認のもと、日本国内で活動していました。それに2007年現在、合計4つの正式なAHAカードを発行できる団体(ITO:International Training Organization)が存在しています。日本ACLS協会は、世界中に3000あるAHAトレーニングセンターのひとつであり、日本の代表では決してありません。日本国内の4つのITO(日本小児集中治療研究会、日本循環器学会、日本ACLS協会、日本蘇生協議会)はすべて並列関係にあります。



そうした前提条件を確認させてもらった上で、「AHAインストラクター責務」具体的な問題に踏み込んでいきたいと思いますが、このブログに関してよく指摘されるのは、「ACLS協会インストラクター責務」でいうところの6番目や8番目あたりでしょうか?

6.(前略)AHAコース以外で教える時に自分がAHAのインストラクターであると名乗ったり公示してはいけない。

8.AHAインストラクターであることを名刺に印刷したり、他の広告媒体に用いてはならない。AHAの登録商標も用いてはならない。


これらの条文は確かに American Heart Association:AHA の公式コース運営マニュアルである Program Administration Manual(通称PAM)に書かれています。

AHA規約は基本的にすべてこの PAM に集約されています。PAMはウェブで一般公開されていて、インストラクターであれば基本的に目を通しておかないといけない、という位置づけのものです。AHAの運営に関してなにか疑問点があれば、PAM こそが参照すべき原著になります。ちなみにAHA関係者以外でも誰でもインターネットからアクセスできるようになっています。

◆ AHAインストラクターであることを名乗ってはいけない??

このブログ内で、私がAHAインストラクターであることを堂々と名乗っているあたりを問題視する方が多いのかなぁと思うのですが、、、

私自身はAHAの規則であるPAMの原文を読んだ上で、AHA規約に抵触はしていないと考えています。
(膨大な量の英文すべてを読み込んだわけではないので、見落としの可能性は否定しません。お気づきの点があればご指摘を!)

まず、6に関しては日本語のままでもわかると思います。「名乗ってはいけない」とはっきり書かれていますが、そのまえには限定詞がついてますよね。「AHAコース以外で教えるとき」という部分です。つまり、無条件に「名乗ってはいけない」と言ってるわけじゃないんです。ここポイントです。

アメリカでは心肺蘇生教育がビジネスとして確立しています。日本とは違って有料の心肺蘇生プログラムが星の数ほどあって、職業人としてのインストラクターがひしめき合っている状況です。中にはAHAのインストラクターでありながら、ARC(アメリカ赤十字)やMFA(メディックファーストエイド)のインストラクター資格を持っているという人もたくさんいます。これはそんなアメリカ事情を踏まえての条文です。

これらアメリカの普及活動は"ボランティア"ではなくビジネスです。商売と考えれば、商売敵が自社の名前を使うのはマズイでしょ、というのは当然ですよね。PAMの条文はそんなビジネスとしての職業倫理と考えると理解しやすいと思います。

まあ、最近、日本でもICLSインストラクターを兼任しているという人も多くなってきていると思います。ICLSの場合は営利はほとんど関係ないので、あまり気にしなくていいのかもしれませんが、AHAとICLSでは、手技やプロトコルに若干違いがありますので、どちらのやり方でいくのか、という点をはっきりさせる意味でも不用意に別組織の名前は出さないというのは重要かもしれません。あくまでそれぞれの立場をわきまえなさいということですね。

8.に関しても、同じようにビジネスベースで考えた場合の条項ですので、今の日本ではあまり重い意味はありません。AHAインストラクターの立場を利用して特定のAEDを推奨・販売したり、ビジネスに悪用してはいけませんよという意味と考えるのが妥当です。

日本ACLS協会の訳では「名刺」に印刷しちゃダメとされていますが、この部分のPAM原文はこんな感じです。

Instructors and ECC leadership may not use their AHA Instructor title on business cards or other adviertising materials.
(AHA Program Administration Manual, p.119)


名刺という単語は原文では business card という語が使われている点に注目してください。アメリカでは仕事用のカードは business card といいますが、私的な集まりなどで渡す個人的な名刺は calling card と言って区別しています。

日本語にすると「名刺」すべてがダメというように受け取れてしまいますが、AHAが言っているのは職業上の名刺、ビジネス・カードはダメという点だけです。ですのでコーリング・カードは no problem です。

例えばAEDメーカーの営業マンが会社の名刺(business card)に「AHAインストラクター」と載せるのはマズイですけど、個人用にパソコンなどで作った名刺に"AHA-BLSインストラクター"と載せることはAHAインストラクター責務の規約上はまったく問題ありません。

どこからがNGかというと、先ほどの条文には"business
cards or other adviertising materials"と書かれていることに着目しつつ、AHAのインストラクションはビジネスであるというアメリカ事情を考えれば、、、わかりますよね。

そもそも名刺の使われ方は日本とアメリカでも文化的に違います。
日本のように自己紹介として気軽に交換されるものではなく、どちらかというとアドバタイズメントの意味合いが大きいです。言ってみれば、自社の広告チラシを配るような感覚でしょうか。

再三AHAのビデオ教材の中でも言っているようにAHAの名前を他の営利目的の「宣伝」に「利用」しなければ問題ないんじゃないでしょうか。

もしAHAインストラクターを専業でやっていこうとしたら、日本社会の中では、「AHA-BLSインストラクター ○○ ○○」として名刺を作ることは必要になってくるでしょうし。

おそらく日本社会で、このbusiness card条項が問題になるケースはほとんどないんじゃないでしょうか。

今の日本で信じられている自分がAHAインストラクターであることを名乗ってはいけないという無条件な自主規制(?)はきわめてナンセンスです。

と、まあ以上のことで言いたいのは、アメリカのファーストエイド・ビジネスの実状の理解なしにPAM条文の直訳のみが日本で一人歩きして、ストイックな雰囲気が作られていることへの疑問です。

AHAインストラクター資格を取っても、そのことはひた隠しにしなくちゃいけないようなものなんでしょうか? 堂々と誇っていいことじゃないの? アメリカでのビジネスとしての倫理規定をそのまま杓子定規に当てはめるのは不自然だし、非現実的。

そんな現状への疑問を感じていますので、私は敢えて「AHA-BLSインストラクター日記」というある意味挑戦的なブログタイトルにしてみました。


AHAの登録商標を使ってはいけないという条文もありますが、これはあのAHAのロゴマークのことを言っています。このブログではAHAのロゴが入ったバッジの写真を載せていますが、ロゴを無断使用したというよりは、市販商品の写真を載せているだけです。でも、まあ、これが問題だという正式なクレームが入ればすぐに変更するつもりです。

今後、なにか疑問点がある人は、下手に日本語訳されてローカルルールとごちゃ混ぜにされた情報ソースに頼るのではなく、原典である Program Administration Manual:PAM を参照してみてください。それでもなお疑問がある方は、どうぞご連絡ください。
posted by めっつぇんばーむ at 17:50 | Comment(13) | TrackBack(0) | PAMを読み解く