このブログを開設して以来、いくつか疑問の声が寄せられています。
『私が受けたAHAコースでは、AHAのインストラクターになっても自己紹介や名刺などにも記載しないように!と言われたけど・・・。』『AHAインストラクター責務の条項に触れるような内容にもとらえられます。どうぞ、書き込みの際には今一度ご確認の上、公表なされるようお願い致します。宜しくご協力のほどお願い致します。』(自称"AHA某関係者"さんより)皆さん、日本ACLS協会の公式ウェブに載っている「
AHAインストラクターの責務」に照らしてご指摘下さるようですが、、、、
でも、実はアレって
アメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)の規則ではありません。誤解している人が多いんですが、正確に言うとあくまで「
日本ACLS協会インストラクター」の責務なんですね。
よく勘違いされている点なんですが、日本ACLS協会とアメリカ心臓協会(AHA)は組織としてはまったく
別物です。公式ウェブ上には「アメリカ心臓協会 日本支部」との表記が見られますが、意図的なのかなんなのか、、、、
ウソ、いや間違いです。
◆ AHA教育プログラムへの勘違い
AHA教育プログラムは一種のフランチャイズで世界展開しています。言ってみれば学習塾でおなじみの「公文式」みたいなもの、といったらいいでしょうか。ダイビングのインストラクター制度とも似ているかもしれません。
ある程度の条件はありますが、AHAと契約すれば誰でもトレーニングセンター(ITO)が開設できる、というものなんです。そんなAHAと契約した団体が世界に約3000あって、日本ACLS協会はその数あるうちのひとつに過ぎません。
今現在、日本には日本ACLS協会の他、3つの団体がITO(International Training Organization)としてAHAと正式契約しています。ですので日本ACLS協会がアメリカ心臓協会日本支部と名乗るとのはちょっとマズイのでは?と思います。
そもそもITOは、修了カードを発行するライセンス契約しているだけですから、本部、支部などとは本質的に意味が違います。それに、AHAとはアメリカ循環器医学会のようなものですから、なにも心肺蘇生のことばかりをやってる団体じゃありません。AHA日本支部であるならAHA正規会員へのフォローや入会手続きをやっていてしかるべきですが、そんな業務は一切行なっていません。あまりにお粗末な誇大広告と言われても言い訳の余地はないと思うのですが...
さて、気を取り直してさきほどの日本ACLS協会インストラクター規約の話に戻りますが、例えば、
2. AHAインストラクターはJapan ITOトレーニングセンター、またはトレーニングサイトに所属する。(以下省略)これは「AHAインストラクター」を主語にしてしまうと決定的に間違いですね。Japan ITOというのは、日本ACLS協会がアメリカのAHA本部に届け出ている登録名のようですが、これじゃ、まるでAHAインストラクターはみんなJapan ITO (日本ACLS協会)に所属しなくちゃいけないみたいな誤解を与える文章ですよね。でも実際そんなことはありません。
(このJAPAN ITOという言葉、よくよく調べてみたら
日本ACLS協会の登録名でもなんでもないことが判明しました。日本ACLS協会の登録名は Japan ACLS association international Training Center、略して JAA-ITC と言います。JAPAN ITOって一体なんなんでしょう? 謎です。)
9.インストラクターとしての年間活動報告を日本ACLS協会へ提出する。他の団体(ITO)に所属しているAHAインストラクターは、日本ACLS協会に届けを出す必要なんてありません。あたりまえですね。
ということで、ここでいったんまとめですが、「日本ACLS協会
インストラクター」の責務を、= AHAインストラクター責務と誤解されていることが多いという点を指摘しておきたいと思います。
実際のところ、アメリカ本国のAHAの定める規則と内容的に一致している部分もありますが、このように日本ACLS協会のローカルルールとごっちゃまぜになっている部分があるので、読み手としては注意が必要です。
◆ 日本ACLS協会 ≠ AHA日本支部
このブログの中で何回も書いていますが、日本でAHA公式コースを開催できるのは、日本ACLS協会だけではありません。まずこの基本を押さえておかないと、今の日本の状勢は理解できないと思います。
以前からハワイのAMRトレーニングセンター所属の日本人インストラクターを中心とした"USカードグループ"がAHA公認のもと、日本国内で活動していました。それに2007年現在、合計4つの正式なAHAカードを発行できる団体(ITO:International Training Organization)が存在しています。日本ACLS協会は、世界中に3000あるAHAトレーニングセンターのひとつであり、日本の代表では決してありません。日本国内の4つのITO(日本小児集中治療研究会、日本循環器学会、日本ACLS協会、日本蘇生協議会)はすべて並列関係にあります。
そうした前提条件を確認させてもらった上で、「
AHAインストラクター責務」具体的な問題に踏み込んでいきたいと思いますが、このブログに関してよく指摘されるのは、「ACLS協会インストラクター責務」でいうところの6番目や8番目あたりでしょうか?
6.(前略)AHAコース以外で教える時に自分がAHAのインストラクターであると名乗ったり公示してはいけない。
8.AHAインストラクターであることを名刺に印刷したり、他の広告媒体に用いてはならない。AHAの登録商標も用いてはならない。これらの条文は確かに American Heart Association:AHA の公式コース運営マニュアルである Program Administration Manual(通称PAM)に書かれています。
AHA規約は基本的にすべてこの PAM に集約されています。PAMは
ウェブで一般公開されていて、インストラクターであれば基本的に目を通しておかないといけない、という位置づけのものです。AHAの運営に関してなにか疑問点があれば、PAM こそが参照すべき原著になります。ちなみにAHA関係者以外でも誰でもインターネットからアクセスできるようになっています。
◆ AHAインストラクターであることを名乗ってはいけない??
このブログ内で、私がAHAインストラクターであることを堂々と名乗っているあたりを問題視する方が多いのかなぁと思うのですが、、、
私自身はAHAの規則であるPAMの原文を読んだ上で、
AHA規約に抵触はしていないと考えています。
(膨大な量の英文すべてを読み込んだわけではないので、見落としの可能性は否定しません。お気づきの点があればご指摘を!)
まず、6に関しては日本語のままでもわかると思います。「名乗ってはいけない」とはっきり書かれていますが、そのまえには限定詞がついてますよね。「AHAコース以外で教えるとき」という部分です。つまり、無条件に「名乗ってはいけない」と言ってるわけじゃないんです。ここポイントです。
アメリカでは心肺蘇生教育がビジネスとして確立しています。日本とは違って有料の心肺蘇生プログラムが星の数ほどあって、職業人としてのインストラクターがひしめき合っている状況です。中にはAHAのインストラクターでありながら、ARC(アメリカ赤十字)やMFA(メディックファーストエイド)のインストラクター資格を持っているという人もたくさんいます。これはそんなアメリカ事情を踏まえての条文です。
これらアメリカの普及活動は"ボランティア"ではなくビジネスです。商売と考えれば、商売敵が自社の名前を使うのはマズイでしょ、というのは当然ですよね。PAMの条文はそんなビジネスとしての職業倫理と考えると理解しやすいと思います。
まあ、最近、日本でもICLSインストラクターを兼任しているという人も多くなってきていると思います。ICLSの場合は営利はほとんど関係ないので、あまり気にしなくていいのかもしれませんが、AHAとICLSでは、手技やプロトコルに若干違いがありますので、どちらのやり方でいくのか、という点をはっきりさせる意味でも不用意に別組織の名前は出さないというのは重要かもしれません。あくまでそれぞれの立場をわきまえなさいということですね。
8.に関しても、同じようにビジネスベースで考えた場合の条項ですので、今の日本ではあまり重い意味はありません。AHAインストラクターの立場を利用して特定のAEDを推奨・販売したり、ビジネスに悪用してはいけませんよという意味と考えるのが妥当です。
日本ACLS協会の訳では「名刺」に印刷しちゃダメとされていますが、この部分のPAM原文はこんな感じです。
Instructors and ECC leadership may not use their AHA Instructor title on business cards or other adviertising materials.(AHA Program Administration Manual, p.119)
名刺という単語は原文では business card という語が使われている点に注目してください。アメリカでは仕事用のカードは business card といいますが、私的な集まりなどで渡す個人的な名刺は calling card と言って区別しています。
日本語にすると「名刺」すべてがダメというように受け取れてしまいますが、AHAが言っているのは職業上の名刺、ビジネス・カードはダメという点だけです。ですのでコーリング・カードは no problem です。
例えばAEDメーカーの営業マンが会社の名刺(business card)に「AHAインストラクター」と載せるのはマズイですけど、個人用にパソコンなどで作った名刺に"AHA-BLSインストラクター"と載せることはAHAインストラクター責務の規約上はまったく問題ありません。
どこからがNGかというと、先ほどの条文には"business
cards or other adviertising materials"と書かれていることに着目しつつ、AHAのインストラクションはビジネスであるというアメリカ事情を考えれば、、、わかりますよね。
そもそも名刺の使われ方は日本とアメリカでも文化的に違います。
日本のように自己紹介として気軽に交換されるものではなく、どちらかというとアドバタイズメントの意味合いが大きいです。言ってみれば、自社の広告チラシを配るような感覚でしょうか。
再三AHAのビデオ教材の中でも言っているようにAHAの名前を他の営利目的の「宣伝」に「利用」しなければ問題ないんじゃないでしょうか。
もしAHAインストラクターを専業でやっていこうとしたら、日本社会の中では、「AHA-BLSインストラクター ○○ ○○」として名刺を作ることは必要になってくるでしょうし。
おそらく日本社会で、このbusiness card条項が問題になるケースはほとんどないんじゃないでしょうか。
今の日本で信じられている自分がAHAインストラクターであることを名乗ってはいけないという無条件な自主規制(?)はきわめてナンセンスです。
と、まあ以上のことで言いたいのは、アメリカのファーストエイド・ビジネスの実状の理解なしにPAM条文の直訳のみが日本で一人歩きして、ストイックな雰囲気が作られていることへの疑問です。
AHAインストラクター資格を取っても、そのことはひた隠しにしなくちゃいけないようなものなんでしょうか? 堂々と誇っていいことじゃないの? アメリカでのビジネスとしての倫理規定をそのまま杓子定規に当てはめるのは不自然だし、非現実的。
そんな現状への疑問を感じていますので、私は敢えて「
AHA-BLSインストラクター日記」というある意味挑戦的なブログタイトルにしてみました。
AHAの登録商標を使ってはいけないという条文もありますが、これはあのAHAのロゴマークのことを言っています。このブログではAHAのロゴが入ったバッジの写真を載せていますが、ロゴを無断使用したというよりは、市販商品の写真を載せているだけです。でも、まあ、これが問題だという正式なクレームが入ればすぐに変更するつもりです。
今後、なにか疑問点がある人は、下手に日本語訳されてローカルルールとごちゃ混ぜにされた情報ソースに頼るのではなく、原典である
Program Administration Manual:PAM を参照してみてください。それでもなお疑問がある方は、どうぞご連絡ください。