(詳しい解説はこちらに載ってます⇒『両手だけのCPR(Hands-Only CPR)』 by 岡山BLS)
日本でも一部新聞報道されたり、業界ではいろいろな意見が出はじめています。
昨日聞いた情報では、Hands only CPR の日本での展開について、日本蘇生協議会・ガイドライン策定小委員会の緊急会議が来週にも開かれるとか。
日本ではガイドライン2005の発表のときも、言葉の壁のせいか、相当出遅れました。2005年11月末に世界発表になったガイドライン2005を、日本が正式に批准したのは2007年6月。
日本ではガイドライン2005が始まってまだ1年経っていないんです。
そんな日本が、いまさらアメリカ水準のスピードで追いついていくのはムリがあるというか、、、、
次期ガイドライン2010に歩調を合わせるのを目標に、いまあれこれ準備を進めていた段階ですので、英断的な動きはないんじゃないのかなと私自身は感じています。
それに今回のAHA(米心臓協会)の発表に関しては、ヨーロッパ蘇生協議会 ERC が否定的な意見をプレスリリースしてますし、慎重にならざるをえない部分もあるでしょう。
◆ 実はいまさら、という話!?
とは言いつつ、今回AHA発表の Hands only CPR は、現行の日本版ガイドラインと照らし合わせても、実質的には整合性でほとんど問題ないのでは? と思います。これはどこのガイドラインでもそうですけど、感染防護具がない場合や、心理的抵抗がある場合は人工呼吸は省略可と明記されています。
で、バイスタンダーCPRを考えれば、ふつうの人はポケットマスクやフェイスシールドなんて持っているわけないのですから、最初から人工呼吸は省略されるのが前提、とも言えます。
だったら、人工呼吸なんてスパッと切り捨てて最初から教えない方がいいんじゃない?
と思いません?
つまり、いまさらあえて Hands only CPR をアピールしなくても、これまでだって現場でのバイスタンダーCPRは結果的に Hands only CPR だった、のではないでしょうか。
であるなら、市民向けの初心者講習会で人工呼吸を教えることは、かえってCPRを複雑化、「イヤだなぁ、できるかなぁ」と思わせる要因以外になにかメリットがあったのか、、、とまで言ったらいいすぎでしょうか?
◆ BLSを3段階に区別して考えると
以前から指摘していた点ですが、日本では社会的立場によって求められるCPRスキルの水準が異なるという意識が希薄です。医療従事者教育なのに、市民向け講習プログラムが平気で組み込まれているなんてことはザラですし、逆に言えば、心肺蘇生法はプロもアマもごっちゃになっていて、アマチュア向けの中でも立場の違いゆえのレベル分けが一切考えられていません。
具体的に言えば、プールの監視員バイトをする人と、ちょっと勉強してみようかなというサラリーマンとでは、教える内容はぜんぜん違っているはずなのに、画一的なプログラムしか存在しない。(基礎コース、上級コースみたいな分け方はありますが、急病への対処など付加的なファーストエイドの含まれるかどうかだけで、心肺蘇生法に違いはありません)
結局、この部分だと思うんです。
これまでBLSとしてひとつの階層だったCPR技術レベルを3つのレイヤーにわけて考えるとすっきりするのではないではないでしょうか。
第一レイヤー:社会人としての常識レベル=倒れた人を見たら119番、そして胸を強く速く押す
第二レイヤー:積極的にCPRを勉強した市民レベル=意識・呼吸の評価、可能であれば人工呼吸、胸骨圧迫、AED
第三レイヤー:ヘルスケアプロバイダー=意識・呼吸・循環の評価、質の高いCPRと迅速なAED
地域の救命率を上げるのは、病院内の医療従事者がいくらがんばってもダメ。
必要なのは町中の現場でCPRに着手できる人がひとりでも多くいることに意味があります。つまり上記でいうなら第一レイヤーの育成です。
ただ教育体制としては第二レイヤーレベルしか存在しなかったため、圧倒的多数の第一レイヤー層の人たちにはオーバースペック。教わっても、できるかなぁという不安要素を払拭できずに終ってしまい、ガイドラインもあいまいな表記でお茶を濁していたため適切に後押しできるインストラクターもいなかった。
人工呼吸を省略したら人工呼吸が必須な対象(小児、溺水、窒息、卒倒から時間経過している場合)に対応できないからふさわしくないという意見は、ずいぶん議論されるところですが、結局は頻度と確率とベネフィットの問題なんですよね。
一般市民が溺水者に遭遇する確率と、町中で突然の心停止に遭遇する確率、どっちが高いか?
これまでのガイドライン改定だってそうでした。
小児のふたり法CPRが15:2で以前とかわらないのに、ひとり法では30:2に改められたというのは集団を考えた疫学的な判断であって、目の前のたったひとりの命を考えたら、もしかしたらガイドライン2000のやり方の方が助かる可能性は高いかも知れません。
手順を複雑で現場で混乱して手出しが遅れることを避けるために、医学的なサイエンスより教育効果的なサイエンスを重視した結果です。
書いているうちに話があっち飛びこっちとびでややこしくなってきてしまいましたが、結論は、Hands-Only CPRは決して目新しいものではなくガイドライン2005の範疇に含まれる内容であるという点、さらにはガイドラインが提示する理想と現実のギャップを埋めるものであり、BLSを3つのレイヤーに区別して考えることで、教える方も教わる方もモヤモヤ感がなくすっきりとするのでは?
ということで、私としては大歓迎! です。
個人的には私はこれまでもずっと胸骨圧迫だけのCPRを指導してきました。
ここでも何度か書いていますが、私は去年8月くらいから病院職員向けのBLS普及プログラム作りを担当していて、そこではガイドライン2005に基づいて人工呼吸を省略したCPRを教えてきました。(当時はまだSOS-KANTOの論文は出てませんし、AHAとERCの英文ガイドラインだよりの策定作業でした)
最近の病院内のCPR教育の取り組みに関する論文を見ると、こうしたケースが非常に増えてきています。今回のAHA勧告ではあくまで病院外で、ということになっていますが、まずは全体の最低限の底上げ策として悪くない方法だと思っています。
J-PULSE(Jパルス)のような公的資金援助で胸骨圧迫のみのCPRを普及推進していた団体もあるわけですし、日本ではHands only CPRは決して目新しいものではありません。
ということで、オチはありませんが、いったん本稿を締めたいと思います。
他に日本語訳をしている人はいないのでしょうか?ちょっと恥ずかしいですね。
確かに胸を押すだけのCPRは今の日本のガイドラインでも可能ですね。早く日本でもこれに対する見解を出してもらえると良いですね。
とても有用な記事でしたので、、、
いま、アメリカではテレビCMなども含めて大々的にキャンペーンをやっているようです。
AHAインストラクターのもとには問い合せや取材がいくだろうから、、、ということで、今回の異例のインストへダイレクトな通達がなされたみたいですね。
「すべてのAHA-BLSコースで、 Hands only CPR を盛り込んでいます」なんて一般向けパンフレットで言い切っちゃってますから、AHAインストラクターはサイエンスを含めて知っていなくちゃマズイのでしょう。
言葉の壁で日本ではそこまで白熱していませんが、日本のAHAインストラクターはこのことをきちんと知っているのか、ちょっと不安です。
Kimさんのところでは、レッスンマップの追加、対応してますか?
岡山の久我です。お久しぶりです。いつも活発な活動に脱帽しています。
AHA岡山BLSのホームページ『両手だけのCPR(Hands-Only CPR)』をリンクしていただき誠にありがとうございます。また、AHAコース開催団体の所にもリンクしていただき、重ね重ねありがとうございます。
この資料とFAQの和訳は私が独自にさせていただきましたが、私より先に、福井BLSのmimimi先生がFAQの和訳をされています。
http://www.fukui-bls.com/hands-only-cpr.html
mimimi先生はAMRについての私の先生ですので、こちらの和訳の方がすぐれていると思います。AHAのBLS-HCPのビデオがまだ英語で、国内の総てのトレーニングサイトが英語のまま使っているときに、mimimi先生は、唯一、ビデオに日本語字幕を入れてコースをされていました。また、だれもしていない他のAHAの教科書も和訳されており、AHAのECC教育において国内で優れた仕事をされておられます。
Hands-Only CPRの日本語版は公式なものが出ていませんので、岡山BLSのものはあくまで暫定版です。
FAQの中に書かれていますが、AHAはG2005の時と今回の勧告で呼び方を
変えています。
・G2005ガイドライン Compression Only CPR (胸骨圧迫だけのCPR)
・今回のAHAの勧告 Hands-Only CPR (両手だけのCPR)
蘇生に関する専門家とコミュニケーションの専門家が調査をして、一般の方にとってわかりやすい表現をめざしたとのことです。確かに「胸骨」と言われると、専門用語であり、通常使う日本語ではないので、親しみがないかもしれません。私は、「手だけのCPR」「両手のみのCPR」「両手だけのCPR」と幾つか考えてみて、「両手だけのCPR」としました。CPRを「心肺蘇生法」としなかったのは、例えばAEDを「自動体外式除細動器」とは言わず、通常「AED」と言っています。こちらの方が言いやすいからだと思ますが、CPRについても同じ理由からです。
3月末にコースが終わって、今回の新しい勧告がでたので、次回のコースに対応させるため準備に非常に時間がかかりました。AHAからインストラクター向けに出ている8つの資料とにらめっこしながら、FAQを翻訳しました。しかし自分でやると非常に身についたように思えました。昨日、一昨日と、この「両手だけのCPR」を追加して、BLSヘルスケアプロバイダーコースをさせていただきました。
受講生には
@自分で作成したハンドアウト
AStudent Flyer
BFAQの和訳
の両面印刷8ページの資料を配布し、レッスンマップHCP-3aに従って、5分ほど説明しました。FAQは「帰って見てください」だけでしたが、一般市民の方にぜひ教えてくださいとお願いもしました。私としては、今回のAHAの勧告はすばらしいと思っています。めっつぇんばーむさんの言われた、「第一レイヤー」を普及させ、社会全体での蘇生率を上げるため、簡単なこの方法を広めていきたいと思っています。
私の住む地域では来月までBLSコースがありませんし、Hands-Only CPRがいつから講習に追加されるのかどうかは未定です。
どちらにしても、自信があれば通常のCPRを行いなさいとAHAが言っておりますので、通常のCPRをみんなが行えるように講習を行うのが良いのかな、、、と思っています。
以下のリンクを読むと、AHAとERCが逆の意見になったのかな、、、と思えてしまいますが、、、
http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/00/k3cprca.htm#04
最近お会いしていませんが、私がインストラクター駆け出しの頃は大変お世話になりました。
まだご連絡なしにリンクしてしまい申し訳ありませんでした。
和訳での用語、難しいですね。日本蘇生協議会あたりが正式な用語を定義してくれるといいのですが、とりあえず私は原語通りHnad-only CPRとしています。
AHAとしては、きっと覚えやすい語感も大事にしたと思うのですが、そこまで含めた和訳というと難しいですよね。語感を優先すると私的には「腕だけCPR」かなぁ、なんて思うのですが、どうもイマイチ。
この勧告以来、私はまだHCPコースは開催していません。
そのときに備えて資料作りをしなくては!
Kimさん、またまた興味深い情報をありがとうございます。
逆転という印象、私も感じています。