日本で活動しているインストラクターには、
インストラクター instructor
トレーニングセンター・ファカルティ Training Center Faculty
というふたつの資格(ステイタス)しか存在しないというのが前回の結論です。
今日は、とかく理解しにくいリードインストラクターとコースディレクターという言葉について少し掘り下げてみたいと思います。
今から書くことは、特に断りがなければ、BLSインストラクターに関する話としてご理解下さい。資格構造に関して、BLS部門とACLS/PALS部門では若干異なる部分がありますので。
◆ リードインストラクター/コースディレクター資格は廃止に
世間的な認識では、1.AHAインストラクターは一スタッフとして企画されたコースの中で指導することしかできない
2.リードインストラクターは指示を受けてコース運営を任されるが企画はできない
3.自由にコースを開くためにはコースディレクターに上りつめる必要がある
といった感じに理解されているようです。
もしかしたらずっと以前はこういうスタイルだったのかも知れませんが、少なくとも2004年以降は、BLSに関してはリードインストラクターとコースディレクターというAHA規約上の立場は廃止になっています。
じゃあ、誰がコースを企画・開催・指導できるのは誰かといえば、AHA規約上は「BLSインストラクター」としか書かれていません。
つまり、すべてのBLSインストラクターは、リードインストラクターであり、コースディレクターであるということ。言い方を変えれば、BLSインストラクターはACLSインストラクターとは違い、その資格だけで自己完結しているってこと。(まどろっこしい書き方でスミマセン)
ホンモノの除細動器や数百万円するマネキンを用意したりと、ACLSおよびPALSコースは準備が大変です。これらのコースはインストラクター数人がかりである程度の規模で開催されるのが前提になっているのかも知れませんが、方やBLSコースはとってもシンプル。
両手に持てるくらいの器材だけで、いつでもどこでも気軽にコース開催できます。それゆえにインストラクターひとりで、受講生4〜6名程度というのが基本単位。だから敢えてリードインストラクターとかコースディレクターだとか大がかりなことを言う必要がないんですね。
とにかくBLSコースとACLS/PALSコースは、構造がまったく別という事実は押えておきたいところです。
BLSコースはインストラクターひとりでの個人活動が基本と書きましたが、実際のところカード発行業務はトレーニングセンターのコーディネーターしか行えませんから、コーディネーター若しくはトレーニングセンター(TC)の責任者であるトレーニングセンター・ファカルティが単独コース開催を許可しているというのが前提になります。
このトレーニングセンター毎の許可基準が、例えばリードインストラクターとかコースディレクターと表現されていると理解すると良いと思います。ただしこれは、AHAの定める基準ではなく、トレーニングセンターが独自に決めた内規ということになります。
○○TCは、コースディレクターでないとコース企画ができないとしていても、◇◇TCでは、何回以上の経験を積めば誰でもコース企画をして良いよと言っているかもしれませんし、そもそもAHA規約通りにインストラクター資格さえ取れば、制限はなし、というところもあるかも知れません。(なにせ世界には3000のTCがありますから)
これがいちおうの結論なんですが、わかりにくいのは今でもAHA書類の中にリードインストラクターとかコースディレクターという言葉がチラホラと残っているところでしょう。
◆ 今に残るリードインストラクターという名称について
たとえばヘルスケアプロバイダーコースのロスター用紙 Roster、インストラクターがコース参加したときに名前を書くあの書類にもリードインストラクター Lead Instructor 名を記入する欄があります。この場合のリードインストラクター Lead Instructor というのは、ただその場限りの役割名です。これはBLSインストラクターマニュアルにはっきり書かれていますが、大がかりな講習会で複数のインストラクターが関わっている場合、誰が責任を持って書類管理を行なうか、という、このコースの責任者は誰かというだけの話です。(ふつうは、ここにリードインストラクターとして載せた人の名前で、プロバイダーカードが発行されることになっています。)
もし仮にトレーニングセンターからリードインストラクターとして認定されている人が何人か参加していたとしても、その全員がこの欄に名前を記入するというものではありません。
つまり、わかりにくいのは一見リードインストラクターというAHA資格があるかのようにも見えますが、そうではない、というところが落とし穴かも知れません。
よく見ればロスターのリードインストラクターのステイタス(資格)のチェック欄がありますが、ここに BLS Instr と BLS TCF/RF のふたつしかありませんよね。
つまりリードインストラクターをした人は、BLSインストラクターかそれともトレーニングセンター・ファカルティ/リージョナル・ファカルティのどっちかということです。これを見ても、普通のBLSインストラクターがリードインストラクターとして振る舞えるというのはわかると思います。
思いのほか長文になってしまい、ちょっと疲れてきてしまったのですが、最後にコースディレクターについて一言。これはACLS/PALSコースに関してのみ規定されたポジションです。BLSには関係ありません。
BLSのコース開催に必要なのは、上記のロスターを見てもわかるとおり、リードインストラクターがすべてであり、その要件はPAM原典上はBLSインストラクターの資格を持っていること、だけです。
◆ 個人活動でひろがるインストラクターとしての可能性
個々のBLSインストラクターに単独コース開催権を認めるかどうかは、トレーニングセンターの考え方次第です。受講生数十名を集めてやるような大がかりなコースでリードインストラクターを努めるにはそれなりの経験が必要で、多少きびしい審査も必要かも知れませんが、インストラクターひとりで数名の受講生を教えるだけであれば、さほどハードルが高いことではないのかも知れません。
適切なフィードバックができて、実技試験の評価ができて、DVDを適切なタイミングで停めて追加説明ができて、最後の書類整理ができて、、、
受講生2名程度のプライベート・コースであれば、できそうじゃありません?
本来、BLSインストラクターであれば、そうやってひとりでコース開催出来るものですが、そういう方向性で動いているトレーニングセンターは日本では非常に少ないのが現状です。
この辺も、これからは自分の活動スタイルに合わせて、所属トレーニングセンターを選ぶってことが重要になってくるのかも知れません。
地域によっては選択肢がない場合もありますが、多少無理してでも一度個人活動できる許可さえ取り付けてしまえば、日本全国どこにいってもコース開催(主催)できますので、近隣にAHA ECC拠点がない人ほど意味があることかも知れません。
あとは医療従事者なら自分の病院内の教育システムにAHA公式コースを取り入れるなんてことも可能になってきます。個人でマネキンを揃えるのは大変ですが、病院ならたいてい器材はそろっていますよね。
場合によっては病院としてトレーニングサイトのようなものを立ち上げることも可能ですし、病院組織としても職員募集の大きな切り札になりそうですね。
どうやら PAM 2008 を読むと、これからは日本のITOインストラクター資格でも外国で教えることできるようになるみたいですし、ますます可能性が広がってきます。
いくら経験を積んでも、トレーニングサイト単位の活動しか認めていないトレーニングセンターに所属していたら、いつまでもコマのひとつでしかありません。同じ経験を積むのでも、そのセンターの方針によって大違い。これからインストラクターを目指される人はそのあたりの情報もしっかり集めておいた方がいいかも知れません。
ちなみに、BLSインストラクターひとりが教えることができる受講生の数は、いちおう最大9名となっています。これはマネキン3体を使って、DVDの設定を3:1でやった場合。これは正直、キツイでしょうね。私は絶対やりません。
快適に教えられるのは2名もしくは4名までかなぁ。