PAMの最初の方のページ載っていた図をアレンジして作ってみたのですが、いかがでしょう?
アメリカ心臓協会(AHA)という組織は、もともとは日本循環器学会のようなアメリカ国内の学術団体です。その中にECC部門という心肺蘇生を専門に扱うセクションがあって、日頃いろいろな研究を行なっています。
その研究をもとに、心肺蘇生教育を実践していこうとして作られたのがAHA ECCトレーニングネットワークです。
本来はアメリカ国内のネットワークですが、日本をはじめ海外にも幅広く事業展開しています。
AHA ECCトレーニングネットワークの本部はアメリカのダラスにあって、事業を統括していますが、実際の講習会などの教育プログラム展開は「トレーニングセンター」という単位で行なうことになっています。
このトレーニングセンターは世界中に3000あると言われています。アメリカから見て海外に設置されたトレーニングセンター(TC)は、インターナショナル・トレーニングセンター(ITC)と呼ばれますが、中身はアメリカ国内とまったくおんなじです。
昔はITO (International Training Organization) という言い方をしていましたが、2008年版の新しいAHAコース運営マニュアル(PAM)では、その言い方は廃止されてITCという表記に統一されています。
注意が必要なのはAHAトレーニングセンターというのは、AHA ECC組織上のステイタス(立場)であって、団体名・法人名としてAHAの○○支部とか出張所というわけではないという点です。
つまりもともとの母体組織(民間企業、病院、地方自治体、軍隊、NPO法人、学会、etc.)があって、そこがAHAとライセンス契約してAHA ECC業務を行えるようになるという図式です。
日本の場合でいえば、例えば JCS-ITC というのは、法人名でいえば日本循環器学会ですし、JAA-ITCはNPO法人日本ACLS協会ということになります。
ある意味、近所の個人商店が、フランチャイズでコンビニエンスストアになったようなものです。◯ーソンの看板が掛かっているけど、中で働いている店長さんはまえとなにも変わっていないという、、、
決してAHAが直轄で日本に支部を開いているわけではない、ということを押えておいてほしいと思います。
さて、そうやってAHAと契約をしてライセンス発行できる組織が日本には4つあります。
・日本蘇生協議会国際トレーニングセンター(JRC-ITC) …BLS/ACLS
・日本ACLS協会国際トレーニングセンター(JAA-ITC) …BLS/ACLS
・日本循環器学会国際トレーニングセンター(JCS-ITC) …BLS/ACLS
・日本小児集中治療研究会国際トレーニングセンター(JSPICC PALS-ITC)…PALS
これらの組織がAHAとどんな契約をしているかによって、発行できるカードに違いがあります。
AHAのライセンスには、大きく分けてBLSとACLS、そしてPALSがあります。
上の3つの組織はBLSとACLSで登録申請していますので、ハートセイバーコースを含むBLSと成人の二次救命処置プログラムであるACLSのカードを発行することができます。今のところ、小児コースであるPALS(および最近できたPEARSコースを含む)の開催はできません。
もし今後、小児コースを開きたいと思ったら、既存の PALS ITC か、アメリカのPALSファカルティー(faculty)のもとに人を派遣して、PALSインストラクター資格を取らせて、さらには PALS Faculty のステイタスを持った人にまで育成した上で、AHAと契約をしなおす必要があります。
詳しいことはわかりませんが、日本ACLS協会国際トレーニングセンター傘下の 宮崎トレーニングサイト のホームページでは、サイト長さんが「AHA PALS TC Facultyを拝命!」(07.12.02付)と書かれています。
となると、JAAもPALSに参入なのかな? と思いますが、どうやってPALS TC Faculty育成にこぎ着けたのかは謎です。
4番目のJSPICC PALS-ITCは特殊で、もともとは小児の二次救命処置であるPALSの契約しかしていないようです。意外と知られていませんが、このPALS ITCが日本で最初のAHA公認国際トレーニングセンターということになります。
最後に忘れてはいけないのが、USカードグループの存在です。
これはアメリカのトレーニングセンター所属のAHAインストラクターたちの総称です。
日本のITCでインストラクターになった人たちは、日本国内での活動しか許可されていませんが、アメリカ(US)発行のインストラクターカードを持った人たちは、世界中で活動することが認められています。
日本に公式な国際トレーニングセンターができる以前から、AHAの教育システムに関心を持ってアメリカで資格をとって帰ってきた人たちがいました。そんな人たちは日本のITOとは別の流れで独自に講習を開いています。そんな人たちをUSカードグループと呼んでいます。
基本的には個人活動なので、誰も正確な人数は把握していませんが、私の知るかぎりUS-BLSインストラクター資格を持った人はかなりの数、存在しています。50〜100人くらいはいるのかなぁ。US-ACLSインストラクターは20人弱くらい? US-PALSインストラクターは1桁くらい、なはず。
USインストラクターは、ハートセイバー・ファーストエイドやハートセイバーCPRなど、日本のITOでは開催していないコースも手がけていて、本場アメリカの基準に則った活動をしているので、たいへん貴重な存在と言えます。
以上、日本のAHA教育シーンの全体像でした。
うちのサイトからも2名の医師が参加されました。
おそらく宮崎サイトのサイト長はその時にAHA PALS TC Facultyとなったのではないでしょうか?
昨年からJAAでのPALSコース開催の話は出ていましたが、PALSインストには現在のACLSインストの兼任ではなく、小児科医を中心に新しくPALSに特化したインストを育てることになっているということでした。
JSPICC PALS-ITCでのコース開催では開催回数が少ない・小児科に限定される・内容がAHAから外れているのでは?…といった批判があったとお聞きしていますが、そのへんのところはわたしにも詳しくはわからないんですけどね。
ウワサは聞いていましたが、本当に動き始めていたんですね!
海外からPALSファカルティーを招いてのプロジェクトだったんでしょうか?
いずれにしてもPALSの裾野が広がるのはいいことだと思います。PALSの一歩手前のPEARSコースも新設されたことですし、今後はナースにも小児救命処置を勉強する機会が増えるのかなと期待したいところです。
うちの近くのJAAサイトでPALSが開講されたら私も是非受けたいです。幸いJAAで取得したHCPカードの期限がまだ残っていますので、他団体所属という身分は隠してなに食わぬ顔で受講可能なはず(笑)
JSPICC PALS-ITCに関しては、あまり情報がなくて私も詳しい事情は知りません。ただJAA以上に手探りでやってきたところがあるので、いろいろ独自のやり方というのは持っているみたいですね。
相関図、昨日、突貫工事で作ってみたのですが、やっぱりミスがありました。
トレーングネットワーク、「ン」が抜けてました。それとUSカードグループへの破線がひとつのTCからではなく、複数のTCから引いておくべきでした。元気があったらいつかなおします(^^;
AHAの世界戦略はすごいですねぇ。さすがです。
軍、メーカーなどの世界戦略もそうですが、日々踊らされている自分がいます。
日本における普及体制もJAAの相当な努力によってブランド力、信用が出来たので、さらなる普及戦略をアメリカも考えているのでしょうかね?
ITC増強もその一環の様な気がします。世界の軍隊ならぬ世界のECCプログラムを目指している意図を感じますね。
一インストラクターには口出し出来ない世界のようなので、
日々市民救助者を増やすことに微力ながら力を注ぐのみです。
昨年の小児救急学会で成育医療センターのPALS Instructorが「PALSの受講者は増加傾向にあり、これからは充足する」という発表をしていたがいたので、思わず質問して突っ込んでしまいました。
彼らは本気でそう主張していました。
>開催回数が少ない
最近、漸く増えてきました。
詳しくはHPをご参照ください。
>小児科に限定される
昔はそうでした。
今では小児科医は半分くらいだそうです。
でも小児科医で持っている人はまだそんなに多くないです。
上記のInstructorはこれから増えると言っていましたが。
小児科医以外の受講は、ごく身内の人(例えば成育医療センターの看護師さんの一部)以外認められていないようです。
これも秋以降に日本のガイドラインに沿った医者以外用のコースを展開する予定だとお伺いした気がするのですが、今のところそういうコースが開かれたという話は聴いておりません。
>内容がAHAから外れているのでは?
外れている部分がそこそこあった気がします。
少なくともJAA, JCSよりは外れている内容を多く教えている、半ば日本のガイドラインに基づき教えている印象を受けました。
つっこみ出すときりがありません。
個人的には是非JAAやJCSなどでPALS provider courseを開いてもらい、ある程度競争した方がPALSが広まるためには良いと考えています。
そうなんですよね、AHAインストラクターたるもの、世界を視野に入れて物事を考えないといけないなと最近つくづく思います。日本国内の独自のシステムだけを考えていたら、AHAの組織や構造、戦略の意味は理解できません。そんな視野の広がりをこのブログで提供できたらなと思ってます。
> 一インストラクターには口出し出来ない世界のようなので、
いえいえ、そうでもないみたいですよ。聞くところによるとAHA本部自体は一般からの意見をかなりマジメに取り上げてくれる組織のようです。なにか思うところがあれば、アメリカダラスの本部に直接メール等入れると改善されるべき点は早急に動いてくれる感じみたい。
なまじ意見をとりまとめて日本の組織経由で上げるより、個人レベルの意見が本部にたくさん集まった方がインパクトが強いのかもしれません。
どういう経緯かわかりませんが、今回のPAMの改定で、「トレーニングセンターの移動は自由である」という点があちこちに盛り込まれているのは、日本の現状も多少関係しているのではないかなと私は勝手に信じています。
おぢさんさま
自己紹介、ありがとうございます!
どんな方なのかなと密かに気になっていましたが、すっきりしました。
PALSと関わりのある方だったんですね。
JSPICCでは、確か去年の秋くらいに、インストラクター数が一気に倍増
したんじゃなかったでしたっけ? それをもってこれからの充足を謳っているのかなという気がします。JSPICCのトレーニング拠点も4つほど増えるということが救急医学誌でも書かれていましたし。
JSPICC、発足当時はBLSの受講なしにいきなりPALSを受けさせていましたが、最近はHCP受講を義務づける方向に変わったみたいですね。PALSインストラクターはたくさん抱えているのに、BLSを教えられる人が少ない、というかそもそもBLS ITO格を持っていないというあたりが課題のような気がします。
PAMの規則に則るなら、必ずしもHCPコースを受講する必要はないので、PALSコース開始前にちょこっとBLSトレーニングを盛り込むとかで対応のしようもあるとは思うのですが、組織がそう決定したのですから、まあそういうものなのでしょう。
> 日本のガイドラインに沿った医者以外用のコースを展開する予定だとお伺いした気がするのですが、
これは私も期待していたのですが、完成前にAHAではほぼ同じコンセプトのPEARS Provider制度を発表してしまったので、今後PALS-ITOとしてはどうするのか興味があるところです。翻訳とかの手間とか自由度を考えれば、独自コースを展開するという道になるんでしょうけど、かなりのインパクトはあったんじゃないかなと思います。
>半ば日本のガイドラインに基づき教えている印象を受けました。
このあたりはJSPICCとしては、日本の現状をAHAに伝え、承認を得た上でアレンジや日本独自のものを加えていると説明していましたが、そうであったとしてもJAAがPALSをはじめると、完全なAHA基準に則る必要が出てきそうです。おっしゃるように競合があった方が日本社会全体のためには良さそうですね。
http://acls.jp/info/whatsnew.php
2008年度は一大PALSブームが起きそうな予感。