2007年12月16日

市民にとってのACLSプロバイダーコース

ここのところ、BLSのコースに参加すると、よくインストラクターの間でACLSの話題になります。

こんど受けようと思うんだけど、どんな感じだった? テスト難しい? そんな他愛もない話が中心なのですが、中にはちょっと答えに窮してしまう質問もあります。

「医療資格を持たない一般市民なんだけど、ACLSを受けておいた方がいいかな?」

単純に考えれば、医療現場に立つわけではない一般市民がACLSプロバイダーコースを受講する意味はありません。現実的に必要ないですし、受講にあたって勉強するのも並々ならぬ努力と苦労が必要ですから。

ですが、その質問をしてきたのは、市民とはいえ、AHA-BLSインストラクターとして活動している方。私の周りには市民でBLSインストラクターとして活躍している人がたくさんいます。くしくもほぼ同時期に同じ質問を3人の方からされてしまいました。

恐らく市民としてACLSプロバイダーコース受講体験をウェブで公開しているRicoさんのブログ記事「ACLSプロバイダー受講、取得」を読んでのことだったんでしょうね。


どう答えようかいろいろ悩んだのですが、私は結論としてこんなふうに考えました。

ブース・インストラクターとして、講習会の一スタッフとしてインストラクションに参加するだけだったら、ACLSまでは考えなくて良いかも。

ただ、リード・インストラクターとして自分ひとりでコース開催をするのであれば、ACLSコースを受講しておくのが望ましい。

さらに言えば、BLSインストラクターとして自己研鑽を続けていくと、BLSに続くACLSについても知りたくなってくるのでは?

AHAのコースは、AHAのやり方に則った手技を伝達をするのが基本的な役割。ですので、本来はBLSで扱う範囲のことがきっちりとわかっていれば問題ありません。突っ込んだ質問があれば、必ずしもその場で答える必要はありません。責任者であるリード・インストラクターやファカルティーに質問を振って、場合によっては後日回答してもいいわけですから。

そういった意味で医療のバックグラウンドがない人でも立派にインストラクターを努めることはできるわけですが、自分自身でコースを開催・運営しようと思ったら、BLSの周辺事情ということでACLSを知っているに越したことはありません。

特に指導する相手が医師の場合、病院の現場ではBLSとACLSが明確に線引きされているわけではなく、混在して業務が進んでいきます。そういった現場のドクターからの質問にはしばしばACLS範疇の質問が混ざってきます。

「それはBLSの範疇ではないので、今は置いておいて、、、」とでも言ってコースを進めていくのがコース進行上、正しいやり方ですが、インストラクターとしてキャパシティーを越えた質問が来た場合、精神的にちょっとダメージを受けるというか、インストラクターとしての自信に揺らぎが生じる可能性もあります。

ですから、医療従事者レベルのきっちりとした勉強は必要はないかも知れませんが、ACLSを含めた救命の全体像について多少なりとも知識があるに越したことはないと思うのです。

ACLSコースは受講料も決して安くありません。市販のテキストなどで自分で勉強するというのでもOKですが、もしACLSプロバイダー認定を取るということが、今後BLSインストラクターとして活動していく上での自信につながるのだったら、ぜひ受講しておいたらいいと思います。

きっとACLSを学ぶことで、全蘇生行程の中でいかにBLSが重要かという点がダイナミックに理解できるようになるはず。

内容的には日本救急医学会のICLSの方が、シンプルでわかりやすく、受講料も安くてお薦めなのですが、残念ながらAHAコースとは違って市民の参加が極めて難しい。といってもAHAにしてもたぶん市民のACLS参加はAMRとJRCしか認めていないと思うので、今のところ東京か福井、たまに鹿児島あたりでの開催しかないかも知れません。

ただ現時点で、医療資格を持たない人でACLSプロバイダー認定を持っている人って数えるくらいしかいないはずなので、希少性という意味でもがんばり甲斐はあるかもしれませんよ。

やっぱりそれなりに勉強は大変だと思います。いちばんのネックは心電図かなぁ。でも必要な波形は10個もないので、理屈はともかくパターン認識で覚えてしまえば十分対応可能。使う薬も4-5種類しかありませんしね。

ACLSプロバイダーマニュアル日本語版の発売が今月12月20日に決定したようです。まずはこれを手に入れて、事前課題になっているプレテストに目を通してみてください。そしてその答えが載っているページをマニュアルから探してその周辺を読んでいく。そんな勉強方法がお薦めです。

言葉とかわからない点が多々出てくると思うので、身近に教えてくれる人がいればよりよいのですが、独学でも不可能ではないレベルだと思います。(なんでしたらここの掲示板に相談下さってもいいですし)

今後BLSインストラクターとしてスキルアップを考えている人はぜひチャレンジしてほしいなと思っています。
posted by めっつぇんばーむ at 16:19 | Comment(9) | TrackBack(0) | AHA-BLSインストラクター
この記事へのコメント
医療従事者でない方でも、勉強したい時は勉強して頂くのが良いですね。

 ちなみに、JAAは医療従事者以外のACLS受講を制限していないですよ。私の所属するサイトは、ホームページ上に受講可能な人は医療従事者と書いていますが、非医療従事者であっても受講可能です。それでも受けたいと言うぐらいの意気込みでないと難しいですよね。

 私の所属サイトでは、BLSインストはACLS受講がほぼ必須となっています。

 マニュアルの日本語版嬉しい事ですね!
Posted by Kim at 2007年12月16日 17:26
またまたびっくりのご紹介?で嬉し恥ずかしです。。
ありがとうございます。

私の率直な感想は、非医療従事者と言えど、BLSインストラクターでしたら、ACLSは取っておいたほうが良いと感じます。
BLS受講中にも、何度も「その続き・・」のことに関して、特にお医者さま方は想定されながら受講されていらっしゃる・・という感想を受けたからです。

是非みなさまにがんばって頂きたいです。


>Kim先生

JAAでの制限はない・・と先生は書かれていらっしゃいますが、サイトに記載されている以上、受講希望は出しにくいのが現実かと思います。
・・・と申しますか出せません。
ACLSどころか・・BLSですら、一般市民はおろか看護師さんでさえ「受かるか不安・・こんな私でも大丈夫でしょうか・・」と某サイトでは質問が飛んでいます。
これが現実です。

それでも受けたいという意気込みでないと難しい・・確かに素晴らしいことだと思います。
でも、手を差し伸べられなければ、間違いなくその機会はやってこないでしょう。(あくまで一般市民には・・ですよ)
私も「受けてみろ!出来るから!大丈夫だから!」と引っ張りあげて、更に押し上げてくださるファカルティの先生方がいらしてくださらなければ、絶対自分から「受講させてください。」なんていえませんでした。

受講するまで「なんで?」ばっかりでした。
そのうち「なんで?」なんて考えていたら無理なのだと悟り、無心になってくらいつきてゆきました。

先生には何でもないことかもしれません。
でも一般市民には高すぎるハードルだということをしっかりと理解して頂けませんか?

本当に本当に非医療従事者をしっかりと指導、カード取得まで引っ張りあげることが出来そうであれば、ぜひサイトの書き換えを進言してください。JAAの受講申し込みがネットなのですから、まずはそこからだと思います。
私は指導側もとても覚悟がいると思いますよ。

えらそうなことを言って申し訳ありません。
Posted by Rico at 2007年12月17日 18:32
Kimさん、こんばんは。
Kimさんのところでは、BLSインストラクターは皆さんACLSも受講されているんですね。

AHAのインストラクターは皆さん、進取の気性があるというか、勉強熱心ですから、同じサイトでACLSも開講されているなら、恐らく誰もが自然とACLSへと目が向くものと思います。ただそれはインストラクターのほぼすべてが、医師・看護師・救急救命士といった本来の仕事の上でもACLSの知識が求められているという前提があるからではないでしょうか?

ある意味、ACLSを受けて当然、受けなければ「なぜ?」という目で見られる雰囲気があるとか。

日本での一般的な「常識」でいえば、ACLSプロバイダーコースの前提条件として市民は含まれていないと思います。それは受講生側でもそうですし、運営側としても想定していないのではないでしょうか?

自分が医師と肩を並べてACLSコースで学べるなんて考える市民は恐らく皆無でしょう。ましてや公式サイトであるウェブで医療従事者向けと書かれていたら。

もし本当に制限がないのだとしたら、ぜひその点は公式にアナウンスメントしてほしいなと思います。

ただ、OKですよという事実があったとしても、それが公式にメディアに載らなければ事実無根だと思うのです。私の身の周りにはAHA関係者、また日赤関係者など非常に志が高い市民の方がたくさんいます。今回取り上げた話のなかではAHA関係者のことしか書きませんでしたが、日赤救急法指導員として長く活動されている方の中で、ACLSを勉強したいという人も何人かいます。ナースにとってもおっかなびっくりの世界で、市民にとっては「畏れ多い」としか言えないAHA-ACLS。だからこそ、私は学びたい気持ちがあるなら誰でもOKなんだよ、ということをアピールしたいと思い、この記事を書きました。

このあたりはRicoさんの切実な思いとしてきっとKimさんに伝わっていると思いますので、これ以上は書きません。大きな組織なので個人としてできることは限られるかも知れませんが、私からもよろしくお願いします。


Ricoさん
Ricoさんのコメントを見て、受講生を制限することの意味について思うことがありましたので、本記事の方で後で書きたいと思います。それをもってお返事と替えさせてください。
Posted by めっつぇんばーむ at 2007年12月18日 00:26
Ricoさん、めっつぇんばーむさん、コメントありがとうございます。お二人の熱意はよく分かっているつもりです。

 しかし、、、、一般市民の人はHeartsaverAEDあるいはFamily & Firiendsが良いと思います。BLSやACLSではありません。

 今の日本の問題点は、心肺停止の患者さんが目の前にいても、家族や友人、通りすがりの人がちょっとでも良いから蘇生をしてくれると言う割合が非常に低いと言う事です。胸骨圧迫ですらやってくれないのです。それを解決するものは、バッグマスクの使い方を教えるBLSコースやACLSを受けてもらう事ではありません。医療従事者ですらこれらの事はすぐ忘れてしまいます。

 一般市民がエピネフリンやマニュアル除細動器の使用法を知っている必要はありません(私は混乱の元になるので害にもなると思います)。バッグバルブマスクもです。BLS for HCPにしてもヘルスケアプロバイダーのためのとあるのですから、、、、それでも受けたいと言う人にだけ受けてもらえば良いのでは?と思います。蘇生率を高めるためには何が必要か?ですね。だからこそ、2005のBLSコースも内容が少なくなったんだと思います。

 例えばブログを考えてみれば、通常の人は書き込み方を知っていれば良いです。どうやったら自分でも作れるかと興味を持った人には教えてあげたら良いでしょう。もっと知りたくなればもっと詳しい事を知る事は今の時代簡単にできます。
 最初からブログの作り方を知りたくないですか?勉強してみませんか?と言う必要はないのでは??それよりも、ブログって楽しいですよ。まず興味あるテーマのものを読んでみませんか?こうやったら読めますよ、、、、から入るのではないでしょうか。

 よって一般市民の方も是非BLSやACLSを受けて下さい!と書かないのだと思います。教えるのが大変だからと逃げている訳ではありません。

 誤解しないで頂きたいですが、受けたいと言う人には受けて頂くというスタンスはありますよ。Ricoさんは一般市民と言ってもスーパー一般市民ですから、、、、どんどん勉強して抱けると嬉しいです。

 サイトでACLS受けないとよく思われない、、、、と言うのはあると思います。
Posted by Kim at 2007年12月18日 09:11
Kimさん、こんばんは、です。
私も熱くなっていろいろ書いてしまって、ちょっと問題点がぼけてきてしまったようです。

まずそもそもは、今回の場合、地域の救命率をプロバイダーレベルで上げるという話ではなく、インストラクターとしてのスキルアップの話がはじまりでした。

それはRicoさんのような市民の方がBLSインストラクターとしての活動への糧としてACLSを受けるのはいいことだと思うし、日赤や消防などの民間指導員の人たちがさらなる勉強ということでAHA-BLS-HCPの受講を希望している人も少なからずいるという点です。

バイスタンダーという意味でのプロバイダー・レベルではなく、団体は問わずインストラクターレベルの人たちのスキルアップが話の焦点。そういうときに門戸を開いている組織がどれだけあるかなというのが今回のテーマです。

一般市民にACLSを教える必要は、私もないと思います。なにも市民にACLSを受けるように宣伝しろなんていってないですよ(^^; 今は受けたいと思ってもマイナス要素しかないから、せめてニュートラルなゼロくらいまでにしてほしいなというのが私の意見です。
Posted by めっつぇんばーむ at 2007年12月18日 23:30
めっつぇんばーむさん、コメントありがとうございます。
一般市民と言うのがそういう意味だったのですね、、、、ごめんなさい。普通の人にもACLSを!と言う意味だと思っていました。
BLSインストをしている人にACLSを受けさせない、、、、何てことは私としてはあり得ないのですが、、、、門戸を開いていると思いますよ。私の所属サイトはBのインストはAの受講が半強制になっていますので(^.^)。
私が初めて受けたACLS(1992年でした)では同じ受講生として事務の方がおられましたので、、、、私としては医師以外の者が受ける事に何の抵抗もありません。もちろん努力は必要ですが。
Posted by Kim at 2007年12月18日 23:40
ACLSの受講が1992年ってことは、日本のACLSの発祥から今までを見つめてこられたんですね! 日本ではじめてのITOが設立されるときの躍動感とか将来展望とか。

スイマセン、勝手に想像して興奮してしまいました(^^)

いま、また日本のAHAシーンが大きく変わろうとしています。JAA公式ウェブでいうところのPhaseでいうといくつになるんだろう? Phase 2に相当する大きな変革期を迎えているんじゃないでしょうか??
Posted by めっつぇんばーむ at 2007年12月20日 02:25
 私は1992年に医者になりました。現在のJAAの理事長先生が当時茅ケ崎におられて、そのACLSコースに参加させて頂きました。ほぼ強制です(受講料は出してもらいましたが)。何も知らなかった私にとって衝撃とかはありませんでした。へえ〜アトロピンってこういう時に使うんだ、、、、って程度の知識しかなかったので(^.^)。これが普通なんだと。その時もらったポケットマスクを2005年に東京のレールダル本社で受けた時に持って行ったら受付のお姉さんに感動されました(なつかしい!って)。
 私の勤めていた病院では、そんな感じでACLSは普通でしたので、特別な事と言う印象はなかったです。また復習したいと思っていたので見つけるたびに申し込んでいたのですが、受けられませんでした。ITOが設立されるなどと言う話も全然知りませんでした。
 いつの間にかITOが設立されていると言う話を聞いて、慌てて?参加させて頂いているという具合です。
 これからも色々教えて下さい。
Posted by Kim at 2007年12月20日 08:57
Kimさん、1992とはどんなコアな関係者なのかなと思ったのですが、日本ACLS発祥病院の方だったんですね。草の根からここまでのものを確立させた理事長と周辺のスタッフの皆さんの努力と熱意にはただただ驚くばかりです。

実は私自身、理事長先生から直接教えを頂いたことがあるのですが、道を開いた先駆者ということで、尊敬しております。このまえ何年かぶりにとある学会で姿を拝見しましたが、以前とかわらずお元気そうで。この複雑化した時代の今後の戦略も、実は密かに楽しみにしてます。
Posted by めっつぇんばーむ at 2007年12月23日 22:56
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