2007年11月17日

BLS/救命講習「修了証」の効用

言うまでもないことですが、心肺蘇生(CPR)を行なうのに資格や免許は要りません。一次救命処置とも言われるBLS(Basic Life Support)は医療行為ではありませんので、誰でもできます、というか「ぜひ、やって下さい!」という位置づけのものです。

日赤、消防、AHAなど蘇生普及団体が発行する修了証はあくまで講習を受けましたという修了証、もしくは技術認定であって、なにかを許可するとか、それがなければダメというような「免許」としての意味はありません。

中には、この修了証にこだわる人もいて、インターネット掲示板などで『資格証/修了証という紙切れのために救命講習を受けるのではない! いざというときに動けるようになることが肝心!』というような先達からのお叱りの言葉が飛交うことも見受けられます。

確かに本質をつけばそのとおりなのですが、私は「修了証」というカード一枚の持つ効用も、じつは重要なんじゃないかなと考えています。

修了証を持っていてもいざというときに動けなければ意味がないというのは確かにそうですが、実際、医師免許・看護師免許を持っていても何もできない人は何もできませんから、そこに固執するのはナンセンスです。反対に、心肺蘇生のインストラクターであっても予期せぬ場所でCPAに遭遇したら落ち着いて行動できるかといわれれば相当に疑問ですし。

場合によってはある種の「資格取得目的」であってもそれはそれでいいんじゃないのかな。どんな目的であろうと、とりあえず心肺蘇生コースを受講してみようと思ってくれたのであれば万々歳だと思いません?

そこに、「動機が不純」だと叱責する人がいたとしたら、その方が心肺蘇生の普及にとっては大問題です。

教える方とすれば、カードを出すのが目的ではなく、技術を体得して、できればそれが長い時間維持して欲しいと思い、工夫しながら指導をすすめていきますが、それはインストラクター側の問題。形だけの「資格取得目的」の人が受講生として来たとしたら、いかにその人のモチベーションを上げて、純粋に心肺蘇生に興味・関心・必要性を感じてもらうかはインストラクターにかかっています。

そもそも受講すらしてくれない以上、インストラクターはどうアプローチのしようもないわけですから、個々の目的はともかく、講習に参加してくれるならそれだけで十分だと思うのです。

まあ、実際問題、CPR講習の修了証が「資格」として効果を発揮する場面はほとんどないのが現状ですが、市民にとっては「資格を取った」ということで、自信につながるのであれば多いにけっこう。実際、フライトアテンダントを目指す人なんかは就職試験のアピール材料として日赤の救急法救急員資格取得、なんてことを考えるみたいですね。


私自身の話をしますと、いま、勤務先の病院内でスタッフを対象にAED講習を開いて、院内独自の修了証を発行しています。それを手にした事務職員さんたちからたまに聞かれます。「このカードは院内だけで有効なんですか? 町中では心肺蘇生しちゃいけないんですか?」って。

いや、そういうもんじゃないんですよ、カードの有無に意味はないんです、という説明はするのですが、一般市民としては、日常にはあり得ない高度な医療系の行為をするという不安からか、そうした修了証に寄せる期待というか、修了カードの重みというのが非常に大きいのだなということを感じています。

講習内容については自信を持っていますので、院内での急変ではきっと事務員さんでも積極的に動いてくれるはず、と信じているのですが、それを院内限定と割り切って捉えていないかなという不安は正直あります。(シナリオトレーニングでは院内だけではなく町中想定も必ずやるのですが)

実際に町中で急変に対応しようとすると、「触るな! 動かすな」という野次が絶対に飛んでくるんですよね。それにうち勝つ自信をもってもらうにはどうしたらいいか...?

今のところ、私は自分の身分を明かすようにということを受講生に話しています。「私は最新の蘇生教育を受けています」とか「病院職員で研修を受けています」とか。

でも、もしそこに病院独自発行とは違った公的な心肺蘇生法修了カードを持っていたらどうでしょう? より強固な自信につながらないかな。

そう考えたのが、私が消防の応急手当普及員資格を取ろうと思ったきっかけでした。

私が応急手当普及員資格を持っていたら、院内BLS講習を正式な普通救命講習として申請して、消防の修了カードも出せるようになるのでは? そう考えたわけです。

「これ院内だけで通用するんですよね?」

そんな質問を度々受ける私としては、「いいえ、全国で通用しますよ♪ どこでも自信をもって行動してくださいね」といってあげたい。

この業界をわかっている人からしたらバカバカしいやり取りかも知れませんが、市民にとってはたったこの一言で自信度が違ってくると思うんです。

もちろん質の高い講習をして、本当の意味で自信を持ってもらうというのが本質で、その部分で手を抜いているつもりはありませんが、こうした修了カードの効用は決して見逃せない大きな力を持っていると私は思っています。
posted by めっつぇんばーむ at 21:52 | Comment(6) | TrackBack(0) | 応急手当普及員
この記事へのコメント
>より強固な自信につながらないかな。

 なるほど!大切な事ですね.“カード=ちゃんとCPRできる知識と技術”を中心に考えていましたが,本当に大切な事を忘れかけていました.

 どのようなカードであっても,持っている事によって一歩踏み出す勇気が生まれ,履歴書に書くと言う事はその勇気と心を持っているという事ですね.
Posted by mimimi at 2007年11月18日 07:28
もうずっと以前に、まだ私が看護師免許を取る前の話ですが、道端に倒れている人の救助に関わったことがあります。そのとき、人だかりはできていたけど、誰も近づいて声をかけてはいない状態。そこに意を決して私が近づいていったのですが、ほぼ同時に若い女性も駆け寄ってきてくれました。

そのとき、その女性は手に恐らくファーストエイド関係の修了証と思われるカードを周囲にかざしながら、自分の身分を明かしながら傷病者に接していました。

中国の方なのかな。日本語は話せず英語での対応だったのでどの団体のカードかもわかりませんでしたが、講習の修了カードにはこんな使い方もあるんだと思った記憶があります。

結局、その外国人女性と二人で倒れている人の意識確認や止血処置をしたのですが、言葉の通じない外国でとっさの行動、本当に尊敬しました。

今となってはその修了カードがどこの団体のものだったのか非常に気になるのですが、MFAやAHAなどいわゆる"国際ライセンス"を持っているとこういう強みもあるんだなと考えさせられる事例でした。

まあ、そんなこともあって今回のような記事を書かせてもらった次第です。
Posted by めっつぇんばーむ at 2007年11月19日 00:51
私が地元で講習をしよう・・と思い立ったときに
「その内容では修了カードを発行できません」と消防本部に言われました。

やっぱり私としては、参加してくださった方になんらかの「形」としてカードを手にしていただきたいと考えました。
その理由はまさにこのエントリーでめっつぇんばーむさんが書かれていらっしゃるとおりです。

ひとつの自信の証・・と言うか・・・。
あるとないでは大違いなのではないでしょうか。
自分でもカードを手にしたとき誇らしい気持ちになりますもの。
Posted by Rico at 2007年11月22日 16:46
Ricoさん、こんばんは。どうも遅くなりまして。。。(^^ゞ
確か小児のコースを開きたいというお話しでしたよね。
総務省消防庁が出している普通救命講習のカリキュラムを見ると、対象に応じて小児や乳児を含めても良いみたいな記載が実はあるんですよね。
ということで、先日私が応急手当普及員として開催した普通救命講習では、時間が余って仕方なかったので、小児の乳児のCPRと気道異物除去もやっちゃいました。

成人のCPR+AED+気道異物除去で3時間かけるのが消防の基準ですが、たぶんこれって1マネキンあたり4名という想定だと思うんですよね。受講生一人に人形一体を割り振れば、みっちりやっても1時間半くらいで終っちゃいます。考えてみればAHAのヘルスケアプロバイダーコースも3時間〜4時間。あの内容で時間は消防の普通救命講習と変わらないというのは不思議な話ですよね(笑)

スイマセン、ちょっといただいたコメントのお返事としてはピントはずれな感じになってしまいましたが、、、

明日はいよいよACLS受講。新幹線に乗り遅れないようにそろそろ寝なくては。
Posted by めっつぇんばーむ at 2007年12月01日 01:55
実は免許としての意味があります。

赤十字系の指導員資格によっては医療従事者と同等の救命能力があるとみなされ一部公的資格に課せられる救命講習の受講を免除されます。
Posted by 通りすがり at 2008年02月11日 10:49
通りすがりさん、お久しぶりです。

免許としての意味、まあ、確かに事実ではありますけど、あの警察庁(でしたっけ?)からの通達文書、どうなんですかね、、、

「応急救護処置に関し医師である者に準ずる能力を有する者」

ということで、日赤救急法指導員と消防の応急手当指導員は運転免許を取るときの応急救護科目が免除されるという話ですよね?

まあ時代は劇的に変わりましたので、次にこの通達の見直しがされるときには、どうなるんでしょうね。
Posted by めっつぇんばーむ at 2008年02月11日 21:23
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