ガイドライン変更に伴う混乱ということなのですが、これが受講生の疑問のかなりの割合を占めているように感じます。
特にガイドライン2000は、はじめての国際的なコンセンサスということで華々しいデビューを飾ったものですから、「最新式の国際基準のCPR」、ということで鮮烈な印象と共に頭に残っている受講生の方も少なくないかもしれません。
ガイドライン2000当時からインストラクターをやっている方なら、こういった質問へ対応もなんてことはないのでしょうけど、今後、ガイドライン2005からこの世界に入ったという世代の人たちがインストラクターになってくると、古いやり方への理解ということが問題になってくるのかも、なんて考えました。
◆ 古いガイドラインを知らないと受講生の疑問が理解できない!?
最近、病院内のコメディカル向けのAED講習会(当然non-AHAです)であった話なのですが、とある受講生の方は、最近、院外でAED講習を受けたばかりとあって、ちょっとした自信を持って病院職員向け講習会に臨みました。そうしたらやっている内容はというと、循環のサインの確認は省略されているし、30:2だし、AEDはショック後にすぐ胸骨圧迫開始だし、、、と自分が知っているのとは大違いな内容にびっくり。そんなこともあって、講習にはイマイチ乗り気になれない感じでいました。
ガイドライン変更のことなどを説明しても、なかなか納得してくれず、どうしてなのかなぁと思ったら、その方が外部で講習を受けたのがつい最近だということが判明。
思えば、日本の消防や赤十字が正式にガイドライン2005に対応を開始したのは2007年4月から。つい最近までバリバリにガイドライン2000で教えていたんですね。
当院では去年の10月に職員向けAED講習をスタートさせて以来、ずっとガイドライン2005でやっていたので、院内で養成しているインストラクターたちは基本的にガイドライン2005しか知りません。
まあ、みんな医師やナース、コメディカルなので、医療者の常識としてG2000のことも知っているかもしれませんが、インストラクターを育てる過程では旧ガイドラインの話はあまりしなかったなぁと反省した次第です。
ということで、今は古いと思われているガイドライン2000の知識も、インストラクターたるもの積極的に勉強して知っておく必要があるのかも、というのが今回のお話しです。
◆ 『ガイドライン2000準拠BLSヘルスケアプロバイダー[日本語版]』は今でも必読
私自身は、公式にインストラクターとなったのは最近ですが、ガイドライン2000の発表からこの業界の流れはずっと追ってきたつもりです。今年に入ってガイドライン2005の原著とヘルスケアプロバイダー・マニュアルが日本語訳されましたが、正直、ガイドライン2000のような感動はありませんでした。内容的にはどうも勢いがなくなってしまったというか、かつてほどの衝撃はないというか。
特にヘルスケアプロバイダー・マニュアルに関しては、ガイドライン2005の今の時代になっても、私はガイドライン2000版が最高傑作だと思っています。医療従事者レベルでBLSをマジメに勉強しようと思ったら何をおいても読むべき本じゃないでしょうか。もちろんG2005のマニュアルも必須ですが、そこでは省略されてしまっている基本的な理解が、ガイドライン2000版にあるのです。
ガイドライン2005になってからは、"手技マニュアル"のような感じに方向転換、エビデンスの部分が弱くなってしまいました。かつてはハートセイバーAEDのマニュアルがそんな感じで、より"実"を求める人のためのヘルスケアプロバイダーマニュアルという棲み分けがあったように感じますが、その境界があいまいになってきてしまいました。
ちょっと話は逸れましたが、内容は若干古い部分もありますが、BLSの基本をしっかり学ぶにはガイドライン2000バージョンのヘルスケアプロバイダー・マニュアルが適しているという考えに変わりはありません。
例えば、AEDがショック適応を判断する基準(しくみ)をご存じですか?
ガイドライン2005版では省略されてしまった部分なのですが、それを知っていればAEDが誤作動する可能性は? というありがちな質問にもしっかり答えられるはずです。一般受講生なら知らなくてもいいことかも知れませんが、インストラクターなら是非押さえておきたい背景知識だと思います。(もっともAEDの解析プログラムは各メーカーが盛んに研究開発を進めていて企業秘密にもなっている部分なので、あくまで一般論の範囲と理解した方がいいと思いますが)
ガイドライン2005版では、結論だけが書かれていて、ガイドライン2000では結論に至るまでの過程がしっかり書かれている。
かつて指導されていたやり方を熟知するという以外にも、今のガイドラインに至るまでの変遷とエビデンスを理解するという点で、いまでも旧ガイドラインの『BLSヘルスケアプロバイダー[日本語版]』は有用です。
現行のガイドライン2005原著とヘルスケアプロバイダー・マニュアルは必読ですが、それ以外にもっと知識を身につけたいと思ったら、まずはBLSヘルスケアプロバイダー[日本語版]をオススメしたいと思います。
恐らくもう絶版になっているはずなので、古本屋等で見かけたらなにはともあれキープしておくべき価値はあると思います。
◆ AHAの教育手法を知るならAHAガイドライン2000の原著を
さらにいうと旧ガイドライン2000の原著である『AHA心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000 日本語版』も今の時代でもなかなかおもしろいです。特に注目できるのは、心肺蘇生教育の手法に関する部分。ガイドライン2005ではほとんど触れられていませんが、教育手法の研究という点でもAHAはいろいろと斬新な提言をしています。ビデオ教材を使うことの有用性や、きびしい指導がマイナス効果になるという点などをエビデンスを持って示してくれています。いわゆるAHA方式の教育手法の背景に興味がある方はぜひ目を通してみてください。この本は大きめの図書館にはたいてい置いてあるはずですので。
教育手法という点では、去年からはじまったコアインストラクターコースの導入で、また新たな局面を迎えたAHAですから、きっと次回のガイドラインではインストラクターコンピテンシーに関する記述が盛り込まれるのではないかと私は予想しています。
このあたりの話は、先日紹介した「救急医学」誌2007年9月号の1104ページあたりでも少し触れられていました。BLS教育手法にも科学やエビデンスがどんどん取り入れられて大きく様変わりしようとしています。
私の地元の消防はG2005導入が2007年1月でした。
http://sweet-teatime.seesaa.net/article/33286421.html
(過去記事読むと、自分がもうすでにこのころ、消防では頭打ちで、何かもっと深く知りたいと思っていたことが伺えます(笑)半年後、こんなふうになっているなんてこのときの私は想像もしていませんでした。)
なので、それの最初の講習に参加致しました。
でも、元々私はバリバリのG2000育ちです。
ライフセーバー時代はそれより昔のAEDのないCPRでした。
G2005になったときには、簡単になったことに驚きと、喜びを感じました。
>インストラクターたるもの積極的に勉強して知っておく必要があるのかも・・
この一文は衝撃です(笑)
G2000の実施方法は知っていましたけれど、なんで?という説明を求められるときっと固まります。
「簡単なほうが覚えやすいからじゃない?」ぐらいしか言えない・・。
少し余裕が出来たら、G2000のテキストと『AHA心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000 日本語版』を手にしてみようと思います。
なぜそのような結論に達したか、エビデンスがせっかくあるのに、G2005では省略されてしまっているようで、もったいないと思います。おそらくそういう部分の説明が弱いから、G2000受講経験者の方がG2005に納得できない(?)ような現象が起こるのではないでしょうか?
ですから多少長くなりますが、院内でBLSの研修をするときは、わたしは少し座学を取り入れるようにしています。G2005ワークショップのときに使用したスライドを少し自分なりに加工し、必要と思われる説明を加えて使っています。
わたしはバリバリG2000育ちで、G2005ワークショップなどでも勉強する機会がありました。この経験は自分がインストするときにもすごく役に立っていると思います。
「変わったんですか? ちょっと前まではこうでしたよね?」
そんな風に聞かれたときに過去を踏まえてきちん説明するのと、とにかく今はこうだからと押し切るのかでは、受講生への印象はだいぶ違う気がするんです。そういった意味で受講生レベルでは最新ガイドラインだけを気にしていればいいけど、インストラクターたるもの、BLSの歴史を学ぶというか過去の手法についてもなんとなく知っておいた方がいいんじゃないのかなと考えました。さすがにニールセン法だとかシルベスター法みたいな用手的な人工呼吸までは知らなくていい気がしますが、、、(皆さん知ってます?)
nori_coさん、nori_coさんからも同じ意見が聞けて心強いです!
私自身、G2000のプロバイダーマニュアルは目を皿のようにして読んだ経験があったからこそ、今のガイドライン2005の神髄のようなものも理解できた気がします。そういう前提知識ともいうべきものがない場合、今のガイドラインとマニュアルだけで、本当にBLSが理解できるのかなとは疑問に感じます。手技をマスターするという意味ではHCPコースでOKなんですけどね。手技はともかく理屈の理解が現コースでは難しいと思います。
nori_coさんの病院の院内BLS研修はどれくらいの時間を割いて行なっているんですか? 私の病院ではマネキン1体に3-4人の受講生を二人のインストラクターで対応して1時間ちょっとで終らせています。もともと事務系職員などを対象に考えたプログラムなので、理屈はともかく手技を叩き込む・自信を持たせるという方向で作っていて、座学的な部分は全部合わせて10分〜15分くらい。ナース向けとしてはもう少し突っ込んだ内容にしたいとは思っているのですが、実際のところ知識も手技もレベルは事務系とあまり変わらないという体験的なデータも出てしまって、とりあえずは最低限の底上げをしてから、二次コースとしてよりつっこんだことを教えるようにしようという方向性を打ち出しています。
最近、どこの病院でもこの手の院内講習プログラム作成に悩んでいるようですが、ほんとどうしたものか。。。
救急マニアックです。
自分もAHA-BLS HCPコースを受講したのはG2000の時代でした。それまでBLSという分野を馬鹿にはしていませんでしたが、少し軽視していた自分にとって、あのBLSプロバイダーマニュアルはかなり衝撃を受けたのを覚えています。たかがBLSで何でこんなに内容があるの…?という感じで。
当時ICLSプロバイダーコースの受講と重なったりしていましたが、自分もあの分厚いマニュアルを1ヶ月で3回読みました(必要な部分はさらに熟読)。それくらい読んでいて根拠に基づくBLS手技に面白さを感じていたのではないかと思います。
実際にG2005に移行した後もG2000の内容を知っているスタッフには異なっている部分だけつまんで説明すると理解しやすいようです(自分も初めてG2005の勉強をした際にもG2000とG2005の変更ポイントのみ根拠づけて学習した記憶があります)。
G2005のプロバイダーマニュアルは本のページも内容もBLS、ACLSともにG2000のものよりもかなり薄いです。これは複雑な処置を省き、可能な限り統一した手技を誰が行っても実施できるようにというAHAの意向の現れではないかと自分は理解しています。確かにめっつぇんばーむさんや自分たちのように熱心に学習する人がほとんどであれば苦労しないのでしょうが、G2000のマニュアルは一目見ただけでウンザリするスタッフの方が圧倒的に多かったのではないかと思います。
結局、どんなに立派なマニュアルであっても見る人がほとんどいなければ『宝の持ち腐れ』になってしまいますし、少し内容が薄くなってもたくさんの人が読んで理解できれば、それは最高のマニュアルです。
確かに自分自身もG2000のマニュアルが最高傑作だと思っています。まあ、内容が濃く、分厚いマニュアルを作成するか、内容が多少薄くてもたくさんの人が見るものを作るか、どっちが正しくてどっちが間違っているというものではありませんが、非常に頭を悩ませる問題ですね。
ガイドラインも簡略化、マニュアルも簡略化ということでバイスタンダーやファーストレスポンダーの裾野をひろげる方向性というのはよく分かります。決してそれが悪いことだとは思いませんが、もっと勉強をしたい人はどうしたらいいのかという選択肢が狭くなってしまったなぁとは思います。今有効の公式テキストを使うとしたら、まずはHCPマニュアルで、さらにはガイドライン2005の原著。でもこのどちらもBLSの基本的な理解の解説書としては弱いのは否めない。
2000時代はガイドラインには載っていないような細かいエビデンスまでが、HCPマニュアルに含まれていました。このあたりはすごいなと思いました。ガイドラインが原点かと思いきやそれ以上のことが書いてあるんですから。
インストラクターレベルの人がより勉強したいと思ったら、どんな資料を勧めたらいいのでしょう? そう考えたときにやっぱりガイドライン2000のHCPマニュアルかなと思うんです。
救急マニアックさんがおっしゃるような「BLSってこんなに奥が深いものだったの!」とは私も思いました。そのときの感動が今につながっているのかもしれません。
まず、BLSがどういうものかを知ってもらってから実技に入るようにしています。わたしが教えてもらう立場だったらその方がいいかなあと思いまして。
うちの看護師も、ほとんどが一般市民と変わらないレベルですよ。
テキストは、教えるべき内容をコンパクトに書いてあるのが望ましいわけで、G2000のプロバイダマニュアルはそういう意味では書きすぎ。悪く言えば衒学的。ACLSへ誘導することを意識していたのかもしれませんが、BLSのマニュアルとしては無駄に厚いと私は思ってます。AHAもそれに気づいたから G2005では方針変更したんでしょう。
みなさんそれぞれ色々な考え方があって、きっとどれも間違いではないのでしょう。
より深く知りたいと思った方にとっては、G2000のテキストは非常に有効ですが、(インストラクターは知るべきなんじゃないの?と個々の考え方はちょっと横に置いといて・・)じゃあ心配蘇生を施すにおいて、知識よりもまず行動。という基本概念においてはG2005のテキストのように簡略化されて、わかりやすくなったほうがとっつきやすいとなりますよね。
きっと自分の身の丈にあった使い方で良いのだと思います。
学術的に深く知りたい方は、自分でそれなりに勉強してゆくでしょうし、理論よりまず行動と考えるならば、手技を徹底させれば良いわけです。
一般市民レベルのBLSにおいては、G2005のテキストでも十分以上だと感じますが、(それこそ消防のぺらぺらテキストでも十分です)私自身はG2000テキストのなぜこうかのか・・の部分はとても参考になりますし、読んでいて深さを感じますので好きです。
そっかぁ、1時間半程度でナース向けにきちんとBLSプログラムを組めて
いるんですね。ところでナース向けとしてバックマスクは教えていますか?
ここがいま私のところのチームでもめているところで、バックマスクをきちんと
教えるには時間がかかるから今の時間枠では無理、よって省略! ということ
になっているんです。私自身はHCPコースで非医療従事者の人でも特別な
補講無しに使えるようになっているので、ぜんぜん可能と思っているのですが、
周りのスタッフにはそれがうまく伝わらないようで。。。
santaさん、ご意見ありがとうございました。「つべこべ言わずに胸骨圧迫!」という言葉がありましたが、緊急場面では身体に染みこんだ手技を忠実に行うべきで、あれこれ考えて手出しが遅れてしまっては本末転倒、というコース設計の理念はよくわかります。それを踏まえた上で、インストラクターレベルの人がより深く勉強するための方法としてはsantaさんはどのような方法を推奨なさるのか興味があります。
Ricoさん、スレッドのまとめをしてくださってどうもありがとうございました(^^)
なかなか私が書き込みをできなかったばっかりにもうしわけありません。
不安に感じる新人インストが多かったり、逆に、TCが新人インストの知識に不安があるということであれば、TCの求める水準を満たすところまで追加の勉強会を行うとか、資料を作成して勉強させるのが望ましいでしょう。
# ま、主体が TCである必要はないかもしれませんが、分かってる人がコース作らないと時間の無駄。
全然別の話として、単に「もっと知りたい」という知識欲を満たすのであれば、refereneとして出てる資料を読むのがいいんじゃないでしょうか。特定の目的があるわけでないなら、網羅的である必要も無いわけですし。