アメリカ心臓協会(AHA)のBLS講習の特色は、DVD映像を見ながら、それに合わせて進めていくところにあると思います。
ビデオ教材の使用はもともとはアメリカのメディックファーストエイド Medic First Aid が発祥という話も聞いたことがありますが、AHAガイドライン2000の中でも有効な教育方法とされ、以後AHAが積極的に開発を続けている成人教育手法のひとつです。
ガイドライン2000のときは Watch then Practice といって、ビデオのデモンストレーションを見た後で、インストラクター指導のもと練習、というパターンでした。
これが、ガイドライン2005になってからは、さらに一歩進んで Practice while Watching 方式に進化しました。
"Practice while Watching" はインストラクター用語ではPWWなどと略され、直訳するなら「見ながら練習」ということになります。
ビデオ教材の中でデモンストレーターが行なう手技を見ながら、それに合わせて自分も同じように行なうという、 Watch then Practice に比べてますます一風変わった方法でコースは進められていきます。
現場にいる生のインストラクターが見本として手技を実践することはほとんどありません。というよりインストラクター・マニュアルでは、インストラクターによるデモンストレーションを禁止しているほど。
これはコースの質を保つためには非常に重要な点です。
インストラクターが見本を見せて、それに習って行なう形だとインストラクター個々の技量や癖によって、受講生が習得するものが違ってきてしまいます。
それを防ぐためには、ビデオの中のデモンストレーターを唯一の手本とすればいい、というわけです。文化も教育背景も異なる世界中で統一されたコース展開をしているAHAならではの策だったんでしょうね。
私が初めてAHAの教育手法に触れたのは2004年でしたが、そのときは正直驚きの連続でした。
それまで心肺蘇生教育といえば日赤や消防のものしか知りませんでしたので、ビデオ教材というだけで目新しかったですし、インストラクター(指導員)の雰囲気がぜんぜん違うのには「なんで?」と思いました。凹むようなことを何もいわれなかった、というだけで驚きでした(笑)
で、実際自分がAHAのインストラクターになってみてわかったことがたくさんあるのですが、でも実は教え方・指導のマインドに関して肝心なことはBLSインストラクターコースで学ばなくても、例えばガイドライン2000の原著など公開されている資料の中でもきちんと書かれているんですよね。
AHAの教育手法に対する模索は続いていて、そのひとつの区切りというか転換点が2006年から導入されたコア・インストラクター・コースなんだと思います。
これによってAHAの教育手法がさらに大きく改変されました。単なる蘇生教育手法に留まらず、普遍的な成人教育カリキュラムを導入・融合することで新しいステップがはじまった、というところなのかもしれません。
結局何が言いたのかわからない文章になってしまいましたが、蘇生教育手法の変遷ということで思いつくままに書いてみました。
メディカルな側面でも年々事情は変わっていますが、それと同時にエデュケーショナルな面でも大きな変化を遂げています。AHAと歩調を共にするというのは、医学と教育というふたつの面から非常に興味深いところだなと思っています。
2007年07月15日
この記事へのトラックバック
私は学生の時に「ストローク」と言うのを習いました。フィードバックとあまり変わりませんが、褒めるのを+のストロークと言ってました。プラスの時は無条件で(おまえはすごい!)、マイナスの時は条件付きで!(お前は、ここがダメなんだ)と習いました。ちょうどそこのころ「世界丸ごとハウマッチ」(古い、、、)をしていて、巨泉や石坂浩二が、たけしに対して(当時はフライデー襲撃事件とか起こしていた、、、)こいつはこれこれでダメなんだけど、良いヤツなんだ、、、と言っていました。これが良い影響を与えていると、講義で精神科の先生が言ってました。条件付きのマイナスのストローク→無条件のプラスのストロークが良いんだと。
しかし、AHAのインストコースでは、条件を付けて褒めるよう教わりますよね、、、、、「良かったです!」はダメで、「しっかり胸が押せていましたね、、、、」とか。
褒めるのも難しいですよね!
MFAでは“教え方”を何度も練習し,結構大変でした.受講生を褒めてモチベーションを高めるのは,その人がバイスタンダーとして救命に関わってくれる可能性を高めますし,他の人にコース受講を勧めてくれる事にも繋がりますね.
救急マニアックです。
本日AHA BLSインストラクターコースを受講してまいりました。あとはモニターコースを受講し、AHA BLSインストラクターを目指します。
BLSインストラクターコースを受講して感じたことは、"Watch while Practice"におけるインストラクターの立場の複雑さです。この教育方法はインストラクターの質に左右されず、ある程度のコースの質を保証できる画期的なものです。その反面、インストラクターの技を十分に発揮できない(各個人のインストラクションのカラーが十分に発揮できない)という欠点があります。また、出来ない受講生がいた場合であっても十分な教育が出来ないうちに違うセクションの画像に進んでしまうという問題点もあります。各受講生においてBLS手技の苦手分野が様々であり、受講生によって指導にかかる時間もまちまちですが、この指導方法を実践すると指導に個別性がなく、得意な分野も苦手な分野も全員同じ時間配分で指導しなければいけなくなります。自分にとって少し戸惑いの感じた指導方法でした(慣れれば自然と出来るようになれるのでしょうが・・・)
今後はコースになれるためにも集中的にBLSコースに参加し、インストラクションのコツをつかんでいきたいと思います。
AHAのインストラクターである以上、この指導方法を実践しなければいけませんので、早く慣れて、受講生に有意義なコースを提供できればと思います。
めっつぇんばーむさんも先輩インストラクターをして指導のコツなどありましたら、アドバイスくださいね。よろしくお願いいたします。
ストロークですか。。。てっきり脳卒中の話かと思いました(笑) 誉めるの、確かに難しいですね。ワンパターンにならないようにとは思うのですが、なかなかです。まだまだ修行です。
私、これまでも仕事柄後輩への指導を担当させられることも多々あったのですが、「教え方」についてきちんと学んだり考えるようになったのは恥ずかしながら心肺蘇生教育手法を通してでした。
JRCでは、AHAのコアインストラクター・コースを心肺蘇生とは関係なく成人養育セミナーのような形で一般発売することも検討しているなんてウワサも聞きます。
今後医療界では、教え方、成人教育ということで変わっていくのかなという気がします。もともと日本への導入はAHAが最初だったと思いますが、いまやJPTECのインストラクターマニュアル(非売品)なんかでは、日本型に昇華された成人教育手法が明文化されていますし、医療系セミナーではだいぶ定番になってきた感がありますね。
救急マニアックさん、インストラクターコースお疲れさまでした!
モニター終了まであと一息ですね。
さて、AHAのインストラクターの立場の複雑さというお話し、とってもよくわかる気がします。特に日本式の蘇生教育を知っている人にとっては違和感の大きさは相当だと思います。
例えば日赤などの指導員と比較したとき、同じインストラクターという立場でありながら、期待されている役割がぜんぜん違う感じですよね。
この問題は私もずいぶんと考えました。いまは納得していますが、理解のためのキーワードは、多民族国家アメリカで生まれたコースであり、日本をはじめ世界で統一した内容を保証しているという点にあると思います。
個人レベルで教えるのであれば、インストラクターの個性を最大限に活かして、その場にあったやり方をするのがベストなんでしょうけど、組織が大きい以上、最大公約数的にならざるをえないという事情なのでしょう。
実際、インストラクター個人に完全に任される某国内最大手の普及団体では、指導員の技量のムラによっていろいろ弊害も出てますし、この点はガイドライン2000でも問題視されていました。
飲み込みが遅い受講生に対する対応は、ブースのインストラクターとリードインストラクターの連携によって問題にならない程度まで対応できると思いますよ。20人規模など大所帯で行なう場合は、先へ進むのにストップをかけるのはブースインストラクターの責任ですし、あまりに全体のペースからはずれる場合は、専用の特別ブースを用意しておくという方法もあるみたいですし。
まあ、教え方にも一長一短があるのも事実。
そこで、今度、消防の応急手当普及員の講習を受けこようと思っています。他団体の教え方から学べることがあると思いますので。
ご指摘ありがとうございました。私のうっかりミスでした。
おっしゃるとおりWatch then practiceから脱却できていないのかも(笑) なにせ初めてコレに触れたときの衝撃が大きかったもので、、、(^^)
あとで修正しておきます。
またお気づきの点があったら、こっそりとご指摘くださいね。よろしくお願いします。