今回は日本ではあまり知られていない小児二次救命処置であるPALS:パルス (Pediatric Advanced Life Support) について少し書いてみようと思います。私自身はPALSを受講したことはないのであまり踏み込んだことは書けませんが、AHA教育プログラムの俯瞰ということでチラッとだけ。

一次救処置 BLS に関してはヘルスケアプロバイダー向けコースの中で、乳児から大人まですべてを扱っています。しかしその上位に位置する二次救命処置では、成人と子どもでコースがわかれていて、乳児・小児に特化した高度な救命処置(Advanced Life Support)が PALS になります。通常、「パルス」と発音しています。PALSのPは Pediatric ペデアトリック の略。BLSの教科書でもよく出てきますが「小児」を指す言葉になります。
アメリカ心臓協会(AHA)の蘇生教育プログラムには、市民向けから医療者向けまでぜんぶ合わせたら20近いコースがありますが、中でもHCPとACLS、PALSは核となる中心プログラムともいえます。
ですのでパルス PALS もAHA教育上、重要なシーンを担っているのですが、日本ではあまり知られていません。
というのは、アメリカ心臓協会の蘇生教育コースを日本に大々的に普及させた日本蘇生協議会(実質的には日本ACLS協会)が、PALSを開講するライセンス契約を結んでいなかったためです。(BLS+ACLS オンリー)
日本におけるAHA教育のはじまりと言われる日本蘇生協議会(JRC)がAHAと契約したのは2003年1月。でもそれ以前の2002年4月に日本小児集中治療研究会というグループがAHAとPALS開催に関するITO契約を結んでいたという事実はあまり知られていません。
つまり日本のAHA教育プログラム普及はPALSからはじまったというのが真実なのですが、なにぶん日本小児集中治療研究会は分野としても組織としても非常に小さな団体。小児科医を中心とした関係者限定で細々とやっていた活動だったので、これまであまり認知されてこなかったというのが現実のようです。
AHAのITO(国際トレーニング組織)が4つに増えた現在でも、ITOとしてPALSを開講できるのは日本小児集中治療研究会が唯一です。日本小児集中治療研究会は2005年にNPO法人格を取りましたが、それ以前は研究会という名前のとおり本当に小さな有志の集まりのような形だったそうです。
そのため今現在でもPALSコースの受講枠は小さく、医師であり、なおかつ小児医療専従者でないと受講できないのが現状。インストラクターコースに関しては、身内限定で公募等で増やしていく予定もあまりないようです。
そんなわけで日本では非常にレアなタイトルでもある PALS Provider と PALS Instractor。
先日、BLS HCPコースにインストラクターとして行ったときに、小児科の看護師さんがPALSを受けたいんだけど、とおっしゃっていました。看護師の中でも小児科はやっぱり特殊で専門的に小児救急を勉強したいという需要は少なからずあるようです。
しかし、現状としては小児科医以外がPALSを受講できるチャンスはほぼゼロ。
、、、、なのですが、実はまったくゼロというわけでもありません。
◆ 日本でPALSを開催するUSインストラクターたち
以前からこのブログ内でも紹介していますが、日本でAHAコースを開催できるのはITOだけではないという話につながっていきます。いわゆるUSインストラクターの存在ですね。アメリカのトレーニングセンター所属のAHA-USインストラクターには国境を越えてAHAコースの開催が認められています。日本で活動するUSインストラクターの中には、PALSインストラクターの資格を持っている人もいて、日本でも時々PALSコースを開催しています。たいていの場合はアメリカンスタイルに則って受講者制限などはしていませんので、そういう機会を狙えば、小児科医師以外でもPALSコースの受講が可能ということです。
ITOのような「組織」と違って、USインストラクターは個人レベルで自由に活動していますので、いつどこで誰がPALSコースを開催するかというまとまった情報はあまり入ってきません。
私の知るかぎり、福井県を中心にで活動する福井BLSがウェブ上にきちんとした窓口を設置している唯一のUSカードグループだと思います。とりあえずここに問い合わせをすれば、USインストラクターのコース開催動向はわかるはず。
福井BLSでもPALSの開催予定があり、次回は8月4日、5日で予定されています。私もお誘いを受けたのですが、残念ながら日程が合わず、今回は見送りに。
また埼玉県で活動するJRC−ITC獨協越谷サイトのウェブでも以前に公募がかかったことがありました。(この場合JRCではなくUSインストラクターとしての主催だったようです)
ガイドライン2005のPALSコースの教材(テキストとDVD)は、比較的最近に完成したばかり。AHA教材はBLSからスタートしてACLS、PALSの順で作られましたが、最終段階のパルスでは、完成度がきわめて高く、AHA教育の神髄が詰まっていると言われています。
AHAのインストラクターであれば、一度は受講してみたいPALSコース。
興味がある方は福井BLSのウェブサイトをチェックすることをお薦めします。6月24日現在、まだ若干名の空きがあるみたいですよ。
試験問題は英語だと聞きましたし、受講も何十倍の倍率だと聞いて受けるの辞めました(^.^)。
土日はJPTECにプレインストとして参加させていただきました。長崎は離島コースを抱えているので一人でなんでもできるようにならないとインストにはなれません。どうにか次はインストに昇格できそうです。
日本ACLS協会でもPALSのコースを開く準備があるそうですよ。・・・でもくれぐれも皆さんはPALSのインストにはならないようにって言われています。理由は忙しくなりすぎるからだそうです。PALSのインストラクターは小児科分野に特化した方をこれからインストとして育てるということでしたから、本当にコースが始まるまでにはまだまだかかりそうです。
nori_coさんがおっしゃるようにACLS協会がPALSに手を出すとしたら、きっと日本のPALS普及が一気に進むでしょうから、きちんとした日本語テキストもできるんでしょうね。また日本のAHA教育シーンが大きく変わりそうで楽しみです。
それにしても日本ACLS協会はPALSファカルティをどこから調達してくるんでしょう? 同協会は他団体の発足に際してBLS/ACLSファカルティー育成協力を拒否してきた経緯がありますからね。またアメリカまで人を派遣するのかな。
JPTECの方でもがんばってらっしゃるんですね。ヤワな私には消防の体育会系の雰囲気がちょっときびしい感じ。でもぜひ外傷系をマスターするためには、ぜひ私もいつかとは思っています。とりあえず最近はICLSにも少し足を踏み入れてみました。こちらもけっこう消防な世界。ここで少しずつ雰囲気に慣れていこうかな。
PALSに関しても非常に興味を持っており、救急医療の現場において小児を対応する機会も多く、日々のトレーニングの大切さを実感しています。しかし皆さんご存知の通り、受講対象者もほぼ医師に限定しており、数百人受講待ちの状態です。受講はほぼ絶望的ですよね。日本小児集中治療研究会のホームページでは日本の医療事情に合わせた『小児蘇生トレーニングコース』の検討を始めたという記載はありましたが、コースがいつ立ち上がるのかも不明です。
自分としてはJRC-ITCに今後PALSコースも運営していただきたいと心から願っています。最もAHAの方針を忠実に守り、日本でコースを開催しているからです(日本ACLS協会は看護師や救命士などにもACLSインストラクターの道を開くべきです)。
ICLSのようにAHAコースではなく、日本独自の小児蘇生トレーニングコースが開催されることを祈るばかりです(出来れば1日のコースで)。
日本ACLS協会もだんだん規制緩和の方向に来ている感じがしますが、まだACLSインストは医師限定なんですか? ICLSなんかでは医療資格を持たない救急隊員や一般市民(!)もがインストラクターを立派にこなして医師を相手に教えているという実績もあることですし、別にいいと思うんですけどね。(もちろんPAM的には医師でなくてはいけないという規定はありません)
日本小児集中治療研究会の新コース企画中という話、私も見ました。ICLSのような気軽な感じで勉強できる場が出来上がるといいですね。