2019年12月14日

学校安全としての救命講習をどうにかしなくちゃいけない

学校・部活動における重大事件・事故から学ぶ研修会cross×three


日本体育大学で開催された公開講座「学校・部活動における重大事件・事故から学ぶ研修会」に参加してきました。

3回シリーズの今回は、学校の事故でお子さんを亡くした遺族の方の講演。

これから体育教員やスポーツ指導の場に立つであろう日体大の学生のほか、一般参加者、マスコミなどを前に、3名のご遺族が事故の概要と学校側の対応、学校安全の在り方・課題をお話しくださいました。


・子どもを突然亡くすということ
・学校側の危機意識の低さと対応策などの準備不足
・事故対応の場当たり感
・事故後の説明内容、態度の問題
・情報不開示(隠蔽)
・監督省庁が強制力を持っていない現状


語ってくれた遺族の方たちは、話をすることで、また話の準備をする中で、思い出したくない現実と向き合い、身を切る思いでステージに立ってくれていたのだと思います。

涙なしには聞けない訴え、会場にいた人で、心を動かされなかった人は誰もいなかったはず。

日本体育大学という、これからスポーツ指導者や学校の保健体育の教員になる人が多い場での、この企画、大いに意味があったと思います。

マスコミ報道では伝えきれない未編集の生の声を聞かせてくれました。


学校教職員に求められる救命対応訓練


こうした話を聞いて痛切に感じるのは、学校側の準備の甘さです。自覚が足りないと言ったら、それまでですが、なんでそこまで他人事風でいられるのだろうと不思議でなりません。

これだけ事故が起きていて、報道されていて、事故検証報告書が出されているこの時代、なぜ?

学校の先生達はおっしゃいます。「私たちはちゃんと訓練を受けているので大丈夫です」と。

しかし、事故が起きて検証委員会の報告で「市民レベルの知識・技能すらなかった」と書かれてしまうことがあまりに多い現状。

もちろん緊急事態ですから、訓練と同じようにスムーズにできるはずがないというのはごもっとも。

しかし、慌てるのはわかっているわけですから、

・パニックになることを前提としたトレーニングをしていますか?
・準備体制・システムを構築していますか?


ということなんですよね。


パニックを想定したトレーニングをしているか?


医療従事者でもなんでもない教員個人の能力やパフォーマンスに限界があるのは当然のこと。しかし、子どもの命を守るためには最低限やらなくちゃいけないことがある。

それを個人でカバーできないのであれば、システムでカバーする。それが学校における救急対応です。

一般市民と同じ立場でマネキン相手に決まりきった動作を繰り返させる救命講習を受ければ対策が十分だと思っているのだとしたら、おめでたいとしか言えません。

このあたりは、学校教職員はちゃんとわかっているはずです。

学校事故も検証報告を見れば、市民レベルの救急対応訓練では不十分で、教職員連携を含めたシミュレーション訓練を行うべきだという点は、今はほぼ必ず書かれていることだからです。

実際の動きや職員連携、さらには慌ててしまうと思うようなパフォーマンスが発揮できないことなどを体感・実感できるのがシミュレーションです。

こうして意思決定や問題解決能力を鍛えるいわゆるノン・テクニカルスキルのトレーニングをしない限りは、現場で動けることを期待するのは難しいでしょう。

通報ひとつにしても、「あなた119番!」の一言で終わらせちゃダメですよね。

例えば、体育館で教員一人、児童30人という状況下で、どうやって救急要請したらいいか?

ここで傷病者をろくすっぽ評価せずに、通報のためにその場を離れた教員が、救命処置の開始遅れを指摘されて訴追されているケースもあります。(この対応の是非はここでは触れません)

問題は、救命訓練を消防等に丸投げしているところだと私は考えています。

依頼された側は、普通救命講習 I、II、III のような規定講習をこなせばいいと考えがちですが、現場対応としてはそれでは不十分であるということをどれだけ理解しているか?

このことがわかるのは、学校現場にいて各種事故報告書の提言を知っている教職員です。ですから学校側から、ただの規定講習だけではなく、現場に即した内容のアレンジを依頼・相談していく必要があるのではないでしょうか?


つまり、学校教職員向けの救命講習は、規程の汎用プログラムでは足りない、ということです。


定形コース受講ではノン・テクニカルスキルは鍛えられない


これは学校教職員向けに作られているとも言われているアメリカ心臓協会のハートセイバーCPR AEDコースにしても同じです。

衛生管理や練習量という点では、日本の一般的な救命講習よりはしっかりした内容と言えるかもしれませんが、現場での実践対応まではプログラム化されていないのは変わりません。


もし、2段階に分けるなら、汎用講習+現場シミュレーション。

このふたつが必要です。

もしくは、このふたつをシームレスにつなげた研修を企画すること。


救命講習は、学校における避難訓練と同じです。学校の構造やシステムを知らない第三者に避難訓練を依頼するとしたら、おかしいですよね?

同じように学校における救命講習も本来は学校教職員が自ら企画していくべきものです。

どうしても医学的な判断や機材借用があるため、外部機関を頼ることになると思いますが、それを丸投げするのはおかしい。

そんな考え方にシフトしていかなくてはいけません。

同時に、救命講習を相談・依頼される側としては、規程コースをこなすだけではいけないというプロとしての自覚を持っていただきたい。



この考えは以前からかわりませんが、今回、学校事故でお子さんを亡くしたご遺族の悲痛な声を聞くにつけ、新たにこの思いを強くしました。


関連過去記事:
子どもが倒れた! 学校の先生は傍観者でいいんですか?
http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/teacher-CPR.html



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