AHAインストラクターが、プロバイダーカードを発行する公認講習を開催するためにはこれらのトレーニングセンターのいずれかと提携している必要があります。
というのは、インストラクター個人には、プロバイダーカードの原紙の購入権限がないからです。
プロバイダーカードやインストラクターカードの原紙(台紙)を購入できるのはトレーニングセンターの責任者(TCコーディネーターと言います)だけなので、公認講習を開催し、資格認定を行うためにはトレーニングセンターとの提携が必要なのです。
この「提携」と訳した元の英語の単語は alignment です。
時々、このアライメントを「所属」と勘違いしている現役インストラクターがいるので注意が必要です。
所属というと、登録しているトレーニングセンター以外では活動できないようなイメージがありますが、そんなことはありません。
AHAインストラクターには、「所属」という概念はありません。あくまでも「提携」なのです。
インストラクター資格というものは、個人に帰属する資格であり、その資格をどう使うかは個人の自由です。
インストラクターコースを受けたのがAトレーニングセンターであっても、その後、インストラクターカードの発給を受けるのがBトレーニングセンターであっても構いませんし、最初はAトレーニングセンターで活動していても、条件が変わればBトレーニングセンターと提携を変更するのも自由です。
さらに言えば、Aトレーニングセンターと提携を結びつつ、Bトレーニングセンターとも提携を結んで、両方のトレーニングセンターで活動することも可能です。
所属ではなく、提携であるというのは、こういう意味です。
日本社会的には、株式会社A社の社員でありつつ、有限会社B社の社員ということはあまりないことなので、ピンと来ないかもしれませんが、AHAインストラクター資格というのは米国文化での資格ですから、組織ありきではなく、個人が主体であり、その個人がどこと契約を結ぶのも自由という考え方に立脚しているのです。
このことは、AHAのグランドルールが書かれたProgram Administration Manual(PAM)を見れば分かりますし、AHA Instructor Networkというインストラクター専用サイトを見てもらっても自明なのですが、日本の狭い世界観の中でインストラクターになった人にはなかなかわかりにくい部分のようです。
参考まで、下記がAHAインストラクターとして登録する際のAHA Instructor Network登録フォームの一部ですが、最初から提携先は複数選択できるように Primary TC の他、Secondary TC を入力する欄が設定されています。
現に私も2つのトレーニングセンターと提携していて、BLSやACLSコースを開催するときは、どっちのトレーニングセンターに書類を送るかによって、プロバイダーカードの発行元がその都度違います。
どっちに登録して開催しても、私個人の活動実績ということでは変わりません。
蛇足ながら、この「提携」は、インストラクターが自分の名前でプロバイダーカードを発行するために必要な条件であって、単なるアシスタント・インストラクターとして活動するだけなら、トレーニングセンターとの提携は関係ありません。AHAインストラクター資格を持っていれば、世界中のどこのトレーニングセンターの講習会にも正式にスタッフ参加できます。
これが本来のAHAインストラクターとしての在り方です。
この提携を「所属」と勘違いしていると、いろいろと理解できない点が生じてくるんでしょうね。
組織によっては、作為的に所属という言い方をして、他の選択肢を与えない、自分のところに縛り付けたいと考えるところもあるのかもしれません。
しかし、もともと米国文化にもとづいて作られた制度で、その情報はすべて開示されています。
AHAには、日本社会の悪いところでもある「上が言うとおりにしていればいい」という文化はありませんので、AHAインストラクターとしての誇りの下、自分で情報にアプローチして、自分の頭で考えられるインストラクターでありたいですね。
最近、少々疑問を感じています、なぜAHAだけを聖典とするのでしょう? そもそも米国人のためのガイドラインです。もちろんJRCがあるとは思いますが、それもAHAをもとにしています。例えば胸骨圧迫が、5cm-6cmとされましたが、そんなことできるでしょうか? また、特に米国人の体型からのエビデンスがそのまま日本人に通じるのでしょうか? 一方では、テーラーメイド医療といわれるようになっている時代です。年齢や体格で異なる治療が常識です。太った若い方にする胸骨圧迫と痩せた高齢者にする最適な胸骨圧迫は、異なるように思います。例えば、日本の透析は世界一ですが、その理由はまだ判明しておらず世界中に異なるガイドラインが多くあります。そのため、何が正解なのか、世界中をターゲットとして、DOPPSという研究を実施中です。もちろん胸骨圧迫や人工呼吸、AEDの使用方法などには習熟していなければならないと考えますが、少しでもAHAと異なることをするのは間違いだとするのはいかがなものかなぁと感じています。
日本ではJRCガイドライン準拠で医療者の蘇生教育をするのが当然なのですが、そうなっていないのはなぜなのか? 答えは教育組織がないからです。
強いて言えばICLSはJRCガイドライン準拠ですが、草の根的に広がっているだけで、公募講習はほとんどありません。このあたりが西山様の疑問の解につながるように思います。
一言で言えば、国産の教育がないからやむを得ず、ピント外れの輸入モノに頼っているという、日本の医学界、蘇生教育業界の問題なのではないでしょうか?
5-6cmという点だけ補足させてもらいますが、AHAのガイドラインでは成人の胸骨圧迫は5-6cmと書かれてますが、BLSやACLSの教育の中では「少なくとも5cm」と指導しています。科学的な正しさと教育心理学的な指導基準のギャップという点がしっかりと考慮されているのがAHA教育の特色とも言えます。
大変ご丁寧な回答をありがとうございます。
これまで同様の質問をインストラクターにしてまいりましたが、明確な回答を得ることができませんでした。おっしゃる通りJRCに基づくICLSは日本救急医学会でしか開催されていませんし、全然普及しておりません。そもそも医療従事者でさえ、JRCの存在を知っている人がどれだけおられるのか疑問です。私はこれを受けたことがありませんので、批評することはできません。
日本の医療従事者(特に医師、看護師)は、少なくともBLSは受けていると思いますが、それを2年毎に個人的負担で更新している方は多くないと考えます。彼らは5年毎に更新されるAHAガイドラインやJRCガイドラインを読んで知識の更新を図っているというのが現状です。CPAに関する訴訟があった場合、ガイドラインが引用されることは必然です。そういった場合、5−6cmとの記載が大きな意味を持つこともあり得るのではないか、5−6cmとあることが、CPRに対するハードルをあげてしまうのを懸念しております。
重ねての質問、恐縮ですが、日本のインストラクターの方々は、めっつぇんばーむ様と同様な指導をされておられるでしょうか?
左側にいくほど医学的なエビデンスが優先され、右に行くほど現実にできること「実行性」に重きがおかれて編集されています。
ですから、ガイドラインで勉強したことが、そのまま実践できるかというと乖離が生じるわけです。これが5−6cm問題の本質です。ですから、ガイドラインのみで勉強するというのは間違いで、臨床家はプロバイダーマニュアルの次元で勉強する必要があります。
他の指導員については、http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/455204442.htmlなどに書いているように、圧倒的に勉強不足でデマ拡散というような指導をしている人もいるのは、大きな問題だと思っています。
めっつぇんばーむ様のように信念を持ってインストラクターをされている方が少なくないと知り、ホッとしております。私が受講した際は、尽く「はっ?」と思わされたものですから。一応、ICLSプロバイダーマニュアルも購入して読んでおります。5-6cmも分かりやすい例なので取り上げましたが、それだけを問題視しているわけではありません。
個人的な思いとしては、BLSのプロバイダーマニュアルの無料化、電子化を希望します。少しでもハードルを下げることができれば、もっと普及するでしょうし、多くの命が救えるのではないかと考えています。
今後とも、素晴らしい発信をよろしくお願いいたします。
無料化というのは無理でしょう。日本のガイドライン準拠の講習が普及しないのは財力がないからです。
ここは国が予算を立てるか、ビジネスとしてやっていかなければ無理な部分です。