2017年11月29日

救命法指導員は、その重い責任を自覚すべし−「AED充電中の胸骨圧迫」編

心肺蘇生法とかBLSのインストラクター/指導員って、責任重大で、実はハイリスクな仕事なんじゃないの? という点で、前回は 人工呼吸省略を教える危険性 についてお話しましたが、今回はその続きとして、AEDの充電中に胸骨圧迫を行うように指導することについて取り上げます。


AEDを使う際に、心電図解析の後、充電中の僅かな時間でも胸骨圧迫を行うようにと教わった方、いませんか?


結論からいうと、これは現時点での日本ではNG、あり得ない間違った指導なのですが、そのように教えている指導員が少なからず存在しているようです。

AED充電中に胸骨圧迫を行ってはいけない理由は、大きく2つです。


 1.胸骨圧迫を体動と判断して充電がキャンセルされる可能性があるから
 2.AEDの指示に従わない動作であるから ← 医師以外が除細動を行う法的要件から外れる



この問題は、ガイドライン2010の頃から持ち上がるようになりました。特にACLSプロバイダーコースの中のBLSデモ映像の中では、AEDを使う場面で明らかに充電中に胸骨圧迫を行っており、これを日本ではどう指導するかという点が日本人インストラクターの間では話題となった記憶があります。

時を経て、ガイドライン2015のBLSプロバイダーコースのDVDでは、IFP(病院内)設定の解説の中で、AED充電中のわずかな時間でも胸骨圧迫を行うことはとても重要なことと明言されるようにもなり、(免許のもとに責任を取れる人しか受講しない)ACLSとは違って、非医療従事者の人に影響が及ぶ懸念が出てきました。

除細動の効果は、ショックの直前まで胸骨圧迫を行ったほうが優位に高いというエビデンスが出てきたのがG2010頃です。手動式除細動器を使う二次救命処置の世界では、もはや常識的になり、だからこそ、パドルショックよりパッドショックを推奨するという認識も広まってきています。

この点からすれば、AEDであっても、ショックの直前、つまり充電中も胸骨圧迫を行ったほうがよいと考えられますが、勘違いしてはいけないのは、AEDは「自動」体外式除細動器であるという点です。

AEDは心電図解析を自動で機械的に行います。心電図解析をするタイミングを人間がコントロールすることはできません。AEDの機種によっては、これは、ACLSやACLSでいうところの「最終波形VFです!」というチェックのため、ショック直前の充電中も心電図の解析を続けている機種があります。

もしこのタイミングで胸骨圧迫を再開してしまうと、AEDが「体動あり」と検知してしまう可能性が否定できません。そうなってしまうと、充電はキャンセルされて、除細動のショックが遅れてしまいます。ご存知の通り、除細動のショックはVF発生から速ければ速いほうがいいわけで、1分遅れると除細動成功の可能性が7〜10%下がると言われているとおりです。



また、別の観点からすると、法的な問題もあります。

電気的除細動という医行為を医師以外が行ってもよいと法解釈が示されたのが2004年7月のことです。

今でこそ、AEDは一般市民が使っても構わないという点は周知されていますが、それが解禁されたのは2004年。それ以前はダメだったのです。

医学知識のない素人が高度な治療行為である除細動を行えるように敷居が下がったのは、心電図読影機械が判断してくれて、その機械の指示通りに使う限り、素人であっても安全に使えることが実証されたからです。

この安全性は、「AEDの指示に従って操作すること」が前提条件となっています。

これから外れたことを行ってしまうと、医療知識がない人がAEDを安全に使えるという担保がなくなってしまうというのは、考えてみればわかると思います。

ここでいうAEDの指示というのは、言い換えれば医師の指示みたいなものです。

医師が離れろと指示しているのに、それに反して胸骨圧迫を行っていいのか? と考えてみればわかりやすいかもしれません。

現在、日本国内で承認を受けているAEDの中で、充電中に胸骨圧迫を再開するように指示する機種は1つもありません。

従って、日本国内のAED講習において、充電中に胸骨圧迫をするように、と指導するのは正しくありません。



また、もともとAED講習で受講者に教えるべき最も重要なポイントに立ち返ってみると、

1.電源を入れる
2.AEDの指示を聞いて、それに従って行動する

この2点に関して異論はないかと思います。

すべての心肺蘇生法指導者は上記を伝えているはずです。それなのに、AEDの「患者に触れないでください」という、AED指示を無視した行動を教えるというのは矛盾していますよね。

特にこの点は、日頃ACLSやICLSで手動式除細動器での蘇生指導に携わる医師や看護師に多い印象があります。

手動式除細動器とAEDの違いを正しく認識することが重要です。

そして、医学的な正しさと、製品・機械の特性と仕様上の正しさは、かならずしも一致しません。さらに言えば法律的な正しさも…


いまは除細動の遅れが過失であるとして訴訟が起きる時代になっています。

院内での心室細動に対する早期除細動(原総合法律事務所Web)
http://www.haralawoffice.com/archives/1623

AEDの充電中に胸骨圧迫をしたことが原因で、除細動の遅れてしまった。BLSインストラクターにそうしろと指導されたから、、、、ということになったら、、、どうでしょう?

救命法指導員はその責任を自覚して、正しい情報をブラッシュアップし続ける努力が必要です。



posted by めっつぇんばーむ at 11:37 | Comment(2) | AHA-BLSインストラクター
この記事へのコメント
はじめまして。2年前の記事に失礼します。
充電中の微妙な間ってもったいないと思っていましたし、離れてください、って2回言うのもなんだかな、と思っていたので、とても良くわかりました。

今回の記事とは関連ないのですが、PALSのインストラクターを取りたいのですが、BLSもPALSも受講後2年経過している場合は、どちらも受け直してからインストラクターも受けるということになりますか?
結構お金がかかってしまうのが難点だと思うのと、頑張って取ったとしても、妊娠出産が被ると、せっかく取ってもインストラクターの有効期限が過ぎてしまうのではないかとも思ってしまいます。

インストラクターの有効期限は、指導回数で期限が伸びるのですか?
Posted by クーパー at 2019年10月09日 08:42
PALSインストラクターコース受講要件は、有効なPALSプロバイダー資格を持っていることです。BLS資格は関係ありません。

ただ、団体によってはPALS受講にはBLS資格が必要と言っているところもあります。AHA的は必須ではないのですが、団体ごとに条件が違う場合があるのでご注意ください。

指導回数で更新期限が伸びるということありません。一律2年です。
Posted by めっつぇんばーむ at 2019年10月10日 14:35
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