2017年11月15日

救命法指導員は、その重い責任を自覚すべし−「人工呼吸の省略」編

心肺蘇生法とかBLSのインストラクター/指導員って、責任重大で、実はハイリスクな仕事なんじゃないの? という話を2つほど書こうと思いますが、まずは人工呼吸の扱いについて。



人工呼吸を行わなかったことが過失となった例

ちょっと前に、耳鼻科クリニックでの小児の心停止対応で、胸骨圧迫しか実施せず、人工呼吸を行わなかったことが過失ありと判断された裁判がありました。

胸骨圧迫のみの蘇生法の実施が、過失であるとされた、ある意味、衝撃的な案件です。



女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令

(河北新報 2016年12月28日)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201612/20161228_13014.html

医療過誤事例報告 適切な心肺蘇生を行わなかった過失を認めた事例

(坂野法律事務所 Web)
http://www5b.biglobe.ne.jp/~j-sakano/sosei1.html



このクリニックでは、2名の看護師と1名の医師で対応したようですが、唯一、BLS訓練を受けていた看護師が胸骨圧迫を行ったものの、他の誰も人工呼吸は行ないませんでした。

実は、このクリニックにはバッグマスクが置いてなかったので、やろうと思ってもできなかったという側面もあるのですが、被告側は「胸骨圧迫のみによる蘇生が推奨された時期もある」と述べて、人工呼吸をしなかったことの正当性を訴えています。


このことから、その耳鼻科クリニックの医療従事者は小児救命における人工呼吸の重要性を理解していなかった、もしくは誤解していた可能性が考えられます。


ここで考えたいのは、最近、世間で広まっている「人工呼吸はしなくていい」という一般市民向けの啓蒙情報です。



この耳鼻科クリニックのスタッフがどこでBLSトレーニングを受けたのかはわかりませんが、もし、「いまは人工呼吸はしなくていいんだ」と誰かに教わって、それを鵜呑みにしたゆえに起きたのが今回の事案だとしたら、、、、


救命法の指導員の言うとおりにしたら、訴えられて負けた。。。


そんな可能性を想像するとゾッとします。人の生死を分ける行為とも言えるBLSを教える立場の人にも大きな責任があると言わざるを得ません。



胸骨圧迫のみの救命講習プログラムの確立などで、心肺蘇生法を教えることの敷居が低くなったのはいいのですが、半面、救命法指導員の質という点では、極めて危ういもの感じています。

胸骨圧迫のみの蘇生法は、一言で言えば素人向けのやり方であって、職業人が業務上、行うようなものではありません。

指導員はそこをきちんと理解しておく必要がありますし、指導員を養成する立場の人は、その限界を正しく伝える責務があります。

例えば、胸骨圧迫のみの救命講習を医療従事者向けに開催するとか、保育士、小学校の教職員に教えるというのは、筋違いの話だと思っています。


今回、「過失あり」ということで賠償責任を負ったのは医療法人ですが、日本の蘇生法ガイドラインの中では、子どもの蘇生に関しては、医療従事者が学ぶものと学校教職員などが学ぶものの区別はされていません。

そのことからすると、学校現場においても、今回のクリニックと同様の裁判が起こり、人工呼吸をしないことが過失と見なされるような事案が発生することも、将来的にありえない話ではありません。


責任のない立場である一般市民に教えることとと、学校教職員や医療従事者のように注意義務が発生する立場の人に教える心肺蘇生法をきちんと区別しないと、善意から良かれと思って教えたことでも大変なことになるかもしれない、そんな覚悟が救命法指導員には必要です。


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