日本の医療現場では、ラリンジアル・マスクがよく使われていますが、病院内でも見たことがある人は少ないかもしれません。
救急センターや病棟での急変でも、普通は気管チューブで挿管しますので、使うとすればオペ室くらい。
ということで、ちょっと紹介してみようと思います。
AHA的には、こういった声門上デバイスも気管チューブも一緒くたに「高度な気道確保器具」として扱っていますが、根本的に別物として考えたほうがいいと思います。
というのは、気管挿管に比べてラリンゲルマスクは、気管と食道の分離性が悪いというか、確実性が低いため、本当に非同期でCPRをしていいのかという点では議論の余地があるからです。
ご存知、気管チューブは気管内でカフが膨らませることで、チューブを通して空気(酸素)が確実に肺に届き、食道から胃に空気が入り込むことはありませんし、逆に嘔吐をした場合でも、吐瀉物が肺に入り込むこともありません。
それに対してラリンジアル・マスクはあくまでも「マスク」であり、気管内には挿入されません。喉の奥の声門周囲を覆うように配置して、立体構造のカフを膨らませて周囲に密着することで食道を塞ぎ、気管だけに交通するように気道確保を行っています。
フェイスマスクが口と鼻を覆うように密着されるのと同じ感じで、声門部に密着させているだけ。
形が複雑なだけに密着度には個体差があり、チューブのズレや蛇管などの負荷のかかり方によっても容易に隙間ができる可能性があります。
故に麻酔科医も、全身麻酔の時に気道と食道を確実に分離させたいような症例では、ラリンジアル・マスクは選択しません。
そういった意味で、気管挿管したら胸骨圧迫と換気は非同期で行いますが、ラリンジアル・マスクで同じようにした場合、気管挿管に比べると胃膨満や誤嚥のリスクは高いと考えられます。
ここは日本版ガイドライン策定の際に、議論になったようですが、結局、ガイドラインでは下記のように記載されました。
「気管挿管後は、胸骨圧迫と人工呼吸は非同期とし、連続した胸骨圧迫を行う。(中略)声門上気道デバイスを用いた場合は、適切な換気が可能な場合に限り連続した胸骨圧迫を行ってよい」
(JRCガイドライン2010、第2章成人の二次救命処置より)
いちおう気管挿管と声門上デバイスの違いは表現されていますが、「適切な換気が可能な場合に限り」というあいまいな限定付の上、「行ってもよい」というやや歯切れの悪い表現となっています。
以前は、救急救命士は気管挿管ができなかったため、このラリンジアル・マスクやコンビチューブといった喉頭鏡を使わずに盲目的に挿入できる器具を使っていましたが、今は挿管認定を受けた救急救命士が増えてきているので、これらが救急の場面で使われる頻度は減っているのかもしれません。
細かい議論はあるかもしれませんが、気管挿管とラリンジアルマスク挿入は似ているようで根本的に違うというお話でした。
で、参考情報ですが、ランジアル・マスクによる気道確保は看護師でも行える処置ということになっています。
現実、看護師の急変対応でフェイスマスクの代わりに使うということはまず無いんじゃないかと思いますが、いちおう気管挿管と違って訓練さえ受けていれば看護師が扱ってもいいことになっています。
その根拠は、救急救命士が行える処置として規定されいている以上、救命士の業務範囲をカバーしている看護師免許でも行える、というロジックのようです。
参考まで。
私は救急救命士です。挿管の認定もありますが、ほとんど気管挿管は実施しておりません。私たちの地域では窒息などの限られた現場で実施するというのが現状です。プロトコルもそのように定めています。
ラリンゲアルマスクではなく、ラリンゲアルチューブ、アイジェルという声門上デバイスの使用が9割を占めております。
また、詳しくソースは持っていませんが病院外で行う気管挿管が予後に影響を与えない、又は悪い影響を与えるとの米国パラメディックのデータがあるそうです。そのため、病院外で実施する気管挿管が良い影響を与えるエビデンスが取れないなら声門上デバイスを使用すると考える同業者の意見も多く聞きます。
ラリンジアルマスク による気道確保は看護師でも行える処置と書いていらっしゃいますが本当でしょうか?いろいろと調べておりますが、看護師が行ってもよいと認められている記述を探す事が出来ません。合法であるという確たる記述がされている法律を教えていただけると助かります。よろしくお願いいたします。
http://or-nurse.seesaa.net/article/432845930.html
ラリンジアルマスク についての院内研修を考えておりまして、大変参考になりました。