喉にモノが詰まったら、ハイムリック法(腹部突き上げ法)か背部叩打法で窒息解除を試みるのはご存知の通り。
このあたりは市民向けの救命講習でも必ず教わることなので、知っている人が多いと思います。
これでうまく取れれば御の字ですが、着手が遅れたり、うまくいかない場合に、どうなるかというと、意識が朦朧としてきて、意識を失って倒れてしまうことでしょう。
そこに至るまでの時間はほんの数分です。自分は何秒間息を止められるかな、と考えるとイメージができるかと思います。
119番で救急車を呼ぶのでは間に合わない、だからこそ、その場にいた人が迅速に処置する必要があるわけです。
で、だいたい、映画みたいにすばやく対応できる人なんてそうそういませんから、喉にモノが詰まった場合、処置が間に合わずに意識を失ってしまうケースは少なくはないんじゃないかと思います。
だからこそ、意識を失った後の対処も知っておくべきなのですが、残念ながら、ここはあまり知られていません。
救命講習でもさらっと話す程度で終わりますし、受講者の記憶にも残っていない場合が多いです。
でも、けっこう大事だぞ、という点は、ここまで読んでくれた方ならわかりますよね?
さて、腹部突き上げ法や背部叩打法が間に合わず、意識を失ってしまったら(正確には反応がなくなったら)、ハイムリック法や背部叩打法を続けるのではなく、「胸骨圧迫からCPRを開始する」というのが教科書的な正解です。
一般の救命講習でも「意識を失ったら心肺蘇生法を行ってください」という感じでさらっと説明されますが、ここにけっこう大きな落とし穴があるんだよ、というのが今日皆さんにお伝えしたいポイントです。
大事なことは、
胸骨圧迫からCPRを始める(脈拍触知はしない!)
ということです。
ハイムリック法をしているうちにぐったりしてきたら、「大丈夫ですか?」「呼吸確認!」とかそういう評価は必ずしも必要ではありません。
特に、絶対にやっちゃいけないのが脈拍触知です。
市民向けのプロトコルだと脈拍触知は行わないことになっているのでいいのですが、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者)向けで教わっている人は要注意。
想像してみてください。
喉にモノが詰まって息ができなくなって意識を失った人がいて、倒れた直後に脈拍を取ってみたら、、、、
きっとまだ脈はありますよね。
体の中が酸素不足になってますので、代償機能が働いて頻脈気味かもしれません。
で、普通のBLSの手順に従うと、「反応なし+呼吸なし+脈あり」、ですから、やるべきことは5〜6秒に1回の補助呼吸ということなってしまいます。
このシチュエーションで、必要な処置は胸骨圧迫の名を借りた 胸部突き上げ です。
つまり、臥位の状態で胸を強く早く断続的に押すことで、肺の空気を間欠的に押し出し、その力で喉につまった異物を取り除こうというのが目的。
心臓に力をかけたいのではなく、肺に力を掛けたいのです。(ですから、心臓マッサージではありません。胸部突き上げなのです)
もし、ここで脈を取ってしまうと、恐らく脈はまだあるでしょうから、この胸骨圧迫(=胸部突き上げ)につながらないのが問題だという点はわかるでしょうか。
だから話をシンプルにする意味では、近似的にCPRをしてください、といいますが、「胸骨圧迫から始める」ということ強調するのがとてもとても大切なのです。
ヘルスケアプロバイダーレベルのBLSを教える以上、ここをしっかりと伝えることはインストラクターの責務ではないかと思います。
AHAのヘルスケアプロバイダーマニュアルにもこのことはきちんと書かれていますので、ぜひ見てみてください。
53ページになります。
「傷病者を地面に寝かせ、胸骨圧迫からCPRを開始する(脈拍のチェックはしない)。」
と書かれています。
もうひとつ、この場面でわかりにづらいのが通報のタイミングです。
ここは呼吸原性心停止と同じ扱いで考えて、優先されるのは胸部突き上げの開始です。
誰か人がいれば119番通報をお願いするべきですが、自分一人しかいなければ、「誰か!」と叫びつつも自分で携帯を取り出すのではなく、行動としてやるべきは胸部突き上げです。
意識を失って脱力すれば、筋肉もゆるみますので異物が取れる可能性が高くなっていると考えられます。
だからこそ、臥位にして胸部突き上げを中心としたCPRを。
それでも取れなければ、埒が明きませんので、CPRを中断して、公衆電話に走るか携帯で119番しますが、その時間の目安はCPRを5サイクルもしくは2分間行った後、とされています。
米国ガイドライン(AHAガイドライン2010)では上記のように教えていますが、日本版ガイドライン(JRCガイドライン)では、通報が優先とされていますので、その点もインストラクターは把握しておいたほうがいいでしょう。