ACLS Experienced Providerの略で、日本語にするとACLS熟練提供者コースといった感じでしょうか。
このコースを日本で展開していたのは、もともとは日本ACLS協会だけでした。ガイドライン2005時代からいち早く開催していました。
それに加えて去年に香港で開催されたガイドライン2010ロールアウトに参加した、日本医療教授システム学会と日本循環器学会が、それぞれ去年の9月と今年の1月から国内展開をはじめています。
ACLS EPコースを修了すると、ACLS Experienced Providerカードが発行されますが、おもしろいことに、ACLSプロバイダーカードが同時発行される場合があります。
現時点、日本ACLS協会と日本循環器学会で受講するとカード2枚の発行されるようです。
そして日本医療教授システム学会での受講だとACLS EPカード1枚のみの発行が標準のようです。
この違いについて調べてみました。
実は普通にACLS EPインストラクターマニュアルを見ても、カードを2枚発行できるよ〜、とはダイレクトには書かれていません。
それらしい文章といえば、1ページの【コースの内容と目的】にある次の一文です。
コースディレクターは、以下の2つの観点からACLS EPコースに取り組むことができる。
1.ACLSリニューアルの代替方法。(以下省略)
さらに続く2ページに【受講対象者】ということで、「このコースは、重要な意思決定法を用いてプロバイダー資格の更新を望む、経験豊富なACLSプロバイダーのために考案されている」と書かれています。
このことからACLS EPコースを受講することで、ACLSプロバイダー資格の更新ができる、つまりACLSプロバイダーカードが新しい日付で発行されるというロジックになります。
もっともACLS EPカード自体に、ACLSプロバイダー資格が内包されるのだという解釈もできますが、資格社会の米国、ACLSプロバイダー資格が要件として求めらているのに、EPカードでもいいでしょ? というのは、AHAの勝手な言い分であって、社会的にはEPはACLSプロバイダーほどは認知されていないという事情もあるのかもしれません。
ACLS EPコースの中には、ACLSプロバイダーコースと全く同じ実技試験と筆記試験が課されています。
そういった意味では、ACLS EPコースとはいえ、試験によって測られるゴール設定は、ACLSプロバイダーコースと何ら変わりません。だからこそ、「ACLSリニューアルの代替方法」としても定義されているわけですね。
ですから、ACLSプロバイダーカードが発行されるのは自然なこととも言えますが、コース内の学習内容としてはACLSプロバイダーコースの内容が含まれているわけではなく、「ACLSプロバイダーコースを履修したとは言えないから、カードが発行されるのはおかしい」、という意見もあります。
となると、もともとACLSプロバイダーコース規定中で、ACLSプロバイダーカードが発行されるための要件がどう定義されているのかを確認する必要がありそうです。
そこで見るべきは、ACLSインストラクターマニュアルの38ページ【カードの発行】です。
コース修了カードを受け取る資格があると認められ、以下の条件を満たす受講者には、コース修了カードを発行する。
・コース「全体」に参加している(フルコース)
・CPRおよびAEDスキル、バッグマスク換気スキル、およびメガコードスキルの各テストに合格している
・84%以上の正解率で筆記テストに合格している
コース全体に参加している、という要件がフルコースに限定されていることに注目してください。
逆に言うと、フルコース以外、つまり資格更新のためのリニューアルコースとしては、コースに参加することは要件になっていないのです。
この点が詳しくはACLSインストラクターマニュアル7ページの【受講の要件】のところに詳しく説明されています。
要約すると、
1.初めて受講する人はフルコースを受講して試験に合格することが求められている。
2.ACLSアップデートコースは、現在有効なACLS-P資格がない人でも受講できるが、試験一発合格が求められる
3.ACLSアップデートコースは、有効なACLS-P資格があれば、クラスを受講せずに、試験のみを受験できる
と書かれています。
肝心な部分だけ、引用しておきますね。
「ACLSアップデートコースを受講する受講者(現在のACLSカードを所有していること)は、インストラクターの裁量により、クラスを受講せずに必要なテスト(「テストアウト」)を受験することができる」
これが恐らくACLS EPコースでACLSプロバイダーカードも併せて発行される根拠になっていると思われます。
ACLS EPコースでは、明確にはACLS-Pカードの発行は規定されていないものの、ACLSプロバイダーコースのアップデート(リニューアル)要件に合致しているという考え方です。
つまり、ACLS EPコースを受講することでACLSプロバイダーカードも発行されるのは、不正行為でも偽装でもなく、根拠のある正当な措置です。
ただし、これはACLSインストラクターマニュアルに準拠するなら、「インストラクターの裁量により」行われる措置です。
つまり、ACLS-Pカードを発行しないというのもまた正当なことと言えます。
これが、日本ACLS協会及び日本循環器学会と、日本医療教授システム学会でスタンスが違う理由なのでしょう。
大事なことは、AHA的にはどちらも正当であり、この違いを受講者がどう判断して、どこで受講するかを判断するのは単なる市場原理の話である、という点です。
そこを踏まえて、受講者の利便(学会提出にはACLS EPではなく、ACLSプロバイダーカードが求められている、等)を考慮して、トレーニングセンターが、どう運営していくか、ということですよね。
ACLS EPカードには、ACLSプロバイダーカードの意味も内包されているという事実を広く業界に通知して、EPカードの価値を認知させていくというのも手だと思います。
日本ではまだ固まっていないACLS EPコースの意義と位置づけを定義していくのも先駆者たちの使命なんじゃないでしょうか?
ただ一点、最後に指摘しておきたいのは、G2005の時代に行われていたメガチャットと呼ばれるメガコード試験は、少なくともG2010のインストラクターマニュアルには含まれていないことは明記しておきます。
ACLS EPコース開催の必要物品として、モニター付き除細動器や心電図シミュレーター、挿管できるマネキンなどが記載されています。(任意とは記されていません)
ACLSリニューアルの条件を満たすためには、ACLSプロバイダーコースと同じ条件で実技試験を行う必要があり、実運動なしの口頭試問的なメガコード試験で済ませていい根拠は私には見いだせません。(G2010の今でもそうやっているのかは定かではありませんが)