2013年10月06日

心肺蘇生法において学校の先生は「一般市民」じゃない

昨日もブログで取り上げましたが、小学校での心停止事例で、AEDを持ってきたのに使わなかったということで遺族が訴えを起こしています。

AED使わず学校で小5死亡、両親が市を提訴

 長岡市内の市立小学校で2010年10月、小学5年の次男(当時11歳)を亡くした両親が、「学校がAED(自動体外式除細動器)を使用すれば助かった」として、長岡市を相手取り、9186万円の損害賠償などを求める訴訟を新潟地裁長岡支部に起こした。
 訴状によると、男児は同月20日、昼休みにサッカーをするために校庭に出ようとしたところ、校舎の通路で左胸を押さえるように倒れた。教諭や校長が駆けつけ、人工呼吸や心臓マッサージなどで心肺蘇生を行った。倒れてから4分後、1人の教諭が校内に備え付けてあったAEDを持ってきたが、誰も使用しなかった。児童はその後病院に搬送されたが、約4時間後に死亡した。
 校長らは、事故の4か月前にAEDの使用法について救急講習会で受けていたという。両親は、AEDを使わなかったのは「故意、重過失による作為義務違反」と主張している。



このニュースを巡って、ネット上ではあれこれ意見が飛び交っています。

その主流を占めるのが、医療者以外が心肺蘇生をやってくれたならそれで十分。訴えるなんてケシカラン! 的な意見。

医療者などからも、せっかくここまで蘇生法やAEDが広まったのに迷惑な話、みたいな意見もかなり出ています。


でも私はそうは思いません。

みんな勘違いしているのは、学校の教職員が一般市民だと思っているところです。

違うでしょ?

見ず知らずの人を博愛精神で助けてあげましょうね、というのが市民にとっての心肺蘇生法です。

学校の先生たちは子どもたちを守る責任の下、業務の中で救護活動を行うんです。つまりプロとして救命する、しなくちゃいけない立場。

通りすがりの知らない人を助けるバイスタンダーCPRとはわけが違います。

ですから、そこには責任がついてきて当たり前。

記事によると「1人の教諭が校内に備え付けてあったAEDを持ってきたが、誰も使用しなかった」とあります。

この「使用しなかった」というのを額面どおり読んで「AEDの装着をしなかった」と理解するなら、心肺蘇生法のセオリーに反する行動であり、なぜ? を問われるのは当然です。

AEDを使えば助かったのかどうかは、わかりません。

でも、すくなくとも装着すべきAEDを装着しなかったのなら、そこに「なぜ?」が問われるのは当然でしょう。AEDがなかったのではなく、現場に持ってきていたのです。なのになぜ装着しなかったのか? もし装着しない理由があったのなら、それは明らかにされるべきです。

現行の蘇生ガイドラインに照らしても、適切な行動ではない。そこに疑問を感じるのは当然でしょう。訴えを起こしたその両親の行動を私は非難しませんし、むしろ支持します。訴訟の目的は事実を明らかにするため、そんなふうに私は理解しました。


今回の騒動が、市民向け蘇生法やAEDの普及に悪影響を与えるとか、真面目な顔で語るBLSインストラクターがいたら、私はその指導員の理解と認識を疑います。

一般市民の責任のない善意の行動の結果は免責される。それはこれからも変わりません。

もちろんどんな馬鹿げた理由であれ、誰でも訴える自由はあります。ですから、どんな正当なことでも訴えられるリスクはあります。でもそれを言ったら普通に道を歩いているだけでも訴えられるのと同じですよね。

今回は学校教職員という責任ある立場の人が、適正な行動をしなかった(新聞報道を見る限りの理解で)と言う点で、業務上の責任の話。市民の善意の蘇生行為へ影響を与えるものではありません。


第一、現行のJRC日本版蘇生ガイドライン2010を見ても、学校教職員は医療者と同じ小児一次救命処置(PBLS)を習得するべきと書かれています。そこをみても最初から一般市民とは区別されているんです、学校の先生たちは。

別の視点でみても、AEDを使う気満々の学校教職員は「一定頻度者」。であれば、そもそも市民向けの普通救命講習Iの受講じゃダメ。AED使用に関して4条件を満たさないと医師法違反を問われる立場なんです。そんなところでも一般市民じゃないことは明白。

くれぐれも冷静な判断を希望します。





posted by めっつぇんばーむ at 00:01 | Comment(3) | TrackBack(0) | PALS/PEARS/小児
この記事へのコメント
はじめまして。
不勉強故か、教員が一定頻度者に相当する事を示唆する記述がガイドラインに掲載されているとのご指摘、今まで気づきませんでした。手元のテキストを当たりましたが見つけられずにおります。お手数をおかけしてあいすみませんが、ページ数をお示しいただけませんでしょうか。
何卒、よろしくお願い致します。
Posted by 石倉良浩 at 2016年11月08日 01:06
石倉様、ブログの本文を今一度見ていただきたいのですが、ガイドライン2010に書かれているのは保育士や小学校の教員などは、一般市民とは違って医療者と同じPBLSの習得が望ましいということで、「一定頻度者」云々の文脈は別の話です。

ガイドライン中に一定頻度者という言葉が使われているのを見た記憶は私もありません。

一定頻度者とはなにかという定義は総務省消防庁も示していないかと思います。ただ、多くの自治体の救命講習の案内の中では、一定頻度者に教員が含まれるという認識を示しているところが多いのも事実です。
Posted by めっつぇんばーむ at 2016年11月10日 18:43
お二人の方から2016年11月の日付でご質問を頂いていました事に本日まで気づかず来てしまいました。
大変申し訳ありません。
本日たまたまその事に気づいて、遅まきながらご返答を試みます、石倉です。

 ご質問の元になっている自分の投稿が何処にあるのか、手元のスマホからは確認できず、また、12月より悪性リンパ腫の闘病に入ってしまい、当時は疾患理解と対処法の情報検索に力を傾けてしまい、その他の記憶は、ほぼ飛んでしまっております。
 無責任なお返事になりますが、何卒ご容赦下さい。

 今自分の机の手近な資料を見て見つけたのは、へるす出版から発行されております、改訂5版 救急蘇生法の指針2015 市民用解説編 監修/日本救急財団救急蘇生法委員会 の、W普及・教育k方策 P75  表1 到達目標に応じたBLS講習の区分 の中に、一定頻度者講習という区分があります。ここに次のように記されております。

目的 公共スペースなどでBLSの中心的役割を担う者の養成

主な対象:一定頻度で心停止に遭遇する可能性の高い者(例 教員、スポーツトレーナー、公共交通機関のスタッフ)

この表の記述から、救急蘇生法の指針2015 市民用解説編が冒頭で、ガイドライン2015に準拠していると書いているために、原典であるガイドライン2015をきちんと確認せずに、ガイドラインに記載があると発言してしまっていた可能性があると思います。

お騒がせした上、1年近くに及ぶお返事の遅れ、更に責任ある回答を出来ていないとご無礼極りない状況ですが、何卒お許しください。
石倉良浩

Posted by 石倉良浩 at 2017年08月28日 00:06
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