今日から3日間開催されている日本医療教授システム学会総会に参加しての感想をいくつか。
この学会に参加すると、BLSとかACLSとか、そんな医療シミュレーション教育の最新トレンドに触れることができるわけですが、BLSとかACLSなどの心停止後の対応と教育をどうするか、については、いまさら議論されることはない「常識」になりました。
去年もそれは感じたのですが、去年は、最先端の人たちの考えと現場での若干の温度差は感じたのですが、今年の印象は、BLSはもう問題ではなくなったような印象を受けました。
ことにAHAのBLS教育が果たす役割は終わったのかなという印象。
とあるAHAコースを中心に展開する団体から、AHA−BLSコースの受講者へのアンケート調査を元にした発表があったのですが、フロアからの質問は、AHA-BLSではなく、病院の現任教育として1時間でできるBLSプログラムについてアドバイスをほしいという内容。
かつてはAHA-BLSコースが、医療者向けBLS教育のロールモデルだったわけですが、今ではそれを追いかけるという風潮はほぼ消えて、より今の日本の現場教育に合わせたAHAとは別の教育手法を追求しているという図式がはっきりと見えました。
ヘタすると1日がかりのAHA-BLS講習。あれを病院の研修プログラムに取り入れるのは非現実的。私たちはマネキン対受講者比を1:1にしてますから、4時間弱で終わりますが、それでも勤務時間内に行う研修としては長すぎ!
考えてみれば、あそこまでの対応は現場では求められていません。
特に小児や乳児の部分が必要な病院職員はそれほど多くないはずです。一般的な医療者に必要なのは成人のCPRとバッグマスク換気程度なもの。
一般的な医療者の急変対応教育を考えたら、サクッと教えられる成人のBLSだけで十分、というのも分かる話。
かつてはBLSの教育メソッドも確立していなくて、どの医療機関でもAHA-BLSを参考に試行錯誤していたからこそ、学会の演題でもよく取り上げられていましたが、今や問題意識のある施設はとっくにBLS教育は確立していて、いまさら学会でそんな問題を取り上げる人はいなくなりました。
そんな時代だからこそ、ロールモデルとしてのAHA−BLSの存在意義も変わってきているというか、今求められているのは、ブランドより、実際に自分の施設でできること、なんですよね。
私も自分でトレーニングサイトを運営しているから分かります。
HA-BLSコースの参加者は減少の一途。いまでもかろうじて受けに来てくれるのは、苦手意識の多い若いナースか、上級嗜好の市民救助者の方。再受講で来るという方はそれほど多くありません。
BLSは確かに大切だけど、AHA-BLSでその必要は満たされるわけではないこととか、わかるんでしょうね。特にG2010になってから、教材が簡素化されて、魅力的な部分はなくなっちゃいました。
こんな時代、AHA-BLSの再受講を望むのは意味があることなのかな?
受講者もそれなりに涵養されて、本当に必要な教育とそうでないものを弁別する力がついてきているという解釈。私ならそう考えます。
別の発表で、受講者は受講料の値段で判断しているわけではないという話もありました。
そもそもAHA-BLSで本当にいいのか? そんな本質的なところに疑問を感じての受講者数減少、な気がします。
かつて、医療者のBLSといえばAHA-BLSしかなかったけど、今は医療機関ごとの院内BLSも充実してきて、質が上がってきている。もしかするとAHA-BLSより実践的で短時間のプログラムも増えてきているはず。
そんなところをBLSインストラクターは自覚していく必要があるでしょう。
いずれにしても早かれ遅かれ、日本でAHAの教育は廃れます。
日本には日本版ガイドラインがあるのですから。問題は日本版ガイドライン準拠の教育を行う人がいないというだけ。これが院内教育の充実によって解消される日が来るはず。
AHAインストラクターは、日本におけるその不的確さを自覚して、日本に必要な物は何なのか、プライドを捨てて見つめなおす必要がでてくるでしょう。
そんな時代の流れを感じた日本医療教授システム学会総会初日でした。
2013年03月07日
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個人的にPALSは受けようと思っていますが、いまだにテキストが2005のまま。今受けたら勿体無い。2010翻訳が出てから受けようかしら。
でも、せっかくインストラクターコースまで進んだのにもったいない。AHAの教材設計に触れることで、ICLSを始めとしたインストラクションの基本的な考え方とか、教材設計の原理を学ぶことができるのでBLSインストラクターとしての活動は意味があると思いますよ。教える中身、コンテンツはどうしもようないですけど。
数年前、amazonが東京国税局から140億円の追徴課税を受けたという報道がありましたが、その後、日米2国間協議の結果、amazonは日本に税金(法人税、消費税?)を納めていないみたい。
よく調べてみたらPE(恒久的施設)というのが問題らしくて、amazonは倉庫も発送も日本からだから、日本国での納税義務はあるはず。
国税局に指摘されてマスコミにも載ったけど、結局は日本の国税局が負けたというわけ。
PEといえば、amazonどころかAHAだって日本国に対して税金を払っていない!
AHAのテキスト(書籍)は日本で印刷製本して、日本の倉庫からディストリビューターを介して書店に出荷しているから、これは輸入ではなく完璧なPE。
AHAのアジア担当者(LK氏)は、AHAが日本国に対して消費税も法人税も納めていないことを認識しているけど、PEなんて知らないみたい。AHAの書籍の累計売上額は数十億円(定価ベース計算)と予想できるから、消費税だけでも相当な金額。
amazonにしてもAHAにしても、わが日本は法はあれども手出しできず、では何をかいわんや、です。
これで、もしも日本がTPPに参加したらと思うと、絶望的になってきませんか?
国税庁のPEに関する見解は
http://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2881.htm
この税金の問題は考えたことなかったですね。日頃、AHAの収入源はテキストだから、ちゃんと買ってね的なことは言っていますが。
販売価格に消費税が上乗せされていますが、払われてないんですか? 知らなかった。あの本の印税がどうやって米国AHAに上がっているのか、仕組みもよくわかっていません。
昔から監訳だってノーギャラ。AHAの招待で米国に行ったことはありますが、私はAHAから直接お金を受け取ったことはないです。日本でのお金の動き、謎ですねぇ。
ざっくり計算して、ACLS・BLS・PALSなどの受講者を毎年10万人として、テキストの平均価格を5000円とすると、年間で5億円の売り上げ。出版社の人に聞いたところ原価は約30%が一般的。AHAからディストリビューターに定価の50%で卸したとすると、AHAの利益は約20%で1億円。これが10年で10億円という計算です。amazonへは、通常は70%で卸すみたいだから、AHAの利益はもっと増えるでしょう。
JRCがAHAのITOとして契約したのが2003年。AEDが一般人にも使えるようになり、爆発的に普及し始めたのが2004年。
いまでは全国に30万台以上が設置されていて、1台30万円とすれば約1000億円! AHAとAEDメーカーとの直接的な利害関係はないだろうけど、AHAの活動は寄付金で成り立っていることを考えれば、背景が見えてきます。
日本で利益を上げながら税金は納めない。
監訳料を払わなくても、誰も文句は言わない。
やりたい放題がまかり通っていても、
それでもやっぱりAHAのお墨付きを欲しがる日本人。
院内教育におけるBLSの位置づけに疑問がある中で、上司からは『受講者数の増加』を課題とされています。
このブログをみて納得させられました。医療教授システム学会への参加ができなかったので、現在のシミュレーション教育の論調がどうなっているかがわからないのですが、BLSの教育システムは洗練されているかもしれませんが、院内教育向きではなく、ツールとしてどう活用していくか模索中です。
まだまだ若輩ではありますが、是非一度お話をさせていただき、教授いただきたいものです。