BLSもACLSもPALSも、それを学ぶ目的は急変対応できるようになること。おそらく否定の声は上がらないと思います。
じゃ、AHA公認講習であるそういった標準化コースを受講すれば、急変対応ができるようになるのか?
受講する前と受講した後を比べると、知識や技術、意識に雲泥の差はあるとは思います。しかし、それが急変対応というパフォーマンスに直結するものか、と考えた時にいかがでしょうか?
特に今開催されているAHAガイドライン2010版のBLSヘルスケアプロバイダーコースを思い出してもらうと話が早いと思いますが、ひたすら技術練習を繰り返したところで、それはあくまで講習会場で心停止を前提にしたマネキン相手の練習。
そこでパーフェクトにできても、リアルな現場でその通りにできるかと言われたら、一抹の不安を覚える人が多いのではないでしょうか?
たまに講習会が終わった後に受講者さんから質問されます。
「これでホントにできるようになるんですかね? いまいち自信がないんですが、、、」
それはきっと正直な思いなんだと思います。
私は答えます。「現実は違いますよ。これはあくまでも理想的な環境を整えて行なった基本形の練習。これをどう現場で応用するかが次の課題です。これは入口にすぎないんです」と。
高度と思われているACLSやPALSでも、この点は同じです。
コース設計的にリアルさは求められていない。臨床云々のまえにまず抑えておくべき基本中の基本ということで、あくまでもパフォーマンスではなく、タスク・トレーニングの域といえます。
だって、ACLSのメガコードシナリオを見ても、なんなの? この滅茶苦茶な展開!って感じしません? つまりあれで求められているのは、複数のアルゴリズムをページを捲るように使い分けていくことができるか、ということなんです。
だからそこにヘンなリアルさを求めるのはナンセンス。実臨床以前の話なのです。
ということで、ACLSを学生のうちに受講するのが早いとは思わないし、1年目のナースが「私なんかまだまだ」と思うようなものではない。
本当に必要なのはACLSプロバイダーのライセンスカードをもらうことではなく、そこで身につけたスキルと、実臨床のパフォーマンスの間にある溝に気づいて、それを埋める努力をすること。
これは講習会場でAHA公認インストラクターが介入できる問題ではありません。
受講者が、職場などパフォーマンスを発揮スべき場面での自分の立場や役割、環境に合わせてアレンジしていかなくてはいけない部分。
端的に言うと、講習会場で身につけたスキルは、実際の現場でシミュレーションとして模擬訓練を行なわないと、発揮できないということです。
そして、それをできるのは職場単位でしかない。
だから、ホントは病院ごと、また部署ごとに避難訓練の如く、急変シミュレーションをやってみないといけないわけです。
逆にいうと、本当に必要な急変対応訓練は、現場でのシミュレーションであって、それを成り立たせるためにはスタッフ全員が標準的な(理想的な)二次救命を知らなければお話にならない。そこでAHA-BLSやACLSの存在意義があるのです。
現場では、家族への対応や同室者への配慮とか、いろんな複雑なファクターが入るために、視点の置き方も含めて話がまとまりにくい。そこで共通認識、共通理解を持っておく必要があり、それが例えばAHA講習。
だからそこがはじまりであり、入口を揃える基礎にすぎないのです。
そういった意味では、本当はナースで言うなら病院ごとの教育室とか、教育担当部門が頑張るべきところなんですけどね。
公認インストラクターとしてACLSインストラクター資格を持っていても、公認講習を行うだけでは不十分で、現場ならではのリアルな研修を設計する、それがナースのACLSインストラクターに求められている大事な役割なんだと思っています。