約1週間前に取り上げた通り、ガイドライン2010版のAHAハートセイバーAED講習では、AEDの操作法指導が大幅に簡略化されました。
かつては、安全確認を口酸っぱく教え、パッドを貼る位置、胸毛が濃い場合やペースメーカーが入っている場合など、「特殊な状況」も欠かさず説明していましたが、G2010版で教えるのは下記の2点だけです。
1.電源スイッチを入れる
2.音声指示に従う
実技試験の評価表に含まれているのは、AEDが到着したらすぐに電源スイッチを入れたかどうかだけです。そこでテストは終了。安全確認をしたかどうか、パッドの位置が適切かどうかは問われないのです。
ガイドライン2010時代になっても、日本の消防や赤十字の市民向けプログラムでは、引き続き安全確認や胸毛やペースメーカーといった特殊な例の説明を必ず入れているはず。
さて、レベルが高いと思われているAHA講習がこんなにまで簡略化されてしまって、私たちはどう理解したらいいのでしょう? 特に市民からの質問の矢面に立つインストラクターには切実な問題。
結論から言いますと、これは否定的なニュアンスを持った簡略化ではなく、原点回帰ならびに改善です。
どうしてかというと、逆にこれまでの教え方がAEDの性質を考えた時に適切ではなかったのです。
AEDは操作法を暗記して使うような器械なのか?
違いますよね。AEDは練習せず誰でも使えます。そういう設計になっていますし、法律的にも誰が使ってもOK。だから駅や公共の場で誰でも手が届くところに置いてあるわけです。
ですから、AED操作で一番大事なことは、音声指示をよく聞いて、従うこと。
機種によってメッセージと細かい操作手順は違うわけですから、講習会で特定機種の使い方を丸暗記して習熟したところで、それはAED操作習得の本質ではありません。
どんな機種でも使えるようにするためには、「音声指示をよく聞いてそれに従う」という態度を涵養することが、AED講習の本来のあり方なのです。
教えすぎると、手順を覚えてしまい、肝心の「聞く」という態度がスポイルされてしまいます。
だから、丁寧に教えれば教えるほど、かえって逆効果。
そんな反省を踏まえて、G2010のAHA市民向け講習では、本来のAED講習のあり方に原点回帰したわけです。
AHAの一般市民向けファミリー&フレンズCPR講習のビデオの中でも言い切っています。
「AEDはとても簡単です。練習の必要がありません」と。
AHAのハートセイバーAEDコースといえば、ガイドライン2000時代に日本の市民向けAED講習220分のカリキュラムを作るときに、たたき台(というより模倣)にしたことでよく知られています。
つまり日本のAED講習はAHAのハートセイバーAEDから始まっているのですが、その日本を先行しているプログラムでのこの大幅な方向転換。
日本はどう追いついていくんでしょうね。
恐らくAHAのこの方向転換の事実、BLSインストラクターの中でも気づいている人は少ないはず。(ヘルスケアプロバイダーコースでは従来通りのママですから)
常に救命講習の先端を行くAHAインストラクターはぜひ、このAED講習のあり方の変化についてきちんと自分の中で咀嚼している必要があるでしょう。
2012年11月19日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック