・ACLSプロバイダーマニュアル G2010
・AHAガイドライン2010
・ファミリー&フレンズCPR G2010
今回の目玉は、なんといっても「ファミリー&フレンズCPR」(FF-CPR)でしょう。
ご存じない方も多いかもしれませんが、FF-CPRはアメリカ心臓協会の"一般"市民向け心肺蘇生法プログラムです。
AHAの市民向けというとハートセイバーAEDが知られていますが、HS-AEDは一般市民向け、ではありません。正しくは、「応召義務のある」市民向けで、ホントの意味での一般市民向け講習Family & Friends CPRは、これまで日本には導入されていませんでした。
つまり今回のファミリー&フレンズCPRは、日本では初上陸、なのです。
しかもG2010になって、AHA史上の大革命。なんと、AHAインストラクター資格がなくても、FF-CPRのDVDを使って誰でも講習会を開催できるようになりました!
これまでは、BLSインストラクターかハートセイバーインストラクターが、トレーニングセンターと提携したAHA公認コースとしてしか開催が認められていませんでしたが、G2010からは大幅路線変更。
ファシリテーターガイド(現時点英語版のみ$29-90。やがて日本語化予定)を購入すれば、DVDが付属していて、誰でもファミリー&フレンズCPRコースを開催できます。
◆アメリカ心臓協会のファミリー&フレンズCPRとは
日本ではAHA講習というとBLSヘルスケアプロバイダーコースとかACLSとか、受講料が何万円もかかる医師・看護師向けの専門講習のイメージが強いかもしれませんが、米国のAHAはそんなお高くとまった団体ではありません。プロにはプロ向けの本格的な教育を、そして救命の連鎖の裾野を広げるために、市民には無料もしくは最低限の実費で良質のプログラムを提供しています。
その代表がこのファミリー&フレンズCPR。(他に「子どもファーストエイド編」もあります)
無料講習といってもその内容は世界に認められたAHAクォリティ。ビデオ教材のできばえや、インストラクショナル・デザインに裏打ちされた内容。すばらしいです。
日本では、受講料と講習時間、専門的過ぎる内容から、一般市民がAHAクォリティの恩恵にあずかるチャンスは皆無でしたが、ファミリー&フレンズCPRが公式日本語化されることで、消防や日赤が中心だった市民向け蘇生教育の世界に一石を投じることになりそうです。
◆FF-CPRの内容
他のAHA講習プログラムと同じで、ビデオ教材を使って、画面を見ながら練習するスタイルです。3つのモジュールに分かれていて、成人、小児(1歳〜思春期)、乳児(1歳未満)。
私は日ごろ成人編のみを使うことが多いですが、3つ全部やってもいいし、小児や乳児だけを教えることも可能です。
各モジュールの構成は、お父さんが倒れた、赤ちゃんがぐったりしているという救助場面の再現ビデオ(?)から始まって、受講者のモチベーションへの働きかけが工夫されています。
説明はきわめてシンプル。しかし、胸骨圧迫の仕組みや、胸や腹を押すことで窒息解除ができる仕組みなど、コンピュータグラフィックスを駆使した説明がとてもわかりやすいです。
実技練習は、AHAがG2005で開発したPWW(practice while watching)という"見ながら練習"。これはBLS-HCPなどで日本でもすっかりお馴染みのやり方。
日本のトラディショナルな講習スタイルしか知らない市民の方には、かなり新鮮に映るかも。
長々と説明せずに、モチベーションを揚げて、さっさと練習をさせるという成人学習理論に基づいた構成はG2005ゆずり。なぜかHCP-G2010では捨ててしまったスタイルですが、FF-CPRではしっかり残っています。
映像教材でモチベーションをあげて、すぐに"見ながら練習"。実際にやってみるとサクサク気持ちよく進んでいきます。公式な所要時間は25分。それでいて、練習量や後に残る実感はずっしりとあるから不思議。
今回のガイドライン改訂では、CPRに着手してもらうこと、実際に出来ることを無理なくやってもらうという実行性(implementation)が最大のテーマになっていますが、FF-CPRもその流れに乗り、成人編では、人工呼吸は教えないハンズオンリーCPR Hands Only CPR となっています。
小児編では、呼吸原性心停止ないしはショック性心停止ということで、口対口人工呼吸練習が盛り込まれています。乳児編もしかり。自分の口で赤ちゃんの口と鼻を覆い、呼気を吹き込む練習が入ります。
◆AHA-BLSインストラクターに与えるインパクト
このファミリー&フレンズCPR完全日本語化はAHA-BLSインストラクターにとっても朗報です。AHAインストラクターはビデオ教材があってなんぼのもの。勤務先病院とか地元ボランティアで心肺蘇生法を教えようと思ってもHCPやハートセイバーのビデオを流用して教えていいのかとか、悩みは多かったはず。その点、FF-CPRは必ずしもトレーニングセンターとの提携しなくても開催できますし、堂々とAHAインストラクターとして名乗って開催してもいいでしょうし。
BLSインストラクターが有料の職業人向けAHAコース以外で、堂々とインストラクター活動ができるようになるというのは、遅ればせながら日本では画期的なことです。
これまで日本のITCやトレーニングサイトは、万単位の受講料を取る営利団体とも思われかねないような活動しかできていませんでしたが、このFF-CPRが日本語化されれば、ほんとの意味で地域貢献ができるようになります。
心肺蘇生法を勉強したいと市民が思ったときに、AHAトレーニングサイト、と真っ先にイメージしてくれるようになったらうれしいですよね。現時点、市民の間でAHAなんて認知度ゼロですから(笑)
◆日本の市民向け講習に与えるインパクト
G2010のFF-CPRのすごいところは、AHAインストラクター以外でも開催できるようになった点。つまり、消防の普通救命講習の教材としてFF-CPRのDVDを使うことも可能ですし、職場のちょっとした勉強会とか、地域ボランティアのネタとしても、誰でも使えるのです。
もともとAHA講習は、インストラクターの質の良し悪しに拠らず、一定品質の講習が提供できることを目指してビデオ教材を開発、工夫を重ねてきました。
このFF-CPRのビデオは、画面の中でインストラクターが解説をし、デモンストレーションをし、見ながら練習(PWW:practice while watching)で受講者はビデオを見ながら自己練習を行ないます。
つまり、インストラクターの指導や介在がなくても講習展開できるように工夫されているのです。
これがFF-CPRを誰でも開催できる仕組みです。
厳密にいうと、AHAインストラクターがFF-CPR講習を開催する場合は「インストラクション」で、nonインストラクターが開催する場合は、「ファシリテーション」という表現を使って区別されています。まあ、そんなのはどうでもいいのですが、いちおう建前として書いておきます。
心肺蘇生法講習を主催したことある人は、よくご存知と思いますが、みんなの前で説明したり、練習の流れを作って人を誘導して、というのが難しいです。
それをビデオ教材を使うことで、流れは勝手に出来て、説明も必要なことは全部伝えてくれる、ということで超楽チンになります。マネキンを用意して人を集めてビデオを見せて自己練習してもらう場を作る、それだけなんです。
知識やスキルがある人は、オプションとして説明や練習を加えたりすることで、大きく発展させられます。余計なことが含まれず、シンプルにプレーンな内容なだけに工夫次第でホントに使い道があります。
特に小児や乳児の蘇生法って教えたことがある人が少なくて、他の指導員資格を持っている人でも自信がないという人が多いと思います。そんなところでもこのDVDが大きな効果を上げるんじゃないかなと思います。
ただ、残念なことにAHA版ガイドライン2010準拠のFF-CPRは、小児の部分では日本版ガイドラインとの差異が若干あります。
また成人にしても、正式なカリキュラム中には人工呼吸とAED練習が含まれていないため、普通救命講習として開催するのは、+αの工夫が必要だったりします。それでも、これまでは1万8千円近くを払わなければ見ることができなかった、蘇生科学の権威AHAの教材に市民が誰でも触れることができる恩恵はあまりあると思います。
これを刺激に、日本の救命講習のスタイルも少しは変わってくるといいのになと期待しています。
いつも、勉強になると思いながら拝読しています。
お話しにあるFF-CPRはしばらくは受講者マニュアル先行での発売になるのでしょうか。
シェパードのオンラインショップでは受講者マニュアルの予約発売しか見つけきれなかったです。ぜひとも、FF-CPRのファカルティガイドを見てみたく思うのですが…。
さて、ファシリテーターガイドですが、DVDの吹き替え版が付属するはずなので準備が遅れているのだと思います。ACLSのDVDが8月という話ですので、このあたり、もしくはそれ以降のリリースになるのではないかと思います。
また情報が入ったらTwitterとかブログでお知らせします。
看護師のマミューと申します。
記事を楽しく読ませて頂いています。
ところで、記事の中で気になるところがあったので、
いきなり失礼かとは思いましたが、質問させてください!
HS-AEDは「応召義務のある市民向け」とありますが、
この「応召義務のある市民」というのは米国ではどのような人とのことを指すのでしょうか?
気になって仕方ありません。
よろしくお願いいたします。
スポーツ施設・公衆施設・学校・公共施設等の関係者、スポーツ指導者、公務員、警察官、消防士、消防団員、教員、養護教諭、介護ヘルパー、介護福祉士、客室乗務員、空港関係者、保安関係者、等
さっそくのお返事有難うございました。
なるほど!「応召義務のある市民」というのは、随分と範囲が広いんですね。アメリカなんで「州兵」とかのことを言うのかな?とか勝手に思っていました。勉強になりました。
「業務」と「善意」での蘇生行為の違い…。
難しいですね。確かに考えたことはありませんでした。
一般市民の蘇生行為の延長線上に、医療従事者向けの蘇生行為があるような考え方をしていましたが、お話を伺っているとそれは違いますね。
私も勉強が必要です。