3月1日から東京で開催されていた日本医療教授システム学会総会に参加してきました。
日本医療教授システム学会(JSISH)は、医療教育を考える学会。特にシミュレーション教育とかインストラクショナル・デザインといった教育のサイエンスを使って患者安全を実現していこうという趣向で展開されています。
毎年、参加していて感じるのは、発表内容のトレンドの変化。
数年前までは、病院内でBLS教育システムを構築しました、的な発表が多かった気がしますが、今はほとんど見かけず。
逆に目立つのが心停止以前の対応にフォーカスした内容。
心臓が停まってしまってからじゃ遅いので、その兆候に気づいて早く手を打とうよ、という考え方、以前もなくはなかったけど、「珍しい」感じでした。それが、いまではさも当たり前のごとく語られているのが不思議なくらい。
時代とともに考え方はすっかり心停止から、非心停止(心停止前)にシフトしてきているのを感じました。
ガイドライン2005発効当時は、BLSやACLS教育のあり方が大きなテーマで、学会でもよく語られていました。でも、その辺はもう答えが出たんでしょうね。ある意味、テクニカルスキルがやたらとフォーカスされていた時代でした。
運動スキルなんだから、つべこべ言わずに体を動かせ、的な。
それに対して、いま話題になっている急変の「気づき」と安定化は、テクニカルスキルだけでは到底太刀打ちできないまったく別のフェーズの話。
そこで出てくる教育手法が、フィードバックではなくデブリーフィング。
体験学習理論に基づいて、体験 → 失敗 → 客観的事実の抽出 → 概念化 → 次の体験へ、という一連の行動の中から、学んでいくというスタイル。
つまり、教えられない、んですよね。
学んでもらうしかない。
その学びの場を作り、方向をうまく導いていくのがファシリテーター(インストラクター)の役割。
そんな学びの構造を理解したうえで、教材設計をし、デブリーフィングやフィードバックという手法を使い分けて、学習をデザインしていく時代。
既存のインストラクター像や手法からは、かなり進んできた気がします。
考えてみればBLSにしたって、CPRというテクニカル・スキルだけでは「使えない」ということもだいぶ知られてきた気がします。ACLSしかり。
結局、テクニカル・スキルだけで構成される研修プログラムは、手技習得に特化したパーシャル・タスクに過ぎず、パフォーマンスとは直結しないんですよね。
パフォーマンス訓練は一連の「物語」の中で展開しないと効果を発揮しない。でもいきなりパフォーマンス訓練をしても、一切の行動指針がなければまったく動けず効果は期待できない。
だから、理想化された条件下での標準行動基礎訓練が必要なわけで、それがAHA-BLSやACLS。
ホントはAHA-BLS/ACLSを履修したあとは、実際に働いている病棟などなるべくリアルな状況下で、行動シミュレーションをする必要があるはずです。本来は現場でのシミュレーショントレーニングの下準備としてAHA-BLS/ACLSが存在していると言っていい気がします。(実際、米国ではそのようですし)
だから、逆説的にいうと、AHA-BLS/ACLSを受講しても役に立たなかったというのは至極あたりまえの話。
もともとBLS教育もACLSも借り物文化なわけですけど、その教育構造を含めて私たちはもっと考えたほうがよさそうです。
○○トレーニングサイトにいくらインストラクターがいても、その集団では講習会場内での満足度であるLevel 2(Kirkpatrick)しか保障できません。その先、現場でのパフォーマンスに昇華するための教育システムが日本にはないのです。
つまり、ホントにパフォーマンスを考えたら、現場にインストラクターがいなくちゃダメ。それがこの先の時代だろうと思います。
先日、Twitterで虎ノ門病院の「救急リンクナース」の取り組みについて少し書きました。6月に「週刊医学界新聞」紙に取り上げられる予定ですが、虎ノ門病院では蘇生インストラクターを各病棟に配備しているのです。
これって、今後の患者安全の取り組みとして大きな意味があると思っています。
虎ノ門病院の取り組みも途上ではありますが、大きな可能性を感じています。
今後の病院の患者安全対策には、教育学的な戦略は欠かせません。
そんな最先端を感じた医療教授システム学会。早くも来年が楽しみです。