蘇生ガイドライン2010でいちばん重要なポイントといえば、なんと言ってもimplementation(インプリメンテーション:実行性)でしょう。
(誰ですか? C-A-Bだなんて言ってるのは、、、)
蘇生行為への着手率を下げている原因はなにか?
そんな議論が世界蘇生連絡協議会ILCOR国際会議で真剣に話し合われました。
その結果は、つい先日、発売になった JRC蘇生ガイドライン2010 の"教育と普及のための方策 (Education, Implementation & Team) "の章で垣間見れます。
G2010の発表以来、私の中でもインプリメンテーション/実行性アップは一大テーマで、ずっと頭の中をぐるぐる巡っています。
講習会で教えるBLSが、講習会場でのスキル・トレーニングにとどまらず、現場で実行可能なパフォーマンスにつながらない理由はなんだろう? 指導をどう改善したら実行性が担保できるだろうか?
これは今後5年間かけて、誰もがぶち当たっていくG2010の本質的テーマだと思います。
そんなことを四六時中考えている私なりのひとつの方向性、というか仮説があります。それは次のようなもの。
「心停止の対応しか知らないと、バイスタンダーCPRの着手をためらう」
道端で倒れている人を見つけました。周囲の安全を確認してから、肩を叩き声をかけました。「大丈夫ですか?」
そうしたらうめき声を上げていて反応があった!
もしくは呼吸確認をしたら、息はちゃんとしていた。
こんなとき、BLSしか知らないと何も出来ることがない! という事態に陥りがち。
呼吸さえしていなければ、、、心臓さえ停まっていれば出来ることがあるのに、、、
心停止なんて長い人生の中でもそうそう出くわすものではありません。
心臓が停まっていない場合の対応を知らない。だから怖くて手が出せない。
そんな傾向ってないでしょうか?
特にG2000以来、BLSが爆発的に広まりました。それ自体はこの上なく善いこと。そこに疑問の余地はありません。
でも逆に心停止以外の緊急事態への意識が希薄となり、緊急時対応=心停止対応という図式になってしまい、それ以外がすっぽり抜けてしまったのが今の現状な気がします。
はっきり言ってしまえば、反応があったり呼吸があれば、超緊急事態ではありませんから、落ち着いて救急車を待てばいいというただそれだけなのですが、そんなことすらBLS講習では教えられないので、不安要素として講習受講者の潜在意識に残ってしまっているということはないでしょうか?(非心停止の場合は、ABCDEを評価し、生命危機がないことを確認しつつ応援を待つ)
そこで私がG2010のインプリメンテーション(実行性)向上を目指して進めているのが、非心停止の対応をランダムなシュミレーションとして受講者に提示する、ということです。
リトルアンなどのBLSマネキンを使った練習では、反応も呼吸もないのは当たり前。
「大丈夫ですか?」なんて呼びかける練習をしても、返事があることなんてこれっぽっちも期待していないのです。
これが予定調和で儀式的な「お作法」となる原因のひとつ。
だから、ここをあえて生体を使って(受講者同士で傷病者役と救助者役にわかれて)反応確認部分を練習することで、観念的な練習にリアルを感じてもらうことができます。
なにより、呼吸があったらどうするか? 返事があったらどうするか、をシミュレーションの中で対応し、困ってもらい、その後のディスカッションで、どう振る舞ったらいいのかを納得してもらう。
実は非心停止の対応はCPRではなく、ファーストエイドの範疇なのですが、いざというときにホントにCPRを実行してもらうためにも、半歩くらい足を踏み出してもらって知ってもらうことは意味があること。
特にBLSなんて常識、と思っている医療従事者が「反応あり」「呼吸あり」の対応を知っていれば、結果的にはバイスタンダーCPRの着手率が伸びるはず、と私は考えているのですが、皆さんはどう思われるでしょうか?
2011年11月15日
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お元気でしょうか?
救急マニアックです。
確かにめっつぇんばーむさんのおっしゃる通りだと思います。特に自分がそれを実感したのはICLSコースを受講した人がACLSコースを改めて受講した際に頻脈・徐脈ブースのシナリオを行ってもらった時。「大丈夫ですか?」の問いにインストラクターが「動悸が…」だとか、「失神しそうだ…」とか色々と神の声で話をした時に受講生が一瞬困惑した表情をするんです。ICLSのときはそのまま反応がないので呼吸や脈拍の確認にスムーズに行けたのに、喋った!!みたいな感じで。
通常、臨床現場では意識がある患者さんと関わることがほとんどのはずなのに…と思いながらその不思議な光景を目の当たりにすることがあります。特に看護師は常に医師がそばにいて指示をもらって業務をすることが多い職種。ですから心停止であればマニュアル式にスラスラ事が進むのでしょうが、判断が枝分かれする可能性のある意識や呼吸、循環がある急変症例に関しては進むべき道を自分で見出すことができず、対応に苦手意識を持つ人も多いのではないでしょうか。
また、最近になってBLSコースの自己開催を始め、「CPRの手技を知らない医療従事者はほとんどいないものの、自分の目の前で人が異常な反応を示したときにそれが本当に心肺停止状態であるのかを的確に評価する知識・技術を持ち合わせていない医療従事者が非常に多いことに気づきました。他人に判断して指示さえしてもらえばある程度の適切な手技は実践できるものの、その判断ができないために手技の開始が遅れる または実施されないパターンが多いという悲しい現実。それを回避するためにはどのような指導をコース中に取り入れるべきなのか。それが自分の今の課題です。
そのよい例としては「死戦期呼吸」と「心原性心停止を強く疑う卒倒するというのはどのようなものか」の2つです。死戦期呼吸の判断ミスは私が住んでいる県内の学校でも最近発生し、結局のところその学生さんは亡くなる結果となったことはニュースにもなりました。また、目の前で人がこのように崩れ落ちるように倒れたら必ず心停止を疑えというものを言葉に出して説明するのは非常に難しい。つまりシナリオになってしまって、リアリティーにかけてしまっているんですね。
CPRの一連の手技を身につけることは非常に重要です。しかし、もっと大切にしなければいけないことは心肺停止に陥っているという徴候を自分で的確に判断できるような知識・技術ではないかと思います。少しめっつぇんばーむさんのお話とはずれてしまうかもしれませんが、自分としては上記の内容を受講生に伝えることができるコースの提供こそが「実行性」へとつながる第一歩になるのではないかと考えます。
ご指摘の事は、以前から感じていました。私はMFAインストラクターから始まって、AHAの各種コースに入り始めました。
MFAのコースでは、心肺停止から始まるのではなく、何か問題があり、意識はないけど呼吸と脈波しっかりしている場合等、順番に練習しながら大きな問題への対処になっていきます。
まず問題に気付く。声をかけると決める。問題点を知る。自分で対応できる範囲内かどうかを知る。声をかけて安心させるといった内容から始まります。急に大きな問題から始まらず、順番に進んでいきます。
AHAのBLSヘルスケアプロバイダーコースのみを受講した事のある人にベーシックMFAを提供したとき、「ようやく理解できました!!」と喜ばれた事があります。
日本では医療関係者を中心にBLSヘルスケアプロバイダーコースの受講から始まりますが、ご存じのようにアメリカではハートセイバーファーストエイド、CPR and AEDの受講から始まってBLS-HCPに入りますから、そういった学習手順の違いも関係しているのでしょうね。