2011年11月06日

介護業界の窒息解除法から考えた【掃除機】

ちょっと前に Twitter で取り上げた話題ですが、本屋で何気なく手に取った雑誌をみて驚きました。

喉にモノが詰まったときの解除法:

1.ガーゼを巻いた指で口の中を掻き出す
2.それでダメなら掃除機のノズルを口に入れる
3.それでもダメなら背中を叩く
4.それでもダメなら腹部突き上げ法(ハイムリック法)を行う

立ち読みだけだったので一語一句はあってませんが、こんな感じ。

日ごろ、最新のエビデンスに基づいたBLSやファーストエイドを教えている者として、昔の雑誌ならいざ知らず最新情報としてこんなことを載せてしまうなんて!と驚きました。

出元は介護専門職の総合情報誌「おはよう21」10月号増刊 「急変時の対応ガイドブック」という本、というか雑誌(Mookというんでしょうか)

「急変時の対応ガイドブック」


介護界の総合情報誌ということですから、それなりに影響力のある雑誌なんでしょうね。


同誌の別のページを見ると、心肺蘇生法に関しては、日本国内では普及してないにもかかわらずきちんとG2010で紹介されています。

なんだろう? このギャップ。

これが考えるきっかけになりました。まあ、心肺蘇生と窒息解除を書いているのは別の人なので、単に私の考えすぎかもしれませんが、思うところをいくつか。



窒息解除法については、日本では昔からあれこれ言われています。

エビデンスド・ベースの国際コンセンサスで推奨されているのは、腹部突き上げ法(ハイムリック法)/胸部突き上げ法と背部叩打のふたつ。AHAでは腹部突き上げしか教えてませんが、どちらも優劣はないということになっています。

私もAHA講習で、腹部突き上げを教えていますが、受講者からの質問で、「餅も取れるんですか?」と聞かれると、「はい」とは即答できません。

つまり、肉塊など固形物を意識した欧米の窒息解除法がそのまま日本の食文化にマッチするかというと、ここに大きな問題があります。

ですから、エビデンスがないからといって、日本で俗説的に言われている窒息解除法を排除することはできないと私は考えています。

そう考えると、初めて目にしたこの介護業界標準(?)の4段階窒息解除法もそれなりに考えられたものなのではないかと思ったのです。

介護業界での食べ物による窒息といえば必ずしも固形物ではありません。むしろ刻み食など軟食や流動形のものが多いのではないでしょうか?

ご存知のとおり、ハイムリック法(腹部突き上げ法)は、腹部を圧迫することで気道内圧を上げて豆鉄砲みたいに喉に詰まった食塊を飛ばして出す手技です。流動食に対して、これがどこまで有効か? と、効果を考えると第一選択にはなりにくいことは想像に難くありません。

また腹腔内損傷のリスクを抱えたハイムリック法を第一選択にするのは、老人には厳しいかなぁ、だから背部叩打というのもまあ、妥当。

でも、効果を考えれば、やっぱり吸引?

でも、そもそも流動物で完全閉塞というのも考えにくいので、まずはかきだして量を減らせば、自発呼吸や咳で、ある程度閉塞が解除されるんじゃないか、と考えるのも分かる。

ということで、考えてみたら、4段階法は、それなりに現実を考えた方法という気がしてきました。


ただやっぱり引っかかるのは掃除機の使用。

本文中では、掃除機につける専用の吸引ノズルがあることも示唆されているのですが、その詳細が示されていないという点で、不適切なのは間違いありません。

手近な吸引機ということで、掃除機を使うことは意味がないとは言いませんが、それなりに手技は難しいです。そもそもノズルが口に入る径なのか、舌をよける工夫、陰圧を保つために鼻をつまむなど、注意すべきポイントはあり、闇雲に口に入れてうまくいく可能性がそれほど高いとは思えません。

市販の掃除機につける窒息解除用吸引ノズル


きちんと使用法を指導し、練習してこそ意味があるかもしれない掃除機を使った窒息解除。

いちばん怖いのは、窒息=掃除機、というセンセーショナルな図式が一人歩きして、ハイムリック法や背部叩打を第一選択で試みるべきときであっても、掃除機を探しに走って、救命の機を逸するという事態。

実際にこれは、報道されただけでも保育園等で発生しています。

コンセンサスを外れることを指導するのであれば、簡略化しないでもうすこしきっちりと教える責任があると思います。


日本での窒息解除法は、国際コンセンサスで推奨される方法だけでは不十分な可能性大。

本当は日本独自にエビデンスを打ち出して、きちんと体系化してくれるといいのですが。心肺蘇生法のエビデンスを出すことにやっきになっている印象がありますが、窒息解除法こそ、日本ががんばるべきところじゃないかなという気がします。




posted by めっつぇんばーむ at 09:36 | Comment(1) | TrackBack(0) | ファーストエイド(FA)
この記事へのコメント
同感です、窒息こそ誰にでも遭遇する確率が高く、日頃の訓練が必要で・・・介護専門職の総合情報誌「おはよう21」10月号増刊 「急変時の対応ガイドブック」は参考になりますし、一般の方にもお勧めしたい本ですね。
Posted by ルックアップ at 2011年12月04日 18:45
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック