2011年10月08日

[日本版ガイドライン2010] BLSコース新設、がしかし! 〜日本救急医学会

ここ数日、話題持ちきりなのが、ついに開発(?)された日本版ガイドラインに基づいた医療者向けBLSコース。

情報ソースは、日本救急医学会ICLSのホームページ。

BLSコース コース概要
http://www.icls-web.com/bls/outline.html


詳細がわかる前、最初に話を聞いたときは、「やったー」と思いました。

2010年10月の CoSTR 2010 解禁に合わせて、AHA、ERCと肩を並べてガイドライン2010日本版を発表した日本蘇生協議会JRC。

世界の蘇生科学の最前面に躍り出た日本ですが、普及レベルでは、日本版ガイドライン準拠のBLSコースを持ち合わせていないという実態、まずいよなぁと思ってました。

それが今回、満を持して日本版BLSコースの開発。そりゃ、うれしいです。

だってアメリカからの借り物のAHA BLS for Healthcare Providerコースが、日本の医療界のスタンダードだなんて、日本事情にあってないことはインストラクターとして痛感するところですから。

私も日本救急医学会のICLSインストラクター資格は持っています。

日本版BLSの制度ができて、きちんと資格認定できる体制ができるのなら、私もAHAじゃなくてそっちに乗り換えようかと半分本気で思いました。ICLSを見る限り、自由度が高くて、インストラクター判断で現場に合わせた指導ができそうだから。(この自由は諸刃の剣で教材設計の視点がないとズルズルになります)


ところがどっこい、よくよく見ると、制度としてうーん、、、という感じなのが判明。

問題1.ICLS認定ディレクターでないとコース開催ができない
問題2.1グループ6名(インストラクター1、マネキン1)まで許容されている
問題3.90分以上という時間履修主義



問題1.ICLS認定ディレクターでないとコース開催ができない

これは致命的です。せっかくBLSコースを新設したのに普及させる気まったくないでしょ? というくらいの愚作。

以前から問題とされている点ですが、ICLSコース(医療者のBLS〜ALS)を開催できるICLS認定ディレクターは医師免許を持った人しかなれません。歯科医師や看護師、救急救命士はダメ、なのです。

ただでさえやる気のあるICLSディレクターは限られ、しかも疲弊しています。

ボランティアで自分の時間を削って企画運営をして、家族からは白い目で見られ、家庭崩壊のアルゴリズム真っ只中という状況は、みなさんもよくご存知と思います。

そこへ来て、BLSコースを開催するかというと、、、、

一次救命処置BLSを教えるのに医師が必要ですか?

すべての蘇生教育コースのモデルとなったAHAは、BLSを教えるのに医師限定なんてチンケなことは言ってません。それが非現実的だとわかっているから。

参考まで、AHAが求めるBLSインストラクター(全員自己コース開催できるのが前提の資格です)の条件は、16歳以上で、BLSプロバイダーであり、ファーストエイドプロバイダーであること、だけです。


もうひとつ余談ですが、ICLSの親戚コースでDCLSという歯科に特化したBLS〜ALS(アナフィラキシー等の危機への対応含む)のコースもありますが、こちらもディレクターになれるのはICLS認定ディレクター、つまり医科の医師のみに限定されています。歯科現場の当事者であり最高責任者である歯科医師はDCLSコースを開催できないのです。せっかくすばらしいコースができたのに、歯科の中で自己完結しないため、モチベーションが上がらず、鳴かず飛ばずの状態、という点も付記しておきます。


問題2.1グループ6名(インストラクター1、マネキン1)まで許容されている

マネキン1体に対してインストラクター1名で、受講者は6名まで認める、、、

医療者向けのBLS、ですよね??

運動スキルとしてのBLSは練習量があってなんぼのもの、というのはG2005から言われているもはや定説。

修了試験が課されていない市民向けの普通救命講習(総務省消防庁)でさえ、5名までが基準なのに。

まあ、上限6名ということですから、マネキンと受講者比を1:1にしてもいいわけですけど、懐の広さは質の低さな感じも。


問題3.90分以上という時間履修主義

先ほどの1ブース6名というのとも絡んできますが、もし私がやるなら、受講者6名に対してマネキンは少なくとも3体は用意します。いつもの基準で言ったら一人1体。

それでやっても90分以上かけないと認定は出さない、というわけです。

これは消防の普通救命講習なんかも同じでいつも困っているのですが、講習の質や効率を上げて速く目標に達しても、規定時間講習会場に拘束しなければ、資格認定できないという矛盾。

時間成果主義というのは、アウトカムと直接の因果関係がない不思議な考え方。

まあ、実際の運用は柔軟にいくんでしょうけど、こういう発想を持ち込むこと事態、講習プログラムの基本設計をどう考えているのか、疑問を感じざるを得ません。

受講者6名、マネキン1体の場合の標準時間とか、してもらえばよかったのに。





そんなわけで、一時はちょっと湧き上がった日本版準拠BLSコースですが、これがAHA-BLSにとって変わるということは考えられません。

これまで台頭してきたAHAコース。そこから学ぶ点は多々あったと思うのですが、ちっとも活かされていないのが残念。

少なくとも、新たにBLSディレクター資格を新設して、その門戸をコメディカルに開かない限り、日本版ガイドラインが日本の中心になることはありえないでしょう。





posted by めっつぇんばーむ at 10:21 | Comment(1) | TrackBack(0) | AHA-BLSインストラクター
この記事へのコメント
ACLS-EPとしてICLSインストにも関わっています。
印象としてはAHAはコメディカルにも蘇生現場での
発言権を与えていますが(建設的介入)、ICLSでは
日本らしいといえばそれまでですが医師を頂点と
しているので技術のみの講習会になっています。
ICLSコースも地域差があるのかもしれませんが。
こんなところでも「医師の指示」が必要なんて
理解できません
Posted by Ruru at 2011年10月08日 17:16
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