2011年09月11日

東京消防庁の蘇生ガイドライン2010先行勉強会に行ってきました

東京消防庁主催のガイドライン2010スキルアップ講習にいってきました。

国際コンセンサス CoSTR 2010 策定にも関わっている東京医科大学の太田祥一先生の講演が第一部、東京消防庁のG2010指導法の実際と実技体験が第二部。


さすが天下の東京消防庁、内容充実で気合の入ったプログラムに満足して帰ってきました。



これから、学んだことのポイント、周辺情報、所感を書きたいと思いますが、その前に注意点がひとつ。

ここに書くことは、応急手当指導員/応急手当普及員が規定の救命講習の中で、現時点、受講者に対して話すべき内容ではありません。

新カリキュラムへの移行はまだ先(早ければ秋から冬、と)で、あくまで今回はアクティブに活動している指導員/普及員向けの先行情報。

いま受講者に余計な情報を付加することで、混乱を招くので、くれぐれも受講者にはまだG2010のことは話さないでください、と強調されました。

このページを見ている東京消防庁の応急手当指導員/応急手当普及員さんがいましたら、その点はご理解ください。

もっとも、東京消防庁特有のことはほとんどなく、JRC版ガイドライン2010(PDF:590kB)で公開されている話が中心なので、知っている人は知っている、という話ばかりです。



さて、G2010の東京消防庁式の指導ですが、基本はAHAのG2010市民講習(ハートセイバーCPR AED)と同じです。

・「乳首と乳首の間に手を置く」という指導の廃止
 ・呼吸確認に気道確保はしない
 ・呼吸確認は胸から腹の動きを5秒〜10秒で「見る」
 ・圧迫の深さは少なくとも5センチ
 ・圧迫の早さは少なくとも100回/分


「乳首と乳首の間に手を置く」という指導の廃止

今回特に強調されていたのが、胸骨圧迫の手の位置を決める方法として「乳頭間線」を目安にすることをやめたという点。

「乳首と乳首の間に手を置いて」という指導法をやめるということです。

圧迫の部位自体は変わってません。

G2005の時代から変わらず、テキスト的にいうなら、「胸の真ん中」「胸骨の下半分」。

この部位を探す目安として、これまでは「乳首と乳首の間に手を置いて」と言っていたわけですが、実際にやってみると半数近くの人が下すぎて剣状突起に当たってしまうという論文データがでたため、国際コンセンサス CoSTR 2010で非推奨になりました。

この論文というのが日本発(広島大学)なので、特に強調しているのかなと思いました。(AHAでも成人CPRからは乳頭間線の表記は消えましたが、あえて強調はされていません)

ちなみにCoSTR 2010の当該箇所は下記のとおりです。

One LOE 5 study of adult surgical patients demonstrated that if
the rescuer’s hands are placed on the internipple line, hand
deviation to or beyond the xiphisternum occurs in nearly half
the cases, sometimes into the epigastrium.
(AHA CoSTR 2010 Part 5: Adult Basic Life Support S301より)

出典論文はこちら。

Kusunoki S, Tanigawa K, Kondo T, Kawamoto M, Yuge O. Safety of
the inter-nipple line hand position landmark for chest compression.
Resuscitation. 2009;80:1175-1180.


乳頭間線という指導法をやめたとして、それじゃ、どう指導するか?

ここがいちばん気になるところですが、東京消防庁が提示したやり方は、

1.受講者に自分の胸で場所を確認してもらって位置の目安をつける
2.マネキン練習のときに手の位置の修正をする

です。マネキンの胸で手探りで胸骨の場所を探って、その下半分を見つけるというデモンストレーションの仕方は禁止されました。

根拠のない「お作法」を作りたくないというのがその理由です。


呼吸確認法の変更

呼吸確認法は、「気道確保ナシで胸から腹の動きを見るだけ」ですが、その実際を見せてもらえたのはよかったです。

指導のポイントとしては、手は両膝の上、見るときは真上から見てもわかりにくいので、ななめ横から視線を落としてみるように。時間は10秒以内と言ってましたが、事実上、5秒以上10秒で教える模様。(テキスト表記は10秒以内というだけになるのかなという微妙な言い方でした)

指導員のデモンストレーションでは、「呼吸確認、1、2、3、4、5、6、いつもどおりの呼吸ナシ!」と声に出して言ってました。

きっと指導では6秒カウントでいくのでしょう。

両膝に手を置くことは受講者に強制するようなものではないと思いますが、指導員のデモンストレーションのときは、そうするように強調されていました。

理由は、手持ち無沙汰感から、空いた手で余計なことをしてしまうから。具体的には胸の上に手をおいて触って呼吸を確認する人が出るだろうと言ってました。それを否定する必要もないけど、推奨するものでもない。だから余計なことを考えないように手は膝の上。

ここでも余計な作法が一人歩きしないように、という配慮がされていたようです。

指導員/普及員に対しては、自分が救護活動をする場合は、従来どおりの「気道確保+見て聞いて感じて」でもいいですよ、という点も付け加えていたのは好印象でしたね。


また質疑応答のところで、気道確保をしなくていいんですか? という質問への答えは、「胸骨圧迫を遅らせないためにそうなりました」というのが模範解答のようです。

そんな若干ななめ読み的な答えでいいのかなと思いましたが、今後、市民向け講習では参考にさせてもらおうと思います。

胸骨圧迫の深さと速さ

最後に胸骨圧迫の深さと速さですが、これについては具体的な指導方法の変更についての指針はありませんでした。

とにかくやってもらって、それを指導員が修正していく形での指導になるんだと思います。

最初の太田先生の話の中で、ヨーロッパ版ERCガイドラインの話(120回/分、6センチを越えない)がしっかり出てきたので、指導員/普及員には、早すぎ、深すぎがいいわけではないという点はしっかりインプットされたはず。

「この深さ、速さを下回らないように」という言い方も示していましたので、メトロノームなどで、例えば110回のテンポで練習をさせることはなさそうです。

新ガイドライン2010切り替わりの時期

いつからG2010準拠の講習に切り替わるのかという点に関しては明言はありませんでした。早ければ秋から冬という目安は提示されましたが、消防からはそれ以上いえないそうです。

というのは、ガイドラインはようやく確定版がでたものの、実際の指導の基準となる「救急蘇生の指針」がまだ完成していません。G2010指導が始まるのはその後、ということになります。

「救急蘇生の指針」は内容はほぼ完成していて9月末の委員会で、委員に公開、校正に入ります。それで問題がなければ10月中には印刷に回せる状態になるようですが、別の問題が1点。それは乳児のAED使用に関して。現在日本に出回っているAEDは乳児への使用が想定されていませんから、薬事申請の変更が必要になります。これに関して厚生労働省が動いてくれないと、出版はペンディング、という事情もある模様。

これがG2010講習、国内解禁にならない最終的な理由になりそうです。




以上、東京消防庁のG2010アップデート講習で話されたことの概要です。

今回のアップデート講習の受講対象は応急手当普及員で、去年9月以降に資格更新のための更新講習を受けた人350人が招待されました。つまり資格を取りっぱなしではなく、その後も活動しているアクティブな人がピックアップされた形です。そのせいか参加率はなんと99%だったそうで、、、

今回の講習では、日ごろ講習を支えてくれている皆さんだからこそ特別に先行情報開示しているのだ、という点が強調されていました。

まだ一般普及員にお知らせできるほど練りあがってはいないものの、スタートするときには消防職員とともに周りをリードしてくれることを期待して、ということのようです。

なんと、消防職員にもまだ知らせていない内容なんだそうです。

これって、モチベーション、あがりますよね。

世界の中での日本のガイドラインの位置づけや、まだゆれている部分があることなど、等身大で話をしてくれたので、非常に好感度が高く満足感のある講習会でした。


その他、乳児へのAED使用や、年齢区分の変更、総務省消防庁の新しいカリキュラム編成(「救命入門コース」の新設、e-learning導入)などの話題については、また項を改めて書こうと思います。




posted by めっつぇんばーむ at 08:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | AHAガイドライン2010
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