2011年07月14日

医療従事者の善意のCPR、下手すると業務上過失致傷罪、過失致傷罪、重過失致死傷罪

インプリメンテーション implementation 実行性

ガイドライン2010の最大のテーマ。

バイスタンダーCPRを増やす、実行性を高めるにはどんな工夫が必要か?

ということでガイドライン2010には、CPR実施を阻む色々な問題を分析し、市民が安心してCPRを行えるようなバックアップとして情報提供を行っています。

例えば、CPRで病気に感染する確立はきわめて稀だとか、間違って胸骨圧迫しても骨が折れたりする事故はこんなに少ないんですよとか、間違ったことをしても訴えられることはありませんよ、とか。

そうやって市民が勇気付けられるような前向きな論調なのが、ガイドライン2010なのですが、、、、

日本版ガイドラインでは、医療従事者が善意で行うバイスタンダーCPRに関しては厳しいことを書いているんです。

ふつうに読んだら、医師をはじめ医療従事者は、見て見ぬ振りして通り過ぎるのが正解!? と感じてしまうような。

どういうことかというと、ふつう、資格も義務もない市民の場合、民法第698条の緊急事務管理ならびに刑法第37条の緊急避難の条項で守られていて、救急蘇生をしてもその結果いかんを問わず悪意がなければ責任は問われません。

しかし医師をはじめとする医療従事者には、その限りではないと明記されているのです。

以下、日本版ガイドライン2010 第七章「普及・教育のための方策」(PDF)35ページからの引用です。

「刑法第37条の緊急避難の項には、『業務上特別の義務がある者には適応しない』とあり、たとえ道端や航空機内であっても傷病者の手当てを始めた場合には、傷病者と医師との間に契約が成立し、債務不履行の責任を問うことが可能となるとの解釈も存在する」

「緊急事務管理による免責成立のためには「重大な過失」がないことが前提であるが、これは救助者が証明しなければならず、救助者となった医師には重い立証責任が課せられることになる」

「現時点では医師の民法上の責任および刑法上の責任を棄却できるとは限らず、今後争いが生じる可能性は否定できない。」

「万一、棄却が認められない場合は、業務上過失致傷罪、過失致傷罪、重過失致死傷罪などが成立しうる」


このあたりのことは、以前から私も指摘していた点ですが、日本の面子をかけて作成した日本版ガイドラインに、逃げ道も明るい兆しもなくこうもはっきり書かれてしまうと、、、、

国家資格を持った立場、公私問わず高い意識を持って公益義務を果たせ、ということなのかもしれませんが、実際の医療者のレベルを知っている立場からすると厳しいなぁ、と思います。

頭のいい人なら、触らぬ神にたたりなしがベストと考えるだろうな。

もう一歩この問題に踏み込んで明るい方向性でも示してくれればよかったのに。


もう一点、「過失がないことを証明する責任」という点では、なまじ「考える蘇生」ではなく余計な判断はせずにガイドラインどおりに機械的に動くのが正解、とも思えてしまいます。

福島の産科事件でもそうでしたが、検察から依頼されて証人として立つ人は、ガイドラインだとか一般論に照らして是非を証言するのが常ですから。

ガイドラインの本質を考えれば、多様性があるのは当然だし、理想として一般化された手順からはそぐわないケースは、ケースバイケースで考えるのも当然ですが、司法はそう判断してくれない可能性大。

いや〜、難しいですね。





posted by めっつぇんばーむ at 23:27 | Comment(2) | TrackBack(0) | AHAガイドライン2010
この記事へのコメント
ktmchiと申します。

つい最近wikipediaの「一次救命処置」の2010対応のリライトをやったのですが、
「救命処置の法律問題」を書いたときに、私も日本版ガイドライン2010 第七章「普及・教育のための方策」を元ネタに使ったので同じ要約になりました。

しかしこれはJRCが悪いのではなく「善きサマリア人の法」が無いという日本の法律が問題なのではないでしょうか。

JRCとしてはその現状をきちんと述べ、ガイドラインを必ず読む厚生労働省や総務省に突きつけるしかないように思います。
このままでは「医師をはじめ医療従事者は、見て見ぬ振りして通り過ぎるのが正解!」ということになるぞと。

ついでにいうと「AEDと医師法」もひどいですね。
一般市民は保護されても、医療従事者ではない「AEDを使用することがあらかじめ想定されている者」はAEDの講習を受けていなければ医師法第17条違反ということになります。
さらに、講習をうけても「医師等を探す努力をしても見つからない」などの動作を要求している。
ガイドラインでは「すぐ使え! もたもたするな!」といっているのに。

「意識、呼吸がないことを確認していること」なんて意味のないことを書いてるし。

もちろんそれをしなかったからといって「AEDを使用することがあらかじめ想定されている者」を検挙するつもりは無いでしょうがそれにしても、酷い、矛盾だらけ、という感じはします。

ドサクサ紛れに。

wikipediaの「一次救命処置」におかしな処があればご指摘ください。もちろん直接直して頂いても。

自己紹介がわりにホームページアドレスは書いておきますが、医療関係のことは全く書いてないお遊びサイトです。

Posted by ktmchi at 2011年07月15日 14:09
こんにちは。かなり話がそれますが・・・
ふと思い出したので。。。

在日米軍人とその家族が日本に赴任したときに受ける
必須講習(日本の文化、法律、交通ルールなど。これを受けないと、
運転許可がおりない)では、
交通事故などの場面に遭遇しても
CPRを行わないように、と習います。

「日本には善きソマリア人法がないから、
何か過失があったら訴えられる」という理解をしている
アメリカ人が多いようです。
軍人の職業柄、なんらかの資格(BLS的な)を
取得している人がほとんどでしょうに、
もったいない話だと思いました。

Posted by at 2011年10月08日 18:04
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