前回、私は今後、BLSヘルスケアプロバイダーコースは開催しないだろうと書きました。
その理由は、DVD教材のスタイルがあまりに変わり果ててしまって、AHAの意図がまったく理解できなかったからです。普通に見れば相当な改悪といっても良いくらいの出来栄え。
眠くなるし、ワクワク感はまったくないし、情に働きかけるような場面もありません。受講者の満足度はかなり低くなるでしょう。
それを従来どおりの受講料をいただいて開催するにはあまりに失礼と思ったし、この改悪ぶりを指摘されたとき、インストラクターとして返す言葉が思い浮かばなかったのも事実です。
そんな風に考えて、いろいろ悩んだ末、G2010正式版のHCPコースは、公募では行わないと決めたのですが、昨日、ACLSコース終了後に先輩インストラクターとの対話の中で、別のひとつの光が見えてきました。
なぜ、AHAはBLSヘルスケアプロバイダーコースのDVDをこんなにしてしまったのか??
恐らく、G2005では、ヘルスケアプロバイダーを甘やかしすぎたという反省があったのでは、というのが今の私の理解です。
「蘇生のプロの技術を学んだあなただけが頼りです」
そんな言葉で締めくくられるG2005のBLSヘルスケアプロバイダーコース。正直なところあんな練習だけでCPRができるようになるとは思いません。理想化された環境での運動スキルの練習だけで implementation への配慮がほとんどないのですから。
受講のモチベーションをあげるために数々の努力。躍動的な映像編集と、感情に訴える蘇生成功体験のインタビュー。
そうやって受講者の心をつかむことに力を注いだG2005版DVDですが、きっとその効果はあまり得られなかった、もしくは逆効果だったんでしょうね。
だって、アメリカではヘルスケアプロバイダーコース受講は2年毎義務です。みんな「またかよ」といやいや参加しているわけです。(病院内のつまらない勉強会や安全講習の類と思えば理解しやすいかも)
居眠り必発だから、目を引く映像でがんばったけどダメ。
考えてみれば、義務で受けるヘルスケアプロバイダーコース受講者には動機付け云々は必要なの? やる気のあるなしに関わりなく、できなきゃいけないわけだし、下手すると訴訟社会アメリカ、自分の首が飛ぶわけです。
受講者に対して下手にへりくだって、お金をかけて凝った教材を作ったけど、その必要性があったのかな、という反省の裏返りが今回のそっけないDVDだと考えました。
学ぶモチベーションは各自が持っています。プロなんですから。だから淡々と練習をさせるだけで十分。
内容自体、厳しくなっています。練習の段階からずっと5サイクル。圧迫回数が5割り増しとかいう説もあります。
また、いやらしいのが筆記試験。20問から25問に増えて、意外な細かいところまで問われています。あのDVDを見ただけで答えられるのかなぁ。そうとう事前学習してこないと気づかないかも。
そこで思うのは、これは実技も筆記試験も、落第することが前提なのでは? という点です。G2005では受からせることに主眼が置かれていて、普通にやれば落ちることはありません。
しかし、ゆとり教育から方向転換して、今回は試験に不合格にさせて、「やばい!」という焦りを与えるような教材設計なのでは? とすらかんぐってしまいます。
いちど落として、それをremediationで持ち上げる、という図式?
勝手な推測ですが、そう考えればある程度納得はいきます。
市民救助者向けのハートセイバーコースはそんなことないんですよ。G2005のHCPなみに映像に凝っているし、受講者を鼓舞するような場面が多々あります。
つまり、今回の教材設計では、市民救助者と医療従事者(ヘルスケアプロバイダー)の差別化がつよく出ているのではないでしょうか?
プロとして役割が期待されている人たちにはシビアな環境で教え、甘やかさない!
今回のガイドライン改訂の大事なポイントは、実行性(implementation)。それを考えれば筋は通ります。
このあたりは、G2010のBLSインストラクターコース用DVDがリリースされたら明らかになるでしょう。
真相はわかりませんが、こんなスタンスであれば、私も気を取り直して引き続きヘルスケアプロバイダーコースを開催できそうです。
ゆとり教育は間違っていた! 「楽しく学びましょう」は市民救助者だけ。
そんなつもりでG2010正式版HCP開催に向けて準備を始めようかなと思っています。
2011年06月20日
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新しく記事が出ていたのですごくうれしく読ませていただいています。
私の読解力不足かもしれませんが『アメリカではヘルスケアプロバイダーコース受講は2年毎義務です。みんな「またかよ」といやいや参加しているわけです』というのと『学ぶモチベーションは各自が持っています。プロなんですから。だから淡々と練習をさせるだけで十分』というのが矛盾しているように感じてしまうのですが…。
私はアメリカの事情とかまったく分からないので、特有の事情などがあるようなら補足していただけると勉強になります。
最近、私はあるステップアップを果たすことができました。今までとは少し違う視点でいろいろなことを捉えることができるようになった気がします。もちろん駆け出しなのでたくさん勉強が必要です。
これからもめっつぇんばーむさんの記事を楽しみにしております。
ちょっと補完。
『学ぶモチベーションは各自が持っています。プロなんですから。だから淡々と練習をさせるだけで十分』
という部分は、そうあるべきというイデア(idea)です。
そうあるべきなのだけど、「君ならできる! 簡単だろ? ほら!」という"持ち上げ"が過ぎたせいで、できもしないのに過信する人を増やしてしまった反省。
ゆえに本来のイデアに立ち戻って、スタンスの修正、と理解しました。
伝わりますでしょうか?
ありがとうございます。