前から気になっていたんですが、インストラクター仲間と話をしていて確信を持てました。
AHAガイドライン2010ハイライト日本語版 に載っている、
・胸骨圧迫のテンポ:100回/分 以上
・胸骨圧迫の深さ:5cm 以上 (成人)
・胸骨圧迫の深さ:1/3 以上 (小児・乳児)
は、日本語訳として不適切!
「100回/分以上」「5cm以上」というときの「以上」という訳が間違ってます。
オリジナルの英語表現は at least。
ですから、「少なくとも100回/分」「少なくとも5cm」と訳すのが自然です。
原語 more than だったら「以上」と訳してもいいと思いますが、ガイドラインの勧告はあくまで at least なのです。
大ざっぱに考えると、どっちもさほど変らないような気もしますが、インストラクターとして指導するとき、やっぱり伝わり方は違いますよね。
「5cm以上押してくださいね」
5cm以上という表現には上限に際限がありません。目線は5cmはるか上方を見上げている感じで、境界線である5cmはあまり意識されていない表現です。強ければ強いほどいいというようなニュアンスに伝わる可能性があります。(弱いよりは強い方が罪はないのは事実ですが、伝わり方が乱暴で at least のニュアンスは伝わりません)
「少なくとも5cm押してくださいね」
これは最低限のラインを示している言葉です。こういった場合、そうがむしゃらに強く押す人はいないはずです。英語に強い仲間のインストラクターによれば、at leastは "at" だからポイントに着目した言葉であるとのこと。あくまで5センチにフォーカスされているのです。決して5cmから遠く離れた遥か上を見ているわけではないと言われて、なるほど、納得。
ということで、結論は、AHA公式訳の「100回/分以上」「5cm以上」は間違い!
このあたり、日本版(JRC)ガイドライン2010では、きちんと正確に表現しています。
どうしても英語で綴られる国際コンセンサスとガイドラインの内容をきちんと把握するためには、やっぱり英語できちんと読む必要があるんだなと改めて実感しました。
日本版ガイドラインではきちんと書かれているので消防・日本赤十字社の講習は問題ないと思いますが、もしAHAがこのまま「以上」という表現で教材を提供することになった場合、AHAインストラクターは十分に注意する必要があるでしょうね。
なお、本件に関しては、AHAインストラクターの責務と言うことで、所属TC経由で、また個人としてダイレクトにAHAに報告済みです。
各種教材の翻訳作業はすでに進んでいると思うけど、修正されるかなぁ。
2011年01月17日
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確か胸骨圧迫のスピードはGL2010では23秒以内から
18秒以内に変更されていると思います。
ここも at leastと書かれていますが、100回/分より
速いペースでないと実技試験に落ちてしまいますよね。
やっぱり、より強く押すことが強調されたんではないでしょうか。
無闇に強く押すことは、肋骨を折ってしまうので胸壁の戻りが悪くなり質の高いCPRはできなくなるとは思っています。
もちろんそうです。そこを誤解させる意図はまったくありませんでした。
G2005で強調された「強く速く」がより強調されたのが今回のat leastです。
「以上」と訳しても言葉的には間違っていません。100回かそれより多い回数を押せと言っているわけですから。
しかしat leastのニュアンスとは違います。
速ければ速いほどよいといっているのか、節度を持った速さを示しているのかの違いといったらいいでしょうか。
「5cm以上押してくださいね」と「少なくとも5cm押してくださいね」なら、
わたしなら「少なくとも5cm押してくださいね」の方が強く押してしまいますね。
5cmは最低限のラインであるので、本当は10cmくらい押すのが理想的なんだろうと、勝手に深読みしてしまいそうです。
一方、「5cm以上押してくださいね」だったら、高いも低いもない感じがして、逆に無理に強く押すことはないだろうと思います。
今年も宜しくお願い申し上げます。
お久しぶりに書き込みさせて頂きます十夜です。
【以上】ではなく【少なくとも】でコース展開をする形で宜しいでしょうか?
宜しくお願い申し上げます。
十夜
めっつぇんさんの言うことももっともだと思ったのですが、あえて突っ込んでみました。
やはり、このようなことに興味をもって学ぼうという方は、少しでも良いことをと思うのだと思いました。
第一発見者の対応はとても重要なので、citizenさんのような方にしっかりと大事な手技を伝えたいと気持ちを新たにしました。
きっかけを与えて頂きありがとうございます
ちょっと気になったので一言。
『原語 more than だったら「以上」と訳してもいいと思いますが』
ですが、これこそ誤訳になってしまいますね。
日本語の「以上」には「それを下限(基準)として含む」という意味がありますが
「more than」には「than」以後の数字が含まれません。
「more than 5」なら「>5」ということですから「5」は対象外、対象は「6」から、つまり「6以上」ということになります。
「以上」と「少なくとも」は微妙なところですよね。
言語を専門に仕事しているものと、それ以外の一般の方の受け取り方は異なることも多いですし、医療関係者と一般の方も背景知識が異なるため受け取り方に違いが出てくるのも必然だと思います。
日本語の「以」には「そこを基準に、そこから〜」という意味がありますから
基準点を指しているという点で
意外と「at least」の「at」を一番反映しているとも言えます。
「少なくとも」は「最低でも」ということですから
一般の方がおっしゃっていたように
「それでは足りない」という印象も与えかねません。
多分これは「〜とも」が仮定条件の表現だからでしょうね。
「どんだけできなくても、せめて5はクリアしなさい」というように、
「これは合格最低ライン、理想の100点満点ははるか上にある」という印象が生まれるんだと思います。
まぁいずれにせよ、100回/分を下回らないテンポで胸骨圧迫をできる、勇気あるlay bystanderが増えてくれればと願うばかりです。
めっつぇんばーむさんが、
オリジナルの英語は 「more than」ではなく「at least」を使った
という点に着目されていたので、なるほど、と原著を見直してみました。
「at least 5」は「≧5」を意味します。
これを「more than 5」にしたら「>5」になって、明らかに違う意味になります。
ですから、原著が「≧5」という数値を意図しているのは間違いありません。
もちろん、「≧5」を「more than」を使って表現することもできます。
ただし、「more than or equal to 5」などと書く必要があるので、結構長くなるんですよね。
原著で、「more than or equal to 5」や「greater than or equal to 5」ではなく「at least 5」という言い回しを選んだのは、案外、『短くてわかりやすいから』、という理由なんじゃないかと推論してみました。
たかだか3ワードの違いですけど、幅広い層に向けた勧告ですから、『短く簡潔で理解しやすい』という視点は大切だと思うのです。
なにより、マニュアル大国の米国人の思考としては、自然な気がしませんか?
もし日本語でも同じコンセプトで言葉を選んだら、どうでしょう。
「以上」も「少なくとも」も数学的にはまったく同じ概念ですが、どちらのほうが理解しやすいか、という点は個人差があるので、難しいですね。
「以上」のほうが「少なくとも」より3文字短いので、『短く簡潔』というコンセプトで選ぶと「以上」が若干有利な気もしますが、こうなるともう、誤差の範囲と言えそうです。
pukupukuさんと同じく
『原語 more than だったら「以上」と訳してもいいと思いますが』
が気になっていたので、わたしも一言。
たとえば、「more than one student」は「2人以上の学生」という意味です。
これを「1人以上の学生」と解釈したら、完全な誤訳になります。
「more than〜」を機械的に「〜以上」と訳すべきだと考えるのは、むしろ危険です。
逆に、数値を伴う「at least」は一般的に「以上」と訳すこともよくあります。
ですから、「at least」は「少なくとも」と訳すのが自然、というのはちょっと乱暴な意見じゃないでしょうか?
100を含もうが含むまいが、100の次は101です。
あんまり変わない…
どうでもいいことです…
それよりもコースの意義がここにあります。、
「少なくとも」でも「以上」でもコース終了時にその受講生の出来上がったスキルはきっと同じでしょう。
だからコースを受けることが大事なんだ。
で議論を終わらせることをお勧めします。
たしかにhighcaliberさんのおっしゃる通りですね。
「少なくとも」も「以上」も最低限のラインを示しているだけで、
どちらも上限は示していません。
だから、適切なニュアンスが伝わるのはどちらか、という話になると、
個人の感覚に大きく左右されてしまうはず。
これを続けると、不毛な議論になってしまいますね。
『コースを受けることが大事なんだ。』
に賛成です。
「胸骨圧迫:「100回/分以上、5cm以上」は誤訳」は間違い。
ということになっちゃいますね。
「コースを受けることが大事」ということに異論を挟む人はいないでしょうから、管理人さんの今回のブログのテーマである「訳文の正確さ」にこだわって意見を収束させた方が良いんじゃないでしょうか?
管理人さんは(「以上」という日本語訳は)「不適切」「間違ってます」とまで言い切っているんですから、もしそれが間違っているなら」言い切られた方がかわいそうです。
管理人さんから、「自分の文章は間違いでした」か「いやいや、やっぱり以上じゃないとおかしい」などの意見が出るのを待った方が良いのではないでしょうか?
いつの間にかこんなにたくさんコメントをいただいていまして、ありがとうございました。方向性までご検討いただきまして恐縮です。
さて、その後、ネット上でも現実世界でもat leastの話題は続いていましたが、私なりに結論的なことをいくつか端的に書きますと、
・私が例に出したmore thanを「以上」と訳すことは私の誤認
・more thanを以上と訳出するのを「誤訳」とまでいうのは言いすぎ
・at leastを訳すには「以上」よりは「少なくとも」の方が自然
とさせてください。
誤認や言い過ぎがあった点はお詫びいたします。
しかしその上でやはり私は「少なくとも」を支持します。
単純に考えて、普通に学校英語を学んできた日本人ならat leastを見て「以上」と訳出する人は少ないのでは?(その点は日本版ガイドラインのCoSTR訳出にも現れています。)
なによりは言葉の持つニュアンスが私にとって最大の理由ですが、語感については、コメントにもいただいたように個人によっても違うようです。人々の受け止められ方こそが重要なので、字義について議論するのはあまり意味がないと考えます。
そもそもG2010の基本コンセプトを考えれば、「以上」でも「少なくとも」でもまったく差異はありません。やるやらないが問題なのですから。
ただガイドライン2000や2005の時もそうでしたが、ガイドラインの字面だけが一人歩きして、100回/分でなければダメだみたいな不適切な指導が横行したのと同じようなことがおきかねないことを心配しています。
at least 5cm も at least 100/min も強ければ強いほどよい、早ければ早いほどよいといっているわけではありません。テンポに関していえば、エビデンスが支持するのはせいぜい120〜130程度。
背景を知らない人にもそんな「加減」が伝わるのはどっちかなと思ったら、私はやはり「少なくとも」を支持します。
私の感覚
少なくとも5センチ;5センチは一応OKだけど、少ないなあ。と思われる感じ。
5センチ以上;5センチだったら、きっちり条件に当てはまって、なんの問題もない感じです。
少なくても5センチと書かれていたら、8センチ、10センチぐらいを目指す感覚。
5センチ以上と書かれていたら、7センチ、8センチを目指す感覚です。
ただ上限も大事なので、それを伝えたければ、上限も記入するしかないでしょう。5から10センチとか。