市民向け心肺蘇生法講習をガイドライン2010で開催してみての感想、第二弾です。
ガイドライン2005と比べると、建前と現実のギャップが少なくなってやりやすくなったといえるかなと思いました。
実は、BLSの流れなんかは、実際の行動レベルでいうと、ガイドライン2005も2010もあまり変ってはいないんです。
これは主に人工呼吸の扱いについて言っていますが、旧来のガイドライン2005でも、人工呼吸は省略可でした。特に見ず知らずの人に蘇生を行う場合や、業務としての蘇生の場合は、口対口人工呼吸はあり得ませんから、感染防護具を使うことになります。
で、ポケットマスクやバッグバルブマスクを持ち合わせていればいいですけど、ふつうはそんなシチュエーションはなかなかありません。そこで現実の蘇生は第一発見時は人工呼吸が省略されるのが圧倒的多数、というか標準でした。
それが現実で、そのことはガイドライン2005でも許容されているというか、想定の範囲内となっていました。
ですから、きちんとガイドラインを読んでいて内容を理解している人は、人工呼吸はAEDなどと一緒にバリアデバイスが届いて、最初のショック後から開始する、という流れで病院内の蘇生プロトコルを作成していたのではないでしょうか?
それがようやくガイドライン本編として記載されるようになった、というのが今回のガイドライン2010。
わかっている人は前からの手順でなにも変っていない、と感じているかも知れません。
今回、私にとって「なるほど」と思ったのは、「見て聞いて感じて」の廃止でした。
最初は「だったら他にどうやって呼吸確認するの?」と懐疑的な気持ちが先に来ましたが、実際に市民向け講習としてガイドライン2010でやってみると、このことのメリットが次々に見えてきて、さすが! 思うようになりました。
その話は前回書いたとおりですが、そのほか、死戦期呼吸を見落とさないという意味でも、「見て聞いて感じて」を廃止したことは非常に有効と思われます。
特に問題は「聞いて」の部分。
死戦期呼吸、音がするんですよね。いびきみたいな。
音が聞こえちゃったら、そりゃ、呼吸ありと判断しちゃいますよね。
ましてや、自分の顔を至近距離に近づけている、傷病者の顎が動いているのが目に飛び込んでくれば、まさか心停止だなんて信じられません。
心停止であっても、発生直後で死戦期呼吸が出ていれば、顎は動くし、音は聞こえるし、場合によっては手も動いているし、、、
こんな状況で「有効な呼吸ではない」「心停止」「蘇生が必要」と判断するにはどうしたらいいか? そこで見るべきは胸の動き。
胸郭や呼吸に伴う腹部の動きを見るというのが、もっとも確かであろう判断材料。
ということなのでしょう。
いままでも講習会では「人工呼吸はしたくないと思ったらやらなくてもいいですよ」とは言っていました。
しかし、どうしても「本来はしなくちゃいけないものをしないのは良くないのでは?」という受講者さんの懐疑心をクリアにすることはできませんでした。
でも C-A-B の流れになれば、胸骨圧迫開始までは、一切の掛け値なしで指導できるし、やって貰えます。で、その後、人工呼吸をするかどうかという判断は、胸骨圧迫をしながら考えることなので、少なくとも悩むあまり、CPRを着手しないということにはなり得ません。
そんな意味で、最低限やってもらいたいことまではスムーズに導入でき、その後、その蘇生の質を左右する選択は後回しというのも非常に合理的。
ガイドラインが変ったことで、あまりに簡略化されすぎて蘇生自体の質が落ちたと感じる人もいるかも知れません。
小児の場合など、それはある意味否定はしませんが、ガイドライン自体が目指す方向性を正しく理解して、対象に応じて正しく伝えることが重要。
かつてのガイドライン2000の時のような、猫も杓子もガイドライン、というのとはちょっと様相が変ってきています。
ガイドラインが目指しているものをしっかり理解して、その対象外に対する適切なアプローチも含めて、蘇生のインストラクターはガイドラインを外から俯瞰する視点と勉強が必要かも知れません。
2010年11月26日
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