AHAのインストラクターだったら、ガイドライン2005の時から、AHA ECCガイドラインにファーストエイドの項目があったのはご存じと思います。
これを策定したのは、主にAmerican Red Cross、アメリカ赤十字です。略してARCとも言います。
AHAはアメリカ赤十字にコラボして、連名でファーストエイド・ガイドライン2005を発表しました。
これも当初はILCORの国際コンセンサス(CoSTR)に上げようとしたらしいですが、国際的な同意が得られず、結局アメリカ国内基準という位置づけでAHA ECCガイドラインにのみ掲載されました。
ということで、AHAガイドライン2005のファーストエイドは、国際コンセンサスではなく、アメリカ国内基準です。
しかしなぜか日本版ガイドライン2005(救急蘇生の指針)には、AHA/ARCのファーストエイドガイドラインほぼそのままが採用されています。
そのお陰で、消防の上級救命講習のテキストなどにも、「永久歯が抜けたら牛乳に漬けて歯医者さんへ」というような話が盛り込まれたり、止血帯を教えないようになったりと、それなりの影響力をもって受け入れられました。
ここで話は現代に戻って、ガイドライン2010のファーストエイド。
今回もCoSTRの国際コンセンサスにはファーストエイドの項目はなく、CoSTRと同時発表された3つのガイドラインの中でも、ファーストエイドを含めているのはアメリカ合衆国、つまりAHAだけ、という結果でした。
しかし、今回のファーストエイド・ガイドラインは違います。
きちんと国際コンセンサスに則っているんです。
ただし国際コンセンサスといってもILCORではありません。
"International First Aid Science Advisory Board"というファーストエイドを考える国際会議で決められました。
前回のガイドライン2005では、アメリカ赤十字とアメリカ心臓協会だけで作っていたアメリカ国内基準でしたが、それじゃマズイと思ったのか、各国に呼びかけて国際会議を結成。今回のような形になりました。
おそらく今後はこれをILCORに入れ込みたいんだと思いますが、それはこれからの課題なのかな。
もともとILCORもAHAとERCが立ち上げたものでしたし、始まりはこんな物なのかも知れません。
とかく謎に思われがちなファーストエイド・ガイドラインの成り立ちを、私の知る限りの内容でまとめてみました。
さて、以上が前置きで、本当に言いたいのはここから。
ファーストエイドの国際コンセンサス2005を策定する"International First Aid Science Advisory Board"の構成メンバーは、アメリカ国内の熱傷学会や小児科学会、各国赤十字、Medic First Aid、National Safety Council、St. John Ambulanceなど、ファーストエイドでは名だたる各国団体が並んでいます。
実は日本も、Resuscitation Council of Asia(実態は日本蘇生協議会JRC。アジアの名前を冠している裏事情には触れません)として、"International First Aid Science Advisory Board"に正式加盟しており、国際会議にはメンバーである日本人医師も参加しています。
ですからファーストエイドのガイドライン2010は当然日本も批准しています。
なのに2010年10月19日に公開になった日本版ガイドライン2010には、ファーストエイドの項目は含まれていませんでした。同じ立場のAHAはしっかりと載せていたのに。
公開されたのはドラフト、つまり下書き版で正式なものではありません。
なので、正式に出版された折にはファーストエイドも含まれているはず、と信じていますが、でもちょっと気がかり。
日本でガイドライン改定に一番関心を持っているのは、おそらく日本循環器学会など、医療系の人たちでしょう。
こういう病院の内部の人間は、実はあまりファーストエイドには興味がないようです。
おそらくそういう人たちが中心になって日本版ガイドラインを作っている関係上、ファーストエイドが後回しになっているのかなとも思っていますが、中でも消防や赤十字などは決して見逃せないはず。
このあと、日本版ガイドラインとしては、国際コンセンサスとしてのファーストエイドをどうアレンジして発表し、それを消防や赤十字がどう取り入れていくか、とても興味があるところです。
今回のファーストエイドガイドライン2010では、胸部不快感を訴える人へのアスピリン投与という刺激的なトピックも含まれています。
エピペン(アドレナリン自己注射器)に関してはG2005FAでの刺激があったせいか、救命士に解禁になって、さらには素人である学校教職員の使用が認められるようになった経緯があります。
さて、今回のガイドライン2010のファーストエイドの行方はいかに!?