2010年10月19日に公開された日本オリジナルの蘇生ガイドライン2010の草稿。
オープンと同時にダウンロードしてむさぼるように目を通したのですが、そこには目を疑うような記載があって、先を進む目がどうしても留まってしまいました。
感染防護具
院外における感染の危険性はきわめて低いので、感染防護具なしでも人工呼吸を実施してよい。可能であれば、救助者は感染防護具の使用を考慮する。ただし院内などで医療従事者が業務としてCPRを行う場合、および患者が危険な感染症(ヒト免疫不全ウィルス:HIV、結核菌、B型肝炎、重症急性呼吸器症候群:SARS)であることがわかっている場合は、安全予防策を講じるべきである。
(1章 一次救命処置(BLS) p.6より)
普通に読んだら、まっとうな医療従事者が書いた文章には見えません。
わざわざ書いている位だからそれなりにエビデンスはあるはずです。そう信じています。でも感覚的に受け入れられない。(今公開されているのはドラフト版で出典等は省略されています)
院外で倒れる傷病者は病気を持っていないだろうから、直接口を付けて人工呼吸をしてよい?
感染症を持っている人だけ感染防護をすればいい?
ユニバーサル・プリコーションは何処へ?
医療者の基本概念を覆すこの勧告。
もしこれがそのまま正式なガイドラインとして活字になってしまったら、私はBLS講習で受講者に説明できる自信はありません。
理由として書かれているのは、「感染防護具を使用して人工呼吸中に傷病者との接触を防ぐことが、安全で有効で実行可能であることを示した臨床研究はない」という点と、CPRによる微生物の感染報告はあるが発症報告はないというもの。(p.18)
でもそれを言ったら、「未滅菌のガーゼを手術に使って感染症を発症したという研究報告はないから、手術に使うガーゼは未滅菌で構わない」と言ってるのと同じじゃない?
似たような論調は別の章にもあります。
CPRや電気ショックを行う際に救助者が手袋を付けるのは妥当であるが、手袋がないという理由で救助を遅らせたり差し控えたりしてはならない。しかし講習で救助者の安全性を強調することは理にかなっている。
(第七章 普及と教育のための方策 p.13)
これもどうも腑に落ちないんだよなぁ。
以上、日本版ガイドライン2010からでした。
CoSTRそのものや他のガイドラインでどう書かれているかはまだ確認していません。
少なくともAHA版にはこんな記載はないものと信じたい。
だって、私、AHA-BLSインストラクターとしてOSHA基準のHeartsaver Bloodborne Pathogens(血液媒介病原体)コースでユニバーサル・プリコーションの大切さを教えているんですから。
でも蘇生ガイドラインはこれまでも医学界にいくつもの画期的な知見を残してきました。
とかく曖昧で経験則で動いている医学の世界にエビデンスベースドの力を見せつけたのが蘇生ガイドライン。
そんな過去の実績を考えると、もしかして、これはスダンダード・プリコーションが虚構であることを暴き、感染業界を揺るがす大事件に発展したり!?
2010年10月20日
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CoSTRには以下のようにあります。最初の感染率が低いと言う点は同じですね。どう解釈するかの違いですね。
Disease transmission
The risk of disease transmission during training and actual CPR performance is very low. Rescuers should take appropriate safety precautions, especially if a victim is known to have a serious infection (e.g., human immunodeficiency virus [HIV], tuberculosis, hepatitis B virus, or severe acute respiratory syndrome [SARS]).
でも助けようと思うのならば、感染防御具がなくても!と言うのが日本人らしいのかも知れませんね。感染防御具がどうこうと言い出すと、レスキューブレスも省略し、心肺停止かどうかの確認も簡単にしたのに、感染防御具がないという理由でバイスタンダーCPRがされない事になっちゃいますね。
少しずつ様子を見ながら勉強して行くしかないようですね。
めっつえんばーむさん、残念でした(^.^)。AHAもERCも同じような事を言っています。今そこだけ読みました。貴重な機会を与えて頂きありがとうございます!!
まずERCから。
The risk of disease transmission during training and actual CPR performance is extremely low. Wearing gloves during CPR is rea- sonable, but CPR should not be delayed or withheld if gloves are not available.
次の部分は、、、
Because the risk of disease transmission is very low, initiating rescue breathing without a barrier device is reasonable.
日本のガイドラインと同じ様な事を書いていますね。次はAHAです。
Some healthcare providers and lay rescuers state that they may hesitate to give mouth-to-mouth rescue breathing and prefer to use a barrier device. The risk of disease transmission through mouth to mouth ventilation is very low, and it is reasonable to initiate rescue breathing with or without a barrier device. When using a barrier device the rescuer should not delay chest compressions while setting up the device.
細かい意味は私にはよく分かりません(英語は苦手)が、日本のガイドラインもそんなにひどいと非難される理由はないと思いますが、いかがでしょう。
それから感染防御と言う意味では大切なんでしょうが、緊急事態に素手で口の中に指を突っ込んだり、吐物を処理したりする事があると思います。出来れば感染防御をすべきですが、そのために患者さんを死なせてはいけないとも思います。難しいですね。
日本版特有ではなく、国際コンセンサスという理解で良さそうですね。
うーん、、、困った。
ファーストエイドでもそうですが、安全が優先。
優先の中でも最優先は自分で、次に仲間、そして群衆、そして最後に傷病者。
ヘルスケアプロバイダーコースでは省略されている「周囲は安全です」というのは、感染防護をしているという意味での自分の安全をも意味する言葉と私は解釈しています。
安全確保ができなければ傷病者には手を出すべきではないというのは外傷系でも同じ。
この基本原則が覆っちゃうこの事態、どうしましょう!?
日本語版はこれを単に人工呼吸と訳していたはず。
いま結論は出せませんが、日本語と英語で若干意味が違っているというのは事実です。
Initiateは初回ではなく、開始するという意味ではないでしょうか?初回だけならばfirst?それに一回目の呼吸だけしても、次の呼吸は18秒後に来ます。その呼吸をする前にバリアーデバイスを準備出来るとは限らず、その後は圧迫だけ?
それからERCは、アルゴリズムの図に30回の圧迫と2回のrescue breathingと書いています。AHAも文章でその様なことを書いています。
感染はもちろん大事ですが、そのためにCPRがなされないのは問題であると考えたのでは?
感染が嫌だと言う人は、CPRをしなくてももちろん良いでしょう。しかし、目の前で死にそうな人がいて助けたいと思ったら気にしないで蘇生をお願いします!感染する可能性は非常に低いですよと言いたいのでは?
感染防御をしてはいけない、あるいは不必要と言っている訳ではないのですから、、、