先日発行された週間医学界新聞の特集記事、おもしろかったです。
医療シミュレーションが変える!! 日本の医学教育
シミュレーション教育最前線
AHAのBLSとACLSの輸入で黎明期に突入した日本の本格的な医学シミュレーション。
ICLSができたり、ISLSができたりと、日本の中でも進化しています。
そんないまや医学教育では欠かせなくなってきたシミュレーション教育の今についてあれこれと。
最近の潮流のキーワードは、「ノンテクニカルスキル」。
何それ? という方はぜひ次の記事を読んでみてください。
医学教育に人材育成のサイエンスを導入し
“よい医師”を養成する 池上敬一氏(獨協医科大学越谷病院教授・救急医療科)に聞く
「現在,多くの施設では“テクニカル・スキル”,つまり手技の習得を中心にシミュレーションが行われていると思います。しかし,実は欧米ではこれはパーシャル・タスク・トレーニングと呼ばれ,シミュレーションとは区別されています。シミュレーションはテクニカル・スキルだけでなく“ノンテクニカル・スキル”,すなわちチームワークなどの「暗黙知」を学習する手段なので,テクニカル・スキルを学ぶだけでは,野球に例えればキャッチボールはしても練習試合をしていない状況と同じです。」(上記サイトより引用)
例えば、AHA-BLSヘルスケアプロバイダーコースなんかは、ほとんどテクニカルスキル教育ですよね。
体育会系のノリで、考えるより体で覚えろ、というスタンス。
おそらくCPRの技術はかなり身につくでしょう。
でも、それが実践で使えるかどうかは別問題。
講習会場で、理想的な状態で仰向けに横たわったマネキン相手の蘇生ならできるでしょう。
でも、病院なら褥瘡予防のふわふわベッドに寝ていたら胸骨圧迫はうまくできないでしょうし、二人法CPRを使用にもベッドの頭側は壁についていますし、ベッド柵も邪魔。
病院の廊下で倒れるような人は、たいていはうつぶせで倒れますよね。
理想的なCPRの状態に持っていく以前の大事なことがすっぽ抜けています。
テクニカルスキルを身につけた後、それを実践で使えるかどうかを決めるのは、シミュレーション・トレーニングであり、ノンテクニカルスキル・トレーニング。
日頃、実戦経験が豊富な人であれば、自然と応用力が身についていると思いますが、いざというときに備えるため、という人にとっては意図的なノンテクニカル・スキルトレーニングがないと、AHA-BLSで身につけた技術を活用することは難しいんじゃないかなという気がします。
特に、院外でのバイスタンダーとしての応用はかなり絶望的じゃないでしょうか?
そもそもヘルスケアプロバイダーコースは、院内急変対応コースですから、バイスタンダーCPRはほとんど想定されていません。
プレホスピタルでは絶対に欠かせない「周囲の安全確認」については一切触れられていないのが大問題ですし、それに、路上だったり、公園だったり、その場に応じてどのように緊急通報をするか、など時々の状況に合わせて考えるという思考パターンの訓練も、基本的にはありません。
そこがしっかりしているのは、同じAHA-BLS講習の中でもハートセイバーAEDや、ファミリー&フレンズCPR。
ご存じない方もいるかも知れませんが、これらAHAの市民向けコースでは、DVDの中で急変現場の様子が動画で提示され、「この場面であなたはどう対応しますか?」ということが問われます。
そんな想定練習が、HS−AEDだと、全部でいくつでしょう? 12コくらいは出てきます。そうやって緊急対応の基礎を身につける同時に、場面に合せてどう行動するか、という思考パターンをのトレーニングをするわけです。
医療者向けBLSコースも、もしかしたらホントはアドバンスドBLSコースとして、シミュレーションを中心とした追加オプションが必要なのでは? と感じています。
次回、2010ガイドラインの教材では、このあたりのノンテクニカルスキル・トレーニングがどこまで取り入れられるか、興味津々です。
2010年09月08日
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