2009年01月08日

医療者が意外とBLS(CPR)ができない事実について

1月6日付の記事にコメントを下さったサブさんのメッセージを一部引用させて頂きます。

「ちなみに病院全体でのAHA資格の取得については良いことだと思いますが
患者側からの見方としては『そんなもんなくてもちゃんとできるのでしょ!』
ですね。資格がないとできないものではないですからその辺りを上の方々は
お考えになられているのではないでしょうか。」


まったくもっておっしゃるとおりです。患者側からだとびっくりですよね。
でも、実際できないんです。

それが現実。

いまの看護師養成カリキュラムのなかに、心肺蘇生法をマスターしなくちゃいけないという法的要件はありませんし、学校にも病院にも、心肺蘇生法を実践可能なレベルまで持ち上げるファシリテーター(インストラクター)がいないから教えられない。(一方的に"教えた気"になっている指導者はいるかもしれませんが)

これって一種の社会問題だと私は思っています。

その社会問題を、患者側の人たちは知りませんし、当の医療者側もあまり自覚してません。

そしてもちろん、行政も。

結局一部の意識の高い人たちは自費を投じて、医療者としての水準の有料講習を受けにいくわけですが、それってなんだか違いますよね。

ほんとは医療の国家資格をもって仕事をしているなら、全員できてあたりまえのことなのに、それがあたりまえじゃないのはおかしいです。


雑誌からの引用ですが、以下の文章を読んでみてください。

「緊急事態に対するシミュレーショントレーニングを受けていない機長が操縦し、緊急脱出の訓練を受けていない乗務員が搭乗している航空機がもしあれば、そのような飛行機にはだれも乗りたくないはずである。実際、乗務員は緊急時の訓練を受けているであろうし、乗客らは、乗務員が当然訓練を受けているという前提で飛行機に乗っている。医療施設内ではどうだろうか。医療上の緊急事態(たとえば心停止・呼吸停止)に対するシミュレーショントレーニングをかならず医師が受けられる環境にあるだろうか。さらに、看護師や病院職員はただちに心肺蘇生を開始できるように訓練されているだろうか。患者や患者の家族は『医療従事者は緊急事態に対処してくれる』と期待しているはずである。病院内の職員は、緊急事態に対応できるように訓練されていると信じて病院を訪れているであろう。」

「職員に対して心肺蘇生の訓練を継続的に行なっているかどうかについては、医療機関によってまちまちである。多くの医療機関において各自の自主性に任せて心肺蘇生法の訓練を行なっているのが現状であろう。『緊急事態に関する訓練は社員各自が自主的に行なっています』という航空会社がもしあったら、やはり乗客は不安になるだろう。本来は緊急事態に対する対応について、医療機関が職員に対して定期的にその訓練を行なう責務があると考えられる」


(金子一郎:医療従事者教育 医療機関が質の高い蘇生教育を供給する必要性,救急医学,31(9):1103,2007)


これはすべての医療従事者に読んでもらいたい名文だと思ってます。
posted by めっつぇんばーむ at 01:59 | Comment(9) | TrackBack(0) | AHA-BLSインストラクター
この記事へのコメント
 そうそう.

 当科では入院患者が夕食で窒息して不幸な事態になりましたが,いまだに医局員は心肺蘇生法や窒息の解除法を知りません.1年以上経過しますが,その間,講習を受けようとか,勉強しようとかいう意志はゼロです.

 ちゃんと知っているのは,僕と仲が良い医局員数名で,僕が直接指導した人たちだけです.

 事務側に訴えても,“その後,改善策はちゃんと講じられた”の一点張りです.白い巨塔は恐ろしい!!
Posted by doll player at 2009年01月08日 06:54
ミミガイタイ


職員を受講させるには
職員の一部にinstさせなければならないってところで躊躇する病院と
踏み込む病院とに分かれますね
Posted by hidemd at 2009年01月08日 07:44
CPRに限りませんな.


抗菌藥適正使用
薬をやたら欲しがる患者さんへの対応法
栄養管理



簡単なのは機能評価か診療報酬ですね.
Posted by こち熱 at 2009年01月08日 09:28
doll playerさん、私も医療界に入ってから、意外と安全対策が緩慢なのはびっくりしました。
事故が起ると規模によってはいちおう安全対策会議みたいなのが開かれるのですが、その具体的な対策の段で、看護部とか診療部とか、各診療科にまたがるようなことになってしまうと急にトーンダウンして、うやむやのまま終ってしまうことの連続。。。

末端職員にしたら上に任せたからということで、お役目ご免で結局なにも変わらず。
こうなるとマスコミとか保健所とか外部に働きかけないかぎり、ダメなのかなとも思ってしまいます。

hidemdさん。インストラクター育成に踏み込まない病院はそのうち機能評価でダメ病院レッテルが貼られるような時代になりますよ、きっと。それ以前に「教えた気」になるのと、インストラクション/ファシリテーションはまったく別ということに気付くのが先決だと思うけど、難しそうですね。

こち熱さん、診療報酬に反映させるという案、大賛成です。
去年の4月から歯科ではそれに近い制度ができましたが、確か60点でしたっけ?
まだまだ弱い気がしますが、大きな一歩と思い、見守っています。
Posted by めっつぇんばーむ at 2009年01月08日 10:32
 歯科の診療報酬は,“歯科外来診療環境体制加算”って言います.以下の環境を整えた状態を申請すると,初診時に限り1回だけ算定出来ます.30点です.要するに300円ですね.

1,
医療安全に関する講習を受講.
2,
歯科衛生士がいる.(歯科助手だけではダメ)
3,
以下の安全設備が整っている.
 AED
 パルスオキシメータ
 緊急用酸素
 血圧計
 救急蘇生キット
 歯科用吸引装置
4,
緊急時の連携医療機関を決め,連携している.
5,
感染症を持つ患者を診察するために複数のユニットがある
滅菌器を備えている
6,
その旨院内掲示している

 特に3の辺りですが,???って思いませんでしたか?医療機関であるのに,これらが存在しないところって,結構多いんですよ.5に関しては最近は充実してきましたけどね.

 莫大な費用をかけて上記を満たして,算定出来るのは30点を1回だけ.採算取れません.そのためあきらめた先生を多数知っています.患者の安全を考えたら,もっと点数を高くしたり採算取れるようにして普及させるべきだと思います.まぁこれが日本の厚生労働省クオリティ!

 ん?医療機関だから環境を整備して当然?歯科の点数はこの20年間,減額されたり適用を外されたりです.物価は上がっても,診療報酬は下げられているんです.歯科として生活するためには,診療に直結しない部分は削除するしかないっていう情況なんですよね.
Posted by mimimi at 2009年01月08日 18:13
な〜んと、デキナイのですか!!
ヘタというのは聞いたことがありましたが。
(もっとも、デキル方もいらっしゃるのでしょうけれど)

国家試験にCPR実技などを項目に加えていただきたいですね。
難しいものではないのですから。

一般市民は絶対にデキルと思っております。
医療従事者であるのだから当然。。。

となると病院の実情はわかりませんが、緊急時には
ERの人しか対応できないのでしょうか。
そうなるとおちおち入院もできないということになりそうです。

私がお世話になっている大学病院の親分ではCPRができる人はAHAのCPRバッジを
身につけているようなWebの情報がありました。
ということはつけていない人はダメダメなのかも知れません。
いや〜恐ろしいことですね。

色々な患者が色々な病気をかかえていて、それに対応されてボロボロな
従事者の方々には同情いたしますがぜひ小さなところからでも良いので
CPRの実技を身につけていただき、安心できる医療をご提供いただければ
幸いです。

めっつぇんばーむ さま、引用文ほか勉強になりました。ありがとうございました。m(__)m
Posted by サブ at 2009年01月09日 00:44
 サブ様

 とあるITCは受講生にバッジを配布していますが、実はこれ、市販品なんです。だれでも普通に購入できる商品です。

 ですから、配布していないITCの方が多いと思いますよ。

 バッジは落とすと危険な針ですから着用を禁止している施設もあるそうです。
Posted by mimimi at 2009年01月09日 12:01
mimimiさま

コメントありがとうございます。
バッジが市販品の旨はこのブログの過去ログでも拝見しております。

ただ購入したものなのか、某大学病院は某協会配下のTSを持っているので
そこで受けさせられてつけているのかはわかりませんが、
子分の病院で循環器関係の病棟ではつけている人を見かけた記憶がありません。

ま、どうでも良いことなのですが簡単な取組みで救命率が上がるのですから
個人レベルでも良いのでどんどんガンバッテいただきたいですね。
Posted by サブ at 2009年01月09日 15:23
mimimiさん、情報ありがとうございます。
60点じゃなくて、30点でしたか、、、

それに数ある項目の中のひとつという位置づけなんですね。

まあ、でも、これまでまったく未着手だった部分に僅かながらでも光が当ったということで"よい徴候"と思います。

サブさん、まあ、できないというか、下手というか、、、
少なくとも一般市民が期待する水準になってないのは間違いないです。
そういう訓練が制度化されていないわけですから。

だからマジメな看護婦さんは自分で機会を見つけては講習を受けてスキル維持に努めています。おそらくそういう看護師さんは少なくないはずですが、義務や制度になってませんから、興味のない人はまったくしません。つまり"一定の水準"というのが担保されていないというのは事実だと思います。

だからこそ、「うちの病院では院内全員にCPR講習の定期受講を義務づけています」というような病院公式ウェブでの公示があったりするわけです。

バッジに関してですが、帝京だったかどこか忘れましたが、院内でAED講習を受講した人には"AED使用認定看護師"という意味で独自のピンバッジをつけてもらっているというような取り組みが発表されていました。

法的には曖昧さが残りますが、厳密に法解釈すると看護師といえど無条件ではAEDは使えません。医師からの指示(包括的指示でOK)と適切な講習を受けていることが条件となりますので、講習を受けた認定看護師の証としてバッジを配るというのは受講のモチベーションにもなりますし、病院全体としての取り組みのPRとしても悪くない方法と思います。

ただmimimiさんもおっしゃるようにピンバッジは危険という意見もあり、私の病院ではカードタイプの認定証を発行してネームプレートの裏に入れてもらってます。

たぶんマジメに数年おきにBLS講習を受けている意識の高い市民のほうがよっぽど頼りになると思います。
Posted by めっつぇんばーむ at 2009年01月10日 02:59
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