2019年01月01日

ACLS受講にBLS資格が必須であるとの迷信を解く

いま、日本国内にはACLSプロバイダーコースを開催していると公言しているトレーニグセンターが5つあります。

(5つには含めていませんが、国際救命救急協会、日本救急医療教育機構、ACLS JAPANも、ACLSトレーニングセンター格は持っています。しかし公募講習の形跡がなく、その活動実態が明らかではないので除外しました。)


・日本医療教授システム学会
・日本循環器学会
・日本ACLS協会
・福井県済生会病院
・日本BLS協会


これら5つのトレーニングセンターのうち、

・日本循環器学会
・日本ACLS協会
・日本BLS協会

の3つは、ACLSプロバイダーコース受講条件として有効期限内のAHA-BLS資格、もしくはBLSプロバイダーコースの受講歴が必要であると定めています。

逆に言うと、BLS資格・受講歴不要でACLSを受講できる余地を残しているのは、

・日本医療教授システム学会
・福井県済生会病院

だけです。


AHA的にはBLS受講歴・資格は不要!


いまさら言うまでもなく、アメリカ心臓協会としては、ACLSプロバイダーコース受講にBLS資格が必要であるとは定めていません。

これは、ACLSインストラクターマニュアルに書かれているとおりで、インストラクターの皆さんは当然知っていることですし、市販書籍に書かれている以上、公然の事実と言えます。

しかし、トレーニングセンターは、要件としてそれを定めることができる、ともインストラクターマニュアルには書かれています。

つまり、ACLS受講にBLSが必要だというのであれば、それはAHAの言っていることではなく、トレーニングセンター(日本国内の提携法人)が定めたローカル・ルール、ということになります。

ですから、ACLS受講にBLS資格が必須とすることは、間違っていませんし、なんら非難されるべきことではありません。

この点は、まずははっきり確認しておきたいと思います。



じゃあ、なにゆえにBLS資格を求めるのか?


その上で、ACLS受講にBLS資格や受講歴が必要であると独自ルールで定める団体があるのはなにゆえなのか、という点を考えてみたいと思います。


仮説1 昔の名残り


まず、考えられるのが昔のAHAルールの名残なのでは? という説。

これについては、私も正しくは知らないのですが、どうやら昔は、ACLS受講には有効期限内のBLS資格が必要だとしていた時代があったようだ、という話は聞いたことがあります。

ただ、あくまでも伝聞で、根拠は持ち合わせていません。

私がAHAインストラクターになったのはG2005に切り替わる前後の頃で、かろうじてG2000時代を経験しています。少なくともその時代のAHAルール(PAM)には、BLSが必須という規定がなかったことは、はっきり覚えています。

ですから、あったとしたらG2000以前の話。

ただ逆に、少なくとも2005年以降は、ACLS受講にBLS資格は不要だったとは言い切れます。今は2019年ですから、過去14年くらいは、AHA公式としてはBLSは必須でない時代が続いているのは確かです。



仮説2 ACLSはBLSができる前提で成り立っているから、受講すべき


この意見は、まあ、うなずけます。このこと自体は私も否定しません。

しかし、BLSができることと、AHA-BLSプロバイダーコースを履修していることはイコールではありません。

ACLSで求められているのは成人への一人法BLSとAED操作、バッグマスクスキルだけであり、それらは4−5時間のBLSプロバイダーコースでなくても習得できる一般技能です。

そしてその程度の訓練は、いまは病院の職員トレーニングとして普通にやっています。

さらに言えば、この程度のCPR技術は、仮にBLSの素養がまったくない人であっても、ACLSプロバイダーコース中のBLSセクションで十分に習得可能であるという点です。

ACLSコースの中で、いきなりBLS実技試験が行われるわけではなく、質の高いBLSの科学的背景に関するDVD解説や、ビデオを見ながらのPWW練習を経た上で、BLS試験に臨みますよね。このプロセスを考えてもらっても、ACLS受講者に完璧なBLS習得を求めているわけではないことはわかります。

ほんとに条件であるなら、つべこべ言わずにいきなり試験をして落とせばいいわけですから。


成人の不整脈起因の心停止や救急対応に限定したACLSコースでは、BLSプロバイダーコースで必須とされている小児や乳児の蘇生、窒息解除などはオーバースペックです。

医療従事者たるもの、これらも知っておくべきであるという点はまったくもって同意しますが、だからといってBLSプロバイダーコースを経ないと成人の二次救命処置を学ぶ資格がない、と言うのは暴言に近いでしょう。



仮説3 米国の医療者でBLS資格を持っていない人がACLSを受けることはありえない


米国の一般事情として、病院で働く以上、BLS資格を持っているのは当たり前で、その資格がなければ働けないというのは実態としては事実だと思います。

だから、制度上、ACLSを受ける医療者であればBLS資格を持っているのはあたりまえという意見を聞くこともあります。

このもっともらしい主張も下記の2点で私は懐疑的です。


1.ACLSコース受講と同時にBLSプロバイダー資格を取得できる制度がある

ACLSインストラクターマニュアルに書かれていますが、ACLSプロバイダーコース内で、オプションとして乳児BLSの実技試験と、BLSプロバイダーコースの筆記試験を実施すれば、それだけでBLSプロバイダーカードを発行できることが規定されています。

DVDを見て、段階的に練習して、、、という4-5時間をかけなくても、BLSの試験に合格すればAHA-BLS資格を取れるのです。

こんなオプションが規定されているということは、そもそもACLS受講に資格としてのAHA-BLSは不要であるということの証左です。


2.ここは米国ではない

米国の医療者が職業義務としてBLS資格取得と維持が求められているのが事実だとしても、ここは日本です。米国の慣習を真似る必然性はありません。

AHAが定める範囲内において、日本の事情、慣習に合わせて運用すればいいので、アメリカではそうだから、というのはなんの強制力もありません。

日本でもBLSを必須とするのであれば、それはACLSコースを主催する団体やインストラクターの強い思い、考え、判断ということになります。



結局、なぜ?


ということで、結論とすれば、なぜ日本のITCがACLS受講にBLSを求めているのか、納得できる理由はあまり見いだせないのですが、ここから先は私の勝手な想像、というか邪推です。

日本にACLSが入ってきた2003年頃だと思います。ACLSはBLSを受講した人でないと受けられないという話が浮上して固まってきたのもこの頃です。

当時からAHAの運営マニュアルであるPAMには、BLSは必須ではないということは書かれており、日本にAHA講習を持ちこんだ人たちもそのことは認識していたことと思います。

しかし、あえてBLS必須というルールにしたのでしょう。

というのは、ひとつは当時日本にはBLSですら標準化されたものがなく、本当にBLSの質が担保できていなかったからです。

医療者ならBLSができて当たり前という文化意識もありませんでした。

しかし、それから15年以上が経過し、今はどうでしょうか?

どの病院でも職員研修としてBLS訓練をしており、ACLSプロバイダーコース内BLS実技試験程度の一人法CPRとAEDくらいはふつうに教えています。

昔とは違うのです。

昔からACLSを開催しているところは、なんとなく昔のやり方をずるずるひきづってるだけなのでは?

というのが私の考える理由の1つ目です。



もう一つの理由は、経済的な理由、営業戦略なのでは? という点です。

ACLS受講にBLSが必須となれば、ACLSだけでいいと思っている医師たちからも余分に1万8千円(日本国内の平均受講料)を取れるわけですから。

当時はBLSもACLSも国内ではトレーニングセンター(当時はITOと言ってました)がひとつしかなく、独占状態でした。

ゆえの経営戦略なのかな、と。

しかし、今は10以上のBLSトレーニングセンターが認可されていますので、この独占営利的な意味は薄くなっています。かつては、◯◯で発行されたBLSプロバイダー資格でないと認めないとするところもありましたが、さすがに今はこのような縛りは撤廃されているようです。



こう考えてみると、現代日本において、ACLS受講にBLSを必須です、とする実質的な意味はなく、むしろ、受講者からしたら、そこでの受講を敬遠するマイナス要因でしかないんじゃないかな、と思うのですが、いかがでしょうか?


最新版のACLSインストラクターマニュアルでも、トレーニングセンターがBLS必須とする権利は認められているので、ポリシーをもってやってるならいいのですが、時代も変わってきたことですし、顧客目線で抜本的にも直してみてもいいのでは? と思う次第です。




posted by めっつぇんばーむ at 19:38 | Comment(0) | ACLS(二次救命処置)