それが2018年9月5日、ついに叶いました。
PEARSプロバイダーコースDVD と PEARSインストラクターマニュアル の公式日本語版が発売開始になったのです。
思えば、私がPEARSと関わるようになったのは、2009年頃、AHAがPEARSコースを新たに開発したAHAガイドライン2005の時代からでした。
当時には米国でPALSインストラクター資格を取ってきた一部の日本人が国内で細々と開催していただけでした。私は主にその広報担当として、日本でのPEARS定着に努めてきました。
2015年には、PEARSプロバイダーマニュアルの日本語版(旧2010ガイドライン準拠)が制作されましたが、自費出版の扱いで、一般流通には乗らず、しかもインストラクターマニュアルやコースDVDは日本語化されなかったため、日本ではPEARSは公式講習だったのかと言われれば、あやしいまま今日まで来ていました。
それが、ようやく約10年ぶりに完全日本語化。うれしい限りです。
さて、G2015版でPEARSプロバイダーコースがどう変わったのか、ざっくりレビューします。
1.シミュレーション必須化
G2010版PEARSでは、コース進行を机上ディスカッションと、マネキンの前に立ってチームを組んで進行するシミュレーションの2つの進行方法を選べました。(受講者じゃなくて主催インストラクターが決める、という話です)もともとはG2005時代は、シミュレーションが省略できるなんて、考えられなかったのですが、この5年間、やってみてAHAもわかったんでしょうね。シミュレーションなしのPEARSはありえない!
ということで、G2015では、晴れてシミュレーションは省略不可ということで落ち着きました。
インストラクターマニュアルでは、「レッスン11 総まとめ」ということで、80分の時間が取られています。
部屋に入って最初に患者を見たところから、人を集めて、評価・介入をし、最後は医師などに引き継ぎを行うところまでを、チームシミュレーションとして行うことが規定されています。
おもしろいことに、インストラクターマニュアルには「シミュレーションの場所に椅子を置かない(誰も座っていてはいけない)」とわざわざ書いてあります。
机上の言葉だけの脳内シミュレーション(?)ではダメですよ、と、わざわざ牽制してあるのが興味深いですね(笑)
前回のガイドラインでシミュレーションを省略していいという愚策を打ってしまった反省なのか、今回のインストラクターマニュアルでは、他のコースにないくらいシミュレーションという教育技法のロジックと有用性について詳しく書かれています。
シミュレーション教育を勉強している人は一見の価値があるかもしれません。
2.スキルステーション必須化
PEARSにおけるスキルステーションとは、エアウェイや酸素マスク、ネブライザーなどの実際の使用方法を現物を使って実習させることを言います。これもG2015では省略不可のものとして復興しました。
今回、工夫されているなと思ったのは、3症例ある呼吸器ケースのテーブル・ディスカッションのあとに、それぞれ受講者の一人をマネキンの前に立たせて、呼吸器系の観察と評価の流れを実演させるところです。
実際のところ、マネキンは苦しそうに息しているわけでないし、マネキンを見てもなんの情報も得られないのですが、マネキンを前に前にして「胸の動きを見ます、陥没やシーソー呼吸の有無は、、、」などと、受講者が得たい情報に自らアプローチすると、インストラクターが呼吸様式を演技したり、言葉で情報を提供して、アセスメントを進めていくということを体験させます。
答え的にはわかっていることでも、あえて人間を模したマネキンの前で行動させることで、机上訓練の一歩先を盛り込んでいるんだなというのがよくわかります。
この過程で、最終的には酸素投与やネブライザー投与も、実際の器具を使ってマネキン相手に実施させることをしてください、というのがインストラクターマニュアルに規定されています。
3.その他
その他、インストラクターマニュアルを見ていて感じるのは、受講者個々の理解やバックグラウンドに合わせて、質問の難易度を変えたり、シミュレーション・シナリオをアレンジして、受講者すべてにとって有意義な講習となるように調整・変更を図るのがインストラクターの役割であることが強く打ち出されているという点です。これはシミュレーション教育とか、成人学習理論からしたら、至極あたりまえの話なのですが、古くからAHAインストラクターをしている人たちにとっては、AHAのレッスンマップは何が何でも変えちゃいけないとか、勘違いしている人が多いことから、ここまではっきり書かなくちゃ通じないのかなと感じました。
また、サイエンスとしてはPEARS領域の内容はほとんどガイドライン改定に伴う変更はありませんが、PEARSのゴールとしては、安定化だけではなく、その先の治療(サルブタモール噴霧やアドレナリン噴霧)にも踏み込んできている印象があります。
さらには、敗血症ガイドラインが改定されたこととも関係あると思いますが、輸液のボーラス投与のリスクについても強調されるようになったものG2010版からは変わったところかなと思います。
筆記試験問題、公式日本語版の訳に注意!
さて、今回、PEARSプロバイダーコース筆記試験問題も日本語化されていますが、翻訳がかなりざっくりしたところがあって、不正確というか受講者を惑わす部分が大きいなと言う点を懸念しています。詳細はここには書けませんが、日本語版の試験問題だけを読んだのでは正しく解けない問題がいくつかありますので、試験の際には英語版も見てもらう必要がありそうです。このあたりは主催インストラクターがそれぞれ工夫しなくちゃいけないところですね。
さて、日本国内のPEARSはいまは移行期で、古いまま開催しているところもあれば、新しいDVDで開催しているところもあるし、、、ということで安定していません。
おそらく年明けくらいには完全移行すると思うのですが、それまでは、受講を考えている人は、最新のG2015正式版なのか、古い教材を使ったG2015暫定版なのかを、よく確認してから申し込みをすることをおすすめします。