BLSに関しては、最近は後輩育成が中心となっています。
G2015コースに切り替わって、もう久しいですが、改めて思うのはBLSプロバイダーコースって難しいなという点です。
BLS、ACLS、PEARS、PALSと比べてみたら、内容のシンプルさでいえばBLSが一番簡単そうですが、ところがどっこいAHA-ECCプログラムの中で、指導という点ではいちばんやっかいなのがBLS。
なにが大変って、ひとえにビデオベースってところですね。
PWW(Practice while Watching)というDVD映像を見ながら真似して練習するAHAの専売特許的な指導法。これが最大限に発揮されたのがBLSプロバイダーコースなので、インストラクターは受講者をビデオに合わせて動くように誘導しなくちゃいけない。
これが難しいんです。
同じPWWでも「対応義務のある市民救助者」向けのハートセイバーCPR AEDコースは、ビデオの作りが丁寧なので、逆にインストラクターはビデオ操作をするだけで簡単に進行できるのですが、AHAはヘンに玄人向けなので、中途半端な省略がいただけない。
例えば、人工呼吸練習では、ポケットマスクはマスク・フォールドがいちばん難しいのに、画像をみて真似しているヒマがなく、スッと流れてしまったり。
そもそも人工呼吸を、PWW(見ながら練習)でさせるって根本的に間違っていると思うんですよね。ポケマで呼気吹き込みしている最中に画面見てたらダメ。だって、胸が上がるか見なくちゃいけないし、入れ過ぎちゃいけないわけだし。
だから、人工呼吸のPWWで画像を見て真似する部分って、マスクの当て方の部分だけなんです。なのに肝心のそこが使えない作りってなんなんだろうと思います。
こういう素直にレッスンプランとDVD通りにやっても、うまくいかないのがBLSプロバイダーコースの難しいところ。
更にいうと、DVDプロバイダーコースの最初の実技練習、傷病者評価のところなんて最悪ですよね。
反応なしで、「誰か!」と叫ぶのはいいけど、「119番! AED!」と言うまでの間にタイムラグがある。これをふつうにやったら、受講者は多いに戸惑います。
なんなの? これ? って、キョトンとしちゃいます。
これって、教育工学的に受講者のやる気を落とすマイナス要因です。特に期待して受講したAHA講習との最初の練習が、こんなワケワカメだとかなりの打撃。
AHAガイドライン2015の教育の章に書いてあるように、インストラクショナル・デザインと成人学習理論に基づいて作りましたよ、と宣言されているのがG2015講習。
だとしたら、インストラクターも成人学習理論を踏まえた展開をするのは当然のこと。
米国人向けに作られたDVDの構成によって、日本人受講者の学習意欲を削ぐ要因があるのであれば、その溝を埋めるのが日本人インストラクターの仕事です。
トレーニングセンターによっては、標準化教育なんだから「インストラクターはコース中に喋っちゃいけない」とか言っているところもあるようですけど、教材設計の背景を考えてないんでしょうね。
ふつうに考えても、高い受講料を取って、顧客に戸惑いや不快な思いをさせちゃダメじゃないですか。
BLS-2015の最初のPWW、周りに助けを呼ぶのと、救急対応システム発動とAED手配のタイミングがずれているのには、これはこれでG2015の改訂の意図を考えればちゃんと意味がある部分で、この部分は補足説明してあげないといけないと思うわけです。
一言で言えば、BLSプロバイダーコースはガイドライン改訂の本質部分がぎっしりつまっています。これ自体はBLSコースの大きな魅力なのですが、それが指導員向けのレッスンプランに書かれていないのが問題と言えます。
この点は、ガイドラインそのものをちゃんと読めば、なるほどね! とわかるんですけどね。
この違和感の謎を解いて、大筋としてのAHAの意図を汲み取って、溝を埋めていく。
これがBLSプロバイダーコース指導の難しさです。
逆にDVDなんか使わずに、自分で指導したほうがよっぽど簡単。
この難しい部分を他のインストラクターにどう指導していくのかが、俗にいうインストラクター・トレーナー(AHA的にはFacultyといいます)の力量で、さらにはトレーニングセンターという組織母体の教材設計理解のポテンシャルなんでしょうね。