2015年05月17日

高度な気道確保*ラリンジアル・マスクの話

ACLSプロバイダーコースの勉強をしていると、高度な気道確保で「声門上デバイス」というのが出てきます。

日本の医療現場では、ラリンジアル・マスクがよく使われていますが、病院内でも見たことがある人は少ないかもしれません。

救急センターや病棟での急変でも、普通は気管チューブで挿管しますので、使うとすればオペ室くらい。

ということで、ちょっと紹介してみようと思います。

ランジアル(ラリンゲル)・マスク*声門上デバイス


AHA的には、こういった声門上デバイスも気管チューブも一緒くたに「高度な気道確保器具」として扱っていますが、根本的に別物として考えたほうがいいと思います。

というのは、気管挿管に比べてラリンゲルマスクは、気管と食道の分離性が悪いというか、確実性が低いため、本当に非同期でCPRをしていいのかという点では議論の余地があるからです。

ご存知、気管チューブは気管内でカフが膨らませることで、チューブを通して空気(酸素)が確実に肺に届き、食道から胃に空気が入り込むことはありませんし、逆に嘔吐をした場合でも、吐瀉物が肺に入り込むこともありません。

それに対してラリンジアル・マスクはあくまでも「マスク」であり、気管内には挿入されません。喉の奥の声門周囲を覆うように配置して、立体構造のカフを膨らませて周囲に密着することで食道を塞ぎ、気管だけに交通するように気道確保を行っています。

フェイスマスクが口と鼻を覆うように密着されるのと同じ感じで、声門部に密着させているだけ。

形が複雑なだけに密着度には個体差があり、チューブのズレや蛇管などの負荷のかかり方によっても容易に隙間ができる可能性があります。

故に麻酔科医も、全身麻酔の時に気道と食道を確実に分離させたいような症例では、ラリンジアル・マスクは選択しません。


そういった意味で、気管挿管したら胸骨圧迫と換気は非同期で行いますが、ラリンジアル・マスクで同じようにした場合、気管挿管に比べると胃膨満や誤嚥のリスクは高いと考えられます。

ここは日本版ガイドライン策定の際に、議論になったようですが、結局、ガイドラインでは下記のように記載されました。

「気管挿管後は、胸骨圧迫と人工呼吸は非同期とし、連続した胸骨圧迫を行う。(中略)声門上気道デバイスを用いた場合は、適切な換気が可能な場合に限り連続した胸骨圧迫を行ってよい」

(JRCガイドライン2010、第2章成人の二次救命処置より)


いちおう気管挿管と声門上デバイスの違いは表現されていますが、「適切な換気が可能な場合に限り」というあいまいな限定付の上、「行ってもよい」というやや歯切れの悪い表現となっています。


以前は、救急救命士は気管挿管ができなかったため、このラリンジアル・マスクやコンビチューブといった喉頭鏡を使わずに盲目的に挿入できる器具を使っていましたが、今は挿管認定を受けた救急救命士が増えてきているので、これらが救急の場面で使われる頻度は減っているのかもしれません。

細かい議論はあるかもしれませんが、気管挿管とラリンジアルマスク挿入は似ているようで根本的に違うというお話でした。


で、参考情報ですが、ランジアル・マスクによる気道確保は看護師でも行える処置ということになっています。

現実、看護師の急変対応でフェイスマスクの代わりに使うということはまず無いんじゃないかと思いますが、いちおう気管挿管と違って訓練さえ受けていれば看護師が扱ってもいいことになっています。

その根拠は、救急救命士が行える処置として規定されいている以上、救命士の業務範囲をカバーしている看護師免許でも行える、というロジックのようです。

参考まで。




posted by めっつぇんばーむ at 23:18 | Comment(1) | TrackBack(0) | ACLS(二次救命処置)
2015年05月16日

意識を失った人への窒息解除:CPRが正解だけど、、、要注意!

話をシンプルにするために成人傷病者を前提に話します。

喉にモノが詰まったら、ハイムリック法(腹部突き上げ法)か背部叩打法で窒息解除を試みるのはご存知の通り。

このあたりは市民向けの救命講習でも必ず教わることなので、知っている人が多いと思います。

これでうまく取れれば御の字ですが、着手が遅れたり、うまくいかない場合に、どうなるかというと、意識が朦朧としてきて、意識を失って倒れてしまうことでしょう。

そこに至るまでの時間はほんの数分です。自分は何秒間息を止められるかな、と考えるとイメージができるかと思います。

119番で救急車を呼ぶのでは間に合わない、だからこそ、その場にいた人が迅速に処置する必要があるわけです。

で、だいたい、映画みたいにすばやく対応できる人なんてそうそういませんから、喉にモノが詰まった場合、処置が間に合わずに意識を失ってしまうケースは少なくはないんじゃないかと思います。

だからこそ、意識を失った後の対処も知っておくべきなのですが、残念ながら、ここはあまり知られていません。

救命講習でもさらっと話す程度で終わりますし、受講者の記憶にも残っていない場合が多いです。

でも、けっこう大事だぞ、という点は、ここまで読んでくれた方ならわかりますよね?


さて、腹部突き上げ法や背部叩打法が間に合わず、意識を失ってしまったら(正確には反応がなくなったら)、ハイムリック法や背部叩打法を続けるのではなく、「胸骨圧迫からCPRを開始する」というのが教科書的な正解です。

一般の救命講習でも「意識を失ったら心肺蘇生法を行ってください」という感じでさらっと説明されますが、ここにけっこう大きな落とし穴があるんだよ、というのが今日皆さんにお伝えしたいポイントです。

大事なことは、

胸骨圧迫からCPRを始める(脈拍触知はしない!)


ということです。

ハイムリック法をしているうちにぐったりしてきたら、「大丈夫ですか?」「呼吸確認!」とかそういう評価は必ずしも必要ではありません。

特に、絶対にやっちゃいけないのが脈拍触知です。

市民向けのプロトコルだと脈拍触知は行わないことになっているのでいいのですが、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者)向けで教わっている人は要注意。

想像してみてください。

喉にモノが詰まって息ができなくなって意識を失った人がいて、倒れた直後に脈拍を取ってみたら、、、、

きっとまだ脈はありますよね。

体の中が酸素不足になってますので、代償機能が働いて頻脈気味かもしれません。

で、普通のBLSの手順に従うと、「反応なし+呼吸なし+脈あり」、ですから、やるべきことは5〜6秒に1回の補助呼吸ということなってしまいます。


このシチュエーションで、必要な処置は胸骨圧迫の名を借りた 胸部突き上げ です。

つまり、臥位の状態で胸を強く早く断続的に押すことで、肺の空気を間欠的に押し出し、その力で喉につまった異物を取り除こうというのが目的。

心臓に力をかけたいのではなく、肺に力を掛けたいのです。(ですから、心臓マッサージではありません。胸部突き上げなのです)

もし、ここで脈を取ってしまうと、恐らく脈はまだあるでしょうから、この胸骨圧迫(=胸部突き上げ)につながらないのが問題だという点はわかるでしょうか。

だから話をシンプルにする意味では、近似的にCPRをしてください、といいますが、「胸骨圧迫から始める」ということ強調するのがとてもとても大切なのです。


ヘルスケアプロバイダーレベルのBLSを教える以上、ここをしっかりと伝えることはインストラクターの責務ではないかと思います。

AHAのヘルスケアプロバイダーマニュアルにもこのことはきちんと書かれていますので、ぜひ見てみてください。

53ページになります。

「傷病者を地面に寝かせ、胸骨圧迫からCPRを開始する(脈拍のチェックはしない)。」

と書かれています。



もうひとつ、この場面でわかりにづらいのが通報のタイミングです。

ここは呼吸原性心停止と同じ扱いで考えて、優先されるのは胸部突き上げの開始です。

誰か人がいれば119番通報をお願いするべきですが、自分一人しかいなければ、「誰か!」と叫びつつも自分で携帯を取り出すのではなく、行動としてやるべきは胸部突き上げです。

意識を失って脱力すれば、筋肉もゆるみますので異物が取れる可能性が高くなっていると考えられます。

だからこそ、臥位にして胸部突き上げを中心としたCPRを。

それでも取れなければ、埒が明きませんので、CPRを中断して、公衆電話に走るか携帯で119番しますが、その時間の目安はCPRを5サイクルもしくは2分間行った後、とされています。

米国ガイドライン(AHAガイドライン2010)では上記のように教えていますが、日本版ガイドライン(JRCガイドライン)では、通報が優先とされていますので、その点もインストラクターは把握しておいたほうがいいでしょう。





posted by めっつぇんばーむ at 10:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | ファーストエイド(FA)