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2019年01月01日

ACLS受講にBLS資格が必須であるとの迷信を解く

いま、日本国内にはACLSプロバイダーコースを開催していると公言しているトレーニグセンターが5つあります。

(5つには含めていませんが、国際救命救急協会、日本救急医療教育機構、ACLS JAPANも、ACLSトレーニングセンター格は持っています。しかし公募講習の形跡がなく、その活動実態が明らかではないので除外しました。)


・日本医療教授システム学会
・日本循環器学会
・日本ACLS協会
・福井県済生会病院
・日本BLS協会


これら5つのトレーニングセンターのうち、

・日本循環器学会
・日本ACLS協会
・日本BLS協会

の3つは、ACLSプロバイダーコース受講条件として有効期限内のAHA-BLS資格、もしくはBLSプロバイダーコースの受講歴が必要であると定めています。

逆に言うと、BLS資格・受講歴不要でACLSを受講できる余地を残しているのは、

・日本医療教授システム学会
・福井県済生会病院

だけです。


AHA的にはBLS受講歴・資格は不要!


いまさら言うまでもなく、アメリカ心臓協会としては、ACLSプロバイダーコース受講にBLS資格が必要であるとは定めていません。

これは、ACLSインストラクターマニュアルに書かれているとおりで、インストラクターの皆さんは当然知っていることですし、市販書籍に書かれている以上、公然の事実と言えます。

しかし、トレーニングセンターは、要件としてそれを定めることができる、ともインストラクターマニュアルには書かれています。

つまり、ACLS受講にBLSが必要だというのであれば、それはAHAの言っていることではなく、トレーニングセンター(日本国内の提携法人)が定めたローカル・ルール、ということになります。

ですから、ACLS受講にBLS資格が必須とすることは、間違っていませんし、なんら非難されるべきことではありません。

この点は、まずははっきり確認しておきたいと思います。



じゃあ、なにゆえにBLS資格を求めるのか?


その上で、ACLS受講にBLS資格や受講歴が必要であると独自ルールで定める団体があるのはなにゆえなのか、という点を考えてみたいと思います。


仮説1 昔の名残り


まず、考えられるのが昔のAHAルールの名残なのでは? という説。

これについては、私も正しくは知らないのですが、どうやら昔は、ACLS受講には有効期限内のBLS資格が必要だとしていた時代があったようだ、という話は聞いたことがあります。

ただ、あくまでも伝聞で、根拠は持ち合わせていません。

私がAHAインストラクターになったのはG2005に切り替わる前後の頃で、かろうじてG2000時代を経験しています。少なくともその時代のAHAルール(PAM)には、BLSが必須という規定がなかったことは、はっきり覚えています。

ですから、あったとしたらG2000以前の話。

ただ逆に、少なくとも2005年以降は、ACLS受講にBLS資格は不要だったとは言い切れます。今は2019年ですから、過去14年くらいは、AHA公式としてはBLSは必須でない時代が続いているのは確かです。



仮説2 ACLSはBLSができる前提で成り立っているから、受講すべき


この意見は、まあ、うなずけます。このこと自体は私も否定しません。

しかし、BLSができることと、AHA-BLSプロバイダーコースを履修していることはイコールではありません。

ACLSで求められているのは成人への一人法BLSとAED操作、バッグマスクスキルだけであり、それらは4−5時間のBLSプロバイダーコースでなくても習得できる一般技能です。

そしてその程度の訓練は、いまは病院の職員トレーニングとして普通にやっています。

さらに言えば、この程度のCPR技術は、仮にBLSの素養がまったくない人であっても、ACLSプロバイダーコース中のBLSセクションで十分に習得可能であるという点です。

ACLSコースの中で、いきなりBLS実技試験が行われるわけではなく、質の高いBLSの科学的背景に関するDVD解説や、ビデオを見ながらのPWW練習を経た上で、BLS試験に臨みますよね。このプロセスを考えてもらっても、ACLS受講者に完璧なBLS習得を求めているわけではないことはわかります。

ほんとに条件であるなら、つべこべ言わずにいきなり試験をして落とせばいいわけですから。


成人の不整脈起因の心停止や救急対応に限定したACLSコースでは、BLSプロバイダーコースで必須とされている小児や乳児の蘇生、窒息解除などはオーバースペックです。

医療従事者たるもの、これらも知っておくべきであるという点はまったくもって同意しますが、だからといってBLSプロバイダーコースを経ないと成人の二次救命処置を学ぶ資格がない、と言うのは暴言に近いでしょう。



仮説3 米国の医療者でBLS資格を持っていない人がACLSを受けることはありえない


米国の一般事情として、病院で働く以上、BLS資格を持っているのは当たり前で、その資格がなければ働けないというのは実態としては事実だと思います。

だから、制度上、ACLSを受ける医療者であればBLS資格を持っているのはあたりまえという意見を聞くこともあります。

このもっともらしい主張も下記の2点で私は懐疑的です。


1.ACLSコース受講と同時にBLSプロバイダー資格を取得できる制度がある

ACLSインストラクターマニュアルに書かれていますが、ACLSプロバイダーコース内で、オプションとして乳児BLSの実技試験と、BLSプロバイダーコースの筆記試験を実施すれば、それだけでBLSプロバイダーカードを発行できることが規定されています。

DVDを見て、段階的に練習して、、、という4-5時間をかけなくても、BLSの試験に合格すればAHA-BLS資格を取れるのです。

こんなオプションが規定されているということは、そもそもACLS受講に資格としてのAHA-BLSは不要であるということの証左です。


2.ここは米国ではない

米国の医療者が職業義務としてBLS資格取得と維持が求められているのが事実だとしても、ここは日本です。米国の慣習を真似る必然性はありません。

AHAが定める範囲内において、日本の事情、慣習に合わせて運用すればいいので、アメリカではそうだから、というのはなんの強制力もありません。

日本でもBLSを必須とするのであれば、それはACLSコースを主催する団体やインストラクターの強い思い、考え、判断ということになります。



結局、なぜ?


ということで、結論とすれば、なぜ日本のITCがACLS受講にBLSを求めているのか、納得できる理由はあまり見いだせないのですが、ここから先は私の勝手な想像、というか邪推です。

日本にACLSが入ってきた2003年頃だと思います。ACLSはBLSを受講した人でないと受けられないという話が浮上して固まってきたのもこの頃です。

当時からAHAの運営マニュアルであるPAMには、BLSは必須ではないということは書かれており、日本にAHA講習を持ちこんだ人たちもそのことは認識していたことと思います。

しかし、あえてBLS必須というルールにしたのでしょう。

というのは、ひとつは当時日本にはBLSですら標準化されたものがなく、本当にBLSの質が担保できていなかったからです。

医療者ならBLSができて当たり前という文化意識もありませんでした。

しかし、それから15年以上が経過し、今はどうでしょうか?

どの病院でも職員研修としてBLS訓練をしており、ACLSプロバイダーコース内BLS実技試験程度の一人法CPRとAEDくらいはふつうに教えています。

昔とは違うのです。

昔からACLSを開催しているところは、なんとなく昔のやり方をずるずるひきづってるだけなのでは?

というのが私の考える理由の1つ目です。



もう一つの理由は、経済的な理由、営業戦略なのでは? という点です。

ACLS受講にBLSが必須となれば、ACLSだけでいいと思っている医師たちからも余分に1万8千円(日本国内の平均受講料)を取れるわけですから。

当時はBLSもACLSも国内ではトレーニングセンター(当時はITOと言ってました)がひとつしかなく、独占状態でした。

ゆえの経営戦略なのかな、と。

しかし、今は10以上のBLSトレーニングセンターが認可されていますので、この独占営利的な意味は薄くなっています。かつては、◯◯で発行されたBLSプロバイダー資格でないと認めないとするところもありましたが、さすがに今はこのような縛りは撤廃されているようです。



こう考えてみると、現代日本において、ACLS受講にBLSを必須です、とする実質的な意味はなく、むしろ、受講者からしたら、そこでの受講を敬遠するマイナス要因でしかないんじゃないかな、と思うのですが、いかがでしょうか?


最新版のACLSインストラクターマニュアルでも、トレーニングセンターがBLS必須とする権利は認められているので、ポリシーをもってやってるならいいのですが、時代も変わってきたことですし、顧客目線で抜本的にも直してみてもいいのでは? と思う次第です。




posted by めっつぇんばーむ at 19:38 | Comment(0) | ACLS(二次救命処置)
2018年12月21日

AHA講習に義務化 CPRフィードバック装置は諸刃の剣?

さて、気づけば年末ですね。

2019年がやってくるわけですが、この年末年始はAHAインストラクターにとっては、特にざわつく落ち着かないときかも知れません。

2019年1月以降は、成人CPR講習にフィードバック装置を使うことが義務付けられるからです。さらには、eCardへの切り替えを検討しているトレーニングセンターも多いことでしょう。

フィードバック装置に関して言えば、世界中のすべてのAHA講習に適応されますので、いまはフィードバック装置追加購入の駆け込み需要で、品薄状態となっているようです。先日、米国のディストリビューターに問い合わせたインストラクター仲間は3ヶ月待ちと言われたそうです。


AHAとしては、今回のフィードバック装置必須化のために2年前からアナウンスを始めて、その有用性のPRに努めてきました。

質の高いCPRを追求すべきなのは言うまでもありません。

その質を主観的評価にするのではなく、定量的に評価しましょう、といわれているのがACLS。

ACLSでは胸骨圧迫の質に関して、100〜120回/分とか少なくとも5cmというある救助者側の主観的な評価ではなく、呼気終末二酸化炭素濃度や、拡張期血圧といった生理学的な代理指標に着目した科学的な質コントロールが提唱されています。

そういった科学的な定量的評価と、徒手空拳的なBLSの主観的な質評価の間に位置するのがフィードバック装置です。

深さ、テンポ、戻り、中断時間などを表示し、修正の指示をくれる機種もあります。

非常に有用な道具ではあるのですが、トレーニングにおいて使用する場合は注意が必要、と私は考えています。

日頃から離床でフィードバック装置を使っている施設でのBLS講習はすべての練習においてフィードバック装置を使うべきでしょう。

しかし、皆さん、ご存知の通り、フィードバック装置を臨床でルーチン使用している施設はごくごく一部です。

現場で使わない道具であるフィードバック装置を練習で使う意義。

これは、練習者が自身のCPRの質を、インストラクターの主観ではなく、客観的に自己評価できるという点では意義があるでしょう。


しかし、大事な視点として、現場にはフィードバック装置はない、というのを忘れてはいけません。

講習中に終始、フィードバック装置を使用すると、受講者はフィードバック装置のメーターに依存するようになります。

これは、BLSプロバイダーコースの10分間のチーム蘇生の場面でフィードバック装置を使うと顕著です。眼の前で繰り広げられるCPRではなく、モニター画面をじっと見るようになるのです。


ACLSでは、モニターばかり見るな! とはよく言われますが、おなじ現象がBLSでも起きてしまうというのは皮肉な話です。


AHAとしてはフィードバック装置をコース中、使わなくてはいけない、とは言っているものの、具体的にコース中のどの場面で使うのかという具体的な指示はありません。

どの場面でどう使うかという点をインストラクターはよく考えたほうがいいでしょう。

フィードバック装置は自己点検的に使いつつ、最終的には機械を頼らなくても自身の勘どころとしての圧迫のテンポを身につけられるように指導をすべき、と私は考えています。

その目的のための補助装置として活用するならフィードバックは極めて有用なものでしょう。


インストラクター側の認識と使い方によっては、受講者のCPR能力を潰すことにもなりかねない。

そんな本気度をもって、インストラクターはフィードバック装置の活用法を真剣に考えないといけません。





posted by めっつぇんばーむ at 22:37 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター
2018年09月24日

何が変わった? G2015 PEARSプロバイダーコース

悲願だったPEARSプロバイダーコースの完全日本語化。

それが2018年9月5日、ついに叶いました。

PEARSプロバイダーコースDVDPEARSインストラクターマニュアル の公式日本語版が発売開始になったのです。

PEARSプロバイダーコース インストラクターマニュアル公式日本語版G2015


思えば、私がPEARSと関わるようになったのは、2009年頃、AHAがPEARSコースを新たに開発したAHAガイドライン2005の時代からでした。

当時には米国でPALSインストラクター資格を取ってきた一部の日本人が国内で細々と開催していただけでした。私は主にその広報担当として、日本でのPEARS定着に努めてきました。

2015年には、PEARSプロバイダーマニュアルの日本語版(旧2010ガイドライン準拠)が制作されましたが、自費出版の扱いで、一般流通には乗らず、しかもインストラクターマニュアルやコースDVDは日本語化されなかったため、日本ではPEARSは公式講習だったのかと言われれば、あやしいまま今日まで来ていました。


それが、ようやく約10年ぶりに完全日本語化。うれしい限りです。


さて、G2015版でPEARSプロバイダーコースがどう変わったのか、ざっくりレビューします。


1.シミュレーション必須化

G2010版PEARSでは、コース進行を机上ディスカッションと、マネキンの前に立ってチームを組んで進行するシミュレーションの2つの進行方法を選べました。(受講者じゃなくて主催インストラクターが決める、という話です)

もともとはG2005時代は、シミュレーションが省略できるなんて、考えられなかったのですが、この5年間、やってみてAHAもわかったんでしょうね。シミュレーションなしのPEARSはありえない!

ということで、G2015では、晴れてシミュレーションは省略不可ということで落ち着きました。

インストラクターマニュアルでは、「レッスン11 総まとめ」ということで、80分の時間が取られています。

部屋に入って最初に患者を見たところから、人を集めて、評価・介入をし、最後は医師などに引き継ぎを行うところまでを、チームシミュレーションとして行うことが規定されています。

おもしろいことに、インストラクターマニュアルには「シミュレーションの場所に椅子を置かない(誰も座っていてはいけない)」とわざわざ書いてあります。

not-sit.jpg


机上の言葉だけの脳内シミュレーション(?)ではダメですよ、と、わざわざ牽制してあるのが興味深いですね(笑)


前回のガイドラインでシミュレーションを省略していいという愚策を打ってしまった反省なのか、今回のインストラクターマニュアルでは、他のコースにないくらいシミュレーションという教育技法のロジックと有用性について詳しく書かれています。

シミュレーション教育を勉強している人は一見の価値があるかもしれません。


2.スキルステーション必須化

PEARSにおけるスキルステーションとは、エアウェイや酸素マスク、ネブライザーなどの実際の使用方法を現物を使って実習させることを言います。

これもG2015では省略不可のものとして復興しました。

今回、工夫されているなと思ったのは、3症例ある呼吸器ケースのテーブル・ディスカッションのあとに、それぞれ受講者の一人をマネキンの前に立たせて、呼吸器系の観察と評価の流れを実演させるところです。

実際のところ、マネキンは苦しそうに息しているわけでないし、マネキンを見てもなんの情報も得られないのですが、マネキンを前に前にして「胸の動きを見ます、陥没やシーソー呼吸の有無は、、、」などと、受講者が得たい情報に自らアプローチすると、インストラクターが呼吸様式を演技したり、言葉で情報を提供して、アセスメントを進めていくということを体験させます。

答え的にはわかっていることでも、あえて人間を模したマネキンの前で行動させることで、机上訓練の一歩先を盛り込んでいるんだなというのがよくわかります。

この過程で、最終的には酸素投与やネブライザー投与も、実際の器具を使ってマネキン相手に実施させることをしてください、というのがインストラクターマニュアルに規定されています。



3.その他

その他、インストラクターマニュアルを見ていて感じるのは、受講者個々の理解やバックグラウンドに合わせて、質問の難易度を変えたり、シミュレーション・シナリオをアレンジして、受講者すべてにとって有意義な講習となるように調整・変更を図るのがインストラクターの役割であることが強く打ち出されているという点です。

これはシミュレーション教育とか、成人学習理論からしたら、至極あたりまえの話なのですが、古くからAHAインストラクターをしている人たちにとっては、AHAのレッスンマップは何が何でも変えちゃいけないとか、勘違いしている人が多いことから、ここまではっきり書かなくちゃ通じないのかなと感じました。

また、サイエンスとしてはPEARS領域の内容はほとんどガイドライン改定に伴う変更はありませんが、PEARSのゴールとしては、安定化だけではなく、その先の治療(サルブタモール噴霧やアドレナリン噴霧)にも踏み込んできている印象があります。

さらには、敗血症ガイドラインが改定されたこととも関係あると思いますが、輸液のボーラス投与のリスクについても強調されるようになったものG2010版からは変わったところかなと思います。



筆記試験問題、公式日本語版の訳に注意!

さて、今回、PEARSプロバイダーコース筆記試験問題も日本語化されていますが、翻訳がかなりざっくりしたところがあって、不正確というか受講者を惑わす部分が大きいなと言う点を懸念しています。

詳細はここには書けませんが、日本語版の試験問題だけを読んだのでは正しく解けない問題がいくつかありますので、試験の際には英語版も見てもらう必要がありそうです。このあたりは主催インストラクターがそれぞれ工夫しなくちゃいけないところですね。




さて、日本国内のPEARSはいまは移行期で、古いまま開催しているところもあれば、新しいDVDで開催しているところもあるし、、、ということで安定していません。

おそらく年明けくらいには完全移行すると思うのですが、それまでは、受講を考えている人は、最新のG2015正式版なのか、古い教材を使ったG2015暫定版なのかを、よく確認してから申し込みをすることをおすすめします。




posted by めっつぇんばーむ at 20:15 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター
2018年09月18日

BLS Healthcare Provider カードはすでに無効です。

Twitterで少し話題になっていた件について少々。

比較的最近、BLSプロバイダーコースを受けた人が受け取ったプロバイダーカードのデザインが、どうもおかしい、ということが話の発端です。

そのカードというのが下記のもの。


古いG2010版のAHA-BLSヘルスケアプロバイダーカード



そう、G2010時代の「BLSヘルスケアプロバイダーコース」と呼ばれていた時代の旧デザインカードだったのです。



今は、AHAガイドライン2015正式コースに完全移行しているのに、古いカードを出し続けているのって、いいの?



その答えは下記のとおりです。


BLSヘルスケアプロバイダーカードは今は無効




歴代のAHAカードの遍歴が参照できる the Course Card Reference Guide という資料によれば、この旧HCPカードは2016年4月16日以降は、発行禁止になっていることがわかります。

したがって、2年後の2018年4月以降は、このカードは世の中に出回っているはずはなく、資格としては完全に無効であると書かれています。



しかし、おかしなことに2018年に入ってからも、このデザインのカードの発行を受けた人がいるらしいのです。



なぜ、古いカードが発行されてしまったか?


勝手な推察ですが、カード発行業務をしているトレーニングセンター(日本ではITCとも言います)が、古いカードをいっぱい買い込みすぎて在庫がはけていないんでしょうね。

AHAプロバイダーカードやインストラクターカードは米国AHAからではなく、AHAと提携した日本国内法人(ITC)から届きます。

ITCは、プロバイダーカードの原紙をAHA代理店から購入し、国内事務局で氏名や有効期限を追加印字して、受講者に送っています。

カード自体は24枚単位で販売されており、通常、ITCはそれを何百枚も事前購入してストックしているのです。


ガイドライン切り替わりの時期だと、デザイン変更の可能性があるものですから、購入数・ストック数は慎重に調整していくものです。そして、新コースに移行した後は60日という移行期間が設定されますので、その間に旧カードはすべて吐けるように調整していくのがトレーニングセンターの役割です。

どうしても余ってしまったカードは、代理店に返品できるといいのですが、受け付けてくれないみたいで、結局捨てることになります。

それにしても、2年以上たった今も古いデザインのカードを出し続けているとすると、ずいぶんと買い込んじゃったんだな、もしくは、コース開催数があまりないところなのかな? と推察します。



受講者への不利益は?


さて、不幸にもこの旧カードを最近受け取ってしまった受講者はどうなるのか?

まあ、日本国内での話なら、気にしなくていいと思います。

そもそも日本でこのカードを資格として提出しなければいけない場面というのは、あんまりないはずだし、資格提出を求める立場の人も、このカードが公式には無効だなんて知らないと思いますので。

ただ、問題は、米国に留学するとか、米国で働く、米国の何かの資格認定のための提出が必要という人の場合です。

米国内では、このカードはもう出回っていませんし、無効であるとはっきり宣言されているわけですから、通用しない、もしくは偽造と疑われる可能性があるかもしれません。

その点、心配な人は、発給を受けたトレーニングセンターないしは、受講したサイトの事務局に新しい現行のBLSプロバイダーカードの再発行を相談(というよりクレーム?)してもいいかもしれません。


その場合の根拠となる the Course Card Reference Guide は米国AHAのウェブサイトで、誰でも見れる形で公開されていますので、リンクをたどってみてください。









posted by めっつぇんばーむ at 11:54 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター
2018年08月27日

AHAプロバイダーカード、日本もeCardに変わるのかな?

ここのところあまり更新していませんでしたが、今どきのネタとしてeCardのことを書いてみようと思います。

AHAのプロバイダーカード。BLSやACLSに合格後に送られてくるあの英文のカードですが、あれがなくなるという話題です。

この方向性は数年前から打ち出されており、AHAとしては、段階的に普及を進め、今年1月には米国内ではすべてのトレーニングセンターにeCardを発行することを求めるに至りました。まだかろうじて過渡期のようですが、ちかぢか紙のプロバイダーカードの販売が停止されることが決まっています。

今は、まだ紙のカードとeCardが混在していますが、すでに米国内では、紙のカードはold fashionという空気感になってきています。


さて、このeCard、読み方としてはイーカードですが、どんなものかというと、e-mailと同じ語法ですので、電子カードとでも訳せばいいのでしょうか。

簡単にいえば、形がある紙ではなく、インターネット上の電子データとして存在確認される証明書ということになります。

○○プロバイダーコースに合格すると、AHAからメールが届き、そこにあるリンクをクリックすると、専用ページでのパソコンやスマートフォンの画面表示として資格証明を確認できるという形になります。

今までは、ACLS資格を取ったといったらプロバイダーカードを見せたり、そのコピーを提出したりしたわけですが、eCardでは、専用ページにアクセスしてスマホの画面をちらっと見せて、資格証明をする時代になったということです。

eCardは、パソコンやスマホ画面での表示以外に、賞状のような形で印刷したり、名刺サイズのカードに印刷することもできるようになっています。

従来のプロバイダーカードでは、唯一の資格証明が紙切れ一枚という形でしたが、eCardでは、いくつかのパターンで資格証明ができ、そのオリジナルはインターネット上の電子データですから、紛失のリスクがなくなったのがeCardの長所です。

eCardの詳細は、日本国内で活動しているUSインストラクターの方たちがホームページで解説してくれているので、そちらを参照してください。


AHA eCard(イーカード・電子修了証)とは - AHA岡山BLS
http://jemta.org/ecard/ecard.html

AHA資格 電子認証システム eCard (イーカード)とは【BLS横浜】
https://bls.yokohama/ecard.html


今のところ、日本国内でeCardを発行しているのは、USインストラクターと呼ばれる米国のトレーニングセンターと提携して活動しているインストラクターだけで、その数はおそらく10〜20人程度と思われます。

eCardは米国の話で、日本ではほぼ無関係の話ではあったのですが、先ごろ、日本の国際トレーニングセンターの代表者の集まりが開かれ、日本でも2019年1月で、紙のプロバイダーカードの供給を停止するという話が持ち上がりました。

つまり、来年の1月以降、日本でもeCardへの完全移行の可能性が具体化してきたのです。

日本においては、CPRverify(AHAインストラクターの皆さんは聞いたことありますよね?)からインストラクターがRosterデータを登録することでeCardが発行されるシステムにしたいみたいで、去年あたりからCPRverifyの促進キャンペーンが行われていました。(米国のTCは別で、CPRverifyではなくInstructor Networkから登録します)

CPRverifyは日本語化されましたので、それほどハードルは高くはないとは思うのですが、日本のITCとしては、否定的な意見が多く、2019年1月のeCard移行については、AHAが最終的にどのように判断するかは現時点、未知数です。

AHAとしては、わざわざ日本のためだけに紙のプロバイダーカード原紙を製造・販売を続けるということは考えにくいことですので、日本でもやがてeCardに移行するのは間違いないでしょう。

この電子資格認証という制度は、AHAに限らず、日本では、例えばサッカーの審判の資格証も電子認証になっていると聞きます。

時代の流れ、なんでしょうね。



米国で電子認証のeCardがここまで定着したのは、病院などの雇用者が従業員のBLSやACLSの資格管理に便利という点が大きいと思います。

ご存知の通り、米国の医療従事者はBLSやACLS資格の取得と維持が、事実上必須可されているため、病院雇用者側としては、何千人といる従業員の資格チェックが大きな負担でした。

その点、eCardシステムでは、従業員からeCardコードと呼ばれる12桁の個別番号の提出を受ければ、インターネット経由で、その資格の有効性をまとめてチェックできるので、管理が簡単という絶大なメリットがあります。

日本では、ACLSやBLSの資格チェックといえば、麻酔科専門医や循環器専門医の申請の他、国際病院機能評価JCI受審のため、というくらいなので、この資格チェックシステムが活きてくる場面は限局的かもしれません。

さて、この先、どうなっていくんでしょうね?







posted by めっつぇんばーむ at 20:52 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター
2018年03月24日

BLSプロバイダーコース指導がいちばん難易度が高い理由

久々の更新です。

BLSに関しては、最近は後輩育成が中心となっています。

G2015コースに切り替わって、もう久しいですが、改めて思うのはBLSプロバイダーコースって難しいなという点です。

BLS、ACLS、PEARS、PALSと比べてみたら、内容のシンプルさでいえばBLSが一番簡単そうですが、ところがどっこいAHA-ECCプログラムの中で、指導という点ではいちばんやっかいなのがBLS。

なにが大変って、ひとえにビデオベースってところですね。

PWW(Practice while Watching)というDVD映像を見ながら真似して練習するAHAの専売特許的な指導法。これが最大限に発揮されたのがBLSプロバイダーコースなので、インストラクターは受講者をビデオに合わせて動くように誘導しなくちゃいけない。

これが難しいんです。

同じPWWでも「対応義務のある市民救助者」向けのハートセイバーCPR AEDコースは、ビデオの作りが丁寧なので、逆にインストラクターはビデオ操作をするだけで簡単に進行できるのですが、AHAはヘンに玄人向けなので、中途半端な省略がいただけない。

例えば、人工呼吸練習では、ポケットマスクはマスク・フォールドがいちばん難しいのに、画像をみて真似しているヒマがなく、スッと流れてしまったり。

そもそも人工呼吸を、PWW(見ながら練習)でさせるって根本的に間違っていると思うんですよね。ポケマで呼気吹き込みしている最中に画面見てたらダメ。だって、胸が上がるか見なくちゃいけないし、入れ過ぎちゃいけないわけだし。

だから、人工呼吸のPWWで画像を見て真似する部分って、マスクの当て方の部分だけなんです。なのに肝心のそこが使えない作りってなんなんだろうと思います。

こういう素直にレッスンプランとDVD通りにやっても、うまくいかないのがBLSプロバイダーコースの難しいところ。


更にいうと、DVDプロバイダーコースの最初の実技練習、傷病者評価のところなんて最悪ですよね。

反応なしで、「誰か!」と叫ぶのはいいけど、「119番! AED!」と言うまでの間にタイムラグがある。これをふつうにやったら、受講者は多いに戸惑います。

なんなの? これ? って、キョトンとしちゃいます。

これって、教育工学的に受講者のやる気を落とすマイナス要因です。特に期待して受講したAHA講習との最初の練習が、こんなワケワカメだとかなりの打撃。

AHAガイドライン2015の教育の章に書いてあるように、インストラクショナル・デザインと成人学習理論に基づいて作りましたよ、と宣言されているのがG2015講習。

だとしたら、インストラクターも成人学習理論を踏まえた展開をするのは当然のこと。

米国人向けに作られたDVDの構成によって、日本人受講者の学習意欲を削ぐ要因があるのであれば、その溝を埋めるのが日本人インストラクターの仕事です。

トレーニングセンターによっては、標準化教育なんだから「インストラクターはコース中に喋っちゃいけない」とか言っているところもあるようですけど、教材設計の背景を考えてないんでしょうね。

ふつうに考えても、高い受講料を取って、顧客に戸惑いや不快な思いをさせちゃダメじゃないですか。

BLS-2015の最初のPWW、周りに助けを呼ぶのと、救急対応システム発動とAED手配のタイミングがずれているのには、これはこれでG2015の改訂の意図を考えればちゃんと意味がある部分で、この部分は補足説明してあげないといけないと思うわけです。



一言で言えば、BLSプロバイダーコースはガイドライン改訂の本質部分がぎっしりつまっています。これ自体はBLSコースの大きな魅力なのですが、それが指導員向けのレッスンプランに書かれていないのが問題と言えます。

この点は、ガイドラインそのものをちゃんと読めば、なるほどね! とわかるんですけどね。

この違和感の謎を解いて、大筋としてのAHAの意図を汲み取って、溝を埋めていく。

これがBLSプロバイダーコース指導の難しさです。
逆にDVDなんか使わずに、自分で指導したほうがよっぽど簡単。


この難しい部分を他のインストラクターにどう指導していくのかが、俗にいうインストラクター・トレーナー(AHA的にはFacultyといいます)の力量で、さらにはトレーニングセンターという組織母体の教材設計理解のポテンシャルなんでしょうね。






posted by めっつぇんばーむ at 23:55 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター
2017年12月31日

AHAインストラクターに「所属」という概念は、ない。

今、日本国内には10近くのAHA国際トレーニングセンター(ITC)が認可されています。

AHAインストラクターが、プロバイダーカードを発行する公認講習を開催するためにはこれらのトレーニングセンターのいずれかと提携している必要があります。

というのは、インストラクター個人には、プロバイダーカードの原紙の購入権限がないからです。

プロバイダーカードやインストラクターカードの原紙(台紙)を購入できるのはトレーニングセンターの責任者(TCコーディネーターと言います)だけなので、公認講習を開催し、資格認定を行うためにはトレーニングセンターとの提携が必要なのです。

この「提携」と訳した元の英語の単語は alignment です。

時々、このアライメントを「所属」と勘違いしている現役インストラクターがいるので注意が必要です。

所属というと、登録しているトレーニングセンター以外では活動できないようなイメージがありますが、そんなことはありません。

AHAインストラクターには、「所属」という概念はありません。あくまでも「提携」なのです。



インストラクター資格というものは、個人に帰属する資格であり、その資格をどう使うかは個人の自由です。

インストラクターコースを受けたのがAトレーニングセンターであっても、その後、インストラクターカードの発給を受けるのがBトレーニングセンターであっても構いませんし、最初はAトレーニングセンターで活動していても、条件が変わればBトレーニングセンターと提携を変更するのも自由です。

さらに言えば、Aトレーニングセンターと提携を結びつつ、Bトレーニングセンターとも提携を結んで、両方のトレーニングセンターで活動することも可能です。

所属ではなく、提携であるというのは、こういう意味です。

日本社会的には、株式会社A社の社員でありつつ、有限会社B社の社員ということはあまりないことなので、ピンと来ないかもしれませんが、AHAインストラクター資格というのは米国文化での資格ですから、組織ありきではなく、個人が主体であり、その個人がどこと契約を結ぶのも自由という考え方に立脚しているのです。

このことは、AHAのグランドルールが書かれたProgram Administration Manual(PAM)を見れば分かりますし、AHA Instructor Networkというインストラクター専用サイトを見てもらっても自明なのですが、日本の狭い世界観の中でインストラクターになった人にはなかなかわかりにくい部分のようです。

参考まで、下記がAHAインストラクターとして登録する際のAHA Instructor Network登録フォームの一部ですが、最初から提携先は複数選択できるように Primary TC の他、Secondary TC を入力する欄が設定されています。


インストラクターとしての提携は複数登録できる



現に私も2つのトレーニングセンターと提携していて、BLSやACLSコースを開催するときは、どっちのトレーニングセンターに書類を送るかによって、プロバイダーカードの発行元がその都度違います。

どっちに登録して開催しても、私個人の活動実績ということでは変わりません。

蛇足ながら、この「提携」は、インストラクターが自分の名前でプロバイダーカードを発行するために必要な条件であって、単なるアシスタント・インストラクターとして活動するだけなら、トレーニングセンターとの提携は関係ありません。AHAインストラクター資格を持っていれば、世界中のどこのトレーニングセンターの講習会にも正式にスタッフ参加できます。


これが本来のAHAインストラクターとしての在り方です。

この提携を「所属」と勘違いしていると、いろいろと理解できない点が生じてくるんでしょうね。

組織によっては、作為的に所属という言い方をして、他の選択肢を与えない、自分のところに縛り付けたいと考えるところもあるのかもしれません。

しかし、もともと米国文化にもとづいて作られた制度で、その情報はすべて開示されています。

AHAには、日本社会の悪いところでもある「上が言うとおりにしていればいい」という文化はありませんので、AHAインストラクターとしての誇りの下、自分で情報にアプローチして、自分の頭で考えられるインストラクターでありたいですね。


posted by めっつぇんばーむ at 20:28 | Comment(6) | AHA-BLSインストラクター
2017年11月29日

救命法指導員は、その重い責任を自覚すべし−「AED充電中の胸骨圧迫」編

心肺蘇生法とかBLSのインストラクター/指導員って、責任重大で、実はハイリスクな仕事なんじゃないの? という点で、前回は 人工呼吸省略を教える危険性 についてお話しましたが、今回はその続きとして、AEDの充電中に胸骨圧迫を行うように指導することについて取り上げます。


AEDを使う際に、心電図解析の後、充電中の僅かな時間でも胸骨圧迫を行うようにと教わった方、いませんか?


結論からいうと、これは日本ではNG、やってはいけない間違った指導なのですが、そのように教えている指導員が少なからず存在しているようです。

AED充電中に胸骨圧迫を行ってはいけない理由は、大きく2つです。


 1.胸骨圧迫を体動と判断して充電がキャンセルされる可能性があるから
 2.AEDの指示に従わない動作であるから ← 医師以外が除細動を行う法的要件から外れる



この問題は、ガイドライン2010の頃から持ち上がるようになりました。特にACLSプロバイダーコースの中のBLSデモ映像の中では、AEDを使う場面で明らかに充電中に胸骨圧迫を行っており、これを日本ではどう指導するかという点が日本人インストラクターの間では話題となった記憶があります。

時を経て、ガイドライン2015のBLSプロバイダーコースのDVDでは、IFP(病院内)設定の解説の中で、AED充電中のわずかな時間でも胸骨圧迫を行うことはとても重要なことと明言されるようにもなり、(免許のもとに責任を取れる人しか受講しない)ACLSとは違って、非医療従事者の人に影響が及ぶ懸念が出てきました。

除細動の効果は、ショックの直前まで胸骨圧迫を行ったほうが優位に高いというエビデンスが出てきたのがG2010頃です。手動式除細動器を使う二次救命処置の世界では、もはや常識的になり、だからこそ、パドルショックよりパッドショックを推奨するという認識も広まってきています。

この点からすれば、AEDであっても、ショックの直前、つまり充電中も胸骨圧迫を行ったほうがよいと考えられますが、勘違いしてはいけないのは、AEDは「自動」体外式除細動器であるという点です。

AEDは心電図解析を自動で機械的に行います。心電図解析をするタイミングを人間がコントロールすることはできません。AEDの機種によっては、これは、ACLSやACLSでいうところの「最終波形VFです!」というチェックのため、ショック直前の充電中も心電図の解析を続けている機種があります。

もしこのタイミングで胸骨圧迫を再開してしまうと、AEDが「体動あり」と検知してしまう可能性が否定できません。そうなってしまうと、充電はキャンセルされて、除細動のショックが遅れてしまいます。ご存知の通り、除細動のショックはVF発生から速ければ速いほうがいいわけで、1分遅れると除細動成功の可能性が7〜10%下がると言われているとおりです。



また、別の観点からすると、法的な問題もあります。

電気的除細動という医行為を医師以外が行ってもよいと法解釈が示されたのが2004年7月のことです。

今でこそ、AEDは一般市民が使っても構わないという点は周知されていますが、それが解禁されたのは2004年。それ以前はダメだったのです。

医学知識のない素人が高度な治療行為である除細動を行えるように敷居が下がったのは、心電図読影機械が判断してくれて、その機械の指示通りに使う限り、素人であっても安全に使えることが実証されたからです。

この安全性は、「AEDの指示に従って操作すること」が前提条件となっています。これから外れたことを行ってしまうと、医療知識がない人がAEDを安全に使えるという担保がなくなってしまうというのは、考えてみればわかると思います。

ここでいうAEDの指示というのは、言い換えれば医師の指示みたいなものです。

医師が離れろと指示しているのに、それに反して胸骨圧迫を行っていいのか? と考えてみればわかりやすいかもしれません。

現在、日本国内で承認を受けているAEDの中で、充電中に胸骨圧迫を再開するように指示する機種は1つもありません。

従って、日本国内のAED講習において、充電中に胸骨圧迫をするように、と指導するのは正しくありません。



また、もともとAED講習で受講者に教えるべき最も重要なポイントに立ち返ってみると、

1.電源を入れる
2.AEDの指示を聞いて、それに従って行動する

この2点に関して異論はないかと思います。

すべての心肺蘇生法指導者は上記を伝えているはずです。それなのに、AEDの「患者に触れないでください」という、AED指示を無視した行動を教えるというのは矛盾していますよね。

特にこの点は、日頃ACLSやICLSで手動式除細動器での蘇生指導に携わる医師や看護師に多い印象があります。

手動式除細動器とAEDの違いを正しく認識することが重要です。

そして、医学的な正しさと、製品・機械の特性と仕様上の正しさは、かならずしも一致しません。さらに言えば法律的な正しさも…


いまは除細動の遅れが過失であるとして訴訟が起きる時代になっています。

院内での心室細動に対する早期除細動(原総合法律事務所Web)
http://www.haralawoffice.com/archives/1623

AEDの充電中に胸骨圧迫をしたことが原因で、除細動の遅れてしまった。BLSインストラクターにそうしろと指導されたから、、、、ということになったら、、、どうでしょう?

救命法指導員はその責任を自覚して、正しい情報をブラッシュアップし続ける努力が必要です。



posted by めっつぇんばーむ at 11:37 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター
2017年11月15日

救命法指導員は、その重い責任を自覚すべし−「人工呼吸の省略」編

心肺蘇生法とかBLSのインストラクター/指導員って、責任重大で、実はハイリスクな仕事なんじゃないの? という話を2つほど書こうと思いますが、まずは人工呼吸の扱いについて。



人工呼吸を行わなかったことが過失となった例

ちょっと前に、耳鼻科クリニックでの小児の心停止対応で、胸骨圧迫しか実施せず、人工呼吸を行わなかったことが過失ありと判断された裁判がありました。

胸骨圧迫のみの蘇生法の実施が、過失であるとされた、ある意味、衝撃的な案件です。



女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令

(河北新報 2016年12月28日)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201612/20161228_13014.html

医療過誤事例報告 適切な心肺蘇生を行わなかった過失を認めた事例

(坂野法律事務所 Web)
http://www5b.biglobe.ne.jp/~j-sakano/sosei1.html



このクリニックでは、2名の看護師と1名の医師で対応したようですが、唯一、BLS訓練を受けていた看護師が胸骨圧迫を行ったものの、他の誰も人工呼吸は行ないませんでした。

実は、このクリニックにはバッグマスクが置いてなかったので、やろうと思ってもできなかったという側面もあるのですが、被告側は「胸骨圧迫のみによる蘇生が推奨された時期もある」と述べて、人工呼吸をしなかったことの正当性を訴えています。


このことから、その耳鼻科クリニックの医療従事者は小児救命における人工呼吸の重要性を理解していなかった、もしくは誤解していた可能性が考えられます。


ここで考えたいのは、最近、世間で広まっている「人工呼吸はしなくていい」という一般市民向けの啓蒙情報です。



この耳鼻科クリニックのスタッフがどこでBLSトレーニングを受けたのかはわかりませんが、もし、「いまは人工呼吸はしなくていいんだ」と誰かに教わって、それを鵜呑みにしたゆえに起きたのが今回の事案だとしたら、、、、


救命法の指導員の言うとおりにしたら、訴えられて負けた。。。


そんな可能性を想像するとゾッとします。人の生死を分ける行為とも言えるBLSを教える立場の人にも大きな責任があると言わざるを得ません。



胸骨圧迫のみの救命講習プログラムの確立などで、心肺蘇生法を教えることの敷居が低くなったのはいいのですが、半面、救命法指導員の質という点では、極めて危ういもの感じています。

胸骨圧迫のみの蘇生法は、一言で言えば素人向けのやり方であって、職業人が業務上、行うようなものではありません。

指導員はそこをきちんと理解しておく必要がありますし、指導員を養成する立場の人は、その限界を正しく伝える責務があります。

例えば、胸骨圧迫のみの救命講習を医療従事者向けに開催するとか、保育士、小学校の教職員に教えるというのは、筋違いの話だと思っています。


今回、「過失あり」ということで賠償責任を負ったのは医療法人ですが、日本の蘇生法ガイドラインの中では、子どもの蘇生に関しては、医療従事者が学ぶものと学校教職員などが学ぶものの区別はされていません。

そのことからすると、学校現場においても、今回のクリニックと同様の裁判が起こり、人工呼吸をしないことが過失と見なされるような事案が発生することも、将来的にありえない話ではありません。


責任のない立場である一般市民に教えることとと、学校教職員や医療従事者のように注意義務が発生する立場の人に教える心肺蘇生法をきちんと区別しないと、善意から良かれと思って教えたことでも大変なことになるかもしれない、そんな覚悟が救命法指導員には必要です。


2017年10月29日

BLS/ACLS スキル獲得と資格取得の意味の違い

私は、AHA-BLSインストラクターとして、BLSプロバイダーコースや、ハートセイバー・ファーストエイドなど資格認定コースを開催していますが、併せて応急手当普及員として普通救命講習Iという消防庁認定資格の発行もしています。

片や、そういった特定団体の公認講習とは別に、自分自身で組み立てたオリジナルのBLS講習やファーストエイドプログラムを有償でやることもありますし、地域貢献活動として無償ボランティアとしてCPRセミナーを開催することもあります。


私からすれば、対象や目的に合わせて最適なものを提案するだけです。規定の◯◯コースがマッチするのであればそれを提供するし、なければ作ればいいだけで。別に◯◯コースに誘導しようという気はサラサラありません。

だって、◯◯コースにすると、教えなくちゃいけない内容が決まっちゃうから、柔軟性がなくなっちゃうんですよね。

◯◯コースのいいところは、幅広くいろんな対象に無難に対応できるように浅く作られているところ。逆言えば、具体的にターゲットが絞られている場合は浅すぎて力不足です。


資格が必要という人には資格認証手数料が掛かる有料講習を提案しますし、資格なんていらない、技術が身につけばいいんだという人には、より短い時間で現場のニーズに合わせた焦点化した講習を廉価で提供しています。



BLSとか救命講習を受講することの目的とか意義ってなんなんでしょうね?



受講料が高い安いという意見を聞くにつけ、いつも、このことを考えてしまいます。


スキル獲得資格取得 という2つの側面があると思うのですが、ここをごっちゃにしているから不毛な議論が多いんじゃないでしょうか?

資格が必要というのなら、高いお金を出してでも、◯◯コースを受ける必要があるでしょう。

私個人が勝手に資格を作って証明書を発行してもいいのですが、きっと名前の知れた大きな組織の公認証書じゃないと意味をなさないと思います。だったら、ブランド料というかパテント料として、料金が高くなるのは致し方ないですよね。


しかし、日本においては救命スキルに関しては意識が低く、資格を求められるケースはあまりありません。

特に医療従事者に関して言えば、例えば医師免許とか看護師免許を持っていれば、BLSなんて当然できるものとして認知されていますので、ことさらBLS資格とかACLS資格とか求められていないのが現状です。

であれば、日本の医療従事者にとっては救命スキルに関しては、資格という側面での意義はあまりなく、技術獲得さえできればOKといえます。

そう考えると、いちばん良いのは病院とかの職場単位で自院に合わせた形で研修プログラムを作って習得させるのが最善と言えるでしょう。


◯◯コースだと、資格を発行する関係上、その病院には必要のないスキル(例えば小児蘇生とか、オピオイド過量とか)までも時間をかけて教えなくちゃいけないので、そんなのは無駄です。


今では、多くの病院施設で、自前でBLSトレーニングを実施するところが多くなってきていますよね。

同じようにACLSもやっていけばいいんです。公認講習にするから受講料が何万円だとかそういう話になるので、自施設で自前の機材で自院スタッフが業務時間内で教えれば、支出はゼロです。


それができなくて外部に委託するのであれば、講師料を含めてお金が発生するのは当然のこと。

現実問題、蘇生法の指導員を育成するのはなかなか難儀で時間もかかります。

自前のトレーニング・プログラム開発と指導員養成までの経費を考えたときに、外部のプロに委託したほうが結果的には安くつくと判断する病院もあります。

またオリジナル研修では、資格認証という点では弱いという点に着目する病院組織もあります。例えば国際病院機能評価JCI認証を狙う病院では、その点が顕著です。

資格の持つ意味として、病院の患者安全意識のPRや、訴訟対策という視点もあります。いくら自分たちできちんとトレーニングしていると言っても、それを証明するものがないと主張が弱いと考えれば、社会的に認知されている資格にすがるのも手です。


医療従事者はすべからくBLSができるべきで、部署によってはALSも必須。

そこに異論はありませんが、自前でトレーニングできているのであれば、あえてお金をかけての「受講」はいらないと思いますし、病院や個人として資格のメリットを感じないのであれば、資格なんて不要です。

提供する側は、持っているスキルや資格に応じて、いろいろなプログラムを提供します。

ユーザーや依頼する側は、目的に合わせて選べばいい。それだけだと思います。



posted by めっつぇんばーむ at 23:02 | Comment(0) | AHA-BLSインストラクター