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2016年09月27日

G2015 BLSプロバイダーコース【正式版】進行のノウハウ教えます その2【筆記試験】

今日は、BLSプロバイダーコースG2015の筆記試験について掘り下げてみます。

2016_BLS_HCP_IVE_Exams_A_B.png
↑G2015 IVE英語版 BLS筆記試験問題の表紙


G2015から筆記試験がテキスト類持ち込み可のOpne Resourceに変わったという話は前回書きました。

これは簡単にいうと、知識を問うような問題ではなく、考え方を身に着けたかどうか、思考を問う問題に変わったということです。

試験問題の中身に関わることなので、あまり詳しく書けない部分でもあるのですが、シナリオベースの問題が増えたという点は言っていいかと思います。

その状況の中に自分を没入させると自然と答えが見えてくるような、そんな設問を目指しているのがわかります。

例えば、今回のガイドラインのBLSアルゴリズムでは、通報のタイミングをきっちりとは規定せずに、CPRを始める前までには完了するようにということを求めています。そのためには、周囲に人がいるのかどうか、自分が無線機や携帯電話を持っているのか、そしてそれはハンズフリー通話ができるのかどうか、などによって最適な通報のタイミングは変わってきます。

そんなところを考え、最適を判断することを求めるのがG2015スタイル。(別に通報のタイミングが試験にでると言っているわけではないですよ)

ですから、インストラクターは答えを与えるような指導をしちゃダメです。

原則を伝え、どう考え、判断するのか、その道筋を示すのが2015流です。このことはG2015版のDVDで蘇生科学の基礎原理をこれまでになく、詳しく解説していることからも汲み取れるんじゃないかと思います。


AHAの目指すところはよく分かるのですが、試験問題の出来栄えとしては、そこまで踏み込めているのかなと思う部分もありますが、少なくとも条件反射的に答えが出てくるような設問は抑えられている印象はあります。

カークパトリックのレベル2からレベル3以上を目指し始めた第一歩とも言えるG2015のBLS。この先のG2020では、この現場での転用スキルを問うという点が洗練されてきて、すっきりしてくるのかなと、期待しています。

英語ではそうなのですが、これが公式日本語になったとき、どこまでその意図を汲んだ日本語表現になるか、それが気がかりです。翻訳次第では台無しにしちゃいますからね。





posted by めっつぇんばーむ at 01:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報
2016年09月25日

G2015 BLSプロバイダーコース【正式版】進行のノウハウ教えます その1

ようやくBLSプロバイダーマニュアルG2015の日本語版が出ましたね。



これで暫定コースではない正式版G2015講習に移行できる! と思ったら、残念なことに今回リリースされたのはプロバイダーマニュアル(受講者用テキスト)のみ。

DVDやインストラクターマニュアルの日本語版は遅れているようで、現時点、販売時期は未定です。

完全日本語化で講習開催するには、日本語のDVDと日本語の筆記試験問題は欠かせません。

聞くところによると、9月末に大々的なG2015版BLSコース開催のためのプレコース(コンセンサス勉強会)を企画していた某大手ITC2つはどちらも中止になって、代わりの開催日は未定だとか。

あと数ヶ月以内、おそらく年内には出てくれるかなと思っていますが、まったくわかりません。


さて、いずれにしても日本国内でもBLSコースが、暫定版ではない正式なG2015版に刷新されるのはそう遠い話ではありません。

組織としての伝達講習を待てばいいという人もいるかもしれませんが、やはりAHAインストラクターとしては、1日も早く新コースを知りたいですよね。


そこで、これから何回かに渡って新しいG2015正式版AHA-BLSプロバイダーコースのコース進行のコツについて紹介していこうと思います。


蘇生科学の変更より、教育工学上の変更が重要

G2015正式版のBLSコースで変わった点といえば、これがけっこうなビックインパクトで全然違っていると言っても過言ではありません。

蘇生科学に基づく変更点としては、大したことはありませんが、DVDを中心とした教育メソッドに関しては革新的な変化を遂げています。

その変更点の根源については、ガイドライン2015 の「第14章:教育(Education)」を読み解くと見えてくるものがありますが、それについてはおいおい説明していきます。

今までもそうだったのですが、今回のガイドライン改訂で、AHA ECCプログラムは、インストラクショナル・デザインに根ざして設計されていることがはっきりと宣言されました。

インストラクショナル・デザイン(ID)に基づく以上、ゴール・オリエンテッドということで、コースのゴールである実技試験、筆記試験を見ていけば、コースの意図・思想が見えてきます。

G2015コースの実技試験・筆記試験がどう変わったか、という切り口で、新コースデザインを考えてみようと思います。


1.実技試験(成人へのBLS)に見られる教材設計の違い

実技試験のスキルチェックシートの体裁がガラリと変わりました。

まだG2015教材を手に入れていないインストラクターさんも、AHA Instructor Network にログインすると、英語版チェックリストが無料公開されていますので、英語だから、と言わずにぜみ見てみてください。

G2015 BLSプロバイダーコース成人スキルチェックシート


日本語版のBLSプロバイダーマニュアルを手に入れた方は、それをみてもらうのが早いですね。


一言で言えば、厳格なチェックというよりは、ざっくりとした評価に変わっています。

例えば、CPR開始までの評価手順については順番は問われていません。

G2015では、呼吸と脈は同時に確認することが推奨されていますが、必ずしもそうではなく、別々に確認してもOKです。(それぞれに約10秒かけると最長20秒かかりますが、それでも合格できる基準になっています)

またしばしば問題となる通報のタイミングですが、これはアルゴリズム図やコースのデモ映像でも示されていますが、G2015では明確に定義はされていません。

ケースバイケースでその場で判断しろということなのですが、それが試験にも反映されていて、反応がないとわかった時点で「誰か来て!」と叫ばなくても試験には合格できます。胸骨圧迫開始までに通報が完了できていればいいのです。場合によっては第一報、第二報のように通報が二段階に別れる場合もあるかもしれません。


成人のBLSスキルチェックで求められるものも変わりました。

G2010ならびにG2015暫定コースで主に評価されていたのは下記の点でした。

 ・正しい評価手順と内容
 ・質の高い胸骨圧迫
 ・AED操作
 ・バッグバルブマスク換気(ポケットマスク換気はチェック対象外)

一方、G2015のスキルチェックシートを見ると、

 ・正しい評価内容(手順は問わない)
 ・質の高い胸骨圧迫
 ・質の高い人工呼吸(ポケットマスクorフェイスシールド)
 ・AED操作

そう、新しいBLSコースでは、成人の実技としてはバッグバルブマスクが使えることは問われておらず、逆にこれまで問題となっていなかった一人法におけるポケットマスクやフェイスシールドによる人工呼吸ができることが問われるようになっているのです。

つまり、問われているのは一人法BLSである、ということです。

この点は、ACLSでもまったく同じ評価表が使われており、市民救助者向けのハートセイバーコースでも、脈拍触知の項目がなくなっている以外は、問われている内容は同じです。

このことから、AHAがコース中に実技評価として求める成人CPRは一人法のみで、二人法に関しては試験では問わないという方針になったことがわかります。


2.実技試験(乳児へのBLS)に見られる教材設計の違い

乳児の実技試験に関しては、手順が問われない、ざっくりとした評価になったという以外は、成人ほどの違いはありません。

一人法〜二人法〜交代

この流れは変わっていませんので、バッグバルブマスク換気や、胸郭包み込み両母指圧迫法ができることが評価されます。

ただ実技試験実施上、気をつけなくてはいけないのが、

 ・第二救助者が到着後に行うのは、胸骨圧迫ではなく換気
 ・1サイクル毎に交代を促す

という点です。

やってもらうとわかりますが、これがなかなか難しい。

特に交代の促しですね。厳格にチェックリストに従うなら、1サイクルごとの交代を2回させる必要があり、忙しないと言ったらありゃしない。

受講者も交代に気を取られて、肝心の手技がおろそかになりがちです。それに本来なら10サイクルないしは2分で交代するところを強制的に交代させて、無理させるわけですから、あまりに非現実的。

これは、「実技試験の必要上これでお願いします」、という奥の手的な説明を受講者にしなければ無理かなと思います。

試験時間の短縮という点ではいいのですが、受講者への負担と現実性を考えると交代後1サイクル目できちんと評価をして次の2サイクル目で交代を促すほうがいいように思います。


3.筆記試験

これについては先行情報が出回っていて、知っている人も多いと思いますが、G2015正式版から、筆記試験はテキスト持ち込み可の Open resources に変更されました。

筆記試験というと、知識の記憶を問うものというイメージが強いかと思いますが、テキスト持ち込みOKとしたら、そこで問われるのは知識ならびに記憶ではないということはわかりますよね?

この大胆な方向転換は、コース全体が目指すゴールがガラリと変わったことを示します。

この点は非常に大切な点なので、インストラクター各自がじっくりと考える必要があります。コース中、筆記試験を意識して大切な点を強調した指導をしていたと思いますが、今後、強調すべきは知識ではなくなる、ということです。

この変更のインパクトが大きいとAHAも重々認識しているようで、"2015 Guidelines: Open Resource Exams FAQ"という通達文書が出されています。

AHA-G2015 open_resource_faq


これも AHA Instructor Network で公開されていますので、インストラクターは必ず目を通しておいてください。

特に"Why is the AHA moving to open resource exams?"という項目が重要です。


試験スタイルの変更から見えてくること

これらの試験における変更点から見えてくること。

簡単に言うと、G2015コースでは「現場で判断し、行動を選択する能力が求められるようになった」、ということです。

今までの、はからずもBLSはアルゴリズムを覚えて機械的に行動することが試験で問われていました。

BLSコースの本来の目的は、言うまでもなく、現場でBLSを行えること、だったわけですが、講習会場で保証できるのは、目の前のマネキンに対して正しい手順でCPRを行えることだけ。

この点はAHAガイドライン2015の教育の章の中でも反省として、「現在の教育研究はコース直後の能力を重視しすぎており、数ヶ月から数年後に蘇生イベントに遭遇した場合の受講者能力を反映しない可能性がある」と述べられています。

そこで今回のガイドライン改訂では、カークパトリック Kirkpatrick の学習評価モデルが引き合いに出され、講習会場での試験合格というアウトカムよりも、現場で実践・転用できるというアウトカム、さらには疫学的に患者転機に影響を与えるというアウトカムに着目してコース設計を行うことが書かれています。

このことを知ると、新しいBLSプロバイダーコースDVDで、細かすぎるくらいに蘇生現場の詳細が描かれている意味と、Life is Whyという一見情動的とも思えるショートムービーからコースが始まる意味が見えてきます。

つまり、講習会場では、いくらリアリティを出しても限界があり、どうしても対マネキンへのお作法練習になりがちです。しかし、その行為の先にあるものが何なのか、を常に想起させ、マネキン相手の行動が実社会とリンクするような働きかけをして、リアルな現場に転用させたい。それがリアリティのある映像です。

映像の中では、どのタイミングで急変患者のベッドのギャッジアップを水平に戻すか、どのタイミングで背板を入れるか、他のスタッフとの協同など、かなり細かい描写もありますが、それらノンテクニカルな部分は、実技試験では不思議なまでに排除されています。

実技試験はあまりにシンプルすぎるというギャップ。

実技試験のゴール設定が、コース全体のリアリティからするとあまりに単純化されているのは、コース内で保証できる部分ではないです。

コース中では、最低限のBLS手技を身に着けてもらい、しかし、それがゴールではなく、映像で示されていたような複雑さを極めるリアルな現場で転用できるスキルに底上げするのは、このコースの中ではなく、現場でのシミュレーションやデブリーフィングによって身につけるもの、という線引を明確に行っている結果と考えられます。(今回の新コースではデブリーフィングの見本をインストラクターが行うことと、学習者がリアルな急変対応後に自分たちでデブリーフィングを行うことの意義が解説されています。)

ここから私たちインストラクターに求められるのは、BLSコース受講と合格をもって終わらせてはいけないということです。

かつてG2005版のBLSコースでは、コースDVDの最後はこんなセリフで締めくくられていました。

「どんな年齢層の人であっても助けられますね? 十分訓練したのですから!」

この時代からは真逆の方向性になって2010と2015と改訂を繰り返して、今があります。

BLSコースでの技術習得と臨床での技術実践との間には、絶対的なギャップがあります。そのギャップを無視していたのがG2005。そしてギャップに気づいてどうしようかとあがき出したのがG2010。そして、ギャップを埋めるために"take home message"を引き出すという作戦に出たのがG2015コースといえます。

このことを意識したときに、インストラクターはG2015のコースマテリアルを使いつつ、受講者にどんな働きかけをしたらいいでしょうか?

このことがG2015コースの意図と効果を最大限に引き出す分かれ道になるはずです。



posted by めっつぇんばーむ at 21:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報
2016年08月20日

「AHAガイドライン2015」【日本語版】発売開始

待望のAHAガイドライン2015の【日本語版】がリリースされました。



やっぱり日本語で読めるのはいいですね。

英語版はPDF版がネット上で無料公開されているのに、日本語は1万円近いお金を出して買わないとダメなのは、ズルい気もしますが、まあ、仕方ないです。


さて、このような本の形でガイドラインが改訂(アップデート)されるのは、今回のG2015が最後かもしれません。

今後は、ウェブベースでその都度、修正を加えていくという方向性が示されているためです。

ガイドラインの大元になる国際コンセンサスは引き続き5年毎に改訂されていくようですが、ガイドラインはその流れとは別に5年を待たずにこまめに修正していくようです。

ある意味、大枠ではほぼ完成したということでもあるのかもしれません。




posted by めっつぇんばーむ at 18:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報
2016年08月14日

さらに遅れるG2015 AHA教材リリース時期【7月28日付最新情報】

ガイドライン2015とか、G2015版のBLS Providerコース教材の日本語版がリリースが気になるところですよね。

そう思って、AHA Instructor Network にログインしてみたら、ありゃりゃ、でした。

翻訳版教材のリリース時期の一覧表がなくなっているんです。前回更新されたのが、たしか4月7日。その最新版が出てないかなと期待して覗きに行ったら、4月7日付けのものもきれいサッパリ消えていました。

代わりにあったのが、7月28日付のUS/English版。

Projected Release Dates
2015-17 AHA Guidelines for CPR & ECC Tools & Products – US/English As of July 28, 2016


2016年7月28日付AHA英語教材リリース予定ページ1

2016年7月28日付AHA英語教材リリース予定ページ2


日本語の他、各国翻訳版のその後の動向はわかりませんが、英語版のリリース時期をひとつ前のと比較してみると、こんな感じ。

・Family & Friends CPR  6月/7月 → 9月/10月
・Heartsaver Bloodborne Pathogens 8月/9月 → 2017年1月/2月
・PALS Instructor  9月/10月 → 10月/11月
・Heartsaver Pediatric First Aid CPR AED 8月/9月 → 9月/10月
・PEARS 2017年1月〜6月 → 2017年3月〜6月

軒並み後ろだおしされてます。

こんな感じですから、日本語版もさらに遅れることは想像に難くありません。
なんだかんだ翻訳版の方は目処がつかなくなったから、情報を取り下げたのかなと勘ぐってみたり。

今回の英語版リリース時期一覧で出てきた新情報が1点。

BLS Instructor Essentials Onlineが11月/12月にリリース予定だそうです。

インストラクターコースに関して言えば、現在はG2015暫定版ということで、Faculty GuideとCandidate Workbook、そして新しい筆記試験問題がが英語でリリースされていますが、これらの有効期限も今年いっぱいということになりそうですね。

その後、G2015マインドが遺憾なく盛り込まれた新インストラクターコースに変わっていくのが楽しみです。






posted by めっつぇんばーむ at 10:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報
2016年07月03日

ニュース解説「救急車の到着遅れても…『心肺蘇生』で救命率2.7倍」…人工呼吸の重要性

6月30日、読売系のニュースとして「救急車の到着遅れても…「心肺蘇生」で救命率2.7倍」という記事がありました。

救急車の到着遅れても…「心肺蘇生」で救命率2.7倍


このニュースのソースとなったのは、金沢大学が6月20日に報道機関向け出した「救急車到着に時間を要する地区では人工呼吸を組み合わせて行う心肺蘇生の自発的実施が格段に優れた救命効果をもたらす!」(PDF:680KB)というプレスリリースです。

この研究は、ヨーロッパ蘇生協議会の機関誌に投稿されたもので、2007〜2012年の総務省ウツタインデータから「市民による心肺停止目撃193,914例」を解析した結果に基づいています。詳しくは上記プレスリリースを見てほしいのですが、金沢大学研究グループが報道機関向けに示す結論は下記の2点です。


過疎地域や高層ビル,交通渋滞の影響で救急隊到着に時間を要す場所で発生した院外心停止例では,近くに居合わせた市民が自発的に従来どおりの人工呼吸と心臓マッサージを組みあわせた心肺蘇生を実施した場合に,脳機能良好1か月生存率(1ヵ月後に自立した生活ができる状態で生存している割合)が他の心肺蘇生に比べ顕著に高くなる

市民に対して蘇生教育を行う立場の医療従事者に人工呼吸の重要性を再認識させるとともに,蘇生意欲を有し質の高い人工呼吸と心臓マッサージを実施できる市民養成とそのような市民を心停止発生現場にリクルートするシステム作りの必要性を示唆する結果となりました。



一言で言えば、「救急隊が到着するまで時間がかかるような場合は、胸骨圧迫だけではなく、人工呼吸も行ったほうが退院生存率が高かった」ということです。だから、「蘇生教育に携わる人は人工呼吸の重要性を再認識するように」ということを示しています。


これは考えてみれば当たり前の話です。

心停止に陥った人に対して心肺蘇生を行う目的は、体の重要器官(主に脳と心臓)に酸素を送り届けることです。胸骨圧迫によって、停まった心臓の代わりに血流を生み出して、血液中に溶け込んでいる酸素を脳細胞と心筋細胞に送り届けて、不可逆的な死を食い止めるというのがそのメカニズムです。

目の前で卒倒したようなタイプの心停止は、主に突然発症する不整脈が原因で、突然に心臓の機能が停止し、ほぼ同時に呼吸も止まります。

この場合、直前までふつうに呼吸をしていましたから、血液中の酸素飽和度は必要量が保たれています。ですから、ただちに胸骨圧迫を行えば、血中に溶け込んだ酸素が体の細胞に送り込まれます。ポイントは一刻も早く胸骨圧迫に着手すること。かつて蘇生法をABCという手順で教えていた時代では、人工呼吸の準備に戸惑うことで着手が遅れ、蘇生率が低くなっていた可能性がありえます。

ゆえに目撃された心停止では、人工呼吸はさておき、直ちに胸骨圧迫を行うことが推奨されます。これがAHAのいうところのHands only CPRであり、大阪のエビデンスが世界を変えた胸骨圧迫のみの蘇生法です。


しかし、すでにお気づきと思いますが、この胸骨圧迫のみの蘇生法が効果を発揮するのは、血液中に酸素が溶け込んでいる、というのが前提となっています。

目の前で卒倒した心停止者に対して胸骨圧迫のみの蘇生法を開始しても、救急車到着まで30分かかったとしたらどうなるか? 血液中の酸素はどんどん消費されていきますから、圧迫開始から数十分も経つ頃には血中酸素飽和度はゼロになる、というのは想像に固くありません。

圧迫により血液循環は保たれたとしても、そこに酸素が含まれていなければあまり意味がない、、、というのはお分かりいただけるでしょうか?

つまり、救急隊に引き継ぐまでに、時間がかかるようなケースでは、胸骨圧迫だけの蘇生法では追いつかないということです。

言うまでもなく、人工呼吸というのは空気中の酸素を肺胞を通して血液に溶けこませる作業です。

ですから、過疎地域や高層ビル,交通渋滞の影響で救急隊到着に時間を要す場所で発生した院外心停止例では人工呼吸と胸骨圧迫を交互に行う従来型の蘇生法が望ましい、というわけです。

つまり今回の報道は、蘇生科学のメカニズムでは自明だった点が、実データとして証明されただけ、といえます。概念としては新しいものでもなんでもありません。


今回、実証された例では、「市民により目撃された心停止」の経過時間に着目された研究ですが、同じように血中酸素飽和度に着目した場合、呼吸原性心停止が多い子どもの場合についても、すでに同様の実証データが出されています。


このことは、胸骨圧迫のみの簡易蘇生法の普及を阻むものではありませんが、少なくとも蘇生法を指導する立場の人が、単純に「人工呼吸は要らなくなった」と早合点したままで指導にあたるのは良くないと思います。

インスタント学習法でいいのは、市民の立場でバイスタンダー対応する人だけであって、少なくとも医療者や救命法指導員は、心停止と蘇生法のメカニズムを理解した上で、対象に合わせた指導をおこなうべきです。

つまり都市部の住民に行う救命講習は、胸骨圧迫のみの方法でいいかもしれませんが、救急車がないような離島での救命講習が同じでいいのか? プールの監視員向けのCPR講習がコンプレッションオンリーでいいのか? 子どもを預かる幼稚園の先生向け講習がAEDと圧迫だけでいいのか、など考えていく必要があります。

最大公約数的な蘇生教育も必要ですが、助けたい誰かが明確な場合は、そこにフォーカスして助かる可能性が最大限になるような救命法指導を行っていきたいものです。




posted by めっつぇんばーむ at 12:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 市民向け救命講習
2016年06月27日

筆記試験、資料持ち込み可になったのはG2015正式版だけです。(not暫定版)

知ってる人は知っている話ですが、ガイドライン2015正式版のBLS/ACLSプロバイダーコースの筆記試験は、テキスト持ち込み可となりました。

ただし、これはG2015正式版だけの話です。暫定コースは引き続き、持ち込み不可なのでご注意を。

これはインストラクター向けのメッセージですが、筆記試験が持ち込み可に変わったというのは、AHAコースの教材設計がガラリと変わったことを意味します。

テキストや参考書を見てはいけないとされる筆記試験で問われるのはなにか?

知識、ですよね。

それに対して、テキスト持ち込みOKの筆記試験で問われるものは何か? 少なくとも「知識」ではありません。

そう考えると、G2015正式版はG2010やG2015暫定コースに比べて、ゴール設定が大きく様変わりしたといえます。そこに向かってフォーカスした教材設計がされているのがG2015正式版。そこが暫定版ではまったく反映されていません。

と、考えれば、暫定コースで筆記試験持ち込みにするのはナンセンス。

わかりますよね?


ということで、インストラクター側も暫定コースと正式コースの違いを、教育学の観点からきちんと考える必要があります。中途半端なG2015化は浅はかとしか言えません。





posted by めっつぇんばーむ at 23:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報
2016年06月26日

G2015 Interim(暫定)コースとG2015正式コースは別物です

情報が錯綜しているので、整理しておきます。

2015年10月にAHAガイドライン2015が発表されて、日本国内のAHA講習は基本的にG2015準拠に切り替わっていますが、いま開催されているのはG2015正式講習ではありません。

G2015 Interim Course、つまり暫定版です。

Interim(暫定)コースとは何かというと、古いガイドライン2010のDVDとテキストを使いつつ、G2015の変更を加味した展開をする講習のこと。

新しい教材が出来るまでの「繋ぎ」としてAHAが公式に認めた措置です。

実技試験も筆記試験もG2015準拠に変更されていますので、学ぶ内容はG2015といって間違いありません。


しかし、暫定コースはあくまでも暫定コースであって、正式なG2015講習ではありません。

暫定コースで整合性が図られているのは、蘇生科学に基づく変更だけです。

今回のG2015の改訂の多くは、蘇生科学の部分ではなく、教育工学の部分です。そこがまったく反映されていないという点では、G2015正式版とは「相当違う」と言わざるを得ません。

暫定コースの教材設計のベースはG2010であって、そこからはみ出して齟齬が出てしまう部分だけをどうにか修正したという最低限ギリギリG2015と言える内容です。

いま、日本で開催されているG2015講習というのは、基本的に全部G2015暫定コースです。

米国ではすでにG2015暫定コースの開催は禁止されていて、G2015正式版に全面的に切り替わっています。
日本では特例措置として日本語DVDとテキストが出るまでは、暫定コースの開催が認められています。

秋から冬くらいになると、G2015正式教材が日本語化されるのではないかと思います。

そのタイミングで日本でもホンモノのG2015時代が始まります。


技術を必要としている人にとっては、必要と感じた時が受講すべき時です。
暫定版でも正式版でも習得する技術には変わりません。

しかしAHA講習から教材設計や教授システム学(インストラクショナル・デザイン)を学びたいという人にはG2015正式版をお勧めします。

日本語正式版のDVDとテキストが発売されても、地域のトレーニングサイトが正式版に移行するまでにはタイムラグがあります。それを狙って受講する人は、申込時に主催者にきちんと問い合わせたほうがいいでしょう。

日本語テキストが発売されてから半年くらいは、古いコースが残っている可能性がありますから、来年の夏くらいまでは要注意です。




posted by めっつぇんばーむ at 23:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報
2016年06月12日

「これは米国の講習プログラムですから」という言い訳はもう通用しない




リアリティと、現場に合わせた柔軟な実行性


これがAHAガイドライン2015講習の最大の特徴です。

これまでのAHA講習では、指導内容のアレンジに関しては寛容性が低く、日本の医療現場ではそぐわない内容であっても、「これは米国の講習プログラムですから」といって、強引にアメリカのやり方を押し付けたり、日本事情に関する説明はご法度とされるような態度が横行していました。

しかし、G2015正式版講習からは、それが変わります。

指導内容の中に"Local Protocols Discussion"というセクションが正式に導入されました。

AHAガイドラインではこういっているけど、日本ではどう? あなたの職場では、この通りにできる? なにか別のルールがあるんじゃない? 実際どうしたら良い?

ということをディスカッションするような時間がコース中に設けられたのです。

ローカル・プロトコル・ディスカッション


ここでAHAインストラクターに求められている基本的態度は、「ローカルルールに従うべき」ということです。

AHA ECCプログラム講習はAHAガイドライン準拠です。そこをコース中に変えることは許されていませんが、学んだことを、自分の国や地域、またメディカルコントロールや病院の業務指針に反しない範囲でどのように活かすか?  その実行性へのアレンジメントの手助けがAHAインストラクターに求められているのです。

そのため、AHAインストラクターはAHAガイドラインを熟知していればいいという時代は終わりました。

このセクション自体はオプション扱いですが、日本国内でAHA講習をやる限りは絶対に外しちゃいけない部分です。
ということで、日本で活動している私たちは、少なくとも日本版のJRC蘇生ガイドラインについても熟知していなければなりません。

そして、日米のガイドラインの違いを把握しておく必要があります。


今までも実行性を意識したインストラクションをしてきたインストラクターにとっては当たり前の話かもしれませんが、今後はすべてのインストラクターに日米両方のガイドラインの勉強が求められるようになったわけです。

幸い、日本のJRC蘇生ガイドライン2015は出版もされていますが、ネット上で無料で読むこともできます。

日本蘇生協議会ウェブ JRC2015オンライン版ダウンロードページ

PDF形式で章ごとに配信されていますので、スマートフォンやタブレット端末に入れておくと便利です。

また、市民向け講習(ハートセイバーシリーズやファミリー&フレンズ)を手掛ける人は、JRCガイドライン2015を元に作られた講習指導要項である「救急蘇生法の指針〈2015〉市民用・解説編」の精読は欠かせません。

解説編を含まない、ただの「救急蘇生法の指針<2015> 市民用」(39MB:PDF直リンク)だけなら、厚生労働省からPDFで無料配信されています。


今回のLocal Protocols Discussionのお陰で、借り物に過ぎなかったAHAガイドライン講習が日本社会で活かせるようになったといえます。

ぜひ、日本のインストラクターは勉強を重ね、より日本社会で意味がある講習展開をしていって欲しいと思います。






posted by めっつぇんばーむ at 16:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | AHA-BLSインストラクター
2016年06月08日

G2015コースへの移行準備、進めてますか?

G2015版のBLS Provier Cousrseの英語教材がリリースされて4ヶ月になります。

旧来のBLSヘルスケアプロバイダーコースとは、名前が変わっただけではなく、中身も相当変わりましたよ、という話は以前に書きました。


『G2015のBLSプロバイダーコース、すっごく変わりました。』(2016年4月5日付)


インストラクターに求められるスキルも変わりましたので、インストラクターとして新コースへの移行には相当時間がかかりそうな気がします。

だからこそ、日本語版が出てからとは言わず、今からでも準備を進めておくべきだと思います。


特にDVDは買ったほうがいいですね。

これを見れば、英語がわからなくても、「変わった! スゴイ!」というのが一目瞭然。

百聞は一見にしかずですので、サイト内で購入した人がいたら、みんなで勉強会を兼ねた試聴会などをすべきでしょうね。


新しいスキルチェックシートは AHA Instructor Network にアップされていますので、英語であっても目を通しておくべきと思います。

AHA公認インストラクターなら誰でもアクセスできます。

ゴールオリエンテッドなAHA講習では、このスキルチェックシートに合格するように講習を進行していく必要があります。

新しい教材設計では、なにが求められているのか? ここも何気に変わっています。

例えば、成人のBLS試験では、バッグバルブマスク換気技術は求められなくなりました。代わりにポケットマスクやフェイスシールドを使った1人法の人工呼吸が出来る必要があります。(受講者の方はビックリかもしれませんが、G2010やG2015暫定版までのスキルチェックでは、ポケットマスク換気は1度も胸が上がらなくても合格する仕様でした)

バッグマスクスキルが求められるのは、乳児だけになりましたので、きっと実技試験の難易度としては、易しくなったといっていいかなと思います。(成人マネキンへのBVM換気で苦労する人はよくいますが、乳児のBVM換気ができない人は見たことありません)

また、呼吸確認や脈拍確認、通報のあたりでは、順番が問われなくなったというのも、今回の変更点では大きいですね。このあたりは、きちんとインストラクターマニュアルを買って読み込まないと書かれていない部分ですが、チェックシートの体裁を見てみれば、わかるとは思います。


ということで、全国のAHA-BLSインストラクターさん、せめて、Instrctor Networkで無料公開されている最新コース情報くらいは目を通して、日本語教材がリリースされたらすみやかに移行できるような準備を各自しておくことをお勧めします。

聞くところによると、サイト長によっては、新しい英語教材がリリースされていることすら知らない人がいるという嘘のような話も聞きますので、TCやTSレベルのローカルな指示系統とは別に、AHAインストラクターとしての米国直下の指示・連絡系統に敏感であることを、強くお勧めします。





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2016年05月09日

AHA教材 日本語版ならびに今後の発売予定(4月7日付最新版)

インストラクター仲間からも、ここのところよく聞かれます。

日本語版のテキスト、いつ出るの? って。

受講者から聞かれるならわかるけど、同じインストラクターから、聞かれるのはちょっと残念。

ちゃんとAHA Instructor Networkを見てよ! と思っちゃうんですよね。隠されている情報じゃないんだから。

ずいぶん前から、日本語版の発売時期も含めて、AHAの教材リリース予定は公開されています。

最新版は4月7日に改定の下記のもの。

UPDATED- 2015-17 Global Preliminary Product Schedule - April 7, 2016 .png

UPDATED- 2015-17 Global Preliminary Product Schedule - April 7−2, 2016 .png

お気づきのように、BLSプロバイダーコース教材日本語版のリリース時期が1ヶ月繰り下げられて、7月〜8月になっています。

日本語版のリリース予定だけをピックアップすると下記の通り。

June/July
• Handbook of ECC for Healthcare Providers (Japanese)

July/August
• BLS Instructor-Led (Arabic, Japanese, Italian, German, Polish, Korean)

October/November
• ACLS Instructor-Led (Japanese, Polish)
• Heartsaver First Aid CPR AED Instructor-Led (Arabic, Spanish, Japanese, Portuguese, Simplified
Chinese)



いま出ている英語版は、Guideline 2015、ECC Handbook、BLS Provider、ACLS Provider、Heartsaver Firstaid CPR AED。

この先の英語版のリリース予定は、

June/July
• Family & Friends CPR Classroom

August/September
• Heartsaver Pediatric First Aid CPR AED Instructor-Led
• Heartsaver Bloodborne Pathogens (Facilitator-Led)

September/October
• Pediatric Advanced Life Support (PALS) Instructor-Led

2017
January – June

• Pediatric Emergency Assessment, Recognition and Stabilization (PEARS) Instructor-Led



で、未定なのが、

TBD
• CPR Anytime Adult/Child (English/Spanish)
• Infant CPR Anytime (English/Spanish)
• CPR in Schools Training Kit
• PALS Instructor-Led (Spanish, Portuguese, Japanese, Simplified Chinese, German)
• PEARS Instructor-Led (International English, Spanish, Japanese, Portuguese)




ということで、PALSが日本語化されるのは、間違いなく2017年以降で、PEARSに至っては、2017年の夏以降じゃないですかね。

あくまでも予定。

予定はだいたいいつも遅れます。

まあ、そんな感じです。

インストラクターの皆さんは、情報が刷新されるかもしれませんので、インストラクターネットワークはこまめにチェックしましょうね。



posted by めっつぇんばーむ at 19:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | 最新の心肺蘇生ガイドライン2015速報